現場で使えるエネルギー代謝④ 酸化系
第1回
現場で使えるエネルギー代謝① ATP 人の体を動かすエネルギー運搬体
第4回
現場で使えるエネルギー代謝④ 酸化系
昨年末にエネルギー代謝に関する記事を3つ書きましました。
ATPに関して、ATP-CP系に関して、そして解糖系に関しては上記リンクから読むことができます。
今回は3つ目の酸化系に関してです。
■酸化系とミトコンドリア
酸化系エネルギー代謝は脂肪や糖を活用してATP*を産生します。(*ATPに関してはこちらの記事から)
また「酸化」系の名の通り、ATP産生に酸素を利用することが大きな特徴です。
酸化系が有酸素性エネルギー代謝と呼ばれる所以です。
そして酸化系はATP-CP系や解糖系と比較して素早くATPを作り出すことは苦手ですが、長時間ATPを作り続けることができます。
また酸化系の特徴としてATP産生はミトコンドリア内で起こるということが挙げられます。ミトコンドリアは人の細胞の中に存在する器官の一つです(細胞小器官)。
下の図は酸化系の全体像を簡単に示したものです。
酸化系のATP産生の全体像を見ると、ATPが産生されるまでに大きく2つの局面に分けて考えることができます。
まず酸化系における糖と脂肪の利用に関して整理します。
■酸化系における糖と脂肪の利用
酸化系では上述のとおり糖や脂肪を利用します(タンパク質を分解したアミノ酸も利用しますが今回は割愛)。
糖と脂肪のどちらを利用する場合も、糖と脂肪からできた生成物がミトコンドリア内に入ります。
糖はピルビン酸となり、脂肪はアシルCoAとなりそれぞれミトコンドリア内へ入ります。
ピルビン酸もアシルCoAもミトコンドリア内でアセチルCoAへと変換されて利用されます。
糖と脂肪がミトコンドリアへ入ってアセチルCoAとなるまでの流れを簡単に整理すると以下のようになります。
①糖の利用
糖を酸化系で利用するとき、糖をの分解して生成されたピルビン酸を利用します。ピルビン酸はエネルギー代謝機構の一つである解糖系の最終産物です。
ピルビン酸はミトコンドリア内へ入り、ミトコンドリア内でアセチルCoAとなります。
つまり酸化系での糖の利用をより深く知るためには解糖系も知っておかなければならないということです。
酸化系は有酸素性エネルギー代謝、解糖系は無酸素性エネルギー代謝とも表現されますが、解糖系の反応の先には酸化系があります。
どちらも分けられるものではなく、全体の流れの中で理解する必要があります。
②脂肪の利用
脂肪を活用する場合、まず脂肪が遊離脂肪酸へ分解されます。
遊離脂肪酸はさらにアシルCoAへと変換されてミトコンドリア内へ入ります。
そしてミトコンドリア内でアセチルCoAへと変換されます。これは糖の場合と同様です。
脂肪酸が酸化されアシルCoAへ、そしてミトコンドリア内でアセチルCoAになる過程をβ酸化といいます。
この酸化過程により、遊離脂肪酸をATP産生のエネルギー源として活用できるようになります。
■ミトコンドリア内での反応 ~クエン酸回路・電子伝達系からATP産生へ~
ミトコンドリア内では
①クエン酸回路(TCA回路)
②電子伝達系
という2つの経路を経てATPが産生されます。
クエン酸回路と電子伝達系の詳細はスポーツ現場のトレーニング、特にサッカーの指導者が活用する範囲では、重要度は高くないと考えているので大枠の流れのみ簡単に書きます。
ATPは電子伝達系で産生されます。
クエン酸回路はそのための材料とエネルギーを産生する過程と捉えてください。
電子伝達系ではADPとPi(無機リン酸)を結合させてATPを産生します。
ADPとPiはATPを分解したときに生じる分子です。(現場で使えるエネルギー代謝① ATP 人の体を動かすエネルギー運搬体 より)
酸化系の電子伝達系ではADPとPiを結合させてATPを再合成します。
そのためにクエン酸回路で作られたエネルギーや材料はこのADPとPiの結合に利用されます。酸素はその過程の中で利用されます。
酸化系によってミトコンドリア内でATPが産生されるとき、PiはATP産生に使用されるため細胞内のPiは少なくなります。
実はPiは解糖系を働かせ糖を利用するトリガーの一つになっています。
そのため酸化系で多くのATPを産生できる(=Piを酸化系で多く使用する)とき、Piが少なくなるため細胞内の解糖系は働きにくくなります。
これは持久力トレーニングで重要な「糖の利用をを節約する」ことに繋がります。
「糖の節約」に関しては別の記事でまとめたいと思います。
最後にミトコンドリア内でATPが生成される流れを簡単にまとめます。
■現場での活用
酸化系は
が大きな特徴です。
そのためスポーツトレーニングでは
を考えることで酸化系の能力を高めると同時に、ATP-CP系や解糖系の能力を高めることにも繋がります。
これに関してはまた別の機会に。
酸化系でのエネルギー代謝は、スポーツ中に大きく分けて2つの役割があります。
酸化系は長時間働かせることができる点、酸化系で利用される脂肪は体内に十分に蓄えられている点から、長時間運動する場合には酸化系によるエネルギー産生の貢献度が非常に高くなります。
90分間プレーし続ける必要のあるサッカーでは高い酸化系のエネルギー代謝能力が非常に重要です。
運動間の回復という役割も非常に重要です。
解糖系の記事で説明したように、ピルビン酸が酸化系で利用できないほど多く産生される状況(=解糖系が活発に活動する高強度運動時)では、酸化系で利用できない過剰分のピルビン酸が乳酸となります。
高強度運動では速筋線維が動員されますが、この速筋線維で糖が使用され、その結果生じた乳酸が遅筋や心臓へ運ばれ、再びピルビン酸へ変換され、ミトコンドリアでのATP産生に利用されます。
酸化系は解糖系で産生されるピルビン酸や乳酸をエネルギー産生に利用することで、高強度運動後の回復時のATP産生に大きく関わります。
またATP-CP系ではクレアチンリン酸を分解することでATPを産生しますが、ATP産生の元になるクレアチンリン酸を再合成するために酸化系で産生したATPを分解するときに生じるPiを利用しています。
つまり短時間高強度運動時にATP-CP系を活用しエネルギーを生み出し、その後酸化系でATP産生・分解したときのPiを活用して高強度運動のための材料(クレアチンリン酸)を回復する、ということです。
ATP-CP系、解糖系のどちらも酸化系よりも短時間高強度運動時に活躍するエネルギー代謝機構です。
サッカーのような間欠性運動では運動と休息を繰り返しますが、それは高強度運動時にATP-CP系・解糖系を使ってエネルギーを産生し、低強度運動時(休息)に酸化系を使って回復のためのエネルギーと材料を作る、という相互作用によって成立しています。
ATP-CP系と酸化系
解糖系と酸化系
このように3つのエネルギー代謝の役割とその相互作用を知ることで、目的に応じたトレーニングを考えることが可能になります。
特徴と全体像を掴むことで様々なトレーニングで活用できるはずなので、ぜひ今回の記事を活用していただければと思います。
今回は以上です。
ありがとうございました!
■参考
ライター
Keisuke Matsumoto
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