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【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ」佐治晴夫さん(理学博士)の話に大変感動したのだった。


NASAのボイジャー計画にも…!? ~数学は宇宙の共通言語~

高橋:
そこから、NASAのボイジャー計画に行ったというのは、どういう経緯だったんでしょう?

  • ボイジャー計画…アメリカの惑星探査計画。1977年、ボイジャー探査機1号・2号が相次いで打ち上げられ、木星・土星・天王星・海王星への接近に成功した後、太陽系の外に出て旅を続けている。探査機には、他の天体の知的生命体に向けたメッセージとして、地球に関するさまざまな音と画像を記録したレコード盤が搭載された。

佐治:
これはですね、私がNASAの研究員として参加したっていうんじゃなくて…。別のテーマでNASAと関わりを持っていた時に、よく研究所なんかでコーヒーブレイクってあるでしょ? そのコーヒーブレイクの中で、ボイジャー計画をやってるということを知って、そこが発端なんです。

高橋:
そういう話が出るわけですね!

佐治:
出るんですね、ええ。地球があと50億年ぐらいたつと、太陽の中に落ちますよね。無くなるでしょ。

礒野:
50億年後…。

佐治:
そうするとやはり、太陽系の片隅にね、こんなちっちゃな地球っていう星があって、こういう人類がいましたよっていうことを、どうしても伝えたくなるわけですよ。

高橋:
文化をね!

佐治:
文化を(探査機に)乗っける! その中で音楽を乗っけるってなった時に、「やはりまず考えなきゃいけないのは、バッハでしょうね」ということになって。バッハをなぜ乗っけたかっていうのは、数学っていうのはやっぱり宇宙の共通言語ですからね。

高橋:
バッハを乗せて、いまもボイジャーはどっかへ向かって?

佐治:
え~とね、いま1号は(地球から)だいたい240億kmのとこにいると思います。だからあの、計算してみないと分からないんだけど、光の速さでたしか23時間以上かかると思いますね。そんなところを飛んでるけども、まだつながってるんですね。

礒野:
あっ! すご~い!

高橋:
連絡ができる?

佐治:
そうです、はい。それでいまもね、勉強してるんですよ、ボイジャーくんは!

高橋:
向こうで?

佐治:
と言うのは、1977年生まれでしょ。そりゃもう、コンピューターの精度は悪いしね。だから、いま皆さんが使ってらっしゃるスマホのね、7000分の1の能力ですよ。

礒野:
う~~~ん!

高橋:
それで宇宙旅行をしてるんだ!

佐治:
そう!

礒野:
すごい頑張ってる(笑)。

佐治:
とにかく「ボイジャーくん!」と呼びかけてから、(電波が届くのに)だいたい1日かかるわけですよね。ボイジャーくんから「は~い!」って返事が来るのに、(さらに)1日かかるということだけれども、NASAのほうでは、そうやってバージョンアップをやってるんです。

高橋:
へぇ~! じゃあもう、勉強してるわけですね。

佐治:
勉強してます。ボイジャーくんも勉強してる。

高橋:
それじゃ僕らもボイジャーくんに負けないようにね(笑)。

礒野:
そうですよね~。

佐治:
だからやっぱり、僕らにとっては、ボイジャーっていうのは、単に我々が作ったね、機械ではなくって、僕らが直接行くことができないところに行って、見て、感じて、そしてその結果を送ってきてくれるっていう、我々の感覚器官の延長なんです。だからみんな「ボイジャー」って呼びませんよ。「あいつ」とか「あの子」とかって呼んでます。

礒野:
あっ! 子どものように!

佐治:
そうなっちゃうんです。

高橋:
へぇ~。

佐治:
だからこそ、ボイジャーが太陽系を離れる時にね、まさにその、マーラーの『亡き子をしのぶ歌』を思い出したりっていう話があるわけですよ。二度と帰ってこない…。(ボイジャーが遠くから地球の姿を撮影した)『Pale Blue Dot』 (淡く青い点)も、60億kmから撮った…。

高橋:
針の点みたいな!

佐治:
針の先ほどの地球ですね。あれを撮ったのは女性のハンセン博士なんですけども、「ママのほうを振り向いてね」って言ったんですよ。

高橋:
っていう、指示を出した!?

佐治:
そうです。

礒野:
ママというのは地球?

佐治:
地球です。

高橋:
人間というか、生き物あつかいなんですね!

佐治:
そうですね。だから最初は、日本だったらそういうことはあり得るかもしれないけど、アメリカでそういうことがあるってことは、ちょっと僕の想像を超えてました。アメリカ人は非常にクールですからね。

高橋:
もっとドライかと思ったら!

佐治:
そう、そう、そう。そうじゃないんですね。非常にそういう、ものすごい思い出がありますよね。

研究者から教育者への転身

高橋:
佐治先生は研究者としてのお仕事もたくさんされたんですが、ある時期から、教育職に転職されて…。

佐治:
そうですね。

高橋:
僕もちょっと、学校の先生をやったことがあるんで…。研究と教育って、全く違うんですよね! まぁ、全くって言い方もおかしいんですけど…。なぜ、教育職のほうに行こうと思われたんでしょうか?

佐治:
それはね、考えてみると、人生っていうのは全て先生がいるわけですよね。それで、その先生との出会いによって変わっていくわけでしょ。それでその、いろんな好き勝手な研究をやる。そうすると、それは社会から恩恵をこうむってるわけですよね。

礒野:
ええ、ええ、ええ。

佐治:
だからそれをやっぱり還元しなきゃいけない。これは初めてウィーン大学に行った時にね、クギをさされたんですよ。当時はまぁ、日本の大学の先生っていうのは、好き勝手なこと言って、社会にいろんなことを還元するということを、しない。それを指摘されました。
それで、「あなたに少し働いてもらうけれども、まず世界の第1級の研究をしてください。それから授業は第1級の授業をしてください。そしてこれは非常に言いにくいけれども、あなたの国ではね、研究者が社会にお返しをするということをしない。それはいけないから、あなたが知り得たことは社会にフィードバックしてください。この3つをやるんだったら、ここで働いて良い」と言われたの。

礒野:
そういう条件というか…。

高橋:
いわゆる、日本で言う「象牙の塔」じゃダメだ、と!

佐治:
そうなんです。そのことがずっと頭にあったんですね。
それからもう1つは、教育学者である林竹二っていう先生がおられたんですけど、先生が大学の学長を辞められた時に、荒れてる学校だけを選んで授業をされた。それで林先生とちょっと知り合いになった時に、「君もいつかは教える立場になってね」っていうふうにおっしゃったこともあって…。

礒野:
へぇ~!

高橋:
やらなくちゃいけない状況になってきた!?

佐治:
そうなんですね、はい。

高橋:
佐治先生は、お兄さんだったり、お父さんだったり、小学校の先生だったり、とても素敵な先生が周りにいたと思いますし、そういう先生の薫陶(くんとう)というか、ただ教えるんじゃなくて、人間的に接することで、すごい影響を与えられたっていう経験を書かれてますよね。

佐治:
はい。だから教育っていうのはね、やっぱりあれこれを細かく教えるよりもね、「希望を語る」ということなんですよね。希望を語れるかどうかということが、やっぱり、教師の資格かな…。

礒野:
希望ですか…。

佐治:
これはね、僕が言ったわけじゃなくて、ハイデルベルク大学のね、校歌の中に入ってんですよ(笑)。

高橋:
あっ、校歌の中に…(笑)。

佐治:
「教育っていうのは、希望を語ることである」と。それから「学ぶ」ということはね、「真理を胸に刻むことだ」っていうのが、あそこの校歌ですよね。

礒野:
うわ~っ!

リベラルアーツの重要性

高橋:
先生はあえて言葉にされてるんですけど、「リベラルアーツの重要性」ということで…。

佐治:
はい、はい。

高橋:
大学教育に詳しくない方は、聞き慣れないと思うんで、ぜひこの話はしていただきたいな~と思って…。

佐治:
まぁこれは、歴史的に言えば、中世の大学が行っていたもので…。

高橋:
授業ですね。

佐治:
授業ですね。専門教育の前に行われていた、いまでいうと一般教育のものですね。

高橋:
科目が変わってるんですよね。

佐治:
そうですね。科目はまぁ、数学であるとか、それから音楽が入ってる。天文学もですね。それから文章を書くための修辞学とかですね。
詳しいことを言うと、もうこれキリがないんですけれども、結局みんなつながっていて、こっちから見れば数学に見えるし、こっちから見れば音楽に見えるっていう、そういうつながりがあるんですよね。そういうつながりの中で理解していかないと、もう「ナントカばか」って言われるようなことになってしまう…。

礒野:
視野が狭くなってしまって…。

佐治:
そうなんです。

高橋:
リベラルアーツって、いまはどんどん、そういうのは要らないっていう…。

佐治:
そういうことになってきました。

高橋:
全部、専門でいい、と。

佐治:
そう、そう。

高橋:
教養は要らないっていう方向に、流されようとしていますよね。

佐治:
それで、芸術系のものから切られていきますよね、ここでもね。だけど考えてみたら、そういう感性でもって「不思議だな」と思うところから、全て分かるわけですよね。どうして「まばたき」するんでしょうか、高橋先生(笑)。

高橋:
え~とね、あっ、でもね、僕は先生の本を読んでるから! あはははは(笑)。

佐治:
そうそうそう(笑)。結局、昔は魚だったということの証しですよね。お魚くんはいつも濡れているから、まばたきしなくて良かったんですよね。まぁ、そういうこととかね。
それから、「夜はどうして暗いのかな?」っていうことから考えていくと、「宇宙にどうも始まりがあったらしい」ということまで分かるわけですよね。
星座の形って、変わりませんよね。星座の形を見て、変わるのが分かるのは、だいたい10万年かかるんですよね。

礒野:
へぇ~!

佐治:
だから『枕草子』の中で「星はすばる」といった、あの「すばる」だって、いま見えてる。たった1000年ぐらいですかね。

礒野:
ええ、ええ。

佐治:
「なぜそうなのか」っていうと、遠いところにあるから、星っていうのは動いてるんだけど、こちらから動きが分からない。そういうふうに、いろんな文学とか、いろんなものをまとめて世界を解釈していくと。それがやっぱりリベラルアーツの大事なところですね。

高橋:
そういうところがどんどん疎(うと)んじられて、社会に出て役に立たないものは要らないっていう方向に…。でもそれは、さっき佐治先生がおっしゃったように「ナントカばか」になっちゃう可能性があるっていうこと。

佐治:
そうですね。

小学校へ出張授業 ~佐治さんもまいった、女の子の言葉とは!?~

高橋:
佐治先生はいろんな大学をつくられたり、学長をされたりしてるんですが、もう1つ、びっくりするのが、小学校への出張授業ですね!

佐治:
ええ。だいたい800校ぐらいまで行きましたかね~。

高橋:
小学校っていうのは、なぜなんですか!?

佐治:
金子みすゞの話が、やっぱりきっかけだったんですよね。例えばね、金子みすゞの詩の中で、全て違っててもいいっていう詩がありますよね。有名なのがね。

高橋:
『みんなちがって、みんないい』ですね。

佐治:
そうするとね、「なぜ、それでいいのか」っていうことを、先生方は説明をしないんですよ。みんな違っていいんだったら、「じゃあ、泥棒するのもいいんだよね」っていう論理になっちゃうわけ。

高橋:
へ理屈みたいなことにね。

佐治:
そう、そう。その辺のことで、やっぱりここはきちんと、金子みすゞの話はしなきゃいけないと。それと同時に、(金子みすゞの遺稿を見つけて全集を出版した)矢崎節夫という童謡詩人がいますけど、矢崎先生ともあることがきっかけで知り合いになって、ということもあって、小学校で授業することになって、それがず~っとこう、雪崩のようにバーッと広がっていって…。

高橋:
実は僕もちょっと小学校で教えたんですけど、めちゃくちゃ面白いですね。

佐治:
感動したのはね、「世界で一番速いものはなんでしょう?」ということを言ったらね、「新幹線だ」「いやいやジェット機」だって話をした時に、下を向いてモジモジしてる女の子がいたんですよ。それで「何か言いたいの?」って言ったら、なんて言ったと思いますか? 「私が思うこと」って言って…。

礒野:
え~!

高橋:
あ~!

佐治:
それで聞いたら、その子は、おばあちゃん子だったです。なんでもおばちゃんに相談をしていたらしいんですね。なのに、おばあちゃんが亡くなってしまった。でも、「おばあちゃんだったら、どう言うかな?」って考えると、すぐ側におばあちゃんがいるようになるから、「光よりも私の思いは速い」。これはね、僕もまいりました。

礒野:
う~ん!

高橋:
だからね、そういう自由な発想をね、彼ら彼女らは持っている。

佐治さんから源一郎さんに聞きたいこと!

礒野:
佐治さんから質問があるそうですね。

佐治:
僕はね~、モノを書くとね、取捨選択をどうやっていいか、なかなか分からないんですけどね。そういう「モノを書くとき」っていうのは、どういう感じでお書きになるんでしょうかね?

高橋:
え~とですね、せっかくですので「小説を書く」っていうことで、よろしいでしょうか?

佐治:
ええ、ええ。結構です。

高橋:
あのね、えっとね、「実験」なんですよ。

佐治:
実験!?

高橋:
はい! 科学者とやっていることは近くて、言葉を道具として使って、人間っていうのは、どういうものかを実験して、観察してるっていう感じです。

佐治:
あぁ、そうですか。なるほど!

高橋:
例えば、カフカの『変身』って、人間が毒虫になってますよね。だから「毒虫になる」っていう条件で、そのとき人間がどうなるかっていうことを…。

佐治:
あ~、なるほど~!

高橋:
カフカのすごいところは、さらに第2、第3の条件を…。例えば、毒虫になるけど、そのことよりも「会社に行くことを気にする」という条件なんです。「これはいったい、人間のどういう条件なんだ?」って、こんなことがあるのか…。極限ですよね。
つまり毒虫になるということは起こらないんで、実際には。だから言葉の中だけ…。

佐治:
想像の世界ですね。

高橋:
そう、そう、そう。だから要するに、本当に極限で起こる実験を見て、自分で驚くっていうこと。

礒野:
自分で驚く!

高橋:
だから自分で驚かないときは、失敗なんですよ。

佐治:
なるほど~、あぁ~!

高橋:
「こうなるの!?」っていう…。だから優れた作品はたぶんね、書いてる作者もびっくりしてる!

佐治:
う~ん。たしかリルケが言った言葉で、そのお弟子さんが「僕の作品を批評してください」って言った時に、そんなことは自分にはできないと…。「私は書かねばならない、と思ったらそれでいいんだ」っていうようなことを言ってたんです。

高橋:
そうですね。自分で書いてみないと分からない…。

佐治:
ということなんですね~。

高橋:
教えることは何もないと!

佐治:
なるほど。非常にそれ、理論物理とよく似てますね~。

高橋:
はい。そうですね。

礒野:
ピアノと物理学の関係も…!?

高橋:
そう!

佐治:
これはもう~、関係がたくさんありますよ! 鍵盤の数は88でしょ。これは星座の数でしょ。

高橋:
あ~~!

佐治:
それからドレミファソラシドっていうのは、周波数で1対2対3対4対5対6ってやってくと、ドレミファソラシドができるわけ。全部、数学でできてるんですよ。

礒野:
え~~!

高橋:
物理学者でピアノ弾く人、めっちゃ多いですよね?

佐治:
多いですね。

高橋:
ハイゼンベルクとかね。アインシュタインとかね。

佐治:
アインシュタインさんは、バイオリンですね。

高橋:
あぁ、そうか! 「アインシュタインが弾いたピアノ」もありますよね?

佐治:
あります、あります。

高橋:
僕、奈良のホテルに行って、見てきました。

佐治:
あの~、2年前に僕、弾きました。

礒野:
えっ~!

高橋:
佐治先生はいまもコンサートもされているんですけど…。

佐治:
はい。もう30年ぐらい続けてるんですけど…。

高橋:
チケットを買いました!

佐治:
あら~~~!

高橋:
楽しみにしておりますので!

佐治:
いや~、あらあら、そうですか~!

礒野:
あっという間に、お時間が来てしまいました。理学博士の佐治晴夫さんでした。ありがとうございました。

佐治:
いや~、ありがとうございました。

からの引用

高橋源一郎の飛ぶ教室ゲストは、理論物理学者の佐治晴夫さん

89歳 とても謙遜なお人柄がうかがえた


***佐治晴夫さんの言葉を書き留めるしかない***


ボイジャーは、いまも学習しています。

 地球の文明・文化を宇宙に残す・・・

  バッハの音楽をグレングールドのオルガン演奏でと

  提案した佐治さん。

 戦争が始まったころ、父親が三越のオルガン演奏を聴きにいくようと言い、兄と聴きに行く

 軍歌の演奏の合間に、バッハの曲が流れた、、、この時、初めてのバッハの音楽と出会う

 空から降ってくるような音色


 戦争中、子どもたちをプラネタリウムに

 連れていってくださった先生がいた


数学は宇宙の共通言語ですから・・・

数学と音楽・ピアノは同じ、、、星座の数と鍵盤の数は同じ88など.


研究者は、社会にお返しをしてください。

とスイスの大学で言われた。


「教育は希望を語ること

 学ぶことは、真理を胸に刻むこと」

  ハイデルベルク大学の校歌の歌詞

*********

研究者として、大学や、松下電器の研究所で働かれ

NASAのボイジャー打ち上げのころに関わる

後に、教育者としての働きをなさる

大学の学長だけでなく、数多くの小学校へも教えに行かれる。


柔軟な子どもたちの心と頭と魂に語り掛ける人。

「ゆらぎ」がすべての基本だとおっしゃる。

専門バカにならないように、教育のあり方に警鐘を鳴らす。


遠い宇宙の時間の流れの中に生きる人

だと思いました。


とても、とても、大切なことをお聴きしました。

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