上手は下手の手本、下手は上手の手本なりと工夫すべし
近年は毎月初、神社を参拝することを習慣にしています。
参拝の際には、東京都神社庁による「生命の言葉(今月の言葉)」を持ち帰り熟読しています。11月の霜月に訪れた神社で目にしたのは、世阿弥の『風姿花伝』からの一節でした。
「上手は下手の手本、下手は上手の手本なりと工夫すべし」
裏面には解説が記されています。
世阿弥は、上手(熟練者)と下手(初心者)の関係を通じて、誰もが学びの機会を持っていると説いています。
「人のふり見て我が振りを直せ」という言葉に似ていますが、世阿弥の言いたかったことはさらに深いように思います。どんなに熟練していても、初心者や後進から学ぶことがあり、上手な人も常に謙虚に他者から学び、自己を高める努力を続けなければならない、そんなふうに理解しました。
年齢を重ねると、経験を積み、物事の「おおよそ」が見えてくることが多くなります。その結果、「こういうものでしょ」「こんなかんじだよね」と、周囲の行動や成果を自分の基準で評価しがちになります。ましてや自分が通ってきた道と誤信しがちな子ども、後輩、後進については言わずもがなです。
しかし世阿弥の教えが示すように、過去の経験や知識で、これからの時代に対処できないことはたくさんあります。私たちが持つ知識や経験は、今後の変化に対応するための選択肢の一つでしかないと理解すべきだと自戒も込めて思うのです。
よく観察すると、優れた人、よく学ぶ人ほど常に謙虚な姿勢で後進や若者、時には子どもからも学んでいるように見受けられます。
今回ここで世阿弥が言っているのは「芸」に関してのことですが、この教えは私たちのライフキャリアにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。
仕事においては熟練した技術や知識がある人ほど、時には初心者の視点に立ち返り、新しい発見をすることはギフト。子育てにおいても自分自身が学び続ける姿勢を持ち、ともに成長するスタンスを意識できたらと思うのです。
世阿弥の「上手は下手の手本」という言葉は、単に技術や芸に限らず、私たちのライフキャリアにも適用できる教訓です。特にミドル以上の世代にとっては経験が豊富であればあるほど、新しいことに対する柔軟な姿勢が失われがち。世阿弥が示すように謙虚な心を持ち、常に他者から学び、自らを高める努力を続けることが、豊かな人生を築く鍵であると言えるでしょう。
世阿弥の言葉は、謙虚さと学びの大切さを思い出させてくれました。
言葉の力って素晴らしいですね。
*本内容は2021年12月1日に配信のメールマガジンを再編集して掲載しています。最新のメルマガはこちらよりご登録いただけます。
毎週水曜日7時の最新配信もご購読いただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
ユニキャリア
岡田慶子(オカダケイコ)