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【種牡馬辞典】Nearco系

Nearco

<プロフィール>
1935年生、伊国産、14戦14勝
<主な勝ち鞍>
1938年伊2000ギニー(T1600m)
1938年伊ダービー(T2400m)
1938年パリ大賞(T3000m)
<代表産駒>
Nasrullah(1943年英チャンピオンS)
Dante(1944年ミドルパークS、1945年英ダービー)
Sayajirao(1947年愛ダービー、英セントレジャー)
ニンバス(1949年英2000ギニー、英ダービー)
<特徴>
ドルメロ牧場の血統書に「完璧な大きさの美しいバランスと偉大な資質。本質的にはステイヤーといえないにもかかわらず、3000mまでの求められた14レースのすべてを完勝した。偉大な底力と驚異的なスピードによって長距離レースをも勝った。」とあるフェデリコ・テシオ氏の最高傑作。さらに、種牡馬としては現代競馬を牽引するNasrullah、Royal Charger、Northern Dancerの父祖となり大成功を収めた。大種牡馬St. Simonを父Pharosが4×3、母父Havresacが2×3でインブリードしているのに対して、母母Catnipが同血脈を1本も持たない配合形が素晴らしい。競走馬としても種牡馬としても非の打ち所のない成績を残しており、20世紀における最も偉大なサラブレッドの一頭といえるだろう。

-Nasrullah

<プロフィール>
1940年生、英国産、10戦5勝
<主な勝ち鞍>
1943年英チャンピオンS(T10F)
<代表産駒>
Never Say Die(1954年英ダービー、英セントレジャー)
Nashua(1954年米ホープフルS、ベルモントフューチュリティS、1955年ベルモントS、プリークネスS、1955、56年ジョッキークラブGC)
Bold Ruler(1956年ベルモントフューチュリティS、1957年フラミンゴS、ウッドメモリアルS、プリークネスS)
Never Bend(1962年ベルモントフューチュリティS、米シャンペンS、1963年フラミンゴS)
<特徴>
イギリスとアメリカでリーディングサイアーに輝いた大種牡馬。現代競馬にスピード革命をもたらしたLady Josephineを3代母に持ち、同様に現代競馬のスピード面に多大なる影響を与えているThe Tetrarchとの間に産まれたのが母母Mumtaz Mahal。そして、同馬に1930年英ダービー馬Blenheimをつけたのが母Mumtaz Begumであり、さらに14戦全勝のイタリアの名馬Nearcoを父に持つのがNasrullahというわけだ。したがって、Mahmoud(父Blenheim、母母Mumtaz Mahal)やRoyal Charger(父Nearco、母母Mumtaz Begum)とは血統構成がよく似ており、それらが芝1600~2400mで見せた非凡なスピード性能は現代日本競馬における瞬発力に大きな影響を与えている。本馬自身は激しい気性がネックとなり競走馬としては大成しなかったが、Nasrullahの馬体はそれ以前のサラブレッドとは明らかに異なり、今日の日本競馬に登場しても違和感を感じないであろう筋肉量と柔軟性を有していた。上記2頭と併せて、現代日本競馬における瞬発力の源泉となっていることは間違いないだろう。

-Royal Charger

<プロフィール>
1942年生、英国産、20戦6勝
<主な勝ち鞍>
1945年英チャレンジS(T6F)
1946年クイーンアンS(T8F)
<代表産駒>
Happy Laughter(1953年英1000ギニー)
Sea Charger(1953年愛2000ギニー、愛セントレジャー)
ジルドレ(1956年英2000ギニー)
Royal Orbit(1959年プリークネスS)
<特徴>
母Sun Princessは大種牡馬Nasrullah(1943年英チャンピオンS)の半妹であり、本馬はNasrullahの3/4同血の甥。また、母はMahmoud(1936年英ダービー)とも相似な血の関係にある。現代競馬にスピード革命をもたらしたLady Josephine→Mumtaz Mahal牝系らしいスピードを武器にした反面、Nasrullahと同様に激しい気性から現役時代は距離に壁のある競走馬であった。種牡馬としては柔らかさとスピードを後世に伝え、NasrullahやMahmoudとともに現代の競走馬の瞬発力面に大きな影響を与えている。昨今の日本競馬を牽引するサンデーサイレンスもSun Princess≒Mahmoudの4・4×5からLady Josephine→Mumtaz Mahal牝系のスピードを豊富に受け継いでおり、サンデーサイレンス系の爆発的な瞬発力は本馬由来ともいえるだろう。

-Dante

 <プロフィール>
1942年生、英国産、9戦8勝
<主な勝ち鞍>
1944年ミドルパークS(T6F)
1945年英ダービー(T12F)
<代表産駒>
Darius(1954年英2000ギニー、St.ジェームズパレスS、1955年エクリプスS)
Carrozza(1957年英オークス)
Discorea(1959年愛オークス)
<特徴>
名繫殖牝馬Pocahontasに遡る牝系に属し、半兄に日本で種牡馬として活躍したハロウエー、全弟に英セントレジャー馬Sayajirao(1947年愛ダービー、英セントレジャー)などがいる良血馬。母母Rosy CheeksがSt. Simonの3×4、母Rosy LegendがSt. Simonとその仔St. Serfのラインについて二重の累進交配。さらに、父NearcoもSt. Simonを5・4×4・5でインブリードしており、本馬は大種牡馬St. Simonの血を豊富に引いたスタミナ豊富な英ダービー馬であった。現在はHawaiiやHigh Topの父祖として血統表の奥で見かけることが多い。

----Hawaii

 <プロフィール>
1964年生、南阿国産、28戦21勝
<主な勝ち鞍>
1969年マンノウォーS(T12F)
<代表産駒>
Hawaiian Sound(1978年ベンソン&ヘッジズGC)
Henbit(1980年英ダービー)
<特徴>
米最優秀芝馬に輝いた南アフリカ競馬史を代表する最強馬。父父Toulouse Lautrecも父Utrilloも日本では馴染みのない種牡馬だが、Toulouse Lautrecはイタリアで、Utrilloは南アフリカでそれぞれリーディングサイアーに輝いている。また、母Ethaneは1968年チャンピオンSで本馬を破った半兄William Pennも出した優秀な繁殖牝馬で、Tetratema≒La Mauriの3×3が特徴的。本馬もLady JosephineやThe Tetrarchからスピード資質を受け継ぎつつ、父系由来の豊富なスタミナも兼備。本馬を5×5でインブリードするソラリア(2014年エルダービー)、その仔カレンブーケドール(2019年オークス2着、秋華賞2着、ジャパンC2着)の豊富なスタミナは本馬の支えがあってこそであり、ヨハネスブルグ産駒ながらダート中距離で活躍したナムラカメタロー(2020年佐賀記念)も本馬のインブリードがスタミナ源となっている。

----High Top

 <プロフィール>
1969年生、英国産、10戦5勝
<主な勝ち鞍>
1971年オブザーバーGC(T8F)
1972年英2000ギニー(T8F)
<代表産駒>
Top Ville(1979年リュパン賞、仏ダービー)
Cut Above(1981年英セントレジャー)
Circus Plume(1984年英オークス、ヨークシャーオークス)
<特徴>
1972年英2000ギニーでRobertoを完封した芝マイラー。頭が高く、前捌きの硬い走りが特徴的で、High Top産駒の母から生まれたオペラハウス(1993年コロネーションC、エクリプスS、キングジョージⅥ&QEDS)の硬さは本馬の影響でもあるだろう。種牡馬としてはCut Above(1981年英セントレジャー)などの長距離馬を多数輩出。日本ではオペラハウスやタートルボウル、名繁殖牝馬ハッピートレイルズの母系でその名を見ることが多い。

-----Top Ville

 <プロフィール>
1976年生、愛国産、10戦6勝
<主な勝ち鞍>
1979年リュパン賞(T2100m)
1979年仏ダービー(T2400m)
<代表産駒>
サンテステフ(1986年コロネーションC)
Shardari(1986年英インターナショナルS)
Toulon(1991年英セントレジャー)
<特徴>
High Topの最優良後継種牡馬。母母La Segaは1962年仏1000ギニー、仏オークスなどを制した名牝で、母Sega Villeも仏GⅢフロール賞などを制している。High Top産駒ではあるが父のような硬さはなく、フランス産馬らしいしなやかなフットワークが印象的。種牡馬としてもサンテステフ(1986年コロネーションC)などを出して成功を収めたが、繁殖牝馬の父としてはMontjeuの誕生に貢献するなどさらに大きな成功を収めており、輸入種牡馬タートルボウルも本馬を母の父に持つ一頭だ。

-Nearctic

<プロフィール>
1954年生、加国産、47戦21勝
<主な勝ち鞍>
1956年サラトガスペシャルS(D6F)
1958年ミシガンマイルH(D8F)
<代表産駒>
Northern Dancer(1964年ケンタッキーダービー、プリークネスS)
Icecapade(1973年ウイリアムデュポンJr.H)
ノノアルコ(1974年英2000ギニー、ジャックルマロワ賞)
<特徴>
競走馬としてもカナダとアメリカで短距離~マイルを中心に活躍したスピード馬であったが、現代競馬への貢献度という点においては大種牡馬Northern Dancer(1964年ケンタッキーダービー、プリークネスS)を輩出したことが何よりも大きい。その他にもIcecapade(1973年ウイリアムデュポンJr.H)やノノアルコ(1974年英2000ギニー、ジャックルマロワ賞)らを輩出し、カナダでは7度のリーディングサイアーにも輝いた。ケンブリッジ大学の報告によれば、短距離適性であるミオスタチン遺伝子「C-アレル」を広めた起爆剤が本馬であったという。Northern Dancer以外の後継種牡馬については本馬と同様に主にスピードを伝える種牡馬として活躍した。

--Icecapade

<プロフィール>
1969年生、米国産、32戦13勝
<主な勝ち鞍>
1973年ウイリアムデュポンJr.H(D8.5F)
<代表産駒>
Hyperborean(1983年スワップスS)
Wild Again(1984年メドウランズC、BCクラシック)
Ski Champ(1991年5月25日大賞)
<特徴>
名牝Ruffian(1975年エイコーンS、マザーグースS、CCAオークス)の半兄。父Nearcticと同様に短距離~マイルを中心に活躍し、種牡馬としてもWild Again(1984年メドウランズC、BCクラシック)などのGⅠホースを輩出して成功を収めた。Nearctic×Native Dancerは大種牡馬Northern Dancerと同じであるが、母母に名繁殖牝馬Almahmoudを持つ同馬とは異なり、本馬はワンペースなスピードとパワーが持ち味である。

---Clever Trick

 <プロフィール>
1976年生、米国産、29戦18勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
Phone Trick(1986年サンカルロスH、ボールドルーラーS、トゥルーノースH)
Tricky Creek(1988年ケンタッキージョッキークラブS)
Anet(1997年デルマーダービー)
<特徴>
重賞タイトルは手にしていないが、ダート8F以下で18勝を挙げた快速馬。母Kankakee Missが欧米混血のアウトブリード馬のため、本馬は父Icecapadeのスピードとパワーを主に受け継いでいる。種牡馬としても北米種牡馬らしいパワースピードを産駒に伝え、最優良後継種牡馬であるPhone Trick(1986年サンカルロスH、ボールドルーラーS、トゥルーノースH)や日本でも種牡馬生活を送ったビシヨツプボブなども父譲りのスピードを子孫に伝えた。

---Wild Again

<プロフィール>
1980年生、米国産、28戦8勝
<主な勝ち鞍>
1984年メドウランズC(D10F)
1984年BCクラシック(D10F)
<代表産駒>
Elmhurst(1997年BCスプリント)
ワイルドラッシュ(1998年カーターH、メトロポリタンH)
Sarava(2002年ベルモントS)
<特徴>
第1回BCクラシック優勝馬。父Icecapadeから非凡なスピードを受け継ぎつつ、Nearcoの3×4やHyperionの4×3からスタミナ面を強化。瞬発力に欠くが、先行力と終盤でバテない粘り強さが魅力。最優良後継種牡馬であるワイルドラッシュ(1998年カーターH、メトロポリタンH)の代表産駒トランセンドはまさにその特徴を体現した競走馬であり、母の父に本馬を持つパイロの産駒にもその影響を強く感じる。

----ワイルドラッシュ

 <プロフィール>
1994年生、米国産、16戦8勝
<主な勝ち鞍>
1998年カーターH(D7F)
1998年メトロポリタンH(D8F)
<代表産駒>
Hollywood Story(2003年ハリウッドスターレットS、2006年ヴァニティH)
Stellar Jayne(2004年マザーグースS、ガゼルH、2005年ラフィアンH)
トランセンド(2010、11年ジャパンCダート、2011年フェブラリーS、マイルCS南部杯)
<特徴>
Wild Againの代表産駒の一頭であり、最優良後継種牡馬。3歳時は1997年イリノイダービーを制した程度だったが、4歳になって1998年カーターH、メトロポリタンHを連勝してGⅠ馬の仲間入り。さらに、種牡馬としてはアメリカでHollywood Stor(2003年ハリウッドスターレットS、2006年ヴァニティH)、Stellar Jayne(2004年マザーグースS、ガゼルH、2005年ラフィアンH)などを出して、日本でもトランセンド(2010、11年ジャパンCダート、2011年フェブラリーS、マイルCS南部杯)やパーソナルラッシュ(2004年ダービーグランプリ)を輩出。Hyperionの5・4×7・6で父の長所を継承しており、父同様にダートのマイル以上で粘り強い産駒を数多く生み出した。代表産駒トランセンド(2010、11年ジャパンCダート、2011年フェブラリーS、マイルCS南部杯)はまさにその特徴を体現した競走馬である。

--Northern Dancer

<プロフィール>
1961年生、加国産、18戦14勝
<主な勝ち鞍>
1964年フロリダダービー(D9F)
1964年ケンタッキーダービー(D10F)
1964年プリークネスS(D9.5F)
<代表産駒>
Nijinsky(1969年デューハーストS、1970年英2000ギニー、英ダービー、愛ダービー、キングジョージⅥ&QEDS、英セントレジャー)
The Minstrel(1976年デューハーストS、1977年英ダービー、愛ダービー、キングジョージⅥ&QEDS)
El Gran Senor(1983年デューハーストS、1984年英2000ギニー、愛ダービー)
セクレト(1984年英ダービー)
<特徴>
20世紀で最も成功した大種牡馬。母Natalmaは名種牡馬Haloの母Cosmahの半妹であり、デインヒルやMachiavellian、バゴなど多くの活躍馬をそのラインから出した名繁殖牝馬である。そこに短距離適性に繋がる「C-アレル」を爆発的に広めたと言われるNearcticを父に持ち、本馬は小柄ながらも豊富な筋肉量を有していた。早熟性とスピードを子孫に伝えた反面、同世代の種牡馬との比較ではスタミナ面でやや劣り、自身もベルモントSでは直線で失速して3着と敗れている。とはいえ、Gainsboroughの4×5などから潜在的なスタミナは受け継いでおり、特にHyperionを増幅した配合からはセクレト(1984年英ダービー)やEl Gran Senor(1983年デューハーストS、1984年英2000ギニー、愛ダービー)、Sadler's Wells(1984年愛2000ギニー、エクリプスS、フェニックスチャンピオンS)など多くの中長距離馬が出ている。欧米を中心に成功を収め、後継種牡馬たちも次々と活躍。現在も父系は衰えることなく、世界中で本馬を父祖に持つ馬たちがチャンピオンに輝いている。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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