上班!中間管理職戦隊ジェントルマン 番外編
【 1 】
「ではこれで決まりってことで、よろしいでしょうか?」
その男は、ホワイトボードマーカーのキャップを閉めつつ、問いかけた。男の前には、パイプ椅子に腰掛けたまま唖然とする三人がいる。
「よろしいもなにも、もう決まっちゃったんですよね」
「ええ、まぁそうですね。今日からみなさんは『中間管理職戦隊ジェントルマン』として、治安維持の任務についていただきます」
男は赤色のマーカーを手に取り、ホワイトボードにそれを大書きした。白衣の裾が、腕の動きに合わせて揺れている。
「では、コードネームなんですけど、なにか希望はありますか?」
「あの、希望を聞いていただけるんですか?」
「ダメですね」
「やっぱり」
「ではこちらで決めさせていただきます。事前アンケートに記入してくださった好きな居酒屋メニューから。小島さんは『チキンナンバン』、宇都宮さんは『ゲソアゲ』、灰汁詰さんは『シルナシタンタン』でいきたいと思います。では只今をもって新生ジェントルマン誕生です!」
拍手したのは男だけだった。
「あの」
「なんでしょう。チキンナンバン」
「つまりここにいる全員が中間管理職ってことですか?」
「そのとおりです。あなた自身も部長でしたね」
「ええ。まぁ」
「あとふたりにも聞いてみるといいでしょう。皆さんはこれから共通の敵と戦うチームになったわけですから」
チキンナンバンは戸惑いながらも、左隣の男に問いかけた。
「あの……失礼ですが、お名前は」
「宇都宮と申しま「ゲソアゲです」
白衣の男が食い気味に訂正する。
「さっき言いましたよね。ゲソアゲです」
「そうですか。ゲソアゲ……さん。あなたも中間管理職で?」
本名を封じられた男は、居心地悪そうに膝をさすっている。
「はい、まぁ。製造責任者という立場でした」
「そうですか。管理職ですね」
「ええ、まぁ」
続いてチキンナンバンは、右隣の男に問いかけた。
「あの……失礼ですが、お名前は」
「シルナシタンタンです」
男の言葉にはゾウリムシの鞭毛ほどの躊躇もなかった。
「えっと……あなたはどのような管理職で?」
「組長です」
「え?」
「組長です」
「いまなんと?」
「聞こえませんでしたか? 組長です」
チキンナンバンとゲソアゲは顔を見合わせたあと、なぜかシルナシタンタンの左手の小指あたりに視線をおくった。
「博士! エスエナジーの濃度が上昇中です! 中心は港区赤坂」
それまでモニターを凝視していた白衣の男の助手が、声を張り上げた。
「千堂くん。具現化まではどれくらいだ? 推測でいい」
「このペースだと、七分以内かと」
「そうか」
男の犬歯は、異様に白かった。
「どうやらさっそく、ジェントルマンの初陣のようですよ。皆さん」
「望むところです」
シルナシタンタンは立ち上がり、拳を振り上げた。
「いくぞ、おまえら。上からは責められ、下からは突き上げられる。中間管理職をスケープゴートにしている連中に目にもの見せてやるんじゃあ!!!」
チキンナンバンとゲソアゲは、跳ねるように立ち上がった。
「やってやりましょう! オヤジ!」
「絶対にタマとってやりまさぁ! オヤジ!」
「わしらをなめたらどうなるか教えてやりまさぁ! オヤジ!」
「みなごろしじゃぁぁぁ!」
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
三人は転送されて、どこかへ消えた。
これはなんですか?
akuzumeさんの誕生日をお祝いするために書いた単なる悪ふざけです!
お誕生日おめでとうございます!