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カササギは薄明に謡う 創作裏話

こちらは基本的にネタバレで埋め尽くされており、つまるところ読み終えてくださった方だけが楽しめるようになっております。ご了承ください。

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 逆噴射小説大賞2019にエントリーしたこの作品を本格的に執筆することにしました。ありがたいことに二次選考を突破することができました。

 ただこれ、ちょっとゾンビものの導入っぽくも読めますよね。書いているときは気づかなかったのですが。もともと、地中から黒くて細かいものがわしゃわしゃ湧き上がってくるのをイメージしてました。

 さて、逆噴射小説大賞は続きを読みたいと思わせる冒頭800文字のコンテストです。いざ筆を手にとってみると、困ったことに気付きました。その先をまったく考えていなかったのです。自分の投げた無責任なボールを捕球するための試行錯誤がはじまりました。

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地元群馬の妖怪伝説

 主人公が特殊な能力をもった女子高生というのは決めていましたから、その家系を遡ると妖怪にいきつくということにしました。マイナーすぎず、有名すぎない妖怪がいいなと思っていたら、わたしの出身地にいるではありませんか。

 ということで、瑠華はふたくちおんなの末裔ということになりました。伝説でも人間と夫婦になったりしてますし。そして、その地域にすてきな名前の流れがあったので、その川から姓をいただいて、神流瑠華という名前ができました。

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バトルものには得物が必要

 瑠華と巽の武器は、それぞれ鉤爪とムチにしようと決めていました。これはドラクエウォークの影響がなかったと言えばウソになります。だって武闘家のひとが鉤爪でザクッとやるのが快感なんですもん。

 そして華奢な女子高生が巨大すぎる鉤爪で戦うというアンバランスさが格好いいと思ったので、調べてみました。テリジノサウルスという異常に発達した爪をもつ恐竜です。神流町恐竜センターにも化石が展示されています。このデータベースの7番目に写真がありますよ。これはイメージどおり!

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武器の名は、己のなかの中二に尋ねる

 本田選手がリトル本田に尋ねるなら、わたしは中二の自分に尋ねます。テンションあがる武器の名前はなんであるか、と。

 こちらのサイトに出会いまして。右上の虫メガネから好きな言葉を検索すると、カタカナ外国語に変換してくれるのです。しかもニュアンスの近い言葉まで並べてくれる親切さ。

 格好いいカタカナ外国語といえばドイツ語。黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレイター)とかの字面で目が爛々と輝いてしまうわたしにとって、このネーミング作業は心躍りました。それはもう少年のように。

 そうして、古代の鉤爪(アルタートゥム・クラレ)、九尾の鞭(ノインシュヴァンツ・パイチェ)が誕生したのです。

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目的をおなじくする競争相手

 ドラゴンボールを探すならレッドリボン軍が、天空の城を目指すならゴリアテが立ち塞がってきます。同じものに手を伸ばしつつも、その最終目的で相入れない競争相手、それが本作の場合は自衛隊です。

 特殊奇禍即応群(Special Disaster Immediate Rescue team)というのは結構すんなり決まりました。略称がISDNとかPPAPとかになっちゃうとまずいんで、そのあたりは気を使いましたけれども。
 日本語名には入ってないのに、英名ではRescueという単語を使っているあたり、政治的な香ばしさを漂わせられて満足しています。

 自衛隊サイドが命名した単語は、ほのかにダサくすることに心を砕きました。例えば「黒い粉末(ブラックトナー)」「媒介者(ベクター)」「白銀弾(はくぎんだん)」など。
 このあたりは「野外炊具1号」みたいな、飾りもないけど誤解のしようもないというネーミングがそれらしくて良いかなと思ったからです。

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ここでちょっと真面目な話を

 バトルものに必須の敵。本作の場合は自然災害です。

 わたしが福岡へ転居したまさにその翌週、熊本地震が起きました。地震は繰り返し、震源地を北東へ移動させながら、大分県の街を揺らします。その2年前には愛媛県で伊予灘地震が。やや遡って95年にはあの阪神淡路大震災が起きています。
 400年ほど前の慶長期には、豊後地震、伊予地震、伏見地震が起きているのですが、近年に起きたものと地域がほとんど一致しています。

 どうやら文献を紐解いていくと、同じような場所で同じような被害が綴られていることが多いようです。しかもそれには一定のサイクルがあるようにみえる。

 東日本大震災をもたらした海溝型地震は1200年前にも巨大な津波災害を起こしています。それが貞観地震。しかしこの貞観という元号を調べていくと、実に災害が多いのですね。
 貞観は、たとえば100年や400年サイクルの災害と、1200年などのロングスパンのそれが、まるでグランドクロスのように交差した時期なのではないかと。そして実はわたしたちの暮らす2000年代前半もそうなのではないかと。個人的にそんなふうに考えています。

 じつは磯田道史さんの「天災から日本史を読みなおす」に影響を受けています。災害が繰り返すなら、先人から学ぶことができるからです。災害に遭い、苦痛と後悔にあえぎながら、後世のひとびとのために資料を残していった人たちが大勢いるんです。

 作中の「地中から湧き上がってくるもの」というのは、そういう厄災を具象化したものです。

 瑠華たちが「できるだけ穏やかに地中にお帰りいただく」ことを使命としているのに対して、自衛隊は「抜本的解決を目指す」という方針です。
 これは「災害とは防ぎようがないものだから、起きることを受け入れたうえで被害を最小限にする」という減災の思想と「災害そのものを発生させないか、予見して回避する」という克服の思想といえるかもしれません。
 執筆時にそこまで意識したわけではありませんけれども。

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タイトルセンスのなさに立ち向かう

 みんなセンスの良いタイトルを考えるよなぁ、と羨望半分・絶望半分でみなさんの作品群を眺めています。そうなんです。壊滅的にタイトルを考えるのが苦手なんです。

 原題の「夜明けにカササギが鳴いたら」のなんとも締まりのなさに途方に暮れながら、新連載にあたって新しいタイトルを考えます。

 カササギというモチーフは決まっていました。西洋では古くから不吉な鳥として知られ「おしゃべり」「裏切り者」「密告者」の隠喩になっているとのこと。
 地中から湧き上がってきたものの仲間でありながら人間側についた神流一族は、明らかに裏切り者であり、密告者です。

 ラストシーンのイメージは書き始めからありました。瑠華が本来の姿を晒すときは、夜明け直前、群青色の空のしたのイメージ。そこから「薄明に謡う」という言葉がでてきました。謡うどころか吼えてますけどね。

 ということで、奇跡的に満足いくタイトルに仕上がったのです。ほくほく。

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おまけ

 ふたりの武器を開発した謎のドイツ人。これはその昔、ハーメルンの笛吹男に連れ去られた子供の末裔という設定です。一説によればプロイセンの地に移り住んだらしいので、その仮説を採用しています。
 妖怪に連れ去られた子供たちが生き延び、人の業ではつくれない技術を代々伝えてきた。時代がくだり、日本の妖怪の末裔と接点を持ったんです。

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ファンアートを頂戴しました!

 いつも応援してくださっている安良さんが、本作のファンアートを描いてくださいました! 光栄極まりない! つい踊ってしまいました!
 プリントして部屋の壁に貼っております。しょっちゅう眺めてはニマニマしておる次第です。

 みなさんの応援や感想やスキやファンアートのおかげで挫けずに書き続けることができました。そしてこれからも新作を書いていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします!

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本編はこちらから

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城戸 圭一郎
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