障害戦尽くしの遠征記(坂井直樹)/週刊トレセン通信
先日、中山競馬場に行ってきた。目的は中山グランドジャンプ観戦。これだけ各所で障害戦が好きだと言い続けている私だが、グランドジャンプも大障害も現地観戦したことはなかった。障害12個、谷の上り下りが5回(大障害は障害11個、谷6回)という知識くらいはあるものの、やはり百聞は一見に如かず。一度でいいから見てみたい。そもそも中山競馬場自体、行ったことがない。
早朝に栗東を出て、中山到着は12時前。場内を少しだけ散策しつつ、勝馬の金子TMに拾ってもらって記者室へ。ゴンドラから大障害コースを眺めてみた。
コーナーが想像以上にきつい。小回りに分類される中山競馬場の、ダートコースの更に内にある障害コース。それをさらに半分にして8の字に回るのだからそりゃそうなのだが、理解はしていてもやっぱり直接見ると想像とはまるで違う。大竹柵から逆4角の5号までまっすぐ走れるところがないな…などとぶつぶつ呟く。谷も深い深い。GⅠにふさわしいコースだ。
せっかくなので内馬場へ行き、大障害コースを間近に望む。「おお、これがそれか…」とよくわからない感動を覚える42歳。ここで見られたらさぞかし大迫力だろう…と、そのまま居残って内馬場でグランドジャンプを見ることも考えたが、2度の大障害越えが済んでしまうとちょっと寂しいか…と考えて記者室から観戦することにしてメインスタンドへと戻る。
メインレースのパドックは黒山の人だかり。馬もみんないい。勝負服の緑色でコーディネートされたイロゴトシ陣営が印象的だった。ダイシンクローバーに跨った高田潤騎手が天を仰いでいた姿はこの先も忘れられないだろう。出走全馬のしんがりを守る誘導馬2頭のうち1頭がスマートアペックスだったのも良かった。中山グランドジャンプで21年4着、23年5着。これ以上の適任者はいない。
レースはみなさんご存じの通り、イロゴトシの連覇。らしさが見られなかったマイネルグロンは入線後すぐに石神深騎手が下馬。このレースではほかにタマモワカムシャが落馬、ポルタフォリオも競走中止。ワンダークローバーも後日、脚部不安で登録を抹消された。このレースは出走を予定していたロックユーも前の週に出走を断念していて、レースに辿り着くこと、完走すること、無事に厩舎に帰ることが当たり前ではないことだと改めて実感させられる。
さて、このまま栗東に帰っても良かったが、そこは障害大好き人間。翌日、めったに行けない福島で障害戦があるのだから、そのまま福島まで行ってしまおう。福島に行ったなら、障害レースファンにはおなじみのタスキコース沿いの通称?「激近スポット」を見てみたい。一体どれだけ近いのだろう。
翌朝、荷物を福島駅のコインロッカーに預けて路線バスで福島競馬場へ。スタンドは信夫山を背に立っていて、遠くには雪をまとって存在感十分の吾妻小富士と安達太良山(多分)。向正面の山なみも程よいローカル感を演出している。
1階から入場し、何の気なしに2階へ上がるとパドックが出てきて驚かされた。他に聞いたことがない。記者席に上がって各TMに挨拶。報道エリアには「地震の際は室内に避難してください」「地震の際は手すりをつかんでください」と書かれたステッカーが目の高さに貼ってある。爪痕はそこかしこに残っている。
3Rまで記者室で見たあとはファンエリアへ移動して場内を散策。4月半ばながらじんわりと汗ばんでくる。ピクニック日和の好天で、内馬場はビニールシートを敷いた家族連れも多い。ビジョン前の大きな三春駒ともご対面。でかい。そうこうしているうちに4Rの本馬場入場の時間となった。本日のメインイベント、激近スポットへ。
近い。近すぎる。騎手の声は勿論聞こえるし、なんだったら触れそう(ダメ)。こんなお宝スポットがあるとは。福島にお越しの際は是非立ち寄ってみていただきたい。レースももちろん迫力十分。飛越していく姿に観客から感嘆の声が上がる。飛んでしまえば馬群は遠ざかり、ぐるっと回ってゴールへ向かう。タスキに寄っていた観衆がみんなホームストレッチ側に歩いて移動し始めたのがなんだか面白かった。
お昼休みの志田未来さんのトークイベントを内馬場から眺め、5Rの障害戦は直線の置き障害脇で観戦。ホームストレッチには置き障害がひとつ。1個の障害を双方向から飛ぶ様子を間近に見られるコースはそう多くはない。これも貴重なスポットなので、福島遠征には障害が2戦組まれた日をお勧めしたい。
障害戦が終了して直線の置き障害も撤収が終わり、あとは平地のレースのみ。私も目的は達したので、少し早いが引き上げることにした。新幹線を乗り継いで、栗東に帰り着いたのは18時ごろ。充実の遠征だった。乗り換え途中の東京駅で買った崎陽軒のシウマイを新幹線に忘れてきたことに翌日まで気づかないくらい充実していた。行って良かった。これで未踏の地は札幌と新潟の2場。業務で行くことはなさそうだから、また遠征計画を立てることにしよう。
栗東編集局 坂井直樹
本稿は2024年5月1日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。