「JAMPの視線」No.255(2024年11月17日配信)
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
③インフォメーション
月曜日にお客様金融機関の関西の支店を訪問させて頂くため、今週末は早めに移動し、大阪の実家で過ごしています。2番目の弟が尼崎でたこ焼き居酒屋チェーン「たこまる」を経営しており、今日は母親とふたりでそこで晩ご飯を食べてきました。過去数年はコロナ禍でかなりのダメージを受け、最近ではタコの価格の値上がり等でなかなか大変そうですが、着実に事業規模を拡大している様子を聞き、すごいなと感じます。関西方面にお住まいの方、ご訪問の予定がある方は、ぜひ「たこまる」(https://takomaru.com/)をご利用ください!
さて、先週のメールマガジンで野村證券の元社員が同社顧客の高齢夫婦に対する強盗殺人未遂等の容疑で逮捕された事件についての私の所感を述べさせて頂いたところ、様々な反応を頂きました。個々の金融機関が責任をもって管理し得る/すべき範疇のものなのだろうかという私の所感(というか迷い)に対し、共感する反応も頂く一方、野村證券という個社の社員管理の不備を業界全体の問題にすり替えようとしているというご意見も頂きました。また、私に対して直接頂いたものではありませんが、今回の事件そのものやその後に策定・公表された野村證券の再発防止策に対し、「野村證券のせいでお客様への営業活動がしにくくなった」という業界内の批判の声もあるように耳にします。
ただ、事件の深刻度を鑑みない甘い考えだというご批判を重ねて頂くことを覚悟のうえで申し上げますが、やはり私は野村證券という個社が全ての責任を負い、対応を検討すべき類の問題なのだろうかという考え(迷い)を捨てきれません。もちろん、先週のメールマガジンでも申し上げた通り、野村證券という金融機関と取引があるお客様に対し、恐らくは同社が保有する顧客情報等が利用されての事件だと思われ、そこに対しての会社としての責任が何もないと整理すべきでなく、再発防止策等を策定・実行するのは当然と思われます。既に行われたように、関係者の処分等、会社としての責任を明らかにすることも必要でしょう。しかしながら、それでもなお、今回の事件をはじめとする足もとの金融業界の一連の不祥事はその全てを個社が責任を引き受け、単独で対応すべきものなのだろうかというのが私の正直な気持ちです。
例えば、野村證券の元従業員による事件は、野村證券の社員管理や行動管理等が不十分であったがゆえに発生したものなのでしょうか。もしくは、他の証券会社の社員管理等が野村證券よりもしっかりしているため、他社ではそのような類似の事件が発生していないのでしょうか。私はそうではないと思います。乱暴な言い方をすると、社会的に倫理観の水準にほころびが生じているなか、「たまたま」野村證券でそのような事件が発生してしまったという側面があるのではないか、今回の事件を考えれば考えるほど、そんな風に感じてしまいます(*)。
ご批判を覚悟のうえと言いつつも誤解を避けるために繰り返し申し上げますが、私は決して野村證券に責任が無いとは言いませんし、社員管理の厳格化等が不要である/意味がないということも考えていません。お客様の大事なご資金をお預かりする職業である以上、社員管理等は厳格に行われるべきですし、そこに不備があるのであれば、必ず正されるべきだと考えます。
私が何を感じ、何を申し上げたいかというと、最近増加する若者による「闇バイト」と称した強盗事件などを見ても、社会全体で倫理観が揺らぎ始めていると感じるなか、今回の事件等を個社の問題としてとらえることは、本質的な対応の検討につながらないのではないかということです。「問題のすり替えではないか」とのご批判もありましたが、今回の事件を個社の問題としてとらえることは、私としては「問題の矮小化」のように感じてしまいます。
社会全体で倫理観が揺らぎ始めているという私の懸念が杞憂ではないとすると、これからは倫理観の根っこに問題がある社会人が増加し、そうした人間が大手証券会社や金融庁、東京証券取引所等の金融業界の根幹を司る機関の各所に入り込むという事態が現実のものとなっていく状況が予想されます。そうしたなか、お客様に安心してご利用頂ける金融サービスを提供するために何をすべきかというのは、決してそれぞれの金融機関等が個別に対応を考えるべきものではなく、業界全体が直面する問題として対応するべきと考えます。
野村證券の元従業員による事件を始めとする足もとの様々な不祥事の衝撃度が大きく、2週にわたって同じような雑然とした文章を書き散らかしてしまい申し訳ありません。ただ、先週と同じ文章で締めさせて頂くとすると、いずれにせよ金融機関や金融市場はお客様の信頼感があって成り立つものであることは間違いなく、今後も継続してサービスをご利用頂けるよう努めていかなければならないことは間違いありません。私も金融業界に身を置くひとりのプロフェッショナルとして、金融業界のあるべき方向性とそのためのアクションについて深く考え、尽力していく所存です。
(*)「たまたま」という表現は、被害を受けられた方のお気持ちを考慮せず、今回の事件の深刻度を鑑みない乱暴な表現として受け止められる可能性があることは承知しています。ただ、私が感じている問題意識を正確にお伝えするためには、ここで「たまたま」という表現を用いる必要があると考え、使わせて頂きました。社会全体の倫理観のほころびが事件として発出するのはどこでもあり得る、そこが本質的な問題であるということを伝えたいための表現です。不愉快を感じられたのであれば、申し訳ありません。
【岩手銀、大和証券と包括的業務提携 幅広い商品・サービス提供】
大原のコメント→
2019年8月26日に野村證券が山陰合同銀行が包括的業務提携を発表し、山陰合同銀行グループのリテール預かり資産事業口座を全て野村證券に移管するとともに、顧客接点を山陰合同銀行に委ねるスキームを発表した時、私はリテール金融業界が新しい時代へ突入したことを確信しました。
その後、その時に予想した通り、今回発表された大和証券と岩手銀行の包括的業務提携のように、証券・資産運用会社等の金融商品プラットフォームが優良な顧客接点を有する地域金融機関や保険チャネルを囲い込む競争が激化しており、この競争の勝敗が今後の10‐20年間のリテール金融業界の勢力図を左右する大きなファクターのひとつになるものと思われます。
一方、このような大手証券会社と地域銀行の包括的業務提携スキームの広がりが思ったよりもゆっくりであることも印象的です。このスキームは金融商品プラットフォームにとっても、地域銀行にとっても、メリットが小さくないと思われるものの、やはり地域銀行にとって自らのグループ内の預かり資産事業口座を放棄することへの抵抗感が大きいのかもしれません。
【銀行、変わる接点 店舗利用頻度が低下 スマホアプリ伸び顕著】
長澤のコメント→
銀行での諸手続きも含め多くのことがスマホでできるようになり、またキャッシュレス化も進んでいるので、個人的には銀行店舗どころかATMの利用頻度も低下しているのが実感です。一方、資産運用に関しては、金融庁が7月に公表した顧客意識調査において、投資未経験者に対する質問で、対面での資産運用アドバイスがあれば投資を始めたいとする人が4割弱いて、これは動画やロボアドバイザーなどの非対面よりも高い数値となっていました。ある程度まとまった資金を保有するマスアフルエント層を中心に今後対面での資産運用アドバイスニーズはますます高まっていくと思われ、資産運用アドバイスの場としての金融機関店舗という流れは広まっていくのではないかと思います。
【生保、外貨保険手数料見直し 1年目の料率は約半分】
長澤のコメント→
保険会社から販売金融機関に支払われる販売手数料については、8年程前に金融庁から促される形で顧客への開示が始まり、手数料の高さを目立たないようにするためかわかりませんが、それに合わせるように販売時に一括で支払うI字型から現在のようなL字型に変わっていったという経緯にあります。
今回また金融庁から指摘され1年目を引き下げ平準化するとのことで、2年目以降の支払いを5年目まで行う保険と10年目まで行う保険があるようですが、アフターフォローの対価ということであれば、なぜ違いがあるのか、それ以降アフターフォローは受けられないのか、顧客宛にどのように説明するのか興味があるところです。
英国では販売金融機関への手数料キックバックは禁止されましたが、日本もコミッションベースからフィーベースへの移行の流れの中で、商品横断的に手数料の支払い方・受取り方の見直しを検討する時期にきているのかもしれません。
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