霊の通る道にある部屋(霊とか魂の話)
沖縄ではじめて借りた部屋の話である。
宜野湾の普天間基地の真横で、台所の窓から普天間基地のフェンスが見えるような物件でした。朝早くには海兵隊の軍隊ランニングの歌が聞こえるほど(♫ホーチミンはろくでなしー♫かあちゃんたちには内緒だぞー♫)で、演習の時期はちょうど私の部屋の上空でヘリが旋回するようで、胃袋が震えるくらいの爆音にさらされるが、普段は虫の声が聞こえるほど静かでした。
さて、この物件は2LDKで部屋も広いし、シャワー室もベランダもある。二階建ての建物の一番奥にある一階で、一見住みやすそうに見えました。車も2台は余裕で止めれるようなスペースがあります。ベランダ側も下に大家さん家への通路があるだけで、ほとんど車も人も入ってくるようなことがない。
ただ一つ違っていたのは、この部屋は『霊の通る道』だったのです。
『霊の通る道』=霊道というものは、人は通らないけど霊が通る道です。人が通るのは公道、けものが通るのはけもの道、霊が通るのは霊道です。
途中まで大家さんの家に入る道で、そこで行き止まりになってるので、人が通るには上に登らないと無理です。
では、なんでわざわざこんな道を霊が通るのかと言うのは、地図を見てやっとわかったのでした。
まず、普天間基地の横には大きな石がドーンと建ててある日本兵の慰霊碑があります。次に、私の家から数百メートル離れた田んぼの畦道に小さな地域の祠(ほこら)があります。地図上でその2つの点を定規でまっすぐ線を引くと、なんと私の部屋だけが見事に通り抜けるようになっているのでした(他に通り抜けてる建物はなかったです)。
異変に気づいたのはお盆の時期で、夜になるとベランダ側が妙に騒がしくなるのです。なにかお祭りの人混みがベランダの前にいるみたいに、やたらザワザワしているのです。それでカーテンを開けて見てみると、誰も人はいないのでした。
あと、ベランダ側の部屋で寝ていると「取り返しのつかない夢」を見ることになるのです。
例えば、友人のお子さんの座っているベビーカーを押している。目の前は急な下り坂になっていて、その先には車がビュンビュンひっきりなしにすれ違う大きな幹線道路があります。そこでなにを思ったか、私はベビーカーを持っていた手を離すのです。はじめはゆっくり、そしてだんだんスピードをあげて下り落ちていくベビーカー。ベビーカーが幹線道路に出る寸前で「ギャーッ」と悲鳴をあげて起きるのです。
このようにベランダ側の部屋で寝ると、起きてしばらく立ち直れないような夢ばかり見るのです(山登りで崖から落ちるとか)。
お盆の時期に私の部屋に泊まりに来ていた友人は、ベランダ側が人がどんどん増えていっているように騒がしくなって、行き止まりで通れないことに文句を言って怒ってるようになって、それでも後からぞくぞくと来て増えて溢れてきてしまい、(おそらく)しかたなくシャワー室の少し開いてる小窓から流れ込んでくるような気配がして、シャワー室から部屋の中に入ってきたのだそうです。
私はその時は部屋にいませんでしたが、さぞかし恐ろしかったことでしょう。
私がその部屋を引っ越したのは、沖縄の仕事先の知り合いのおばあさんが「このまま私が部屋に住み続けると命に関わることになる」と言っていたとおしえてくれたので、素直に従いました。お金に余裕はなかったけど、そんなの問題にならないくらい、迷いなく引っ越しました。
そんな知らせの電話の数日前に、押し入れから天井の屋根裏への出入り口を発見して、屋根裏にはノートが数冊ありました。以前にこの部屋に住んでいた人の日記のようなものでした。最初の方はまともに書き記してあるのですが、明らかにだんだん壊れていって、最後の方はもう文字も書いてあることも狂っていました。字がほとんど読むこともできないくらい書き殴ってあり「死ぬ」とか「殺す」とか書かれていたと思います。
後から大家さんにそれとなく尋ねたら、以前この部屋に住んでいた人は失踪してしまったそうです。なので、その人宛の郵便物がたまに来ていました。
「霊なんかに生身の人間が負けてたまるか」という方は、気が済むまでがんばってみて下さい。私は逃げた方がいいと思います。
なにしろ見事なまでに『すべてうまくいかなく』なります。そうやって遠回しに私を絶望させて死なせようとしているように思いました。
借金がどんどん増えていく、仕事をしてもお金を払って貰えない、仕事の依頼者がいきなり怒鳴りだして暴れだす。
この部屋に住む最後の方は「こんなこと普通起こるか?」ってことが連続で起きて、もう最後のトドメを刺されているような状態でした。
こんな最悪の事は、引っ越しをした瞬間からピタッと嘘みたいに起きなくなりました。
なので、すぐに逃げた方がいいです。逃げるが勝ちです。
私が引っ越した後に、すぐに霊道の部屋には次の人が入りました。一番奥の部屋ということもあり、立派な物置まで設置していました。それから一ヶ月もしないうちに見に行くと、すべて片付いて引っ越していました。