音声で「見る」、映画『ミッドウェイ(2019)』

 映画を見るとき。裸眼視力0.1強の私は、音声で、ぼやけて見えない部分を補っています。
 ギャップがあると脳内の補正処理で頭が痛くなることから、視覚映像に対して誠実な吹替が好きです。

映画『ミッドウェイ(2019)』とは?

 ローランド・エメリッヒが監督する作品。ミッドウェイ、とタイトルのつく映画作品は複数あるため、エメリッヒ版ミッドウェイと呼ばれることもある。
 真珠湾空襲、太平洋戦争の開戦から始まり、ミッドウェー海戦の決着までのアメリカ視点を主に描いている。
 ヨークタウン級空母の活躍、およびそこに配属されたパイロットたちの物語が魅力。
 ドキュメンタリー的作品ではなく、英雄の伝記らしい作風となっている。

生身の俳優と、声優吹替の間にあるもの

 全体的に質の良い吹替を収録している、この作品。
 ほんの少しだけ、吹替版を見たときにギャップを覚えたシーンがありました。

 物語序盤。原語版では、山本五十六大将(俳優:豊川悦司さん)が英語を喋っている部分。
 吹替版では豊川悦司さん本人が、日本語に吹き替えていらっしゃるのですが、どうにも自然ではない。
 口パクと一致しているかどうか…という映像の話ではありません。
 声質は当然ながら本人そのものなのに、声の響きが、話している相手のエドウィン・レイトン少佐(声優・咲野俊介さん)との対比でより顕著に、違うと思いました。

 同じ違和感を、テレビアニメシリーズ『宇宙兄弟』の金子シャロン博士(声優:池田昌子さん)でも覚えたことがあります。
 アニメらしい声として統一されている中で、彼女の声だけが生身に近い。

 どちらも下手なのではありません。聞き心地の良い声です。
 距離の測り方が、違うのです。
 作品の中で他の人たちは統一されているのに、彼らだけが違う空間を生きている。
 どうして、そんなことが起きるのでしょうか?

・・・・・・

 これは私の推測に過ぎませんが…豊川悦司さんも、池田昌子さんも、単独で録音していた可能性を考えています。

 どちらも大御所でスケジュールの調整が難しいでしょう。
 その上、吹替の時に聞いていた音声が原語版であったり、アニメの場合は他の音声なしだった、と一般的な収録ルールから想像できます。

 よほどセンスが鈍くなければ、一緒にいる人の声を聞ければ調整できる問題です。
 私の考えでは、いわゆる「タレント吹替」のクオリティが低くなってしまう、最大の原因でもあります。

 基準にすべき上手い人がどうしているか。
 間近で観察し、全身で味わって学ぶチャンスすらない。
 昔と比べて若手声優の演技力が落ちていると一部から言われ、代わりに知識や技術が広まっていったのも、そのチャンスを失ったのが大きく影響してるのだと思います。
 コロナ禍となって単独録音が増えていく、これからの時代…より顕著になっていくでしょう。
 人工音声の仕事が増えていくのも自然な流れですね。

戦争映画を吹替にする難しさ

 戦争といえば違う国同士が戦うもの。言語の違いで敵味方を判断することも多いです。
 何故、戦争するのか?戦争がなくならないのか?
 言葉が通用せず分かり合えないからキッカケがあれば戦うしかない、というのは、分かりやすい答えだと思います。

 メイン言語のみを吹き替えて、他の言語はそのまま、あるいは声優さんに聞いたまま真似てもらう。
 そういう普通のやり方では通用しないのが「他の言語」=視聴者の母国語という状況。

 この映画でちょろっと登場する、英語ができる(ただし発音は下手)という設定の中国人。
 吹替版では、元々の英語音声はすべて日本語になっております。
 言語が通じる国同士(アメリカと日本)が敵で、言語がきれいに通じない国が味方(アメリカと中国)。
 もちろん戦争の知識があれば「そういうものだ」で済む話。

 ただ、吹替によって対立構造が分かりづらくなっている感じはあります。
 どうしたらいいのでしょうね。
 吹替を作るのが不向きな映画もある、と結論づけるくらいでしょうか。
 でも…たとえば声質がもっと人種ごとに分かりやすくなるような、吹替キャストが揃えば?そういう演じ方が知られれば?
 もしかすると、時として、原語版よりも魅力的な吹替映画だって誕生するのかもしれません。

 未来の吹替業界にご期待下さい!

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