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『少年の君』を観ました。

今作は香港と中国の合作で、私なんかは「香港は中国ではないのか?」と疑問に思ってしまいました。まるで、沖縄と日本の合作とか書いてあるような違和感。

作品の舞台は中国の真ん中あたりにある重慶市(じゅうけい)です。主人公の少女チェン・ニェンは高校三年生で、日本で言うところの東京大学に当たる中国の最高学府である北京大学を目指しています。物語はあと60日で全国統一入学試験というところからはじまります。

この少女は学年で10番に入るくらいの成績なわけですが、家は裕福というわけではなく母だけで育てられてて、しかも母は詐欺まがいのことをして、家に取り立てとかが「金返せ!」「この詐欺師!」なんてドアを蹴られるもんだから、少女も落ち着いて勉強なんかしてられないような環境。

日本でも受験戦争などと言ったりしますが、今作で描かれる学校生活はまさに「軍隊かよ」という様子。朝礼のような生徒の群衆が「私は絶対合格してみせる!」「合格できなければ生きてる意味がない!」なんて叫んでる姿は、恐ろしい地獄絵図のよう。
そうなると、周りの奴らや上の奴をいかに引きずり落として、自分だけが上に行くかを考えるわけで、当たり前のようにいじめが出てくるわけです。

今作は中国の学校における壮絶ないじめが描かれています。今まで見たいじめの場面の中でもかなりエグいので、私なんかは「こんなんなら見るんじゃなかった」と心折れそうでした。しかし、こんな厳しい現実の中に、主人公の少女と不良少年(というかギャング予備軍)の少女漫画のような恋愛が入ってくるので、なんとか最後まで見ることができました。

主人公の少女は集団に囲まれて蹴られても蹴られても立ち上がってくる。それなのに絶対にやり返そうとはしないし、目つきが負けていない。
少女を演じるチョウ・ドンユイ(なんと二十代後半とは驚き)の存在が今作を最後まで引っ張ってくれるし、その姿が今作の描こうとしている内容だと思う。

今作を見ればわかることですが、オープニングから説明字幕が入ったり、エンディングではくどいくらいに「今の中国では決してこのようなことはないのですよ」という説明が入る。おそらくこのようにしないと公開ができなかったのであろう。

中国の検閲は「いつの時代だよ」って思うほどで、例えば中国では連続殺人事件の話は公開ができないそうだ。理由は「中国の警察は連続で殺人されるほど無能ではないから」だそうだ。すでに各国で公開されている映画(『ファイトクラブ』です)の結末もカットして「この犯人は犯行直前で捕まりました。それで精神病院に入れられました」と変更されたりしている。

そんな中国で今作が公開されたのは驚きだ。だってかなり過酷な受験戦争や、学校でのいじめなんて「こんなものは見せられません」「こんなことは我が中国ではありません」と隠蔽しそうだから。
おそらく作り手と中国との水面下での凄まじい闘いがあったと思われるが、そんなことは絶対に外には出ないであろう。もし出てしまえば、もう二度と映画を中国で公開できなくなるかもしれないから。

だから、いくつか不自然なところは「こうしないと公開できなかったのでは」とか思われる。きっと作品はズタズタ切られたり、追加をさせられたりしながらもなんとか完成させることができて中国で(6ヶ月遅れで)公開された。それがあって、今では中国の外の国でも作品を見ることができるのである。

なんとか中国の検閲をくぐり抜けた、傷だらけの作品に作り手の魂はちゃんと残ってると思う。いくら内容を変更させられても、傷だらけで懸命に生きる少女と少年の姿をすべて消すことは不可能だから。

ここ日本では「言論の自由」なんてことを言っていられるが、香港では国のやり方に異論を言うことも許されないで、当たり前のように権力に潰されている。そして、香港にそれをさせているのは中国だ。
この映画は、そんな香港と中国の合作映画なのです。

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