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「JAMPの視線」No.249(2024年10月6日配信)

次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】

目次
①JAMP 大原啓一の視点
②NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
③メディア掲載情報
④インフォメーション

JAMP 大原啓一の視点 2024年10月6日

 今日は4歳の次男が通う幼稚園の運動会でした。次男は2020年の春に生まれたのですが、当時の私は弊社のシリーズA資金調達の真っ最中で、「産気づいたのですぐに病院に来てください」という連絡を無視し、ベンチャーキャピタルとのミーティングを優先したため、後からひとでなしと散々に怒られました。出産の立ち合いをすっぽかして出席したミーティングでは、ベンチャーキャピタルの20代の担当者の方に「金融ビジネスってそんなに簡単じゃないよ」と説教をされただけで終わってしまい、あの時の自分は何故あのミーティングを優先したのだろうと、運動会でお遊戯をする次男の姿を見ながら今さらながらに思い出していました。

 さて、先週のニッキン新聞で「大手金融機関や運用会社、提携地域銀の獲得が激化 ファンドラップ提供で」という記事が掲載されました。証券会社や運用会社、信託銀行等がファンドラップを地域銀行等と提携する動きが広がっており、そこでの地域銀行等の囲い込み競争が激しくなりつつあるということを概観したものであり、内容としてはそこまで目新しいものではありません。ただ、2015年に日本に帰国してから、従来型証券・資産運用事業モデルが行き詰まり、販売工程の「販・販分離」が進むなかでこのような形でリテール向け資産運用ビジネスの構造改革が進むと訴え続けた自分としては、感慨深いものがあります。ようやく金融業界が新たな事業モデルへの転換を「常態」として受け入れ始めている、そんな風に感じます。

 今回のニッキン新聞の記事はこのような転換の動きの一面を取り上げたものですが、個人的には2点ほど重要な視点が抜けているようにも感じています。1点目は、「ファンドラップ」という同じ表現を用いていても、従来型ファンドラップ「商品」と新たに広がりつつあるゴールベース型ファンドラップ「サービス」は全く異なるものであるということ、2点目は、主役は証券会社や資産運用会社、信託銀行等ではなく、地域金融機関であるということです。この2つの視点を持たないままでは、足もと進んでいる大転換の本質も今後の方向性等も正確に把握することができません。

 まず、1点目の「ファンドラップ」としての付加価値の違いについてです。弊社の金融機関コンサルティング部門長である直井がよくコラムでも用いている表現ですが、「ポートフォリオ重視」型の従来型ファンドラップ「商品」と、「プラン・プロセス重視」型のゴールベース型ファンドラップ「サービス」は全く異なるものであるということを改めて認識する必要があります。

 大手証券会社を中心に主に富裕層顧客向けに提案・提供されている従来型ファンドラップ「商品」は、お客様のプロファイル等に適切なリスク水準で最適なポートフォリオを提供することを目的にした「ポートフォリオ重視」のものであり、その意味でバランス型投資信託等の従来型投資運用「商品」と付加価値の種類としては変わるところがありません。一方、足もと広がりつつあるゴールベース型ファンドラップ「サービス」は、お客様の将来の目的・目標を実現するために最適なプランを策定し、その遂行を継続的にサポートすることを目的とするものであり、付加価値の種類がそもそも異なるものです。
 お客様のライフプラン上の金銭的な目的・目標を実現するための継続的なサポートを提供するためには、投資信託を活用した投資一任運用スキームを用いることが最も合理的であるがゆえ、サービス種類としては「ファンドラップ」と区分され、それがゆえに従来型ファンドラップ「商品」とゴールベース型ファンドラップ「サービス」の違いがわかりにくくなっていますが、同じ「ファンドラップ」と表現されながらも、それらは全く別の「商品」「サービス」なのです。

 その意味で、地域金融機関においてファンドラップが広がりつつあるというのは実は表面的な観察にしか過ぎません。大手証券会社や信託銀行等が提供する従来型ファンドラップ「商品」が広がってきたというのも決して間違いではないのですが、それよりも重要なことは、今まさにゴールベース型ファンドラップ「サービス」の取り扱いが徐々に広がりつつあるとともに、従来型ファンドラップ「商品」をいったん取り扱い始めた地域金融機関においても、改めてゴールベース型ファンドラップ「サービス」を主軸にした預かり資産ビジネスの再構築に動きつつあるということなのです。
 今回のニッキン新聞の記事の掲載テーブルのように「ファンドラップ」という表現だけで地域金融機関への広がりを概観すると、その一段深いところで進むこのような動きは見えてきません。地域金融機関へのファンドラップの広がりは、既に「商品」から「サービス」へと移行しつつあり、今後は既に従来型ファンドラップ「商品」を導入済みの地域金融機関でもゴールベース型ファンドラップ「サービス」を併用して取り扱う(より踏み込んで言うと、従来型「商品」の取り扱いを停止し、ゴールベース型「サービス」に乗り換える)動きが加速していく、弊社はそのように予想しています。

 2点目の重要なポイントは、新たな事業モデルにおける主役はお客様と直接の接点で付加価値を提供する地域金融機関であるということです。従来型「商品」においては、その「商品」の付加価値の源泉はポートフォリオであり、それゆえに主役はその投資判断を司る証券会社や資産運用会社、信託銀行等でした。お客様にその「商品」を提案・提供するのが地域金融機関であったとしても、付加価値の源泉がそこにあれば、地域金融機関は単なる売り子にしか過ぎませんでした。ただ、お客様のライフプラン上の目的・目標を正確に把握し、その実現の重要性をお客様にも認識して頂き、それを実現するためのプランを一緒に策定し、その遂行を継続的にサポートする等は、お客様と直接に接する地域金融機関にしかできません。もはや付加価値はポートフォリオではなく、お客様との関係性のなかからこそ生まれるものだからです。

 ニッキン新聞の今回の記事の表現にしても、私たちが金融業界の方々とお話しているなかで感じるところとしても、新たな事業モデルにおいて事業オーナーシップを誰が持っているのかということについての理解が十分ではないように思われます。従来型商品がコモディティ化したいま、新しい事業モデルのカギを握るのは地域金融機関であり、証券会社等が「地域銀行等を囲い込む」のではなく、証券会社や資産運用会社、信託銀行等がこれから生き残るために「地域銀行等に選ばれる」、そのためにどのような支援機能を提供できるかというのがこれからのルールになることを捉え違えてはなりません。過去これまで地域金融機関のポテンシャルが過小評価されてきた流れで、その勘違いがいまなお残ってしまっているように感じます(地域金融機関側でも気づいていないようにも思いますが)。

 今回申し上げたような2つの視点での事業モデルの転換とそれに付随する金融機関同士の新たな提携関係の構築が今後進むことは間違いないと考えます。そのなかで弊社・日本資産運用基盤がその転換や再構築の基盤となり、触媒となれるよう、これからも微力を尽くしてまいりたいと思います。

News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)

【アセマネOne、投信の二重計算解消へ 経理をCBJに移管】
大原のコメント→
 日本の金融業界全体の非効率性・低生産性の大きな原因のひとつに全ての機能・事業工程を自社で全て対応しようとする垂直統合モデルがありますが、資産運用業界における「投信基準価額の一者計算」を中心とする各種投信委託業に係るバックオフィス業務の外部委託の動きは、水平分業モデルへの移行、つまり資産運用会社として最大の付加価値の源泉である投資運用業務への集中を意味しており、投資運用事業工程の高度化に直結する前向きなものだと評価できると感じます。
 ただ、「投信基準価額の一者計算」の実装は、受託銀行側では三菱UFJ信託銀行と日本マスタートラスト信託銀行が先行しており、日本カストディ銀行陣営はかなり遅れていた印象があることに加え、公募投信の「一者計算」実装には監査法人が内部管理体制面でOKを出すことに慎重だという問題がある等、実現にはかなり時間がかかるような印象を持っていたため、今年度末までに約1,000本もの投信を新たなオペレーションに移管するというのは正直なところ驚きであり、どこまで本当なのだろうという気もしています。

News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)

【毎月分配型投信は本当に「悪」か】
長澤のコメント→
 仰る通りだと思いました。十年ほど前に毎月分配型投資信託が問題視されたのは、1万口当たり200円とか250円とかいった分配金競争が行われ、分配金を捻出するためにオプションを組み込み仕組みが複雑で理解し難くなったものを、高齢者を含む一般投資家に販売するなど、どんどんエスカレートしていったことにあると思います。当初は年金の補完として分配頻度の選択肢の一つとしての毎月分配型だったものがどんどんエスカレートしてしまうといった問題は、一昨年問題となった仕組み債や足元金融庁が注視している外貨建て保険にも共通していると思われます。
 例えば仕組み債であれば、最初は金利系で元本リスクがない商品から始まり、その後元本リスクのある株式や為替のオプションを組み込んだ商品へ、さらにクーポンや金融機関の収益を増やすために参照する株価や為替を複数組み込んだものにまでエスカレートしていきました。また外貨建て保険であれば、ターゲット型と言われる特約付きの商品は、ターゲットが低く回転売買しやすくなって、本来長期商品であるはずの保険とは違った形の投資に使われるようになってしまったように思われます。
 家電であればいろいろな機能を盛り込んだハイエンドな商品は、価格は高いけれど使ってみると便利だったりしますが、金融商品の場合は、色々仕組みが入っていても、リスクとコストが高くなるだけのことが多く、シンプルで何に対価を払っているかわかり易い商品・サービスが一番だと思います。

メディア掲載情報

■メディア掲載:金融ジャーナル
地域銀行等の有価証券運用事業支援を担当しているディレクターの白瀧が「月刊金融ジャーナル」に寄稿しました。

「金利のある世界×有価証券運用」

■メディア掲載:銀行実務
主任研究員の長澤が「銀行実務」に寄稿しました。

「金融庁モニタリング結果のポイント~プロダクトガバナンスとは何か~」

■コラム公開:コンプライアンスチームの連載noteの公開
新興・海外資産運用会社の立上げ等の支援を提供している弊社コンプライアンスチームがnoteに第48回目の記事を公開しました。

「2024事務年度 金融行政方針 主なポイントについて」

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