血統閑談#017 43年目の到達点(水野隆弘)/週刊トレセン通信
1月23日にIFHA(国際競馬統括機関連盟)から2023年度のワールドベストレースホースランキングの確定版が発表されました。首位はレーティング[135]のイクイノックスでした。ジャパンカップG1終了後の暫定レーティング[133]から2を加点されての堂々たる“世界ランキング首位”です。結果論でいうとドバイシーマクラシックG1終了時点での暫定レーティング[129]でも逃げ切りの首位だったわけですが、それが上方修正で上書きされました。違う年次のレーティングを比較するのはあまり妥当ではないと個人的には考えておりますが、せっかくなのでワールドベストレースホースランキングがほぼ現在の形となった2008年以降の首位のリストを示しますと、[135]はあのアロゲートやAmerican Pharoahを超えてキングジョージ6世&クイーンエリザベスSG1でセンセーショナルな圧勝を果たしたハービンジャーGBと並ぶ数値ということで、これはもう単純に喜んでいいのではないでしょうか。
個別の“ベストホース”の発表と同時に、「トップ100G1レース」も発表されました。これは個々のレーティングの数値を使った余興のように見えるかもしれませんが、競走終了時点でそのパフォーマンスに対して与えられる「レースレーティング」と違い、上位着順4頭の年度末のレーティングの平均を示す「年間レースレーティング」によってランキングされるので、当該競走がどれだけレベルの高い馬によって争われたかが数値によって示されます。そのため、年間レースレーティングは競走の格付けにおいても重要な役割を果たしています。また、上位4頭の「持ち点」の平均という性格から、下記リスト(現在の形が整った2016年以降)にある凱旋門賞G1のように、勝ち馬が必ずしもランキングトップではなくとも、レースのレベルは最高というケースがあります。
今年はそのトップ100のトップ、すなわち「ワールドベストレース」の栄誉に年間レースレーティング[126.75]のジャパンカップG1が輝きました。2位も[126.50]のドバイシーマクラシックG1なので、イクイノックスがいかに強い相手と戦って、そこでいかに優れた結果を出してきたかを示すものでもあります。あるレースの結果が別のレースの結果を保証するという関係性の上で成り立つのがレーティングというシステムですから、それぞれのレースにおけるパフォーマンスが別のレースの評価の証拠となるといい替えてもいいかもしれません。大袈裟にいえば、あらゆるレースの結果がどこかでつながり、それぞれのパフォーマンスの評価の証拠となっているのです。ジャパンカップG1が首位となったのはドバイシーマクラシックG1があったからこそで、ドバイシーマクラシックG1の高評価は上位に入線したウエストオーヴァー、ザグレイ、モスターダフらがそれぞれその後のG1競走で成果を上げたからです。このような結果の積み重ねが「レーティング」ですから、年間レースレーティングは狙って高数値が出るというものではありません。当然、「トップ100G1レース」も、目指して首位になれるというものでもありませんが、これは競馬主催者にとっては目指すべき到達点であることは事実です。オーナー、生産者、調教師はじめ厩舎関係者が目指すところは「強い馬づくり」ですが、現実的に主催者が目指すべきは「強い馬集め」なのです。幸い日本においてはそれが表裏一体というか、2頭立ての馬車のように進んできた結果、世界ランキングにおいてイクイノックスが馬の首位となり、ジャパンカップG1がレースの首位となりました。これは1981年にジャパンカップが創設され、外国招待馬にコテンパンにやられてから43年かけて至った到達点といえるでしょう。
ちなみに「トップ100G1レース」のリストは2015年までは現在と違う形で発表されていて、年間レースレーティングの過去3年の平均=パターンレースレーティングによって順位付けされていました。そのため公式にジャパンカップG1が首位になったのは今回が初めてでしたが、実は単年度の年間レースレーティングでは2014年のジャパンカップG1が世界1位となっていました。1着エピファネイア、2着ジャスタウェイ、3着スピルバーグ、4着ジェンティルドンナの年です。彼らにも「世界一」の敬意を。
本稿は2024年1月24日に「競馬ブックweb」「競馬ブックsmart」に掲載されたコラムです。下記URLからもご覧いただくことができます。