おやつは300円まで
遠足のおやつといえば、何を思い浮かべるだろうか。
私の通っていた小学校では、遠足のおやつは300円までと決まっていた。なので、子どもたちは300円という制限の中で、なんとか沢山のお菓子を手に入れようと悪戦苦闘するのであった。
しかし困ったことに、小学生が大好きなポテトチップスやじゃがりこ、キノコの山やたけのこの里はどれも100円程度。どれか一つを買ってしまうと、300円のうち1/3をまるまる使ってしまうことになってしまう。だがしかし、中身が何個か入っているお菓子は必殺「交換」をすることができ、上級者はそれを見越して3桁の高級お菓子を手にするのだった。きっと今頃、投資家になっているに違いない。
私はそんな高度な考えを持ちあわせていなかったので、与えられた300円で如何にやりくりするかということに全力を注いでいた。
そんな中、大活躍したのが10円単位で買うことのできる駄菓子だった。親戚が駄菓子屋を営んでいた関係で、私はポテトチップスよりも酢だこさん太郎やよっちゃんイカを選ぶ渋い子供だった。将来酒飲みになる片鱗が、この時すでに垣間見えていたのだった。
私は気に入った飲み屋や定食屋には頻繁に通い詰める性分なのだが、駄菓子も例外ではなく、毎回同じお菓子を選んでしまう。よっちゃんイカ、ウメトラ兄弟、イカそうめん、酢だこさん太郎、キャベツ太朗という、妊婦かと疑うくらい酸味に特化したお菓子ばかりを躊躇いもなく買い物カゴに突っ込んでいった。合わせて150円程度。
安い、安すぎる。
残りの150円で2群の組み合わせを考えるのだが、これがかなり難しい選択となる。バランスを取って、甘いものやスナック菓子等を加える方法が無難なのだが、駄菓子で数を稼ぐか、新商品を選ぶか、はたまた変化球で付録付きのお菓子に手を出すか。無限の選択肢がある中でさらに問題なのが、お菓子は一人で食べるものではないということだ。つまり、周りの友だちと交換したり遊べたりするハイスペックなコミュニケーション能力が必要となってくるのだ。遠足が目と鼻の先になってくると、周りは遠足のお菓子の話題で持ちきりだった。
「わたし、あれ買うからさ」
女子たちの、みなまで言わない腹の探り合いが水面下で行われた。そして悩みに悩み、文字が書いてあるだけの占いガムや、手垢でベトベトになるひもQなど、たいして美味しくもないお菓子を選択することもしばしば。子どもには酷すぎる人生の選択肢だ。
このようなありとあらゆる思考を巡らせ、さらに1円たりともはみ出てはならない、という教えを忠実に守り、私は消費税(当時5%)分も暗算しながらお菓子コーナーで長時間粘っていた。コンビニさえも町内に一件もなかったので、お菓子を買うにも母に車を出してもらう他なく、付き添いの母はきっと、はみ出てもいいから早く帰りたいと思っていたに違いない。だが母よ、皮肉なことに、この試練のおかげで子どもは算数ができるようになるのだ。
こうして様々な試練を乗り越え、やっとの思いで遠足にたどり着くころには、買ったお菓子のことなど忘れ動物園の猿の如く遊び呆けるのだった。
おしまい
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