
『刑務所の前 全3巻 (花輪和一)』を読みました。
花輪くんか丸尾くんか(ちびまる子ちゃんですね)と言えば、私はだんぜん丸尾くん(丸尾 末広_まるお すえひろ)派だったので、今までちゃんと花輪作品を読んだことがなかった。
『刑務所の前』というのは怪奇ファンタジーなどを描く漫画家の花輪和一さんが、銃刀法違反容疑で警察に逮捕される前のお話。

逮捕(懲役三年。執行猶予なし)といっても物騒な話でもなんでもなくて、銃好きやメカ好きが高じて改造モデルガンや故障した拳銃を修理した物や、ライフル銃と実弾116発を所持していたということで逮捕されたのでした。
だったら『刑務所の前』の内容は、本物の銃を所持したり修理したりする過程と、それで逮捕される話かといえば全然違っていました。もちろんそれも出てくるのではありますが、まだ銃が「種子島」とか言われてる頃の鉄砲鍛冶の父親と少女の話がいきなりはじまってしまう。
この鉄砲鍛冶の少女の話は、過剰にドラマチックでもあるが、どこかギャク漫画のようでもあり、笑って力が抜けていくようなお話。
なんだかこの作品全体にほとんど緊張感がなくて、読みやすい。

少女とうめさんとの交流が描かれていくが、うめさんはキツネに取り憑かれていて、それをお祓いしようと奮闘している。そんなうめさんを少女は「この人なにやってるんだか」「なんだかわけわかんないや」とか、特別理解があるわけでもなかったりする。それでも少女はなんだかうめさんのことが気になって、ついつお会いにいってしまったりする。なんだか少女とうめさんの間には不思議な縁があるような感じだ。
日々おばばのもとで修行に奮闘するうめさんの父親と母親が困ったもので、全く娘の状態に理解もなく「みっとないからマトモになっておくれ」みたいな感じで、そのチグハグな感じも面白い。

鉄砲鍛冶の少女の話だったかと思えば、いきなり次のコマになると、現代で銃をあの手この手で修理している花輪さんの話が進んだりする。この奇妙な構成で全体に不思議な雰囲気が出ている。
私は少女が会いにいくうめさんの父親と母親が話に惹きつけられてしまった。その関係がまるで自分の若い頃の話のようであったのだ。
うめさんの親たちは自分たちのことを完全に棚にあげて、うめさんを一方的に責める。一方うめさんは親が自覚せずに撒き散らしたものを、文句を言いながら必死で片付けている。これがギャク漫画のように描かれていて目が離せない。

3巻くらいになってくると、花輪さんが少女漫画のように描かれていたり、突然お婆さんの話が出てきたりと、かなりカオス(混沌)な状態になっていく。
私は銃のことは全然知らないが、なにかに夢中な人の話をきくのは楽しい。「訳がわからないこだわり」とか「ここの部分はこうやったらうまくいった」とか、全然わからんのだけど面白く読んでしまった。

最後まで読んだら、「鉄砲鍛冶の少女の話はなんだったのか」とか「うめさんが出てきたのはどういう意味」だったのかわかるとか思ったら、そんなに明確にわかるわけではない。でもそこがこの漫画『刑務所の前』のよかったところでもありました。