翼あるもの
まだしばらくはこんな日が続くんだろうか。
降ったり、曇ったり。
せっかくの晴れ間にも、折りたたみ式の傘や水吸いのよいタオルを手放せないような、スッキリしない、不安のつきまとう日々。
まだしばらくは、こんな日が続くんだろう。
憂鬱な出来事があまりにも長く続くと、慣れはしなくとも、抗い難くはなっていく。諦めのような。諦めたつもりはなくても。
毎日届く物件案内のメールにも、合間合間に長々とスクロールし続ける求人情報にも、解決の糸口は見つからない。
まだしばらくは、こんな日が続くんだろう。
誰かの人生から排除される夢を見た。本当に夢だったんだろうか。
いずれにしても、笑う気力も、声を出す気力も失せて、顔を伏せたまま、いぬと歩く。
立ち止まったいぬはアルカイックスマイルを浮かべたまま、深い緑の奥をじっと見つめている。
なにを見ているのか。振り絞って声を掛けてもこちらを見ない。
まだしばらくは、こんな日が続くんだろう。
「かえろう」
もう一度振り絞って、いぬに向かって小さく笑う。
かえろう。
いぬが少しでも正気を取り戻したら。
雨を吸ったままの湿った坂を、ふたり並んで、恐る恐る降りる。
ひとはみな、翼あるもの。
ねえ、そうでしょう。だから。
いつかを、どこかを、だれかを。
夢見て。めざして。信じて。
明日はどこへ行こう。