敬語の要素～『相互尊重』の精神
文化庁のサイトにある『現代社会における敬意表現』に以下のような記載がある。
敬意表現とは,コミュニケーションにおいて,相互尊重の精神に基づき,相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。それらは話し手が相手の人格や立場を尊重し,敬語や敬語以外の様々な表現からその時々にふさわしいものを自己表現として選択するものである。
相互尊重
相互尊重というと、「相手が自分を大切にしてくれたら、相手も大切にしてあげる」ことだと考える人がいるかもしれないが、これでは単なる反射運動にしか過ぎない。
相互尊重とは皆が皆を尊重するということだから、「自分を大切にしてくれた人」というように限定はしない。また、大切にしてもらえなくても尊重するということは、単なる反射運動ではなく主体的かつ能動的かつ自発的な行為であるということを意味する。
簡単に言えば、「あいさつをしてくれたからあいさつを返す」ではなく、「自分からあいさつをしましょう」ということだ。
しかし、これがなかなかに難しい。
相互尊重の阻害要素
健全な環境であれば、人は子どもの頃に目いっぱい愛を受け、世界や他者への基本的な信頼感をもって大人になる。
一方で親から愛されずに育ち、良好な友人関係も乏しかった人が、そのまま大人になったなら、健全な自己愛も持てず、世界や他者への不信感も強い。
また、健全な自己愛があったとしても、時には簡単に砕ける。
例えば、上司のせいで会社をクビになったとしたら、その上司に笑顔であいさつできるだろうか。当然できるという人もいるだろう一方で、自分のことを気遣ってくれるほかの人への配慮すら行う余裕を失ってしまう人がいてもおかしくはない。
自分のつらい気持ちや悔しい気持ちを脇において、相手を尊重するためには、自分の気持ちに流されない主体性が必要である。それは誰でもが簡単に手に入れられるものではない。
だから、次に大切なことは、失礼を失礼で返さないということだ。
相互尊重できない人を責めない
上司が部下の言動を指導するということであれば別だが、敬語を間違えて使う人に、面と向かって正すことは失礼にあたるので控えなければならない。
同様に、相手が自分に対して失礼なことをしてきたからと言って、相手に失礼をし返してよいわけではない。
ここで勘違いする人が多いのだが、「私はそういうことをされたくないので、やめてください」と言うことと、相手が失礼だから仕事に必要な情報を伝えなかったとか、人前でバカにしたなどということは全く別のことである。
それでは、失礼を受けたときにどうするのか。
自分の中で処理する
これがどれだけできるかが、その人の器の大きさになります。
私なぞ、理想を文字で伝えることはできても、書いていてお恥ずかしいほどに器が小さい。私は急いでいるのに前の人がスマホを見ながらゆっくり歩いている、店員の態度が悪かった、など、ほんの小さなことでもイライラする。
しかし、前の人がゆっくり歩いてイライラするようなら、もう少し早く家を出ればよい話である。店員とはいえ人間なので、気分のよいときもあれば悪いときもある。そんなことは、ひとごとなら当たり前なのに自分ごととなったとたんに忘れてしまう。そのときは気づかず、落ち着いてから思い出して反省することばかりだ。なんと器の小さいことか。
器の大きさ
器が大きいとは、例えば人のミスで自分の目的が達せられなかったとしてもそれを自分の責任として引き受けられることである。
ある人は、病気で視力を失い、目が見えないとあらゆるものがいかに不便かを思い知ったそうだ。その人は言っていた。
目が見えていたとき、私は目が見えない人の不便さなど考えもしなかった。今、私が不便な思いをしているのは、自分のせいです。
世界は一人一人が作っている
器が大きい人は、この世の中がどれほど理不尽であろうとも、この世の中を作っているのは自分であるという自負を持っている。誰も自分一人で世界を作っているわけではない。自分が生まれたときには既に世界は矛盾に満ちていた。しかし、それでも、この世界を作ったのは誰か他人で、自分は被害者だとは考えない。私たちが世界を作っており、もちろん私はその中の一員であると考えるのだ。
だから、器が大きいということは、それだけ謙虚であるということにつながる。
それでは、また。
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