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【種牡馬辞典】Nureyev系・Night Shift系・Fairy King系

Nureyev

<プロフィール>
1977年生、米国産、3戦2勝
<主な勝ち鞍>
1979年トーマスブライアン賞(T1500m)
<代表産駒>
Theatrical(1987年ハイアリアターフC、ボーリンググリーンH、ソードダンサーH、ターフクラシックS、マンノウォーS、BCターフ)
Miesque(1986年サラマンドル賞、マルセルブサック賞、1987年英1000ギニー、仏1000ギニー、ムーランドロンシャン賞、1987、88年ジャックルマロワ賞、BCマイル、1988年イスパーン賞)
スピニングワールド(1996年愛2000ギニー、1996、97年ジャックルマロワ賞、1997年ムーランドロンシャン賞、BCマイル)
パントレセレブル(1997年仏ダービー、パリ大賞、凱旋門賞)
ブラックホール(1999年スプリンターズS、2001年安田記念)
<特徴>
キャリア3戦で臨んだ英2000ギニーで1位入線するも、進路妨害のため失格。さらに、熱発により英ダービーも断念。結局、再びターフに姿を見せることなく引退となった悲運の名馬だ。3代母Rough Shodから広がる名牝系の出で、特に母Specialの分岐は現代競馬に多大な影響を与えた。本馬以外でも、半姉Fairy Bridgeは繁殖牝馬としてSadler's Wells(1984年愛2000ギニー、エクリプスS、フェニックスチャンピオンS)やTate Gallery(1985年愛ナショナルS)、種牡馬Fairy Kingなど活躍馬を多数輩出。3/4同血の妹Numberも繁殖牝馬としてジェイドロバリー(1989年仏グランクリテリウム)などを出し、2017年最優秀ダートホース・ゴールドドリームも4代母に同馬を持つ。母母父Nantallahのパワー、母父ForliのLady Juror的持続力、Mahmoud≒Mumtaz Begumの4×5のMumtaz Mahal的スピードや瞬発力、Hyperionの4×4のスタミナ、と弱点の少ないオールラウンド種牡馬で、世界各国で芝とダートを問わず、スプリンターから凱旋門賞馬まで多様な活躍馬を輩出した。ただ、Royal Charger系やNasrullah系の日本の主流種牡馬との比較では瞬発力に劣るため、日本においてはパワーや機動力、持続力などが表面化されることが多い。代表例にはエリザベス女王杯優勝馬ながらダートGⅠでも活躍した名牝トゥザヴィクトリーの名が挙がり、仔トゥザグローリー=トゥザワールドが有馬記念で人気薄ながら好走したこともNureyevの4×3が最大の後押しとなっている。Sadler's Wells=Fairy KingやNumberなどとは相似な血の関係にあり、Nureyevらしさを増幅する効果が見込める。

-Theatrical

<プロフィール>
1982年生、愛国産、22戦10勝
<主な勝ち鞍>
1987年ハイアリアターフC(T12F)
1987年ボーリンググリーンH(T11F)
1987年ソードダンサーH(T12F)
1987年ターフクラシックS(T12F)
1987年マンノウォーS(T11F)
1987年BCターフ(T12F)
<代表産駒>
ヒシアマゾン(1993年阪神3歳牝馬S、1994年エリザベス女王杯)
ザグレブ(1996年愛ダービー)
Royal Anthem(1998年カナディアンインターナショナルS、1999年英インターナショナルS)
<特徴>
5歳時に1987年BCターフなど芝11~12FGⅠを6勝し、同年北米芝牡馬チャンピオンに輝いた晩成型中長距離馬。母母Sensibilityの半兄にプリンスロイヤル(1964年ミラノ大賞、凱旋門賞)がいる牝系で、本馬の半弟にはタイキブリザード(1997年安田記念)や種牡馬Victory Danceなどがいる。馬体のアウトラインは父Nureyevによく似ており、BCターフでの早め先頭からの二枚腰の末脚はまさにHyperionやLady Jurorから受け継ぐ粘り強さを表現した走りであった。引退後もアメリカで種牡馬生活を送り、世界中でGⅠ馬を輩出。日本でもヒシアマゾン(1993年阪神3歳牝馬S、1994年エリザベス女王杯)などが活躍したほか、ザグレブ(1996年愛ダービー)なども種牡馬として日本に輸入され、同馬はコスモサンビーム(2003年朝日杯FS)やコスモバルク(2006年シンガポールインターナショナルC)などを輩出して成功を収めた。

--Pivotal

<プロフィール>
1993年生、英国産、6戦4勝
<主な勝ち鞍>
1996年ナンソープS(T5F)
<代表産駒>
Halfway To Heaven(2008年愛1000ギニー、ナッソーS、サンチャリオットS)
Sariska(2009年英オークス、愛オークス)
Buzzword(2010年独ダービー)
Farhh(2013年ロッキンジS、英チャンピオンS)
Addeybb(2020年ランヴェットS、英チャンピオンS、2020、21年クイーンエリザベスS)
<特徴>
Nureyev系Polar Falcon産駒の短距離馬で筋骨隆々、かつ寸詰まりの馬体はまさにスプリンターのそれ。父譲りのスピードを武器に芝5F戦の1996年ナンソープSを制した。種牡馬としても多くの短距離馬を出したが、Sariska(2009年英オークス、愛オークス)やBuzzword(2010年独ダービー)といった中長距離も多数輩出。母母Stufidaが1984年リディアテシオ賞を制したBustino産駒の中距離GⅠ馬で、潜在的なスタミナは備えていたということだろう。さらに、5代アウトブリード、かつ欧米混血馬であるため、肌馬の良さを引き出す種牡馬であったともいえる。組み合わせる血統によって様々な面を見せ、世界中で数多くのGⅠ馬を輩出した。

---Siyouni

<プロフィール>
2007年生、仏国産、12戦4勝
<主な勝ち鞍>
2009年ジャンリュックラガルデール賞(T1400m)
<代表産駒>
Ervedya(2015年仏1000ギニー、コロネーションS、ムーランドロンシャン賞)
Laurens(2017年フィリーズマイル、2018年サンタラリ賞、仏オークス、愛メイトロンS、サンチャリオットS、2019年ロートシルト賞)
Sottsass(2019年仏ダービー、2020年ガネー賞、凱旋門賞)
St Mark's Basilica(2020年デューハーストS、2021年仏2000ギニー、仏ダービー、エクリプスS、愛チャンピオンS)
<特徴>
競走馬としては2歳GⅠジャンリュックラガルデール賞を制した程度だが、種牡馬としてはSottsass(2019年仏ダービー、2020年ガネー賞、凱旋門賞)などを出して2020、21年仏リーディングサイアーに輝いた名種牡馬。母SichillaはSlickly(1999年パリ大賞、2001年ムーランドロンシャン賞、2001、02年ヴィットリオディカプア賞)の半妹で、母自身はNearcticの4×4を持つデインヒル産駒。繁殖牝馬として本馬のほかにもシユーマ(2012年サンチャリオットS、EPテイラーS)などを出しており、本馬は父Pivotalからも非凡なスピードを受け継いでいる。種牡馬としては父と同じく重厚なヨーロッパ血統にスピードを与えており、芝の短距離~中距離路線で活躍する産駒が多い。

-スピニングワールド

<プロフィール>
1993年生、米国産、14戦8勝
<主な勝ち鞍>
1996年愛2000ギニー(T8F)
1996年ジャックルマロワ賞(T1600m)
1997年ジャックルマロワ賞(T1600m)
1997年ムーランドロンシャン賞(T1600m)
1997年BCマイル(T8F)
<代表産駒>
Special Harmony(2003年豪1000ギニー、VRCオークス、2004年アローフィールドスタッドS)
Spinning Queen(2006年サンチャリオットS)
Heavenly Glow(2008年豪オークス、アローフィールドスタッドS)
<特徴>
1997年BCマイルなど欧米で芝マイルGⅠを5勝したフランスの名マイラー。4代母Best in Showに遡る名牝系であり、母母Avianceは1984年フェニックスSを制したGⅠ馬、母Imperfect Circleも1990年チェヴァリーパークS2着の活躍馬だ。母がNasrullah≒Royal Chargerの3×6、本馬がNasrullah≒Royal Chargerの5×4・7やNorthern Dancerの2×4などを持つスピード豊富な配合形。筋肉量豊富なマイラーで、立ち肩でやや頭の高い走りは父Nureyevによく似ている。種牡馬としては大物こそ少なかったが、各国でコンスタントに活躍馬を輩出。2000年には日本でもリース供用され、ブルードメアサイアーとして2014年オークス馬ヌーヴォレコルトの誕生にも貢献した。

-パントレセレブル

<プロフィール>
1994年生、米国産、7戦5勝
<主な勝ち鞍>
1997年仏ダービー(T2400m)
1997年パリ大賞(T2000m)
1997年凱旋門賞(T2400m)
<代表産駒>
Dai Jin(2003年独ダービー、クレディスイスプライヴィットバンキングポカル)
Castledale(2004年サンタアニタダービー、2005年シューメイカーBCマイルS)
Pride(2006年サンクルー大賞、英チャンピオンS、香港C)
<特徴>
3歳時に1997年仏ダービー、パリ大賞、凱旋門賞を制し、同年欧州年度代表馬、最優秀3歳牡馬に輝いたNureyevの代表産駒の一頭。特に、凱旋門賞では従来のレコードタイムを1.7秒更新しており、この記録は2011年まで破られることはなかった。母母Petroleuse、母Peinture Bleueもともに重賞勝ち馬であり、母母がRoyal Charger≒Nasrullahの4×4、母がNasrullah≒Royal Chargerの4×5・5とMumtaz Mahal系の瞬発力を継続。Nureyev産駒の中でも特に瞬発力に優れた馬であったことはここに起因し、凱旋門賞での末脚はまさにその美点が発揮された走りであった。

-ストラヴィンスキー

<プロフィール>
1996年生、米国産、8戦3勝
<主な勝ち鞍>
1999年ジュライC(T6F)
1999年ナンソープS(T5F)
<代表産駒>
Balmont(2003年ミドルパークS)
Soldier's Tale(2007年ゴールデンジュビリーS)
Benbaun(2007年アベイドロンシャン賞)
<特徴>
1999年欧州最優秀短距離馬に輝いたNureyev産駒のスプリンター。1966年ケンタッキーオークス馬Native Streetを3代母に持ち、母母Prospector's FireはNative Dancerの3×2という野心的な配合形。その仔にはドージング(1988年スプリントC)とFire the Groom(1991年ビヴァリーDS)という2頭のGⅠ馬がおり、後者の2番仔が本馬である。Native Dancerの4×5・4が中心の配合形で、四肢が短く、筋肉量豊富。種牡馬としても多くのスプリントGⅠ馬を輩出し、2006年からは日本を拠点に種牡馬生活を送った。

Night Shift

<プロフィール>
1980年生、米国産、7戦1勝
<主な勝ち鞍>
 -
<代表産駒>
In the Groove(1990年愛1000ギニー、英インターナショナルS、英チャンピオンS、1991年コロネーションC)
Daryaba(1999年仏オークス、ヴェルメイユ賞)
Azamour(2004年St.ジェームスパレスS、愛チャンピオンS、2005年プリンスオブウェールズS、キングジョージⅥ&QEDS)
<特徴>
Bull Dog=Sir Gallahadを2×3でインブリードするReplyから繋がる牝系で、母母Windy Answerと母Cibouletteは現役時代にそれぞれ10勝以上を挙げた活躍馬。本馬自身は7戦1勝で引退となったが、全姉Fanfreluche(1970年アラバマS)が競走馬としても繁殖牝馬としても成功していたことから種牡馬入りとなり、本馬もAzamour(2004年St.ジェームスパレスS、愛チャンピオンS、2005年プリンスオブウェールズS、キングジョージⅥ&QEDS)を筆頭に多くのGⅠ馬を輩出して成功を収めた。ノーザンテーストとはNorthern Dancer、Chop Chop、Windfieldsなどが共通。Night Shift≒ノーザンテーストの相似クロスからはアンデスクイーン(2019年レディスプレリュード、2020年エンプレス杯)やタイセイビジョン(2019年京王杯2歳S)など活躍馬が複数出ている。

--タートルボウル

<プロフィール>
2002年生、愛国産、21戦7勝
<主な勝ち鞍>
2005年ジャンプラ賞(T1600m)
<代表産駒>
French Fifteen(2011年クリテリウムインターナショナル)
Lucayan(2012年仏2000ギニー)
<特徴>
3代母Shahinaazは1968年ロワイヤリュー賞2着など芝長距離路線で活躍し、母母KamiyaはNasrullah=Rivazの4・4×4とPrince Bioの3×3を内包。母Clara Bowは1979年仏ダービー馬Top Villeを父に配し、母として本馬のほかに2009年パリ大賞と2010年アスコットGCで2着のAge of Aquariusなどを出している。本馬は短距離種牡馬Dyhim Diamondを父に配し、2005年ジャンプラ賞などマイル路線で活躍。種牡馬としてはフランスと日本で種牡馬生活を送り、欧米混血馬らしく芝とダートを問わず、短距離から長距離まで幅広いカテゴリーで活躍馬を出した。現在の主流血脈をほとんど持たないため、今後は異系血脈として血統表にスパイスを与えてくれるだろう。

Fairy King

<プロフィール>
1982年生、米国産、1戦0勝
<主な勝ち鞍>
-
<代表産駒>
エリシオ(1996年リュパン賞、凱旋門賞、1996、97年サンクルー大賞、1997年ガネー賞)
オース(1999年英ダービー)
ファルブラヴ(2002年伊共和国大統領賞、ミラノ大賞、ジャパンC、2003年イスパーン賞、エクリプスS、英インターナショナルS、クイーンエリザベスⅡ世S、香港C)
<特徴>
大種牡馬Sadler’s Wellsの全弟。血統構成は当然Sadler’s Wellsと同じであるが、馬体面では叔父Nureyevに近く、Sadler’s Wellsよりもスピードやパワーに優れた種牡馬であった。とはいえ、Hyperionの4×5由来のスタミナは内包しており、エリシオ(1996年リュパン賞、凱旋門賞、1996、97年サンクルー大賞、1997年ガネー賞)やオース(1999年英ダービー)、ファルブラヴ(2002年伊共和国大統領賞、ミラノ大賞、ジャパンC、2003年イスパーン賞、エクリプスS、英インターナショナルS、クイーンエリザベスⅡ世S、香港C)のような中長距離馬も輩出。オーストラリアでも枝葉を広げており、Nureyevと同じく多様性のある種牡馬だったといえるだろう。Royal Charger系やNasrullah系の日本の主流種牡馬との比較では瞬発力に劣るため、日本においてはパワーや機動力、持続力などが表面化されることが多い。ファルブラヴ産駒アイムユアーズはFairy King=Sadler’s Wells≒Nureyevの2×5・4を持ち、洋芝のクイーンSを連覇。力の要る馬場もタフな競馬も苦にしない馬力と底力は、少なからず本馬の特徴を受け継いだ証といえるだろう。

-エリシオ

<プロフィール>
1993年生、仏国産、13戦8勝
<主な勝ち鞍>
1996年リュパン賞(T2100m)
1996年サンクルー大賞(T2400m)
1996年凱旋門賞(T2400m)
1997年ガネー賞(T2100m)
1997年サンクルー大賞(T2400m)
<代表産駒>
Helenus(2002年コーフィールドギニー、ヴィクトリアダービー、2003年ローズヒルギニー)
ヘルスウォール(2002年チューリップ賞)
ポップロック(2006、07年目黒記念)
<特徴>
大種牡馬Sadler’s Wellsの全弟であるFairy Kingの代表産駒。1996年凱旋門賞でピルサドスキーらを完封した走りは圧巻であり、同年カルティエ賞では年度代表馬、最優秀3歳牡馬、最優秀3歳馬のタイトルを獲得した。引退後は日本で種牡馬入りしたが、ヘルスウォール(2002年チューリップ賞)やポップロック(2006、07年目黒記念)を出した程度で不発。近親に一流馬がほとんどいない牝系でもあり、繁殖能力については期待通りとはいかなかった。父の代表産駒の一頭であり、同じく日本で種牡馬入りしたファルブラヴとはFairy King×Slewpyという同じ組み合わせである。

-Encosta de Lago

<プロフィール>
1993年生、豪国産、8戦3勝
<主な勝ち鞍>
1996年ヴィクヘルスC(T1400m)
<代表産駒>
アリンギ(2004年ブルーダイヤモンドS、豪1000ギニー、2005年ニューマーケットH、ロバートサングスターS)
Racing To Win(2006年ジョージライダーS、ドンカスターマイルH、ジョージメインS、エプソムH)
Sacred Kingdom(2007、09年香港スプリント)
<特徴>
オーストラリアと香港でリーディングサイアーに輝いたFairy King系種牡馬。Reply→Windy Answer→Cibouletteに遡る名牝系で、4代母Fanfrelucheは1970年アラバマSを制覇。種牡馬として成功したNight Shiftの全姉でもあり、繁殖牝馬としても1974年ローレルフューチュリティS勝ち馬L'Enjoleurなどを出している。本馬の母Shoal Creekは平凡な競走馬だったが、半弟Flying Spurは1995年ゴールデンスリッパーSなどGⅠ3勝を挙げ、2006/07年豪リーディングサイアーにも輝いた超一流馬。本馬も競走馬としては1996年ヴィクヘルスCを制した程度だが、種牡馬としては数多くのGⅠ馬を輩出して大成功を収めた。Northern Dancerの2×5という濃いインブリードを持つが、母父Star Wayが主流血脈を持たない異系種牡馬というバランスのいい配合形。自身と同じマイル以下での活躍馬を多く出し、日本でもUltra Fantasyが2010年スプリンターズSを制している。


≪坂上 明大(Sakagami Akihiro)≫
 1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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