見出し画像

くらげのアイスクリーム屋さん

 キラキラした陽射しを、波がきれいな模様にかえています。
 海のなかでは、たくさんの生き物が日向ぼっこをしていました。サンゴや海藻のあいだを魚たちが遊びまわり、イソギンチャクはたくさんの手を揺らしてリズムをとりました。くらげは気持ちよくなり、ずっと温めてきた気持ちを、みんなの前で発表しました。

「ぼくはアイスクリーム屋さんになるのが夢なんだ」

 くらげが言ったとき、みんなは笑いました。

「どうやって作るのか知っているのかい」
「そもそも、食べたことがあるのかい」
「きみは波にゆらゆら揺れているのがお似合いだよ」

 顔を真っ赤にしてくらげは怒りましたが、ほとんど透明なので誰も気づきませんでした。とても悔しくて、くらげはぷいっとその場を去りました。お友達のフウセンウオが追いかけます。

「どこへ行くんだい?」
「浜辺のほうさ。きみにも食べさせてあげたいからね」

 その海水浴場で、くらげは人間の子どもがうっかり落としたアイスクリームを食べたことがあったのです。甘くて、つめたくて、やわらかくて、それはもう天国の食べ物のようでした。くらげはあまりの美味しさで、しばらく動くのをやめて波にゆらゆらと漂ったほどでした。

 浜辺へ着くなり、くらげは近くの小笹商店でアイスクリームを買いました。400円しました。もうちょっと内陸のダイレックスなら250円で売っているのに、水分蒸発量を考慮するとそこまでは行けません。くらげは顔を真っ赤にして怒りましたが、ほとんど透明なのでフウセンウオも気づきませんでした。

 海に戻り、ふたりはアイクスクリームを食べようとしました。でも、うまくいきません。水のなかではたちまち溶けてしまうのです。

「これじゃ、お店を出すのはムリだよ」

 フウセンウオまでそう言い出します。

「いいや。ぼく必ずやり遂げる」

 くらげは諦めませんでした。

「調べはついてるんだ。小笹隆正、67歳。小学生の孫がふたりいる」


つづく


いいなと思ったら応援しよう!

城戸 圭一郎
電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)