なるか5度目の正直(田村明宏)/週刊トレセン通信
5月12日に行われたヴィクトリアマイルで勝利ジョッキーになったのは津村騎手でした。デビューから21年目。JRAのG1では48回目の騎乗で初勝利でした。キャリアからすると中堅から既にベテランと言っていいくらいでこれまでの活躍からするとGⅠもとっくに勝っていておかしくないだけの技術の持ち主でした。東西を問わず、多くの関係者から信頼され普段から接していても人柄の良さは伝わっていただけにレース後の涙のインタビューは見ているこちらもホロッとさせられるものでした。勝ったテンハッピーローズはこれまでGⅠはおろか重賞でも実績がなかっただけに今回は完全に人気の盲点でしたが、2着に1馬身4分の1の着差通り完勝と言って内容でした。
一方、今回は2着に終わりましたが、ハイペースを正攻法で先行。負けはしましたが、強い内容だった思わせたのは国枝厩舎のフィアスプライドでした。今とはなっては残り少ないディープインパクト産駒の6歳馬。過去のこのレースではあまり好走例がないパターンで同馬も事実、前走の中山牝馬Sの直後は繁殖入りも検討されたほどでした。2歳の暮れにデビューしたものの体質の弱さがあって初勝利をあげたのは3歳6月の東京で既に春のクラシックは終了していました。その後も爪にウィークポイントがあってなかなか順調には使えず、オープン入りも4歳秋になってから。更に重賞勝利は5歳暮れのターコイズSでした。GⅠの常連、ルメール騎手が騎乗しても4番人気というのは妥当な評価でしょうが、出走15頭の中でパドックで一番、良く見えたのはこの馬でした。途中から掛かり気味に先行して失速した前走内容から内枠を引いた今回はインで我慢して抜け出しを図るというレースぶりは納得がいくもので結果的に負けてしまったのは残念としかいいようがありません。ただ、ゴールの瞬間、私は別の意味でアッと声をあげてしまったのです。
フィアスプライドの調教を担当しているのは国枝厩舎の中村雄貴調教助手で2021年に惜しまれながら引退してしまったカレンブーケドールの調教も担当していたのです。同馬は現役時代に先述した津村騎手とのコンビでG12着が3回。そうです、これまで津村騎手のG12着はすべてブーケドールでのものでした。6歳春になってようやく充実期になりGⅠにも自信を持って臨めるようになり事実、この状態ならと思わせる仕上がりだったのですが、何とそれを阻止したのが他ならぬ津村騎手の騎乗馬だったのです。ただ、幸いにもフィアスプライドはレース後の疲れもなく安田記念に続戦することが決まりました。梅雨時で時計のかかる芝だったり、相手も強くなるここで勝つのは容易ではないでしょうが、ひと脚先にGⅠ勝利を達成した津村騎手に続いて中村助手もGⅠを勝てるのか?5度目の正直に注目しています。
美浦編集局 田村明宏
本稿は2024年5月22日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。