お勧めの本ーー『成瀬は・・・』
春のような暖かい日の次にはまた冬の寒さに戻ったり・・・と、体調管理に注意が必要な時期ですね。
今日は、お勧めの本を2冊ご紹介します。
お勧めと言っても、中国語でもなければ、漢詩でもない、現代小説です。
実は、私は小説をほとんど読みません。いや、極力読まないようにしているという方が正しいかと思います。
ストーリーのあるものを読み始めると、先が気になって、どんどん読みたくなってしまうため、敢えて封じているといった感じでしょうか。
ところが、昨夏、不思議な小説に出会ってしまいました。
『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈著 新潮社
新聞広告で見て気になっていたこの本を書店で見つけ、手に取ってはみたものの、買うつもりはなかったのですが・・・何故か購入してしまいました。
「成瀬」とは主人公「成瀬あかり」のこと。
滋賀県大津市にある(あった)「西武大津店」の閉店から物語は展開していきます。
「西武大津店」は、2020年8月末に44年の歴史に幕を下ろしました。(フィクションではありません。)
この百貨店が地元の人々にどれほど愛されてきたのか、小説を読み進めるとジワジワと伝わってきます。
中学2年生の成瀬あかりは、西武大津店の閉店を前にあることを思いつき、実行します。中学生である自分にできることを淡々と、しかし、着実に実行する主人公成瀬。
いつのまにか「成瀬ワールド」に引き込まれてしまう小説です。
新潮社のサイトに試し読みコーナーもありますので、よろしければご覧ください。
さて、不思議な主人公成瀬あかりのその後が何だか気になっていたところ、
続編 『成瀬は信じた道をいく』
が、1月に発売されました。
前作の5年後、高校生から受験を経て大学生になった主人公が描かれています。
敢えてストーリーには触れませんが、ここでも「成瀬ワールド」が気持ちよく展開されています。
劇的な出来事が起こるわけではありませんが、奇想天外なエピソード満載であることは確かです。
前作は6編、2作目は5編の短編から構成されており、それぞれ、成瀬を取り巻く人々の視点から語られているところがユニークです。
成瀬の独特な口調ーー最初は違和感があるかもしれませんが、この口調でないと彼女の個性は表せないような気もします。
周りからどう思われようと、思いついたことはどこまでも諦めずにやり抜いていく、その行動力は羨ましい限りです。
淡々と、かつ大胆に、群れることなく、しかし、関わる人々を知らぬ間に魅了して巻き込みながら、躊躇なく前に進んでいく主人公。
自分の信念(!?)は曲げませんが、たとえうまくいかなくても誰かを責めることはなく、
また、自分の非を認めた時には、素直に謝って、あれこれ言い訳をしないーーなかなかの大物だと思います。
そして、最も印象的なのは、
誰も悲しまない、誰も傷つけない、ストーリー展開
ではないかと思います。
読後感は「痛快」の一言。
停滞気味の毎日の中で、スッキリしたい方にお勧めの1冊です。
デビュー作『成瀬は天下を取りにいく』は2024年本屋大賞にノミネートされているとのこと。
今後、シリーズ化を期待したい小説です。
あなたも「成瀬ワールド」に浸ってみませんか?