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血統閑談#015 サンデーサイレンスのブリテン島進出(水野隆弘)/週刊トレセン通信

 9月16日に英国ドンカスター競馬場で行われた英セントレジャーG1(芝14F115yds.)を日本生まれのハーツクライ産駒コンティニュアス Continuous(牡、2020年生、母フラッフIRE、母の父Galileo)が勝ちました。直線で抜け出す姿は父の走り方によく似て見えました。コンティニュアスは母フラッフが愛で4戦1勝の後に日本へと渡り、ノーザンファームに預託され、その後、パカパカファームに移って2年目の産駒として生まれました。2歳8月にデビュー戦を勝つと、9月にフランスのドーマスブライアン賞G3も勝って2戦2勝で2歳戦を終了。3歳上半期はダンテSG2で3着、仏ダービーG1で8着、キングエドワード7世SG2で2着と素質は示しながら勝ち切れませんでしたが、8月のグレイトヴォルティジュールSG2を最後方から差して突き放し、英セントレジャーG1勝利につなげました。ハーツクライ産駒の海外でのG1勝ち馬にはアドマイヤラクティ、ジャスタウェイ、リスグラシュー、ヨシダらがいますが、欧州のG1、中でも英国のクラシック制覇は初めてのことでした。

 この勝利により、長い伝統を誇る英国の5つのクラシック(1000ギニーG1、2000ギニーG1、オークスG1、ダービーG1、セントレジャーG1)をサンデーサイレンスの直系孫が制覇するという快記録が達成されました。

 サンデーサイレンスの血の欧州への進出はさほど新しいことではなく、1996年に生まれの社台ファーム生産馬サンデーピクニックがフランスで1999年5月のクレオパトル賞G3に勝っています。その後もモハメド殿下はサイレントオナーやサンドロップ、レイマンらを生産し、ヴェルテメール兄弟のサイレントネームはBCマイルG1で3着の成績を収め種牡馬となっています。欧州の大オーナーブリーダーは結構早くからサンデーサイレンスの血に注目し、実際に良血の箱入り娘を種付けのために日本へ送り込んでいたのです。

 英国クラシックの話に戻ると、最初に成果を上げたのは高松宮記念2着など短距離で活躍したディヴァインライトの産駒ナタゴラ Natagora(牝、2005年生、フランス産、母Reinamixa、母の父Linamix)でした。フランスで種牡馬となったディヴァインライトの娘として同国で生まれたナタゴラは仏英で2歳時に7戦してチェヴァリーパークSG1、ロベールパパン賞G2など5勝を挙げ、2007年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれました。翌年はリステッドのアンプルダンス賞に勝って英1000ギニーに臨むと、1番人気に応えて好位から抜け出しました。

 その後、ディープインパクトの時代になると、いち早くその元に牝馬を送り込んだヴィルデンシュタイン家は初年度からG3・2着のバロッチ、2年目に仏1000ギニーG1勝ち馬ビューティーパーラーと大きな成果を上げました。

 アイルランドのクールモアグループもそれを追うようにディープインパクトの元に名牝たちを送り込みました。ナタゴラ以来絶えていたサンデーサイレンス系の英国クラシック制覇はそこから怒涛の勢いで再開しました。サクソンウォリアー Saxon Warrior(牡、2015年生、日本産、父ディープインパクト、母メイビーIRE、母の父Galileo)は2018年の英2000ギニーG1を制して、その産駒はもう欧米や日本でデビューして、ヴィクトリアロード Victoria Road(牡、2020年生、愛国産)がBCジュヴェナイルターフG1に勝ったのをはじめ、続々と活躍馬が現れています。早世したスノウフォール Snowfall(牝、2018年生、日本産、父ディープインパクト、母ベストインザワールドIRE、母の父Galileo)は2021年の英オークスG1を空前の16馬身差で制しました。オーギュストロダン Auguste Rodin(牡、2020年生、アイルランド産、父ディープインパクト、母ロードデンドロンIRE、母の父Galileo)は現在進行形で活躍していますが、英2000ギニーG1で大敗したあと、英ダービーG1を素晴らしい末脚で差し切りました。これは種牡馬ディープインパクトの記念すべきG1・100勝目でもありました。同馬はその後、愛ダービーG1、愛チャンピオンSG1にも勝ち、今後の動向が注目されるチャンピオンの1頭となっています。

 そして、前述の通りコンティニュアスが英セントレジャーG1を制覇しました。ナタゴラを除く4頭のうち3頭は日本生まれですが、正しい意味での「生産者=Breeder」はいずれもアイルランドのクールモアグループです。しかも母の父は4頭ともガリレオです。クールモアグループの名馬名牝の間でガリレオやデインヒルの血が飽和状態に達していることの突破口がサンデーサイレンス系に求められたというわけです。ディープインパクトもハーツクライも既に死んでしまったので、答えを得るのが遅かった嫌いはありますが、後継者が手に入ったわけですから、遅すぎるということではありませんでした。

 名馬・名牝のほとんどにサンデーサイレンスの血が入った日本にとってはヒントになると同時に、大きな課題を突き付けられているということにもなるのでしょう。


水野隆弘(調教・編集担当)

昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。毎年の夏の大仕事である「合同フリーハンデ」がこのあいだ終わったと思ったら、もう秋のG1シリーズに突入しました。このまま暮れまで突っ走ってあっという間に正月を迎えそうで、本当に年を追うごとに1年が過ぎるのが早くなる印象です。この調子でどんどん加速するとそのうち盆と正月が一緒に来るのではないでしょうか。

本稿は2023年10月4日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。

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