【種牡馬四季報】JRA 2023年の種牡馬リーディングを振り返る
競馬オタク・坂上明大が
四半期ごとに国内外の種牡馬事情を解説していきます。
~リーディングサイアー~
昨年5位から順位を一気に4つ上げ、初のリーディングサイアーに輝いたドゥラメンテ。自身は2021年に急性大腸炎で急死しており、今年デビューの2022年生まれの産駒がラストクロップとなる。稼ぎ頭は昨年牝馬三冠を達成してジャパンCでもイクイノックスの2着に好走したリバティアイランド。王者イクイノックスが種牡馬入りしてターフを去った今年の古馬芝GI路線は、女王が牽引する一年となりそうだ。未勝利戦から5連勝で菊花賞を制したドゥレッツァとともに、引退・種牡馬入りしたタイトルホルダーの抜けた穴を4歳世代が埋められるかがカギとなるだろう。
惜しくもリーディング2位に敗れたロードカナロア。1位ドゥラメンテとの最終週までもつれ込む熾烈なトップ争いの結果、4年連続で2位となった。昨年の稼ぎ頭は高松宮記念を制したファストフォース。当馬は既に引退・種牡馬入りしており、今後は父の血をつなぐ役目を担うこととなる。2位はキャリア5戦でエリザベス女王杯を制したブレイディヴェーグ。3位ベラジオオペラは休み明けのチャレンジCを制し今年重賞2勝を挙げる活躍を見せた。馬場を問わずマイル以下を中心に堅実な活躍を見せており、古馬になってから良くなる馬が多い点も大きな強みといえるだろう。
リーディング首位・2位をキングカメハメハ直仔が占めており同父系は代替わりも順調に進んでいる印象だが、そのキングカメハメハを長年抑えて不動のリーディングサイアーだったディープインパクト系の枝はどうだろうか。日本が誇る名馬ディープインパクトは2019年に死亡したため、JRAでは現3歳世代の6頭がラストクロップ。ただ、その中からシンザン記念のライトクオンタムが出ており、アイルランドでも英愛ダービーなどGI5勝のAuguste Rodinなどの産駒が気を吐いている。11年間守り続けていたリーディングサイアーの座からは陥落してしまったが、残された現役産駒の数を考えれば存在感十分のリーディング3位。5歳世代ではジャスティンパレスが天皇賞(春)を制しており、今年もディープインパクト産駒の活躍が期待される。
2021年・2022年4位のキズナは2023年も4位と現状維持。ソングラインのヴィクトリアマイル・安田記念のGI連勝が印象的だが、いまだキズナ産駒からは牡馬のGI勝ち馬(≒後継種牡馬)は出ていない。
リーディング5位はドウデュースの有馬記念制覇が記憶に新しいハーツクライ。そのドウデュースは2024年も現役続行を表明しており、凱旋門賞制覇を最大目標として掲げている馬主サイドの意向を鑑みるに今年もフランス遠征を敢行するようだ。
2022年の17位から6位へと一気に躍進したのはキタサンブラック。昨年だけでGI4勝を挙げ、引退レースとなったジャパンカップの圧勝が記憶に新しいイクイノックスが稼ぎ頭。次いで皐月賞を後方から差し切り、ダービーや菊花賞でも活躍したソールオリエンスの2頭が現在のところの代表産駒。キタサンブラック産駒は牡馬の活躍馬の割合が多く、後継種牡馬候補が豊富なのも今後血をつなぐ上で強みになりそうだ。
~芝・リーディングサイアー~
芝レース限定部門でもドゥラメンテが念願のリーディングサイアーとなった。長年この部門はディープインパクトの一強だったが、産駒数の減少に伴いトップの座を明け渡す時が来た。牝馬三冠のリバティアイランドや菊花賞馬ドゥレッツァの活躍はもちろんのこと、NHKマイルC勝ち馬シャンパンカラーやGIばかりを4走して全て3着以内と堅実ぶりの目立つスターズオンアースらの存在も大きかった。
2位ディープインパクトは天皇賞(春)などで5億円以上の賞金を稼いだジャスティンパレスと、金鯱賞と札幌記念を制し、天皇賞(秋)でも3着に健闘したプログノーシスの奮闘が目立った。
総合部門と芝レース限定部門は順位の変動こそあれどトップ10の顔ぶれは変わらず。ただ、ハービンジャー以外の19頭が国内産馬という点は大きな特徴で、日本の芝競馬が種牡馬レベルでも成熟したことを強く表す結果となった。サンデーサイレンス系やキングカメハメハ系に次いで一大父系を築き上げるのはどのラインだろうか、今後の動向も楽しみだ。
~ダート・リーディングサイアー~
ダートレース限定部門ではヘニーヒューズが4年連続4回目のリーディングサイアーとなった。このカテゴリでヘニーヒューズがトップに君臨するまではゴールドアリュールとキングカメハメハの二強状態だったが、ゴールドアリュールは2017年に、キングカメハメハは2019年に死亡したため徐々に世代交代する形でヘニーヒューズが順位を上げて現在に至る。昨年はユニコーンSのペリエール、エルムSのセキフウ、みやこSのセラフィックコールと3頭のJRAダート重賞勝ち馬が出ており、いずれも明け4・5歳と若いことからまだまだ勢いは止まりそうにない。また、直仔アジアエクスプレスも13位にランクイン。その他、トップ5のうち4頭がStorm Catの血を内包しており、日本のダート競馬のトレンドはStorm Catにあり、といっても過言ではないだろう。
2位ドレフォンは初年度産駒デビューの2021年は46位、2世代目が加わった2022年は6位、3世代目が加わった昨年は2位と順調に順位を上げてきた。ただ、2023年はJRAダート重賞未勝利。少々派手さに欠ける印象だ。
3位シニスターミニスターは2021年3位、2022年4位とこのカテゴリの安定株。昨年は牝馬ながらレパードSを勝利したライオットガールと、武蔵野Sを勝ったドライスタウトの2頭が稼ぎ頭。代表産駒テーオーケインズはチャンピオンズCを最後に引退・種牡馬入りしたが、父の勢いは若駒にもしっかりと継承されている。
ロードカナロアはダートレース限定部門でもトップ4入り。カペラSを逃げ切ったテイエムトッキュウが今年のダート部門の代表馬だ。また、重賞勝ちこそなかったもののフェブラリーSで2着、武蔵野Sで3着のレッドルゼルは8歳馬だが今年もフェブラリーSを目標に調整されているよう。ロードカナロア産駒の活躍期間の長さはダート路線でも発揮されている。
5位キズナも芝部門だけでなくダート部門でも上位にランクイン。ハギノアレグリアスがシリウスSを制し、東海Sや平安Sでも2着と堅実に稼いでいる。ただ、ダート部門ではサンデーサイレンス系が苦戦傾向。2010年代のダート路線を牽引したゴールドアリュールの後継種牡馬の誕生に期待したいところだ。それに対して、キングカメハメハ系はロードカナロア、ホッコータルマエ、ドゥラメンテ、ルーラーシップが堅実な活躍を見せており、キングカメハメハ自身も10位にランクイン。当馬の万能っぷりはしっかりと後継種牡馬らにも伝わっている。
~2歳・リーディングサイアー~
初の2歳リーディングサイアーに輝いたキズナは一昨年10位、昨年8位から一気のランクアップ。重賞勝ちこそなかったが、ホープフルSを13人気で3着と激走したサンライズジパングや朝日杯FS3着のタガノエルピーダ、東スポ杯2歳S2着のシュバルツクーゲル、札幌2歳S3着のギャンブルルームなどGI・重賞戦線での好走が目立つ。
2年連続2位のエピファネイアは惜しくも最終週でキズナに逆転され3年連続の2位となった。キズナと同様に重賞勝ち馬こそ出なかったが、ステレンボッシュが阪神JFで2着に好走するなどして稼ぎ頭に。また、2歳馬がJRAで挙げた33勝のうち過半数の17勝が新馬戦でのもので、初戦から動ける点もエピファネイア産駒の強みのひとつといえるだろう。
3位スワーヴリチャードは今年が初年度産駒デビューの新種牡馬。初年度の種付け料が200万円と安価だったことから、それに伴う肌質を考えると特筆に値する優れた成績。レガレイラが牝馬ながらホープフルSを制し、クラシックでの動向に注目が集まっている。次いでコラソンビートが3連勝で京王杯2歳Sを制し、阪神JFでも3着と好走。初年度産駒の活躍が評価され、2024年の種付け料は1500万円にまで跳ね上がった。
4位モーリスは東スポ杯2歳S勝ち馬シュトラウスの活躍もあり2022年6位からのランクアップ(2021年は8位)。モーリス産駒からはこれまでに3頭のGI馬が出ているが、3勝とも古馬GIでのもので、モーリス自身の成長曲線は産駒にも少なからず伝わっている。ノーザンファームをはじめとする牧場サイドにモーリス産駒育成のノウハウが蓄積してきて2歳戦の成績がここ数年で向上してきたと見るならば、そう遠くない未来で2・3歳GIを産駒が制覇するシーンを見られるかもしれない。
5位ドレフォンは昨年11位からの躍進。重賞では賞金を獲得できていないが、23頭が勝ち上がっておりコツコツと賞金を積み重ねている。初年度産駒の皐月賞馬ジオグリフのように突き抜けた存在が出てきてほしいところだ。
輸入馬ジャンタルマンタルが朝日杯FSを制したPalace Maliceが20位にランクイン。2024年シーズンからはダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックスでの繋養が発表されており、日本には少ないSmart Strike→Curlin系の種牡馬としても大きな期待がかかる。
2歳リーディングサイアートップ20ではサンデーサイレンス系が5頭、キングカメハメハ系が5頭と絶対王者不在の現状を表す形となった。
~リーディングファーストシーズンサイアー~
2歳リーディングで3位と健闘を見せたスワーヴリチャードが2位の倍近い賞金を稼ぎ出し堂々の戴冠。ハーツクライの最有力後継種牡馬と呼べる大活躍を見せた。現時点でも1800m以上での成績が非常に良いため、クラシックレースでも強い種牡馬として重宝されそうだ。ちなみに、代表産駒であるレガレイラとコラソンビートは牝馬だが、産駒全体の勝ち上がり率は牡馬が50.0%、牝馬が19.4%と牡馬偏重の傾向に。今後の動向には要注目だ。
社台ファーム主導で良血の繁殖牝馬を集めていた輸入種牡馬ブリックスアンドモルタルが大きく離される形で2位にランクイン。デビューから2連勝で重賞制覇を果たしたゴンバデカーブースが現時点での稼ぎ頭で、2勝以上を挙げている産駒も計4頭出ており、まずまず順調な滑り出しを切ったか。ただ、ブリックスアンドモルタル自身は芝レースしか出走歴がないが、日本の芝では重過ぎる嫌いがあり産駒の成績は芝よりもダートの方が良好。芝のクラシックレースを狙うなら母から日本向きの軽さを補強したいところだ。
3位ニューイヤーズデイもアメリカからの輸入種牡馬。こちらはノーザンファームが主導で、ノーザンファームの繁殖牝馬に多く付けられている。ダート11勝、芝5勝とダートの方が勝ち星は多いが、好走率に大差はなく芝適性も決して低くはないだろう。舞台を選ばない万能種牡馬であるだけに、1頭でも大物を出せるかが生き残りのカギとなりそうだ。
4位レイデオロは現役時代日本ダービーと天皇賞(秋)を制したことや、近親にディープインパクトがいる血統背景から期待されて種牡馬入りしたが、今のところ勝ち上がり13頭全てが牡馬という偏りを見せており、牝馬が苦戦しているのが伸び悩みの一因だろう。キングカメハメハ系らしくダートでの成績は良好。3歳以降の成長力に期待だ。
5位カリフォルニアクロームはアメリカの牡馬クラシック二冠馬で、アロースタッドで繋養中のA.P. Indy系種牡馬。芝4勝、ダート5勝と日本の芝にもまずまず対応している印象だが、好走率を鑑みると特に牡馬の主戦場はダートだろう。また、全9勝のうち1600m未満での勝利は2勝のみ。中長距離でスタミナを活かす競馬がベターだ。
~リーディングブルードメアサイアー~
2020年以降キングカメハメハがトップの座についていたが、昨年はディープインパクトが首位に躍り出てサンデーサイレンス系がリーディングブルードメアサイアーのタイトルを奪還した形。2023年だけで重賞勝ち馬が13頭も出ており、2位キングカメハメハが6頭であることを考えるとその勢いの凄まじさがよく分かる。キングカメハメハの後継種牡馬と相性が良好なのがディープインパクト肌の強みで、ロードカナロア×ディープインパクトの組み合わせからはエリザベス女王杯のブレイディヴェーグ、小倉2歳Sのアスクワンタイム、京王杯SCのレッドモンレーヴの3頭、ルーラーシップ×ディープインパクトの組み合わせからはローズSのマスクトディーヴァ、小倉記念のエヒト、マーメイドSのビッグリボンの3頭が出ている。
3位はマンハッタンカフェ。2022年が11位だったことを考えれば大健闘のラックアップだ。なんといってもダービー馬タスティエーラの存在が大きく、今年も国内外を問わず活躍に期待したい。ソウルラッシュも京成杯AH勝ち、マイルCS2着、マイラーズC3着と芝マイル路線の一線級で活躍。明け6歳となった今年は何としてもビッグタイトルが欲しいところだ。
昨年から引き続きシンボリクリスエスが4位をキープ。ヴィクトリアマイルと安田記念を連勝、毎日王冠でも2着に好走したソングラインが3億3700万円の賞金を稼ぐ大活躍。当馬は既に引退しており、今後は母として多くの活躍馬を産んでくれるだろう。
5位クロフネは2022年の3位から2つ順位を落としたが、2022年はヴェラアズールのジャパンCでの一撃があまりにも大きかったから仕方ないともいえるか。2023年は産駒のGI勝ちこそなかったが、スルーセブンシーズが中山牝馬Sを制し宝塚記念でも2着に好走、1億4000万円を超える賞金を獲得している。
≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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