岸田政権レビュー〜地方創生編〜
この記事では岸田政権の地方創生政策のレビューをしていきたいと思う。私、独自の観点でのレビューとなることはご理解いただきたい。
冒頭に私が考える「地方創生の目的」と「地方創生の評価観点」を書いていますので、こちらに関して意見があれば是非コメントをください!
地方創生の目的
私が思うに地方創生の目的は「東京一極集中から、多極集中の国土戦略への転換を通して、日本の魅力を最大限に引き出しつつ、人口減少社会に備えること」だと考えている。
地方創生の評価観点
そこで、地方創生政策を評価するにあたっては、以下の3つの観点から評価するべきだと考えています。
❶ 東京一極集中の是正は進んだのか?
・東京への転入超過は緩和されたのか?
・東京から地方への政府機能の移転は進んだのか?
・東京から地方への本社機能の移転は進んだのか?
❷ 東京以外の大都市圏の魅力は向上したのか?
・7大都市圏の地価は上昇したのか?
・地方大学の魅力化は進んだのか?
・地方発の産業が生まれ、成長したのか?
❸ 人口減少社会に備えた社会づくりは進んだか?
・コンパクトなまちづくりはどれだけ進んだのか?
・より効率的で効果的な行政に向けた改革は行われたか?
・関係人口の創出と支援は進んだのか?
それでは、3つの観点ごとにレビューを行う。
①東京一極集中の是正は進んだのか?
・東京への転入超過は緩和されたのか?
東京都の転入超過の推移のグラフをご覧になれば一目瞭然だが、コロナ禍で転入超過の傾向は緩和されたものの、2022年は3万8023人の転入超過に続き、2023年は6万8285人の転入超過となった。岸田政権下では転入超過を緩和することができなかった。
・東京から地方への政府機能の移転は進んだのか?
政府機能の地方移転は2014年12月閣議決定の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を起点に議論が始まり、2016年に中央省庁7機関、研究・研修機関等23機関50件の地方移転を決定していた。
現在の実施状況は以下のスライドに整理されている。特に注目に値するのが文化庁の京都府移転。2023年3月より業務を開始しており、明治以来初の中央省庁移転となった(東京にも拠点が残る2拠点体制だが)。
しかし、全面移転が実現したのは文化庁に留まっており、文化庁に追随するような動きは見られていない。
・東京から地方への本社機能の移転は進んだのか?
2021年から3年連続で転出超過の状況になっている。最も有名な事例はパソナグループの淡路島移転だろう。
転出超過の状況になるきっかけとなったのは、やはりコロナの影響だと考えられる。企業も有事に備えて「本社機能の移転はどこかでしないといけない」という悩みはあり、感染症対策やテレワーク推進などの環境の変化が地方移転を促進したのだろう。
本社を地方移転させた場合に税制上の優遇が行われる「地方拠点強化税制(2015年制定)」が存在したことも後押ししたであろう。
ただし、転出企業の売上高規模別で見ると売上高10億円を超える企業の割合は10%前半に留まっており、大企業の転出が進んでいるわけではないことに注意が必要だ。
また、都道府県別の株式会社数と上場企業数の割合を調べると、東京都の人口構成比は11%であるのに対して、東京に本社を上場企業数は52.7%である。3年前の2021年の占有率は53%だったため、産業の一極集中が是正されたとは言い難い。
②東京以外の大都市圏の魅力は向上したのか?
・7大都市圏の地価は上昇したのか?
以下の表は、直近6年の基準地価(毎年7月時点の土地の価格)です。岸田政権は令和3年11月〜令和6年10月なので、令和4年〜令和6年の「大阪圏」「名古屋圏」「地方四市」の地価の増加率に注目をすると、東京圏の成長率には見劣りするものの、大阪圏・名古屋圏も順調に成長している。
また、地方四市の地価上昇率がコロナ禍よりも高くなっていることは評価に値する。コロナ禍を乗り越えた後も、住宅地・商業地ともに地価上昇のトレンドが落ちることなく、高い成長率を保つことができている。
日本全体に視野を広げても、住宅地は全国平均で+0.9%と3年連続の上昇、商業地も全国平均で+2.4%と3年連続の上昇となっている。実は、地方圏のうち「地方四市」を除いた地域でも+0.2%というのは32年ぶりであり、大都市圏に限らず日本全体で地価が上昇していたことがわかる。
・地方大学の魅力化は進んだのか?(ここは追加調査必要)
若者は就業と就職のタイミングで東京へ流出する傾向があるため、「ここで学びたい!」と思える魅力的な大学が地方にあり、その大学を起点に産業・雇用が地方に生まれていることが理想的な状態である。
そこで、7大都市圏の主要大学の倍率を前年度比で調べてみたのだが、東大以外に倍率が上がっている大学は存在せず、基本的に倍率が低下している。これは、そもそもの受験者数の減少も影響しているが、各大都市圏の中心となる有名大学の倍率が低調していることには大きな懸念が残る。
・地方発の産業が生まれ、成長したのか?
まず、2022年と2023年に上場した企業の中で、東京以外に本社を構えていた企業がどれだけ存在していたのかを見てみる。(2021年と2024年は岸田政権は途中で交代しているので、分析対象外とする)
2020年は34%、2021年は36.7%であったため、岸田政権下で地方発の上場企業が劇的に増加したとは言い難い。
ただし、注目すべき動きとして、国策としてTSMCの工場が熊本で建設されたり、ラピダスの工場が北海道で建設されていることで、局所的ではあるものの、地方に産業をつくる動きは出ている。
③人口減少社会に備えた社会づくりは進んだのか?
・コンパクトなまちづくりはどれだけ進んだのか?
コンパクトなまちづくりを推進するために各市町村に立地適正化計画の作成が推奨されている。立地適正化計画には、コンパクトなまちの将来像を定義して、そこからバックキャスティングでまちづくりを進めていくことを促す役割がある。
10年前の2014年から立地適正化計画の作成が始まり、2024年4月時点で747市町村(全体の約43%)が立地適正化計画について具体的な取り組みを行なっている。ただ、岸田政権下で大きな進捗があったとは言えない市町村の増加率である。
・より効率的で効果的な行政に向けた改革は行われたか?
岸田政権下で進んだ最大の地方行政改革としては、デジタル庁が推進した「自治体システムの標準化」が挙げられる。
一部遅れは見られるものの、2025年度末までに全自治体の税や医療・介護など主要20業務のシステムを国が定めた標準仕様のシステムに移行し、クラウド上で運用して効率化する計画が進められている。
現在は自治体ごとにシステムの仕様や保存データの様式がばらばらであるため、改修費用が膨らみやすく、他の自治体との連携も難しいなどの課題があるため、標準化を進めた意義は非常に大きいと評価している。
(ただし現場からは移行が難しい、逆にコストが高まるなどの厳しい意見が上がってきている。今後の対応に注目していきたい)
・関係人口の創出と支援は進んだのか?
都市に住みながら地方にも拠点を持つ多拠点生活者を貴重な「関係人口」として促進できるように、今年5月に二地域居住の促進法(改正広域的地域活性化基盤整備法)が国会で成立した。
空き家の改修やコワーキングスペースの設置、二地域居住を望む人の支援団体の指定制度など、ハード・ソフト両面での受け入れ環境を整えることを国が支援することになった。
二地域居住という新しいライフスタイルに関する法規定が盛り込まれるのは初めてで、「関係人口」の創出と支援に向けた大きな1歩になったと評価できる。今後、二地域居住者の税負担の問題がどのように扱われるようになるのかが大きな論点になるだろう。
総論
岸田政権は地方創生を進めるための追い風の状況下で始まったと思っています。なぜならば、コロナ禍で地方回帰へのトレンドが生まれたからです。しかも、岸田首相自身も広島出身で地方創生への熱意を感じていたので、私としては非常に高い期待値を抱いていました。
しかし、岸田政権下で地方創生が大いに進捗を生んだとは評価しきれないというのが私の意見です。点数に落とすのであれば40点でしょうか。
評価できる点を3つ挙げるとするのであれば、地価が地方圏も含めて向上したこと、国策で地方に産業が生まれたこと、人口減少に備えたデジタル行政改革が進んだことだと思います。
しかし、私は地方創生の目的を「東京一極集中から、多極集中の国土戦略への転換を通して、日本の魅力を最大限に引き出しつつ、人口減少社会に備えること」と定義しているため、多極集中の国土戦略への転換に向けたドラスティックな変化が見られなかった、という点で高い評価を与えるのは難しいと感じています。
ただ、これに関しては誰が政権を握っていたとしても難しかったと思います。石破政権が地方創生交付金を倍増したところで変わる話ではないというのが私の見解です。
そのことを踏まえると、岸田政権は3年間という短い期間の中でも進めるべき政策を議論の俎上に上げて、着手をしてくれたことに敬意を表したいと思います。
岸田さん、3年間お疲れ様でした。
おまけ:調べながらのつぶやき
政策の進捗を調べるの大変すぎる!KPIが設定されていても現時点での進捗はどこにも書かれていないし、どうやって計測しているのか、どこからデータを取得しているのか分からないから進捗を判断するのが非常に面倒!
デジタル庁の政策ダッシュボードみたいに、各政策の進捗をリアルタイムでキャッチアップできるようにならないと国民からのデータに基づくモニタリングが働かないので、改善していただきたいです!
よろしくお願いいたします!
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