NPBは藤田倭選手を選手として採用できるか?
東京五輪のソフトボールで金メダルを獲得したソフトボール日本代表。
活躍した選手を、応援しているプロ野球チームに獲得してほしい、といった声がTwitterで多数見られた。特に二刀流選手であり3本塁打を放った藤田倭選手の獲得を熱望するプロ野球ファンが多かったように思われた。もちろん冗談で仰っていたのだろうが、ソフトボールの女子選手をNPB球団が選手として契約することは不可能なのだろうか?
NPBの諸規定
NPBにおいて選手の資格・獲得方法を定める規定は、日本プロフェッショナル野球協約(以下、野球協約)と、その細則である新人選択会議規約(いわるゆドラフト会議の細則を規定)及び日本プロ野球研修生に関する規約に定められている。
結論すると、これらの規定にはいずれも選手の性別を縛る定めがなく、女子選手を採用することは可能である。
野球協約は選手になれないものを「不適格選手」として規定しているが、女子を排除していない。
野球協約 第83条(不適格選手)
球団は、コミッショナーが野球の権威と利益を確保するため不適当と認めた者を支配下選手とすることはできない。
かつて83条は不適格選手が例示されており、その中に女子選手を選手として認めないという規定が存在した。
野球協約 旧第83条
球団は左にかかげる者を支配下選手にすることはできない。
第一項/ 医学上男子でない者。
83条は1991年に改訂され、現在は男子でないことを理由に一律に不適格とはしていない。
このほかに新人選手の採用に関する133条は、別規定でドラフト会議に関する細則を設けることを規定する。
野球協約 第133条 (新人選手の採用)
新人選手の採用に関しては、「新人選手選択会議規約」として別に定める。
ドラフト会議の実施方法などを定めた新人選手選択会議規約にも、女性選手をドラフトの対象から除外する規定は一切ない。
第1条でドラフト会議の対象となる選手を、また第3条・第5条~第7条においてドラフト会議で選択できない選手を定めているが、この中に性別によってドラフトの対象外とする規定はない。
また日本プロ野球研修生に関する規約においても、選手の資格については各球団の責任において行うものとし、女性であることを理由に排除する規定はない。
研修生規約 第4条 (研修生の採用)
研修生は、選択会議を経由する前の者であって球団の雇用する職員等に準ずるものとし、その選考資格および採用は球団の責任において行うものとする。ただし、契約した球団よりコミッショナーに届け出て野球研修生名簿に記載された者でなければ本規約上の「研修生」とは認めないものとする。
アマチュア野球の諸規定
仮にアマチュア団体が選手の性別を男子に制限すれば、実質的にNPB球団による女子選手の採用を制限する効果が生じると考えられる。
全日本野球協会のウェブ上に掲載されている限りのアマチュア団体の規定をしらみつぶしに確認したところ、アマチュア団体に所属する選手の性別を問う規定は存在しない。実際に男子選手に交じって女子選手が参加している高校野球部が存在する。
一方で高野連およびその傘下団体が開催する公式戦に出場する選手の参加資格を定めた「大会参加者規程」には下記の規定がある。
高野連大会参加者資格規定 第5条
参加選手の資格は、以下の各項に適合するものとする。
(1)その学校に在学する男子生徒で、当該都道府県高等学校野球連盟に登録されている部員のうち、校長が身体、学業及び人物について選手として適当と認めたもの。
この規定により、高野連およびその傘下にある都道府県高野連が主催する公式戦には女子選手が参加することはできない。公式戦への女子選手の参加を排除していることは、女子選手が男子選手に交じって野球部員として活動するインセンティブを妨げる効果を有していると考えられる。
これにより女子選手が野球競技を継続するには、女子硬式野球の団体である全日本女子野球連盟に属するチームを選択することが合理的な選択となるが、プロ球団によってスカウティングを受ける機会が著しく少なくなるものと考えられる。
野球以外の競技からの選手の採用
藤田選手はそもそもソフトボールの選手である。他競技からNPBの選手になることができるのであろうか?
NPBの各種規定には、選手となる前に野球競技の経験の有無は問うていない。実際にNPBには、入団以前に野球経験がない選手が誕生している。
飯島秀雄(ロッテオリオンズ1968年ドラフト9位)は、入団以前は陸上選手であり、1964年東京五輪と1968年メキシコシティ五輪に100m等の選手として出場している。オリオンズには代走専門で入団しており、同球団の選手であった3シーズンにおいて打席数はゼロであった。
大嶋匠(北海道日本ハムファイターズ2011年ドラフト7位)は、ドラフト指名時において早稲田大学ソフトボール部員であった。
なお、高野連・大学野球連盟に所属していない選手は、プロ志望届の提出は不要である。しばしばドラフト会議で選択の対象となるには、所属するアマチュア野球団体を通じていわゆる「プロ志望届」を提出する必要がある、という言説がある。しかし「プロ志望届」は高野連・大学野球連盟がその所属野球部員に提出を求めるものであり、高野連や大学野球連盟傘下の野球部に所属していなければそもそもプロ志望届を提出する相手方が存在しない。
従って、ソフトボール部員や陸上部員、また女子野球部員はプロ志望届の提出は不要である。
むすび
このようにNPBの規定上は女子選手を採用することを制限していない。また野球以外の競技から採用することも過去に実例があり実現可能である。
野球においては女子選手と男子選手の競技レベルの差が存在していることも事実であり、実現可能性は現時点では低いものと考えられる。しかしMLBでは女性コーチが誕生し、NPBでは女性のスカウトが誕生するなど、プロ野球における女性の進出が進んでいる。数年という単位ではないかもしれないが、女子選手が男子選手に交じってプレイすることが現実的でないとも言えなくなるかもしれない。
参考資料
日本プロ野球選手会ウェブサイトより
日本プロフェッショナル野球協約2019
新人選手選択会議規約
日本プロ野球研修生に関する規約
公益財団法人日本高等学校野球連盟ウェブサイトより
令和3年度大会参加者資格規定
高等学校野球部員のプロ野球団との関係についての規定
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