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お持ち帰りできます~気になる敬語#9

近所にあるうどん屋の店頭に貼られていたポスターです。

お持ち帰りできますhanamaru

天ぷらもうどんも好きですが、気になったのはもちろん「お持ち帰りできます」の部分です。

「ご(お)~できる」の型については以前も取り上げました。

が、まずは基本の説明から。


「ご(お)~できる」は、「~」する人を立てない

「ご(お)~できる」とは、敬語の型の一つであり、本来下記のような使い方をします。

①店員が客に:「枝豆ならすぐご持ちできます」
②部下が上司に:「会議室ならすぐお取りできます」

①であれば、持ってくるのは店員であり、敬意を表したい対象は客です。
②であれば、会議室を取るのは部下であり、敬意を表したい対象は上司です。

このように、動作をする人と敬意を表したい対象が異なるときに使う言い方です。

「お持ち帰りできます」で立てているのは誰か

動作をする人と敬意を表したい対象が異なるということは、「持ち帰る」人とを立てないのですから、「お持ち帰りできます」を言葉のままに解釈すると以下のようになります。

「ご自宅にいらっしゃるご家族さまに、あなたは持ち帰って差し上げることができますよ!」

つまり、買ってくれる客よりも、客が持ち帰る先で待っている人のほうが偉い!ということを意味するのです。

さて、しかしこのポスターをよく見ると、「お持ち帰り」の部分だけ赤字になっていて、ちょっと違うことを言っているように思えます。

「お~できる」の型ではありません!という主張

このお店は、洒落た言葉の使い方をするので、以前にもブログで取り上げたお店です。(店名が分かってしまうので、リンクは貼りませんが……。)ですから、「お持ち帰りできます」が客を立てない言い方であることは分かっているはずです。

そこで、私がこのポスターを作った担当者が言わんとすることを、想像力を駆使し、デフォルメして言葉にしてみました。

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当店は、持ち帰り用にしてお渡しできますので、どうぞご利用ください。

もちろん正しい敬語じゃないのは分かっています。
でも、周りの店を見てください。もう「お持ち帰りできます」だらけじゃないですか。

うちだけ「お持ち帰りになれます」なんて書くと目立ってしまいます。

うちも客商売なんで、味やサービスで目立つのは嬉しいことですが、そんなところで目立ってよその間違った言葉遣いへの批判みたいに思われるのも困るんです。

そもそも一般の方には「お持ち帰りできます」と書いたほうが見慣れているし伝わりやすいですよね。
「お持ち帰りになれます」なんて、敬語を知らない人にしてみたら違和感しかないですよ。

いや、正しい言葉遣いをないがしろにしていいと言っているつもりはないんですよ。

だからね、こう解釈してくださいな。
「お持ち帰り」は美化語です。美化語として使っているんですよ。

「持ち帰る」という動詞を「お」と「できる」で挟んでるって読むからおかしくなるんですよ。

ほら、「おにぎりできます」って書いてあったら、三角の、あのおにぎりを作ってくれるんだって違和感なく読めるでしょ。
それと同じですよ。

だから「お持ち帰り」と「できる」で明確に分けられるように色を付けましたんで、ここらへんで勘弁してくださいな。

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敬語が人間関係を表す機能を失いつつある

ポスターを作った担当者の思惑を勝手に想像して書いた文章の中で、「美化語」という言葉を使いました。

「美化語」とは言ってみれば誰も立てないけれど、ちょっと言葉を可愛くしたり見栄えよくしたりする言葉です。「お花」「お金」「おトイレ」など、いろんな名詞に「お」を付けて使います。言ってみれば「私はこれが可愛いと思うけどあなたにとっても可愛いわよね」というような、相手を対等に見る言葉であり、適切な距離を取るというよりはパーソナルスペースを共有して仲良くしたいときに使う言葉です。

美化語は、使いすぎると厚化粧のようにうっとうしくなったり、幼児語のように子どもっぽくなったりするので、ビジネスの場では、適度に抑えて使います。

それよりも、本来敬語の持つ大切な機能は、敬意と人間関係を表すことです。

それが失われていく一つの象徴的なポスターのように思えてなりません。

来年もよろしくお願いします

さて、今回は年内最後のブログです。
楽しんでいただけたでしょうか。

今年一年、誠にありがとうございました。

私のブログでは、来年も敬意と人間関係を表す敬語をお伝えしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。