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【種牡馬四季報】フランス・ドイツ 2023年の種牡馬リーディングを振り返る

競馬オタク・坂上明大が
四半期ごとに国内外の種牡馬事情を解説していきます。

~リーディングサイアー(フランス)~

初年度産駒Ace Impactが仏ダービー(芝2100m)と凱旋門賞(芝2400m)を制したCracksmanが父Frankelを超えて仏リーディングサイアーの座に輝いた。ただ、Ace Impact1頭だけで2023年に400万ユーロ近い賞金を稼いでおり、Ace Impactが引退・種牡馬入りした2024年が勝負の年となりそうだ。

英愛リーディングサイアーに輝いたFrankelはフランスでも存在感十分の2位。サンクルー大賞(芝2400m)を勝ちキングジョージ6世&クイーンエリザベスSや凱旋門賞でも2着に好走したウエストオーバー、ジャックルマロワ賞(芝1600m)など国内外のGIを3つ制したInspiral、サンタラリ賞(芝2000m)のJannah Rose、フォレ賞(芝1400m)のKelinaといったGIウィナーが出ている。このほかにGalileo系からはChurchillが11位、Galiwayが12位、Intelloが19位にランクインした。

3位Siyouniは貴重なNureyev父系の種牡馬。英愛リーディングサイアーでも6位にランクインしており、フランスではMqse de Sevigneがロートシルト賞(芝1600m)とジャンロマネ賞(芝2000m)の2つの仏GIを制している。

4位Wootton Bassettもヨーロッパでは珍しいMr.Prospector→Gone Westの流れを汲むZafonic父系。2023年は仏GI勝ち馬を出せなかったが、ジャンリュックラガルデール賞2着のUnquestionable、モルニ賞3着のRiver Tiberなどが活躍しており、UnquestionableはBCジュベナイルターフ(芝8F)も制している。Wootton Bassett自身が2歳GⅠジャンリュックラガルデール賞の勝ち馬で、種牡馬としても2歳戦から高いパフォーマンスを発揮できるのが大きな強みだ。

5位Kingmanは日本ではシュネルマイスターの父として知られるDanzig→Green Desert父系の種牡馬で、パリ大賞(芝2400m)のFeed The Flameやムーランドロンシャン賞(芝1600m)のSauterneが主な活躍馬。Green Desert系からはほかに、Shalaaが17位、Sea the Starsが20位にランクインした。

極端な偏りを見せるイギリス・アイルランドとは異なり、多様な父系の活躍が目立つのがフランスの特徴。7位にはサンデーサイレンス→ハットトリックの父系に属するDabirsimの名もあり、14位Kendargent(Kalamoun系)や16位Al Wukair(Known Fact系)なども世界的に見てマイナー父系といえる存在だ。

~2歳・リーディングサイアー(フランス)~

全体リーディングでも4位にランクインしたWootton Bassettが2021年以来2回目の2歳リーディングサイアーに輝いた。BCジュベナイルターフ(芝8F)を制し、ジャンリュックラガルデール賞でも2着と好走したUnquestionableが代表産駒。後継種牡馬Almanzorも12位にランクインしており、Zafonic系の存続はこの親子に懸かっているだろう。

2位は全体リーディング8位のLope De Vega。Storm Cat→Giant's Causeway→Shamardalの父系で、マルセルブーサック賞2着のRose Bloom、GIIIラロシェット賞(芝1400m)を勝ちジャンリュックラガルデール賞でも3着に好走したBeauvatierなどが主な活躍馬だ。

3位はイギリス・アイルランドでも2歳リーディングサイアー2位にランクインし、Lope De Vegaと同じShamardal系に属する新種牡馬Blue Point。Rosallionがジャンリュックラガルデール賞(芝1400m)を制しており、フランスでも順調な滑り出しを見せている。

4位Gokenは全体リーディング14位Kendargentの後継種牡馬で、トニービンと同じ貴重なKalamounを経由するライン。LR格付けレースを2勝しGIIIボワ賞でも3着に入ったZorkenが活躍馬の筆頭だ。

5位Justifyは日本でもお馴染み、ヨハネスブルグ系の米国三冠馬。北米繋養種牡馬だけに頭数自体は少ないが、マルセルブーサック賞(芝1600m)を制したOpera Singerの活躍により5位にランクインした。

父系別では上位20頭中6頭がGreen Desert系、4頭がStorm Cat系に属し、Zafonic系、Pivotal系、Galileo系、デインヒル系からも2頭ずつランクイン。残り2頭はヨーロッパでは傍流であるNasrullah父系に属し、特に柔軟な血筋が繋がっている点も大きな特徴。そしてこれが、日本競馬との相性の良さに繋がっていると考えることができるだろう。

~リーディングファーストシーズンサイアー(フランス)~

英愛リーディングファーストシーズンサイアーにも輝いたBlue Pointがフランスでも同タイトルを獲得。代表産駒RosallionがGIジャンリュックラガルデール賞(芝1400m)を制しており、Shamardal系らしい早熟性が当馬の強みといえるだろう。

2位City LightはSiyouni直仔のNureyev系種牡馬。自身はダイアモンドジュビリーSで2着するなどしたスプリンターだが、牝系はスタミナ十分なだけに父Siyouni同様に幅広いカテゴリーで活躍馬を輩出してくれそうだ。

3位CalyxはKingmanの後継種牡馬で、代表産駒Classic FlowerがGIIクリテリウムドメゾンラフィット(芝1200m)を制している。Green Desert系からはほかに、Soldier's Callが6位、Magna Greciaが8位、Inns of Courtが10位にランクインしており、父祖Green Desertの非凡なスピード能力と仕上がりの早さは子孫にもしっかりと継承されているようだ。

~リーディングブルードメアサイアー(フランス)~

フランスのリーディングブルードメアサイアーは母母Allegrettaの3種牡馬が上位を占める結果となった。1位Anabaa Blueは仏ダービー(芝2100m)と凱旋門賞(芝2400m)を制したAce Impactの活躍に尽きる。ほかに重賞を制した馬はおらず、たった一頭の活躍で決まってしまった形だ。2位Galileoは仏2000ギニー(芝1600m)を制したMarhaba Ya Sanafiが出てはいるが、どちらかといえば出走数の多さで稼いだ感がある。3位Sea the Starsはクイーンエリザベス2世S(芝8F)の勝ち馬で仏ダービー、ジャックルマロワ賞、ムーンランドロンシャン賞でも2着に好走したBig Rockが稼ぎ頭。

~リーディングサイアー(ドイツ)~

ドイツダービー馬Fantastic Moon、ドイツオークス馬Muskokaという牡牝のチャンピオンホースを輩出したSea the Moonが2023年のドイツリーディングサイアーに輝いた。ドイツオークスは2着馬KassadaもSea the Moonの産駒で、同種牡馬のクラシック戦線での活躍がとにかく目立つ一年だったといえるだろう。Northern Dancerの5×5しか5代内にインブリードがない点は如何にもドイツ生産馬らしく、近い将来に世界中から重宝される血になっている可能性は決して低くはなさそうだ。

2位AreionはSeattle Slewを経由しないBold Ruler系種牡馬で、2010年、13年、15年、17年と4度の独リーディングサイアーに輝いている。本馬は2022年に亡くなっており近年は大物の誕生も少なくなったが、2023年も34頭の勝ち馬が計47勝を挙げており、本馬が伝えるスピード能力は現在もドイツ競馬に大きな影響を与えている。

3位AdlerflugはSadler's Wells系In The Wingsの後継種牡馬で、Northern Dancerの3×4やMill Reefの4×4を持つ点が特徴的。2023年はオイロパ賞(芝2400m)の勝ち馬Indiaが稼ぎ頭で、同馬はバイエルン大賞でも3着と好走した。

4位Zarakは父が名種牡馬Dubawi、母が凱旋門賞などGI5勝のZarkavaという超良血馬。2023年はZagreyがバーデン大賞(芝12F)などを制している。独リーディングサイアーTOP20では最も若く、今後さらに注目度が上がりそうな良血種牡馬だ。

5位AmaronはGiant's Causeway→Shamardal系のマイラー種牡馬。さらに、母父Bertoliniも母母Luxuriousもアメリカ産馬という血統構成で、スタミナ偏重のドイツ競馬で一流とはいえない実績の北米種牡馬が成功するというケースはBig Shuffle→Areionと同様だ。産駒には北米血脈由来のスピードをしっかりと伝え、多くの勝ち馬を輩出している。

父系別では上位20頭中3頭の種牡馬が出るIn the Wings系とデインヒル系が最多。それに続き、Green Desert系、Storm Cat系、Galileo系から2頭ずつが並ぶが、バリエーションの幅を見せたフランス以上に世界的には非主流の父系の活躍が目立っており、ヨーロッパの中でも如何にドイツの生産が独特なものであるかを再確認できるランキングとなった。

~2歳・リーディングサイアー(ドイツ)~

Amaronは総合リーディングでも5位に健闘しているが、2歳部門では首位に君臨。イギリス・アイルランドでもフランスでも2歳リーディングを牽引するShamardal父系で、母方の北米血脈も仕上がりの早さと基礎スピードの高さを伝える底力となっている。

2位Areionも父系のルーツを辿ると北米の大種牡馬Bold Rulerに遡るラインで、北米血脈由来の早熟性とスピードは現在もしっかりと産駒に伝わっているようだ。

3位Holy Roman Emperorはデインヒル系の早熟短距離種牡馬。7頭が出走して勝ち上がりはGeography1頭のみだが、そのGeographyがGIIIヴィンターファヴォリテン賞(芝1600m)を勝ったことで3位にランクインした。

4位Ten SovereignsもStorm Cat系種牡馬だが、Shamardal系のAmaronとは異なり、本馬はScat Daddy→No Nay Neverの父系に属する。とはいえ、本父系もイギリス・アイルランド、フランスでも2歳リーディングサイアーの上位に複数頭がランクインしており、現在のヨーロッパの2歳戦はShamardal系とScat Daddy系がリードしているというわけだ。2023年にデビューした2歳馬は僅か2頭ながら、その中からリステッド競走フェルディナンドライステンメモリアル(芝1400m)のWikingerが出ている。

総合4位のZarakは2歳部門でも5位にランクイン。こちらも2023年のデビュー馬は2頭しかいないが、ShagaraがGIIIヴィンターケーニギン賞(芝1600m)を制して上位を確保した。

7位Study of Man、13位Saxon Warriorはディープインパクト直仔のサンデーサイレンス系種牡馬。Saxon Warriorは既に2022年BCジュベナイルターフのVictoria Roadを出しており、ディープインパクト系の海外での発展にも注目したいところだ。

~リーディングファーストシーズンサイアー(ドイツ)~

リーディングファーストシーズンサイアーの座を勝ち取ったのはTen Sovereigns。現役時代には2歳時に3連勝でミドルパークS(芝6F)を、3歳時にジュライC(芝6F)を制した快速種牡馬だ。非凡なスピードと仕上がりの早さは種牡馬としてもしっかりと産駒に継承している。

2位Study of Manはディープインパクトの後継種牡馬。2018年の仏ダービー馬で、母Second Happinessは名繁殖牝馬ラヴズオンリーミーと3/4同血の叔母にあたる間柄。リアルスティール=ラヴズオンリーユーとは血統構成がよく似ており、父系だけでなく牝系にも注目したい良血種牡馬だ。

3位Too Darn Hotはイギリス・アイルランドのファーストシーズンサイアーでも2位にランクインした有望株。母Dar Re MiはGI3勝、ドバイシーマクラシックでも日本のブエナビスタを破った名牝だ。

~リーディングブルードメアサイアー(ドイツ)~

リーディングブルードメアサイアーは昨年6位だったパントレセレブルが順位を一気に5つ上げて首位に輝いた。1年だけではあるものの日本でもリース種牡馬として繋養されたことがあるNureyev系種牡馬で、ドイツオークス(芝2200m)馬Muskokaやオイロパ賞(芝2400m)の勝ち馬Indiaがこの血を母の父に持っていることがトップの決め手となった。

2位は日本ではノヴェリストの父やソウルスターリングの母の父として知られるMonsun。Blandfordに遡ることのできる非主流父系でありながら、独リーディングサイアーに4度輝いたドイツ発の世界的名種牡馬だ。

3位Soldier HollowはSadler's Wells→In The Wingsの流れを汲む種牡馬。In The Wings系は独リーディングサイアーでも3頭がTOP20にランクインしており、ドイツでのSadler's Wells系を牽引するラインとなっている。オークストライアルディアナ賞(芝2000m)の勝ち馬でドイツオークスでも2着に好走したKassadaが2023年の代表馬。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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