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【#1】現状を理解する〜データで見る「東京一極集中」〜

「東京一極集中」という言葉を耳にするたびに、多くの人は東京という巨大都市の圧倒的存在感を思い浮かべるだろう。

しかし、この言葉が示す現象について、具体的な中身を理解している人はどれほどいるだろうか。人口、企業、大学、政府機関など、東京に集まる要素は多岐にわたるが、それがどのような問題を引き起こし、それらの課題をどう解決するべきなのかを議論する機会は決して多くない。

本論考では、「東京一極集中」という現象をさまざまな角度から掘り下げていく。その意義や課題、そしてこれからの日本社会にとっての適切な在り方を探るため、データと歴史を基にした冷静な分析を試みたい。

「一極集中」が日本全体にとって好ましいものなのか、それとも変革すべき対象なのか。本論考を通じて、この問いを深めていくことを目指す。

本論考は以下の4部構成になっている。

  1. 現状を知る〜データで見る「東京一極集中」とは〜

  2. 歴史を紐解く〜なぜ「東京一極集中」が生まれたのか〜

  3. 課題を考える〜「東京一極集中」は具体的に何が課題なのか〜

  4. 理想を考える〜「東京一極集中」は今後どうなるべきなのか〜

では早速、第1部『現状を知る〜データで見る「東京一極集中」とは〜』を以下に綴る。


人口

2024年の日本の人口は126,146,099人(約1.26億人)である。
そして、東京一極集中の指標となる「東京」の人口と総人口に占める割合はは以下の通りである。

  • 東京圏の人口:36,914,176人(約3700万人)[29.3%]

  • 東京都の人口:14,047,594人(約1400万人)[11.1%]

  • 東京23区の人口:9,733,276人(約970万人)[7.7%]

*東京圏=東京都+神奈川県+千葉県+埼玉県

果たして、人口という側面から「東京一極集中」が発生していると言えるのかを以下の3つの観点から検証してみる。

国内比較

まず、そもそも、東京が国土面積に占める割合を抑えておこう。

各エリアの面積と国土面積(国土面積:377,973.89km2)に占める割合は以下の通りである。

  • 東京圏の面積:14,034km2[3.71%]

  • 東京都の面積:2,194.05km2[0.58%]

  • 東京23区の面積:626.7km2[0.16%]

上記の通り「東京」が国土に占める割合は非常に小さい。東京圏が国土に占める割合は約3%であるにも関わらず、約30%の人口が集まっているのだ。

よって国土面積に占める割合という観点からは「東京一極集中」が起きているように見える。

次に、他の大都市圏の人口規模との比較を行う。東京圏についで大きな都市圏が大阪圏と名古屋圏である。

大阪圏の人口は約1811万人、名古屋圏の人口は約1123万人で、それぞれが総人口に占める割合は大阪圏が約14.3%名古屋圏が約8.9%である。

<出典>3大都市圏とその他地域の人口

また、圏域別の人口推移を比較すると、東京圏は一貫して増加しているのに対して、大阪圏と名古屋圏は2000年代半ばから横ばい傾向にある。

<出典>国土交通省「東京一極集中の現状と課題」

東京圏の人口が占める割合は約29.3%であり、その割合が三大都市圏の中で唯一増加しているのが東京圏だけであることを踏まえると、「東京一極集中」状態へと近づきつつあると言えるであろう。

国際比較

他国と比較した時にも「東京一極集中」と呼べる水準なのかを見ていこう。

他の先進国と比較しても、日本の首都圏への人口集中度合いは高いことが分かる。日本以上に一極集中が起きている国としては、韓国以外だとカナダやオーストラリアなどが挙げられる。

<出典>国土交通省「東京一極集中の現状と課題」

さらに、発展途上国も含めて比較をしても日本は首都圏に人口が集中している国に分類されることが分かる。
日本よりも首都圏に人口が集中している国としては、モンゴル、アイスランド、パラグアイ、ウルグアイなどが挙げられる。

<出典>What % of a countries population lives in its capital city

以上のデータから、東京圏への人口集中度合いは国際的に比較しても高いことが理解できたが、”一極集中”と呼べる具合なのか見るために、首位都市圏と第二都市圏の人口比を比較してみる。

OECD加盟国それぞれの首位都市圏の人口と第二都市県の人口比を比較すると、日本は他国よりは”一極集中”度合いは低いことが分かった。(ちなみにOECD加盟国の中で首位都市圏への人口集中度合いの順位は6位だった)

<出典>大阪府「東京一極集中について」

まとめ

人口という側面からは、確かに東京圏への人口集中度合いは国際的にも高い水準ではあるのだが、日本には東京圏に次いで大阪圏・名古屋圏といった大都市圏が存在しているため、”一極集中”度合いはそこまで高くはない

ただし、大都市圏の人口遷移を見ると、日本では東京圏だけが人口増加しているので、少しずつ「東京一極集中」状態に近づきつつあることが分かる。

政府機関

国内比較

東京には立法(国会)・行政府(内閣・省庁)・司法(最高裁判所)の三権が集中しており、政府中枢機能が東京にあることは共通の認識であろう。

2016年より、地方創生政策の一環として政府機関の地方移転事業が進められているが、中央省庁の中で地方移転が唯一進んだのが文化庁である(しかも全面移転と言いつつも、東京にも拠点は残している)。

なお、中央省庁以外の研究・研修機関などの政府機関の地方移転は進んでおり、合計23機関50件の移転が進んでいる。

<出典>地方創生推進事務局「政府関係機関の地方移転に関する総括的評価」

国際比較

日本とは異なり三権を国内に分散させている国もある。分散パターンは様々であり、パターンについては下図を参照されたい。

<出典>大阪府「諸外国の首都・首都機能について」

分散させている事情は国によって異なる。

イギリスの場合、ロンドンにおける建物賃借料や人件費の高騰の影響を避けて行政コストを削減する目的があったり、民間との人材獲得競争に勝てないため、優秀な人材を確保する目的があり、三権を分散させている。

韓国の場合、首都ソウルの過密を解消し、均衡ある国土を発展させるために、新たに行政中心複合都市を建設して、三権を分散させている。

具体的にどれだけの国が三権、つまり政府中枢機能、を国内に分散させているのかは不明だが、少数派であると推測される。

(アメリカや中国のように、経済の中心地と政府中枢機能の中心地を分ける国は一定存在するが、政府中枢機能を分散させる国は少ないと考えられる)

まとめ

日本は政府中枢機能が「東京一極集中」している国であるため、政府機関も東京一極集中の状態である。近年は政府機関の地方移転を進めようとしているが、三権の中枢機能は東京に残り続けることが分かっている。

これは国際的に見て異常な状況ではなく、多くの国が日本と同様に政府中枢機能を一箇所に集中させる戦略を採用している。

企業

国内比較

2015年時点で上場企業の本社の約50%が東京都に、約60%が東京圏に立地している。その割合は2004年から2015年にかけて5%以上増加している。逆に大阪圏ではその割合が同時期に5%以上減少していて、約20%の上場企業が大阪圏に本社を置いている。

<出典>国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」

東京に企業が集中する傾向は外資系企業に絞るとより顕著で、約75%の外資系企業が東京都に、約86%が東京圏に立地している。

<出典>国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」

そして、地域別のGDPに着目すると、東京都のGDPは110兆円を超えており、日本のGDPの20%を占めている。東京圏に広げると、日本のGDPに占める割合は30%を超えている

<出典>大阪府「東京一極集中について」

国際比較

大企業の本社機能の集中度合いを比較すると、東京都はソウルに並んで非常に高い水準であることが分かる。

<出典>国土交通省「各国の主要都市への集中の現状」

GDP構成比の観点から見ると、日本の東京圏のGDP比と人口比は同水準(役割)であることが分かる。多くの国は人口比とGDP比が一致しているが、中にはイギリスやフランスなど、GDP比が人口比よりも高い国もある。

<出典>三井住友信託銀行「国際比較の視座からみた東京一極集中」

実際に人口集中度とGDPの集中度の関係を調べてみると、日本は人口の集中度に対してGDPの集中度は高くないことが分かった。

<出典>大阪府「東京一極集中について」

まとめ

GDP構成比の観点から見ると、東京は人口の集中度合いに対してGDP比は高くないことが分かり、日本のGDPは東京だけに頼っているわけではないように見える。

しかし、東京には大企業の本社機能が”一極集中”しており、東京が経済の中心地であることは揺らぎないことが分かった。よって、経済という観点からは「東京一極集中」状態であると言えるであろう。

大学

国内比較

大学学生数および大学数に着目すると「東京一極集中」と言える状態になっていることが分かる。

東京圏には全学生数の約4割が集まっていて、全大学数の約3割が立地している。特に私立大学の集中が顕著であるのが特徴だ。(特に早慶・上智、GMARCHなどの有名私立大学が東京一極集中している)

<出典>国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」

なぜ総人口に占める割合よりも高い割合の学生が東京圏にいるのか?それは、東京圏の大学入学定員が東京圏の進学者数よりも高く設置されているからである。その幅は2002年度から2015年度にかけて広がっている

<出典>地方創生推進事務局「東京の大学の定員の抑制に関する 基本的な方向性・論点」

その背景には東京23区への大学のキャンパス移転を行った大学の存在がある。人口減少に伴い大学の学生獲得競争が激しくなることを見据えて、キャンパスを利便性の高い23区内に移転させた大学が多く存在する。

だから、東京圏、中でも東京23区の学生数は増加し続けているのである。

<出典>地方創生推進事務局「東京の大学の定員の抑制に関する 基本的な方向性・論点」

国際比較

大学学生数の地域分布を国際比較すると、日本の東京圏への集中度合いは国際的にも高いことが分かる。フランスは日本に近い集中度合いだが、イギリス・ドイツは多地域に分散している。

<出典>国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」

そのため、大卒以上の人の出身地・在住地を見ると、首都圏出身者の首都圏在住割合は日本・イギリス・フランスが2割強で共通しているが、日本だけが首都圏外出身者の首都圏在住割合が1割も存在しているという特徴がある。

<出典>国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」

まとめ

日本における大学は「東京一極集中」の傾向が進んでいることが分かった。近年、東京圏の特に東京23区内にキャンパス移転を行った大学が多数存在していたことが、東京圏の大学学生数の定員増加に影響を与えていた。そして、その”一極集中”度合いは国際的に見ても高い水準だと分かった。

総括「東京一極集中は起きているのか?」

起きている、と私は考える。

東京というのは国土に占める割合は非常に小さい。東京圏全てを合わせて日本の国土の3%程度である。

その狭い地域に、人口、政府機関、企業、大学が集中しているといういびつな状況が日本には起きているのだ。

「首都に一極集中するのが当たり前ではないか?」と思った方もいるかもしれないが、必ずしもそうではないことを理解していただけたであろう。

では、次に「なぜ日本では東京一極集中が起きたのか?」を見ていくことにしよう。全ては徳川家康が江戸に幕府を開いたことから始まっていた…


<参考文献>

大阪府「東京一極集中について」
大阪府「諸外国の首都・首都機能について」
国土交通省 「企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ参考資料」
国土交通省「各国の主要都市への集中の現状」
地方創生推進事務局「東京の大学の定員の抑制に関する 基本的な方向性・論点」
地方創生推進事務局「政府関係機関の地方移転に関する総括的評価」
三井住友信託銀行「国際比較の視座からみた東京一極集中」


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