結果発表🏆1200文字のスペースオペラ賞

　俺だ。よく来たな。

　まずはこの私設賞「1200文字のスペースオペラ賞」に参加してくださった皆さま。作品を執筆するために人生の一部を注いでくださったこと、本当にありがとうございます。本来であればその時間で、家族と過ごしたり、友人とおしゃべりしたり、コロナとドリトスで一杯やりながら海外ドラマを観たりできたところ、どこの馬の骨ともしれない男の企画に乗ってくださって感謝します。

　そんな酔狂な皆さまにお応えすべく、全41作品、全力で読みました。嶋津さんの誠実さには足元にも及びませんが、グランプリと準グランプリ以外にも10作品についてコメントをつけさせていただきました。

　繰り返しになりますが、この賞は完全に、城戸圭一郎による独断および偏見さらには個人的趣味によって選んでいることを念頭においてくださると幸いです。

　それでは、参ります。結果発表！

星の園に散る美姫（安野ニツカさん）

　高名な提督が率いる艦隊の、旗艦を描いた作品です。スペースオペラとしては王道中の王道ですが、登場人物の心情が手に取るように伝わってきたのが、とても新鮮でした。戦場を描く場合、知将か猛将による能力の競い合いが醍醐味だったりするので、そういった人物設計になる（あるいは呆れるほどの愚将が描かれる）ことが多いのですけれども、艦長のボルデアンプは後悔しながら戦っているのです。
　終盤、ボルデアンプは覚悟をします。それは親友のギルソニエルとの旅であり、美姫アレナリアとの旅の終わりです。若いころ、まだ血気盛んだった彼らと彼女は、宇宙の辺境まで駆け回り、暴れまわったはずです。青春ロードムービーのような爽やかさが彼の記憶にはあったのではないでしょうか。しかし、それが今日、終わるのです。まだ旅は続けられたはずなのに。
　裏切者は、ギルソニエルの死体を利用したいところでしょう。それを防ぐのが、ボルデアンプの最後の仕事です。旗艦アレナリアの懐に抱かれたまま、自分たちの旅に緞帳を降ろします。最後の数秒間、彼がまぶたの裏にどんな景色を見たのか、つい想像してしまいます。
　世界観がまったく異なりますが「大坂夏の陣」が頭をよぎったのは考えすぎでしょうか。秀頼と真田幸村のことを思い起こしてしまいました。美姫は大阪城そのものかもしれません。（裏切者の副長は織田有楽斎あたり？）
　たった1200文字とは思えないほど壮大な世界観を描ききっていますし、抑揚を抑えた文体は静謐な空気感を演出しています。また、起承転結の配分が心地よく、冒頭と最後をアレナリアネタでサンドイッチしているところもまたニクいですね。
　素晴らしい作品をありがとうございました！

ジャンクディーラー・イン・ザ・スペース！（azitarouさん）

　世界観に味があって好きです。昭和レトロのようなキーワードを、スペースオペラの定番用語のなかにまぶして、絶妙にダサかっこよくしています。話しかければ音声認識してくれるのに返事は文字表示しかできない相棒なんて、最高にキュートですよね。
　歌詞を除いた最初の三段落で、世界背景と彼らの置かれている状況の説明を同時に終えているあたりは、さすが短編で鍛えたパルプスリンガーの妙だと思います。だからこそ、この作品の最大の魅力である、スピード感あふれる戦闘と、微笑ましい相棒とのやりとりに集中できるんです。
　ラストシーンの段落なんかは、この作品を象徴するような言葉のセンスが詰まっています。そう、なんていうか、ナンジャタウンとジョイポリスを合わせたような感じ。って絶対楽しいに決まってるじゃないですか。
　最高のエンターテイメントを、ありがとうございます！

　個人的に印象に残った10作品を、ブランデー入り紅茶賞と称して選ばせていただき、僭越ながらコメントを添えさせていただきました。

　また、今回の応募作のなかで「宇宙という異世界に転移する」という設定の、いわゆる異世界転移作品がまとまっていたので、それについては後述させていただきたいと思います。

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宇宙人の夢（siv@xxxxさん）

真面目なのにきっとチキュウのことだと早口になって友達に苦笑されてるんだろうな、なんて人柄が想像できるところがいいですね。子供向けの文体で書いてるわけではないのに、全体的にポップな印象で、リズムを重視されているのがよくわかります。センテンスを短く区切って、語尾を重ねず、体言止めを織り込んだりと飽きない工夫が奏功していますよね。起承転結のバランスも理想的で、経験の厚さを感じるキュートな作品でした。

最後の、ご挨拶（タイラダでんさん）

AIたちの、粛々と任務を実行する健気さよ。誰に見られるでもないモニターに絵文字を表示させるいじらしさよ。人間ならそれだけで物語になるであろう決断の合理さよ。そしてラストシーンに漂う哀しさ……。全体が叙述トリックの一種で、タイトルの意味があとから分かるのも巧いです。質の高い短編映画を見ているようでした。ちなみに読み終えたあとのわたしの顔文字はこう。
(ノД`)・゜

Home sweet home,Sunny.（十二月三十一日 十三さん）

ひとことで表現するならば「爽快感」という単語がぴったりです。不思議ですよね。文体そのものは、抑揚をおさえ、客観に徹しているのが特徴なのに、まるでスタンドバイミーのような印象さえ抱き、軛から逃れんとする主人公の前途を応援したくなります。冒頭の、船壁に穿たれた大きな穴が、誰にも邪魔されない未来を示唆しているかのようで、沁みますね。

少年は空と笑う（七屋 糸さん）

この作品はもう良質の童話として完成されています。もうこのままKindleで出版してもいいくらいだと思います。天井の得たものの大きさと人間が得たものの大きさは計り知れず、それを齎したのはほんのささやかなことでした。そのささやかなことを、本編内ではあえて言葉にしていないので、読み手は自分の心のなかを探しに行くのです。基本的に会話劇を主体にして、文章を補助的に使っているのも、表現として大成功しているように思います。素敵な作品です。

疑似餌（復路鵜さん）

SFホラーとしての完成度の高さが際立っていると思いました。空間限定の原則をうまく活用しているので、初期設定でもう短編としての成功を感じますよね。残酷描写がまるでトイレットペーパーを交換するくらいのノリで描かれているのもいいです。人類vs生命体との対決構図という王道をあえて外し、主人公のクズっぷりを際立たせるという、技ありです。そして、このクズ好きです。

ひとりぼっちのそら（へるまさん）

終始二人称によって描かれる技巧派作品です。「無人の部屋で、傍受した通信をこっそり聴いている」そんな想像をしながら読み進めました。会話というよりも報告が行き交っているだけなので、不穏な空気を感じては、その答え合わせを待つという、読み手に無力感を味あわせながら進展していくのが見事です。小説というメディアの特性を存分に活かした作品だと思います。本当にすごい。

月のうさぎ、何見て跳ねる（みゅーてぃーさん）

第一段落の穏やかな回想から、第二段落以降のスピード感のある展開がこの作品の魅力ですよね。戦闘ではなく追いつくことが任務という、モチーフであるうさぎの跳躍力と身軽さをうまく活かした設定が新鮮ですし、省略のテクニックも巧みで、敵を不明にすることで思い切って説明を捨てて、本当に見せたいシーンに文字数を割いてるのも大成功ですよね。ラストシーンは痛快な映像が脳裏に浮かびます。

久遠の即身仏（ishiika78さん）

逆噴射小説大賞の初代チャンプの作品です。まさに横綱相撲というか、貫禄を感じます。特殊な設定も有無を言わさず「こういう世界ですけどなにか？」と押し通しています。散りばめられた魅力的なワードと、異能の主人公に魅了されているうちに、すさまじいドライブ感で起承転結にたどり着く。読み手のほうも気がついたら超光速に乗っていた気分で、もう名人芸です。わずか1200文字のなかに、記憶に残るフレーズがいくつも盛り込まれていて、脱帽です。

僕、蜘蛛の糸電話、彼女（ディッグアーマーさん）

文字通り、天文学的な距離を超えてふたりの心が交錯します。まるで織姫と彦星の逢瀬のようです。ふたりの心の距離が近くなり、双方の人類が壮大なるチャレンジに向き合っている様が見て取れます。月並みかもしれませんが、これは究極のダイバーシティ＆インクルージョン。異質なものを恐れる本能に好奇心が勝ったら、きっと未来は明るいんでしょうね。そう考えさせられました。読み手に問いかけるもののある、素敵な作品です。

僕らの銀河鉄道の夜（考え之介さん）

読み終えたとき、穏やかな海に立つさざ波のように、心の表面が揺れました。解釈が読み手によって大きく変わると思います。わたしの理解を押しつけて陳腐化したくないので、それには触れないようにします。映像的な視覚情報の描写のなかに、ときおり身体的な感覚描写が組み込まれており、作品世界に吸いつけられます。文章は厚みがあるのに重くなく、密度が濃いのに遅くない。不思議です。

（後述する異世界転移の構造に近いのですが、こめられているメッセージ性の高さが際立っているのと、必然性において抜群でしたので選ばせていただきました）

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　ということで、ここで取り上げなかった作品も本当に名作揃いでしたが、全部を選ぶわけにもいかないのが辛いところとご理解いただければ幸いです。何度も繰り返すようですが、この賞は完全に独断および偏見さらには個人的趣味によって選んでいますので、選ばなかったのは単にわたしの見る目がないだけです。

　前述しましたとおり、異世界転移設定の作品が多かったことについて、すこしだけ私見を述べさせていただくことを、お許しください。

　まず、個々の作品の力は非常に高かったと思うのですが、転移のきっかけとなるギミックが異なるもののストーリーとしては近い展開になってしまい、そのなかから受賞作を選びにくかった、という事情は汲んでいただければ幸いです。

　異世界転移の代表として「千と千尋の神隠し」を挙げさせていただきますと、全体として「現実＞起＞承＞転＞結＞現実」という、現実によるサンドイッチ構造のうえ、異世界のなかで起承転結を達成しています。これを1200文字というショートショートでおこなうのはかなり無理が生じてしまいます。

　もしやろうとすれば「起＞承＞転（宇宙）＞結」という、宇宙を「転」につかう手法を取らざるを得なくなるでしょうし、実際にこの構造の作品が多かったです。

　ところが、この「宇宙を転につかう」場合に、宇宙である必然性を持たせることが難しいのではないかと思うのです。たとえば転移先を宇宙ではなくて「砂漠のオアシスに建つ幻の宮殿」や「海の奥深くにある海底都市」や「押入れのなかにある御伽の国」に差し替えてもストーリーが成立してしまうのではないかと。

　もし、差し替えても成立してしまうならば「宇宙を舞台にした短編小説」というよりは「宇宙のシーンを盛り込んだ短編小説」のほうが実態に近いかもしれないです。

　もちろんそれが悪いわけではなくて、魅力の高い作品がたくさんありました、ということは繰り返しお伝えしておきたいと思います。けれども、今回は「宇宙を舞台にした短編小説」が募集テーマですので、宇宙空間でストーリーが進展していくことを重要視いたしました。

おわりに

　教養のエチュード賞に背中を押されるようにしてチャレンジした、この「1200文字のスペースオペラ賞」も、皆さんのおかげで本当に素晴らしいものになりました。本当にありがとうございます。

　そして、それまで世に存在しなかった作品が41本も誕生し、出会い、読むことができたことに感動を禁じ得ません。初めてスペースオペラを書いたという声も耳にしましたので、書き手の皆さんにとっても幅が広がる契機になっているとしたら、この上ない喜びです。

　また、これまで繋がりのなかったクリエイターの皆さんと出会えたことは、なにものにも代え難い宝物だと思っています。本当にやってよかった！

　ちなみに主催者は気を良くしておりますので、調子に乗って第二回を企画するかもしれません。そのときは是非また一緒に、酔狂な宇宙の旅に出ましょう！

城戸圭一郎

全ての作品はこのマガジンに収録しています。

1200文字のスペースオペラ｜城戸 圭一郎｜note

Special Thanks

開催にあたってはこのふたつの賞を参考にさせていただきました！

現在連載中の作品はこちら。ヒーローものパルプ小説です。

「出勤！中間管理職戦隊ジェントルマン」連載まとめマガジン｜城戸 圭一郎｜note

こちらは、こども向け短編小説です。読み聞かせにいかがでしょう。

トパスとワッドとシロクマ船長｜城戸 圭一郎｜note