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月が綺麗だった

「君は、素敵な人だから、もう少し、少しだけでも自信をもって。自分を好きになって。

そうしたら、もっともっと、素敵になれるよ。」

そう言ってくれた人が、昔いた。

その人は、昔、統合失調症を経験して
精神病院に入院をしてた人だった。

昔から、明るい、優しい人だったみたいだけど

あるとき、自分が仕事で一番上に立つ人になった。

その時から、その人は変わったらしい。

人が好きだった、その人は

いつしか

部下をモノのように扱わなくなった。

「使える人、使えない人」で人を判断し

今から思えば、すごい、嫌な上司だったと。

部下に罵声したこともあったと。

なんで、お前は、こんなに成績が悪いんだ。

すべては、売り上げのため。

仕事のため。

そんな日が続くと、彼は、

いつしか、色んな声に悩むようになった。

「お前が、しんだほうがいい」とか、

「お前は、みんなから殺意を抱かれてるんだ、消えたほうがいい」とか

それは、他人の声ではなく

自分のこころの声だった。

いつしか、彼は、見えない、幻想、幻聴に襲われたという。

すべての人が、自分を殺そうとしている。

毎日が恐怖だった。

だから、休止符を打とうとナイフで自分の身体を傷つけた。

その姿をたまたま家族の人が発見し、
救急車へ運ばれた。

精神病院だったという。

「病院にいる生活は新鮮だった。
唯一、辛かったのは
煙草が吸えなかったことかな」

そう笑って、その人は話した。

私が出会った頃には、その人の
こころの病気は良くなっていて

すごい、明るくて楽しい人だなあと
思っていたから

そんな過去があるなんて

人間には色々あるんだなあと思った。

営業の仕事は、やめて、人と接する仕事がしたいと決め、その人は介護の仕事の世界を選んだのだ。

「すごく、素敵な仕事だよね。人間らしさが取り戻せたんだ、俺には」

そう、私たちは介護の勉強会で知り合ったのだ。

ある時

その人と一緒に歩いていたとき
昔の職場のお姉さんに会った。

そのお姉さんは大好きな人だったんだけど
私が、宗教の勧誘を断ってしまった事がひとつの
原因で、仲があまり良いものとはいえなくなってしまった。

だからバツが悪そうに、でも
頭だけ下げて、そそくさと
その人と去った。

「大好きだったお姉さんだけど、色々あって、まあ一番の原因は私が最後の方は仕事にあまり熱意入れられなくなっちゃって、だから、私、たぶんめちゃめちゃ嫌われてるんだと思います…」

そんな事を言った。

すると、その人は

「それは、全部、keikoちゃんの思いこみだよ。」と言った。

「だって、人のこころなんて分からないんだよ。結局、今、keikoちゃんが思っているのは、全部妄想なの。思いこみ。考え方すぎ。俺もそうだったから。他人のこころに寄り添うのは素敵なことだけど、絶対そう思っているに違いないって思うのは違う。」

「妄想して、苦しんで、俺みたいに

そういう風になって欲しくないんだ。」

そう、優しい声で伝えてくれた。

私にとって、はじめて、自分を
肯定してくれた人だった。

こんな自分に

自信を持っていいんだよって
優しく言ってくれたのは
はじめてだった。

よく、夜、お月さまを見ながらお散歩をした。

その人とはもう、会っていないし
一生、会わないのだけど

お月さまをみると、たまに、思い出すのだ。

でも、ねえ

あの頃の私より弱くなっていて、さらに、自信をなくしているんだ。

自信のもちかたがね、私には、まだ、わからないよ。

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