The Cure:Album08(キス・ミー、キス・ミー、キス・ミー:Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me)
キュアーにとって、成功の階段をとんとんと駆け上がるがごとくなサクセスストーリーみたいな時期が続きます。
あの、ど暗いアルバム(ポルノグラフティー)が出たのなんてもう5年も前の話。そこからはポップスター街道を突き進んでいます。
私は勝手に「キュアーは暗黒三部作の不遇な時代を経て、ポップな曲が開花したのだ」とか言っていたのであるが、今回調べて観ると全然違っていた。
キュアーはなんやかんや前回のアルバムよりも今回のアルバム、今回のアルバムよりは次回のアルバムと、アルバムを出す度に前回よりもセールスを伸ばしている、『ずっと報われ続けてるアーティスト』(=イギリスやドイツやニュージーランドなどの、熱烈なファンに支えられている)なのでした。
それに、ぼほ毎年のようにアルバムを出すというハイペースな活動。暗い行き止まりにぶつかって活動をストップしても、数ヶ月で次の起死回生なアルバムの制作にとりかかっています。
見た感じがナヨッとして目も合わせずに、フラフラと所在なさげな盆踊りみたくダンスしてるんで、自分なんかを同じぐうたらな人かと、みんなして勘違いして油断していたのではなかろうか。見かけによらずロバート・スミスさんは活動的だし働き者なのでした。
●ホワイ・キャント・アイ・ビー・ユー?:Why cant I be you
このアルバムからの最初のシングル曲。
「どうしてボクはこんななんだろう?」という葛藤から抜け出し、自己を肯定して、「なんでボクは君になれないの?」と相手に向かって元気に問いかける。ここにはジメジメした苦悩なんてない。
ポップソングってのはいうなれば流行歌なので、「このアルバムにこんな曲が入っている」というのを知ってもらって、「このアルバムを買ってもらう」ためにシングル曲を出す。
だから「街で流れているのを聴いて、一発で好きになった」みたいのが理想なわけで、「何度も聴いているうちに、だんだん好きになりつつある」では困る。
このアルバムのどの曲も聴き込むタイプの曲ではなく、一回で覚えてしまうほどのわかりやすさがあり、アルバムのどの曲もはじめてのキュアー体験には最適だと思う(私がはじめてキュアーにハマったのもこのアルバム)。
イギリス:6位、フランス:2位、ドイツ:4位、アメリカ:35位(今までで最上位)、スイス:3位、オランダ:3位、オーストリア(ヨーロッパ):4位、オーストラリア(南の大陸):9位、ニュージーランド:14位(何故か下がっている。君らは暗い方が好きなのか?)
Hey You問題
このアルバムの『Hey You!!!』という曲がある。
このガチアガりの短い曲(2分)は発売当時2枚組LPレコード盤には入っていたが、CDには入っていなかった(後から出たCDには入っていた)。こういう「こっちには入ってるけど、こっちには入ってない」ってのが困る(というかマニアな心をくすぐる)。当時はCDがかなり普及してきて、LPにやっと追いついて追い越すようなタイミング。
●ジャスト・ライク・ヘヴン:Just Like Heaven
「これぞキュアーのポップソング」と言っていいのがこの曲。
まずベースとドラムから入って、そこにジャカジャーンとギターが入る。シンプルなキーボードの音色が上にかぶさり、階段を駆け上がるようなギターが走りまわる。そこで、最後に滑り込むようにボーカルが入るという流れ。
ハードとソフトの両極にふったアルバム
このアルバムは全編ポップソングってわけでもなくて、ゴリゴリのハードなギターを聞かせる曲からはじまる。アルバムからではなくライブバージョンであるが、繊細な方向ではなくて力強くハッキリとした方向なのがよくわかる。
●キス:The Kiss(live)
このようなハードな感じやシングル曲のポップソングが入り口であっても、聞き込んでいって「なんかキュアーファンになってきたなあ」という人は、『キャッチ:Catch』の柔らかさにはまったりする。こういう両極がこのアルバムの魅力かもしれない。(大好きな曲&PVなので入れてしまいました)
●キャッチ:Catch
この手のわかりやすポップソングを、小出しに何枚も出していったら何年も安泰な活動を続けれるのかもしれないが、ここで2枚組を出したというのは「もうポップなものはすべて今回で出し切る」みたいな意気込みがあったのかもしれない。
音楽業界での大きすぎる成功は諸刃の剣_もろはのつるぎ(両端に刃がついている剣のことで、得るものは大きいが危険を伴うという意味)である。
ヘタしたら凄まじいスピードで飽きられてしまうのかもしれない。
実際、これ以上『わかりやすく明るい曲』って作れるもんだろうか?
『混沌や暗黒の曲作り』に行き止まりがあったように、『わかりやすく明るい曲作り』にも行き止まりがあるのかもしれない。
これ以上ないような成功を手にしたロバート・スミスは、次にどっちの方向に動くのであろうか。