事業のネタ帳#28 逆転のインフルエンサーマーケティング
はじめまして、シードVCのジェネシア・ベンチャーズの水谷圭吾です。
以前から事業ネタに関する記事自体はいくつか投稿させてもらっていましたが、弊社キャピタリストが持ち回りで執筆している『事業のネタ帳』シリーズとしては初投稿となります。
今回は、ソーシャルメディアの変化に合わせた次世代型インフルエンサーマーケティングに焦点を当て、今後生まれそうな事業機会を皆さんに紹介できればと思います。アイデア自体まだ柔らかい状態ですので、気になるところがあればぜひコメントいただき、ディスカッションさせていただきたいです!筆者TwitterへのDMお待ちしております。
まとめ
ソーシャルメディアのアルゴリズム
YouTubeやTwitter、TikTokなど、ソーシャルメディアの製作者側の脳内では、『どれだけ長い時間ユーザーを画面の前に留まらせることができるか』というテーマが非常に大きな割合を占めています。
その結果、その人がフォローしているアカウントの投稿のみを表示していてはすぐにコンテンツを読み切ってしまい、自然とアプリを閉じてしまいます。それを防ぐため、現在多くのソーシャルメディアでは、自分のフォローしているアカウントの投稿を見る、という行為はなるべく遠ざけられていて、タイムライン上には自分が全く知らないアカウントの投稿が次々と流れてきます。
例えばYouTubeのケースだと、アプリを開いてすぐ表示されるのは登録チャンネルのタブではなく、登録していないチャンネルの動画がレコメンドされる『ホーム』ですし、Twitterの純正アプリであればタイムライン上のツイートの約半分は、自分のフォローしている人以外からのツイートです。
もうこの現状に慣れてしまっているかもしれませんが、冷静に考えると不自然だと思います。知らない人の無益な投稿を延々と読まされているのに、気づけばTwitterを開いてしまう自分に虚しくなったことは一度や二度ではありません。
(フォローしている人のツイートのみを見たい方は、純正ではないTwitterアプリを使うのがおすすめです。「この人のツイートを表示しない」とかいつまでやってもキリがないので、、、)
「メインとなるタイムラインに何を表示させるかを決めるアルゴリズム」は、ソーシャルメディアの運営側が最も注力してデザインしているものの一つでしょう。そのアルゴリズムに再発明を行うことで、爆発的に成長しているソーシャルメディアと言えば、もちろんTikTokです。
TikTokは従来のソーシャルメディアのように「実社会での直接的な人間関係」を重視せず、コンテンツの話題性や嗜好性に重きを置くアルゴリズムを構築しています。そのため、フォローしている人の投稿もタイムラインに流れては来るものの、基本的にはその時バズっている動画や、自分には全く興味がないように思われる投稿が次々と表示され、その結果、他のソーシャルメディアよりも圧倒的に『知名度がゼロの状態からでもバズりやすい』という状況が生まれています。
インフルエンサーマーケの歴史とこれから
若者のテレビ離れが叫ばれて久しいですが、スマホ時代以前において、インフルエンサーマーケティングの『インフルエンサー』とはもちろん、テレビCMやドラマに登場する容姿端麗な芸能人だったわけです。AppleがiPhoneを発売し、可処分時間がその小さな画面に奪われていくことで、次第にYouTuberのような親近感あふれる人物が、芸能人が専売特許を持っていたインフルエンスを少しずつ奪ってきたのが現在までのインフルエンスの変遷です。
もちろん、YouTuber等の持つインフルエンスと芸能人の持つそれに一定違いは認められ、インフルエンスの細分化が起こっていると見るのが正しそうですが、最近プロモーションにYouTuberを起用するラグジュアリーブランドが多く登場していることなどを考えると、実際そこに大きな差はないのかもしれません。
チャンネル登録者数350万人越えの大人気Youtuberコムドット やまとさんを例にとると、FENDIやPRADA、CELINEからCHANNELまで、あらゆるラグジュアリーブランドのプロモーションに起用されています。本当に凄い。
大きな時代の流れとして、かつては限られた少数の芸能人だけが持っていた広告塔としての役割が、分散してより多くの人がインフルエンスを持つようになるという方向性が存在すると考えており、その流れはソーシャルメディア上で大きな人気を誇るインフルエンサーから、ナノインフルエンサー、ひいては一般ユーザーにまで続くのでは、というのが私の見立てです。
広告塔としてのキーパーソンはメガインフルエンサーからナノインフルエンサー、ひいては一般ユーザーへ
上記のようなインフルエンサーマーケティングの変遷や、次世代型ソーシャルメディアの普及を考えると、他のSNSや従来イメージされてきたトップインフルエンサーの持つ影響力は大きく変わっていくように思います。フォロワー数は少なく、知名度が無いユーザーでもバズる可能性が高いソーシャルメディア上では当然そんなユーザーの広告塔としての価値が上がってくるのです。ここに一定の事業機会があると見ています。
その一例として、一般ユーザーを対象としたインフルエンサーマーケティングの事業ネタを考えてみます。
事業ネタ:逆転のインフルエンサーマーケティング
ここでの『逆転』は2つの意味を持っています。
一つ目は、今までお話してきたように、インフルエンサーマーケティングで対象となるインフルエンサーが、多くのファンを持つ大型インフルエンサーから、現時点ではそこまで知名度のないナノインフルエンサー及び一般ユーザーへと変化する、という意味で
二つ目は、『企業から依頼⇒インフルエンサーがコンテンツを投稿』という矢印が逆転する、という意味です。
広告費の予算が5000万円あるとして、その使い道を考えてみます。もちろん広告としてアピールする商材や広告を打つ目的によって、その予算の使い道は大きく変わりますが、例えば5000万円を利用して有名人を起用してCMを作成・放映するよりも、5000人のナノインフルエンサー/一般ユーザーに1万円支払う方が短期的な広告効果としては大きそうだよね、というような意思決定は今後増えていくと考えています。
現在の、一般ユーザーの投稿を対象としたマーケティング施策だと、『レビューしてくれた方に〇〇円プレゼント!』といった手法がありますが、そのレビュー自体がどれだけ多くの購買意欲を生み出したかどうかを測るのは非常に難しい上、お金目的の雑な投稿やネガティブなレビューにもお金を支払うことになり、広告効果の最大化という観点では適切ではないように思われます。
そこで、『企業から依頼⇒インフルエンサーがコンテンツを投稿』という矢印を逆転させてみるとどうでしょうか。インフルエンサー側が自分の意志でコンテンツを投稿し、その後でそれに見合ったお金が企業から勝手に支払われるという仕組みは考えられないでしょうか。
コンテンツの拡散度合いは、その投稿の表示数やいいね数などから推測できるため、企業側はその投稿の広告効果を分かった上で、投稿者にお金を支払うことができます。より良い発信者により良い報酬を与えることができ、しかもその発信者は限定されず誰でもそのゲームに参加可能、といった具合です。
また、AdobeやCanva・TikTokのような、手の込んだコンテンツ作成・編集に必要な技術が民主化する流れは不可逆であることも、ナノインフルエンサー・一般ユーザーから大きな広告効果を持つコンテンツが生み出される可能性を高める要因となっています。
海外では似た事業モデルのスタートアップがいくつか登場しており、SwaypayやBounty、Archive.aiなどが本事業ネタに近いかと思われます。いずれもまだシード期ですが、SwaypayはスターバックスやNikeなど、超有名ブランドでも利用されており、事業成長が見込まれます。
また、報酬が支払われるのはその商品に焦点を当てた投稿に限らず、自然とそこに移りこんでしまったようなレベルでもいいのではと思ったりしています。バズ動画を撮っていた人たまたま着ていた服のブランドや、飲んでいたジュースのメーカーなどが投稿者に報酬を与えるイメージです。
例えばコカ・コーラのCMって、もはや何も打ち出していないというか、ただ消費者の意識の中でのコカ・コーラの存在感を高めたいという狙いで放映されているのだと理解しています。その意味だと、バズっている動画にコーラが映っているだけで、コカ・コーラ側からすると十分その投稿が広告になっているのでは、といった感じです。
ファンマーケティングの活性化へ
インフルエンサーマーケティングと近い概念としてファンマーケティングがあげられます。インフルエンサーマーケティングでは、基本的にインフルエンサー自身はその商品やブランドに愛着を持っていない状態でその広告塔の役割を果たしますが、ファンマーケティングは、その商品やブランドに心から愛着を持つファンを起点とし、ファンのSNS投稿や口コミ、商品に対する上質なフィードバックなどを事業開発やマーケティングに生かしていく手法です。
つい先日、ワークマンの行っているファンマーケティングについての良い記事(有料)がNewsPicksより公開されていました。こちらを読まれると上手なファンマーケティングのイメージがつくかと思います。
本事業ネタは、ナノインフルエンサーや一般ユーザーによる自発的な投稿を期待するという点で、ファンマーケティングの事業ネタとも言えそうです。『ファンマーケティング』という言葉の中の『ファン』との関係性を再定義するイメージです。
例えばあるアーティストの熱いファンが、そのアーティストの楽曲を使った動画をTiktokに投稿し、それが大きなバズを生めばそのバズに見合った報酬を得られ、アーティストに対する熱が高まり、より良いコンテンツ制作に励むようになる、といったサイクルは作れないのかなーと妄想したりしています。かなり難易度は高そうだと執筆していながらも感じるのですが…
議論させていただきたいポイント
まだ考えがまとまりきっておらず、ぜひ皆様と議論させていただきたいポイントがいくつかあります。
まず、ファンマーケティングの世界において『ファンは自らの意思により無償でその対象物(商品・人・ブランドなど)を広めようとしているのであって、報酬がもらえるとなれば広めるインセンティブが小さくなる』という話をよく耳にします。
ファン経済圏の活用や拡大を考えるにおいて、その報酬システムをどうデザインするか、というのは非常に繊細かつ答えが無い問いだと考えています。私個人の感覚としては、ファンの貢献を上手く可視化・数値化するとともに、貢献に対し与えられる報酬を今までにない形でデザインすることで、ファンがより貢献したくなる仕組みづくりができるような気がしており、さらに思索を深めたいなと思っているところです。
もう一つ、「消費者がその財・サービスを検討するために必要とする情報がどう変わっていくのか?」というのは、本事業ネタに大きく関係してくるところでありながら、なかなか仮説を立てるのが難しいなと感じています。「Z世代はレストランを調べるとき、食べログではなくインスタ・TikTokをよく利用する」というのは有名な話ですが、不特定多数のレビューよりも少数の投稿を信頼する、というのは個人的な感覚としてはあまり理解できていません。自分はやっぱり食べログやグーグルのレビューを一番参考にしています。
不特定多数のレビューか少数の投稿か、ではなく、その情報が写真や映像ベースのリッチな投稿か無機質なレビューか、みたいな違いももちろん大きいと思いますが、じゃあインスタやTikTokの次があるとすれば、人々はどこの情報を参考にするのか?というのは考えても答えが出ません。消費にいたるまでのプロセスの変化は今後も絶えず行われるはずであり、そこに必ず事業機会が生まれていくイメージを持っています。
あとがき
今回は、未来のインフルエンサーマーケティングに見つける事業機会について書いてみました。正直、事業ネタに関しては自分でもしっくりきていないところがあり、書いたはいいもののなかなか難しいテーマを選んでしまったなと感じています笑
消費行動の変化やSNSの使われ方の変化、インフルエンサー・クリエイターの持つ役割の変化などは今後も深掘りし続けたいと思いますし、ECやエンタメを始めとするtoC領域での起業をご検討されている方など、ぜひディスカッションさせてください!筆者DMまでお待ちしております。
お読みいただきありがとうございました!!!
さいごに
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