ありがとうとお疲れ様(田村明宏)/週刊トレセン通信
今週号の弊誌170ページにリーディング・ジョッキーが掲載されている。先週までの時点で100勝を達成しているのはルメール、川田将、戸崎圭、松山弘の4名。あとのトップ10までの名前は概ね常連でいつもと変わらない情景に映るが、先週に関して言えば日米でブリーダーズカップが開催されて特に上位騎手の不在が目立った。JRAではG1開催の谷間でもあってやや淋しい感じもあったが、今週からは年末まで連続して大レースがあるのでそんな感情も忘れさせてくれるだろう。ただ、それ以上に気になったのが右ページの中団あたりに記載されている参考の欄だ。
括弧書きで本年途中引退などと書かれている括りの中には短期免許で騎乗していた外国籍騎手や既に違う道に転身した騎手に混じって既に他界された騎手の名前もあった。事故が起きた時点では信じられないという気持ちと絶対に忘れないという思いがあったにも関わらず、今ではあれは今年のことだったんだと気付く自分がいる。まだ、今年1年を振り返るには早いが、本当にいろんなことがあり過ぎた。その中で一番、最近のケースは10月11日に急きょ、引退を発表した藤田菜七子騎手だ。
デビューしたのは2016年。当時はJRAで16年ぶりの女性騎手誕生ということもあって想像を絶するようなフィーバーが起こっていた。例年、3月初頭から新人騎手がデビューするので弊誌でも2月末には紹介記事を掲載する。当時、私は彼女が所属する根本厩舎を取材していた縁もあって彼女の取材に関して師匠の許可を得ようと思っていたが、あまりに加熱する報道合戦もあって敢えて直接、取材を遠慮した記憶がある。現在のように菜七子騎手の後輩女性騎手が何人もいる状況ならそんなことをする必要もないが、当時は外野の私でも本当に大丈夫だろうか?と心配していたくらいだ。だが、いざデビューしてみるとまったくの取り越し苦労で彼女が元々、持っていた負けん気の強さもあって期待通り、いやそれ以上の活躍を見せてくれた。海外遠征や女性騎手初の重賞制覇など数え上げれば切りがないほどの記録も残したが、やはり一番の功績はその後の女性騎手達に与えた希望だろう。
今回の引退発表になったきっかけは制裁に関するもので取材力不足もあって詳細は分からずひと言で言えば残念としか言いようがない。何となくモヤモヤした気分が残ったのは否めないが、それでも彼女が競馬ファンに見せた夢や希望は決して色褪せるものではないと思っている。だから彼女だけでなく引退された騎手の方々にはあらためて「ありがとうとお疲れ様」を言いたい。
美浦編集局 田村明宏
本稿は2024年11月6日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。
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