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人殺しの権利と平和『百姓から見た戦国大名』~読書感想文#19
私は歴史が大の苦手で、安土桃山時代と言われても、縄文時代とか弥生時代の仲間かしらと思うほど、イメージがつきません。
そんな私でも、面白くてグイグイ引き込まれたのがこちらの本です。
先日、別の記事でも少し触れましたが、やはりちゃんと紹介したいと思い、この記事を書いています。
百姓のイメージ
私にとって、百姓のイメージは士農工商と言われながらも虐げられ、大事に育てた米を無理やり侍に取り上げられ、殺されても何をされてもなんの文句も言えない弱い存在というイメージでした。
しかし、戦国時代における百姓は老若男女問わず武器をもって戦い、略奪や人を殺すことさえ厭わない集団だったのです。
飢饉
そして、このような状況の背景には飢饉がありました。
中世後期という時代は、江戸時代後半における大飢饉のような状態が、常態であった(p.35)
飢餓に見舞われている人たちにとって、戦争への参加が、生き残りのための手段になっていた(p.50)
これはもう、まさしくマッドマックス怒りのデスロードの世界です。
しかし、それでなくても飢饉なのに、残った田畑を戦で荒らされ、戦をするために借金までして、全体で見れば確実に負のループです。
実際に村が存続できなくなってしまうということが、あちこちであったようです。
キーワード
この時代を象徴する3つのキーワードがあります。
相当(あいとう):報復行動
兵具:武器
合力(ごうりょく):加勢
何かあれば武器を使って戦い、その戦いは他の村や領主などを巻き込んでどんどん大きくなり、やられたらやり返すことが続いている。そしてそれは村同士でも領主同士でも大名同士でも、、、みんな戦っていたのです。
以前の記事で、「村の意志や行動は、特定の家や人物が決定するのではなく、構成員が全員参加した寄合によって決定された。p.63」と書きましたが、これは全員が生死をともにし、村の為には命を投げ出す覚悟を持つために、絶対に必要だったのでしょう。
以前の記事がこちら
もう一つご紹介したいキーワードが解死人です。
解死人
時代劇では下手人という言葉が出てきます。この下手人といえば犯人のことですが、もともとの解死人は犯人を指す言葉ではありません。
殺害の代償として、相手側に差し出された存在を、解死人(下手人)という。p.84
差し出された解死人は、相手側によって殺害されるわけですが、なぜこの解死人が大切かというと、
実力による報復の展開を抑止し、紛争を平和的に解決するため p.84~85
なのです。
これが平和的解決というのですから、今から考えれば恐ろしい話です。
人殺しの権利
村々の戦争がようやく終息していくのは、17世紀後半。そして四代将軍家綱の代から、民衆は兵具を「自ら封印(p.216)」し、人殺しの権利を「自ら放棄(同)」するのです。
それは現実には、「人殺しの権利」を支配者のみに委ねることでもあった。(同)
これは、たとえ自分に非がなく一方的に相手が悪かったとしても、兵具を使用することも相当することもしない。まして合力もしないと、3つのキーワードを禁じたということです。
この本では15世紀後半から、ここに至るまでの経緯が詳しく説明されていますので、興味を持たれた方はぜひお読みください。
「人殺しの権利」と平和
これ以降、「人殺しの権利」を支配者に委ねて以降200年の江戸時代は平和だったといいます。今の平和な日本が、たとえ親を殺されても自分で犯人に報復せず警察に訴え裁判にたのむようになった始まりということになるのでしょう。
この支配者に委ねられた人殺しの権利とは、つまるところ今でいう死刑です。
では、日本において、死刑廃止は可能なのでしょうか。
もしこれがキリスト教社会であれば「復讐するは我にあり」という神の言葉があるので「人殺しの権利」を神にのみ委ねるという点でいえば、死刑廃止というのもうなずけます。
しかし、この本を読む限り、日本では人殺しを禁じたのではなく、支配者のみに委ねることで、民衆同士による人殺しから遠ざかったということになります。
そうすると、死刑廃止は全く別の話になってきます。
キリスト教国家でない日本は、「人殺しの権利」を手放し、国連の死刑廃止条約の批准を受け入れることができるのでしょうか。日弁連は死刑廃止に代わる終身刑を提言していますが、親を殺され、子を殺された人が、あるいは何人もの人から金品を奪い暴行をおこなった挙句に殺した人を我々日本人は、終身刑で納得できるのでしょうか。
なかなか、そのような立場に身を置いて考えることは難しいのですが、世界の潮流だから従うべき、という簡単な問題ではなさそうです。
それでは、また。
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