The Cure:Album05(日本人の囁き:Japanese Whispers)←Let's go to Bed & The Walk & The Lovecats(singles)
行き止まりのドクターストップのような状態に陥ったキュアー=ロバート・スミス。(キュアーにはロル・トルハーストだけは残ったので、バンドとしては2人体制)
「生きててありがとう」みたいな、少し創作活動から離れた方がよかろう状態。
1ヶ月間の湖畔でのデトックス(体内に溜まった有害な 毒物 を排出させること)を経て動き出したロバート・スミスは、このタイミングで3枚のシングルをリリースします。
なんだか生まれ変わったような気分になって、今までとは全然違うものが作ってみたい気分であったのだろうか。
「ピコピコ」した電子的なディスコサウンドのレッツ・ゴー・トゥ・ベッド(Let's go to Bed)をレコード会社の人に聞かせた。(シンセサウンドを前面出したハワードジョーンズ:Howard Jonesの登場が1983年なので、1982年では出す時期が少し早過ぎた印象)
●レッツ・ゴー・トゥ・ベッド:Let's go to Bed
今まではカメラを見ようともしなかったのに、一転化粧をして髪の毛を立てたカッコウで踊るロバート・スミス。今までのキュアーの熱心なファンからしたら、これはどう見ても乱心(または、鬱のあとの躁)にしか見えない。
それでもUKチャートは前のシングルより少し下がって44位。今までチャートに入らなかったオーストラリアのチャートでいきなり15位、ニュージーランドでは今までのシングル最高位の17位、そしてアメリカ合衆国のビルボードチャートにシングルではじめて109位入り(ダンスチャートで32位)を果たします。
確実に今までキュアーを知らなかった層にアピール出来ている様子。
●ウォーク:The Walk
水の中で君にキスをした、あなたの乾いた唇を歌わせた、
あなたが見ていた、
日本の赤ん坊のように、一瞬ですべてを思い出した
キュアーが日本のチャートに出てくることはないが(日本はたのきん全力投球な時期)、なんとキュアーの歌詞に日本が出てきました。
UKチャートは今までで最高の12位。何故かはじめてのアイルランドチャートで19位だが、他の国はオーストラリアの34位くらいで、いつも反応のいいニュージーランドではチャートにすら入っていない(なんで?)。
PVでは日本を感じさせるおかめ面の赤ちゃん人形が登場している(おかめ面といえば『未来世紀ブラジル』であるが、この映画の公開は1985年である。このPVが元ネタだったら驚き)。
それに、この後リリースするコンピレーションアルバムの名前が日本人の囁き:Japanese Whispersである。どうしたのかロバート・スミス? なにかマイブーム的にジャパンブームでもあったのだろうか。
●ラブ・キャッツ:The Lovecats
この曲でキュアーはヨーロッパでブレイクした感じがする。ポップな曲+立てた髪型と化粧+猫ちゃんという最強な組み合わせがここに爆誕(ばくたん)。
その人気は日本にも飛び火して、この曲でキュアーを知ったという人が日本には多かったように思う(シングル3枚面にして日本の音楽番組とかでも取り上げられることがあったのだろうか)。
なにしろ今作での化粧と髪立てたロバート・スミスは、今までで最高にカワイイのであった(このビジュアルイメージはその後のゴシック・アンド・ロリータ=ゴスロリに繋がっていってるのではなかろうか)。
この2年くらい後の1984年での日本のキュアーのライブでは、このPVのロバート・スミスのような容姿の女子が多数発生した。
UKチャートは今までで最高位の7位。オーストラリアでは6位、アイルランドで15位、前作はまったくだったニュージーランドでも23位。
前2曲のシングルはピコピコ電子サウンド曲だったが、一転この曲はジャズ・ロック・スタイルの生楽器っぽいサウンド。それでいてとても聞きやすいし、はじめて聞いても「おっ、なんか気になるなあ」というポップソングのシングルとして王道のような曲(と思う)。
この3曲のシングルを一枚にまとめたのがコンピレーションアルバムの日本人の囁き:Japanese Whispersなのでした(『The Lovecats』B面の『Mr. Pink Eyes』だけは入ってないですが)。
この3作のPV監督はあのティム・ポープ(Tim Pope)さんです。
まるで、業績悪化で倒産しかけの会社が、起死回生のV時回復を果たしたような復活劇。
なんとかメンバーに残ったロル・トルハーストさんがPVでも大活躍ですが、「大変な時期によくがんばってくれた」と同時に「それなのにこの後切られるなんて悲しい」(ネタバレか)という複雑な気持ちになるのでした。
ロバート・スミス本人はだたのポップソングを作っているつもりでも、暗黒面を彷徨ったエキスみたいなものが知らず知らずに流れ出ていて、結果他にはないような生々しくギラギラしたポップソングが生まれ出たように思います。