めざせ!!踏み切ってジャンプ!
~9月初旬、競馬ブック本社 応接室にてSNS会議~
翌月のnoteの企画を考えていた際、9月発売の四季報の特集がオジュウチョウサンなので「障害に関する記事を出そう!」となりました。
しかし、、、
障害レースに出るために競走馬たちがどういった調教をしているのか、そもそも障害レースについてあまりよく知らない若手がほとんど。そこで、「障害レースに出る馬たちがどんな調教をしているのか取材するのがいいのでは?」となり、このような企画となりました。
それではお楽しみください✨
みなさんこんにちは。栗東製作部の青木です😊
今回のnoteは「平地のレースを走っていた馬は、どのような調教を経て障害レースに出るの?」という疑問について、JRA総務課や障害オタクである坂井TMの協力を得て、栗東トレセンに取材に行ってきました。
お話をしてくださったのは、なんと難波剛健騎手。
木曜日の調教を見学させていただいたあと、障害の調教やレースについて質問させていただきました。
初めの一歩
—―平地から障害に転向するための調教はどんな段階があるのでしょうか?
まず、障害角馬場にある横木(おうぼく)を跨ぐ練習をします。ほとんどの馬が跨いだことのない状態からのスタートなので、最初は細い横木を跨ぐところから始めて、力を抜いて上手に跨げるようになったら次は太い横木を跨げるようにします。
そのあとは馬場の真ん中にあるクロスバー(×になっている障害)を、50㎝くらいから始めてどんどん高くしていきます。
人によって違う場合もあるけど、基本はこんな感じ。
—―調教を見ていたら乗っていたのは全員ジョッキーでしたが、最初は厩舎の人が乗って、慣れたらジョッキーが調教をつけるという形ですか?
95%以上は障害ジョッキーが1から調教をつけますね。
今日(9/28)は染め分け帽が多かったと思うんですけど、障害試験の日だったんですよ。無事に合格したら競馬に使っていいですよとなるので、一歩目の大きい階段を上った感じ。
—―障害試験を受けられる基準はありますか?
最初に話した横木とクロスバーを跨げるようになったら、障害角馬場にある小さい障害→大きめの障害というように少しずつ高くて幅のある障害に慣らしていきます。角馬場をクリアできたら「流し」と呼ばれる4つの連続障害にチャレンジして、それもクリアしたら障害試験でも使用される障害馬場に出ます。そこも上手く飛べるようになったら障害試験という流れです。
障害試験ではしっかり踏み切って飛べているか、真っ直ぐ飛べているか、飛ぶときに減速していないか、時計などが見られます。
また、流しが上手く飛べても障害馬場の大きな障害を上手く飛べずに障害練習を断念するパターンもあります。
—―障害レースへの向き・不向きな馬の特徴などはありますか?
従順で人間がコントロールしやすい馬は向いてそうかなとは思うけど、こればっかりはやってみないと分からない、ほんとに。(笑)
みんなで「この馬絶対合うよね」って話してても、やってみたら「あれ?」っていうこともある。逆に調教師の先生から「これやってみて」って渡されたけど、内心向いてなさそうだなって思った馬が「意外といいやん」っていうパターンもあるから、実際にやってみないと分からない。
あと、障害に向かっていく勇気というか「いくぞ!」っていうやる気や前進気勢も大事ですね。
やる気があってノーコントロールはもちろん良くないし、従順でも怖がりだったりコントロールしやすすぎたりで進みが悪いとあんまり良くないかな。
難しいところではありますね。(笑)
—―横木を跨ぎ始めてから試験を受けるまではどのくらい時間がかかるものですか?
人によってバラバラだけど、平均して3週間くらいかな。
僕の感覚だと2週間だと「お、早いな」ってなるし、4週間だと「じっくりやったな」って感じますね。
全部が順調にいって、且つ急ぎ足じゃなくて3週間が多いと感じますね。
—―障害の調教は曜日が決まっているんですか?
障害馬場を使う調教は水木金です。土日は競馬ですし。
火曜日は馬場の回りが左回りになるんですけど、栗東の障害は左回りだと飛べない造りになっていたり、平地の馬とすれ違って危なかったりするので使えません。壁に囲まれている角馬場は年中何曜日でも使えますよ。
飛ぶための適性
—―障害にいく馬はもともと長距離が得意だったのかなというイメージがあるのですが、実際はどうですか?
意外とそうじゃないんですよ。
今の競馬だと、短距離を走っていた馬のほうが多いかもしれない。芝2000m以上走ってた馬はほとんどいないんじゃないかな?
僕の考えだけど、着地してから求められるスピードや瞬発力が短距離馬のそれなんじゃないかなと。ただ、3000mを走るので「息を入れられる」短距離馬でスピードも持ってることが大事ですね。
—―「息を入れる」とは、具体的にどういうことですか?
力を抜いて、リラックスして走れることかな。
いくら能力のある馬でも、力んだまま3000mは走れないからどこかで力を抜くことが必要。それがちゃんとできる短距離馬が活躍できるんじゃないかなと思う。
僕のお手馬だったらロードアクアはそれができる馬。スピードもあるし息も入れられる代表格。Twitter(現 X)を見てても「え、あの1200の馬がこんな距離走れるなんて!」っていう反応もチラホラ見ます(笑)
—―馬にとって飛びやすい障害などあるんでしょうか。
竹柵ですかね。
どこの競馬場にもあるし、そんなにボリュームもない。見た目の威圧感も少ないです。生垣は人間にとってもボリュームがあって向こうが見えないし、そびえ立ってる感じ。
ただ、新潟競馬場みたいに竹柵障害だけだと難易度は低いけどスピードが出やすくなります。ラップが速くなるほど速い脚が求められるので、飛ぶスピードも求められますね。
競馬場によって障害が違うので、事前に知ったうえでレースを見たら面白いですよ。
教える
—―やる気がありすぎても良くないという話がありましたが、そういう馬にはどのように教えていくんですか?
ジョッキーや厩舎が調教で教えていきます。
それに関しては高田潤騎手が上手だと思いますね。調教からでもそうだし、競馬で教えていくのがものすごく上手。
少し前の馬になりますけど、短距離馬でダローネガっていうすごい引っかかって難しい馬がいたんですよ。
初障害のとき、行かせたらぶっちぎって勝つかもしれないけど、のちを考えて敢えて抑えて息を入れることを教えてたんじゃないかな。これが分かりやすいなって思いますね。
もう1頭、初戦の未勝利戦を勝って2走目で大障害にチャレンジして2着だったエイコーンパスっていう馬がいたんですけど。(2015年の中山大障害)
未勝利戦を楽に勝ってるんですけど、ただ勝っただけじゃない。ビュンビュン行って影も踏まさずに勝つこともできたと思うんですけど、それも敢えて抑えて3000mの中でいろんなことを教えてると思いますね。
—―「競馬の中で教える」とは?
例えば、今まで短い距離を走っていた馬にとって距離はもちろん、ペースや仕掛けるタイミングも違うのでそういったことを教えますけど、感覚なので言葉にするのは難しいですね。
あとは平地のレースで馬群に入れていた馬でも、障害だと前の馬が飛ぶのが見えたり「ガサガサッ」という音を怖がったりして萎縮してしまう馬もいるので、障害でも馬群に入って競馬ができるように教えるのも大事です。
馬群の中で教えるのは大事ですけど、闇雲にどこでもいいから入ればいいというわけではないです。事前情報だったりレースの流れる感覚で、「この馬の後ろなら大丈夫だろう」という場所に入れます。
—―自分の馬じゃない馬の試験を見ているところを見かけますが、どういうところを見ているのですか?
どういう飛びをする馬なのか、他の騎手がどんな練習をしていてどういう飛ばし方をするのか、自分の引き出し作りのために見てますね。
馬に関しては自分も一緒に競馬に乗るわけだから、「この馬の後ろなら大丈夫そうかな」「あんまり近くには寄らないほうが良さそう」というところを事前情報の収集のために見てますね。
—―危ない馬に乗っている場合は周りに近づけないようにするのですか?
近づけないようにしたり、伝えることもありますね。
例えば斜飛(飛越の時に左右に逸れること)する馬だったら「自分の馬はこういう飛びをするから気を付けてね」とか言ったりします。そういう話は競馬の前にパドックやゲート裏でしますね。
ゲート裏は結構話してるかも。
自分の馬が斜飛したりブレーキかけたり、左右にもたれることとかを他の騎手に伝えますね。
あとがき
なかなか聞けない障害調教の話、いかがだったでしょうか👀
実はこの取材、元々は難波騎手にお話を伺うだけの予定でした。
調教後に障害ジョッキーの方々が集まる部屋にご挨拶と取材内容をお話ししに行ったところ、「話だけじゃなくて実際に調教を見たほうがいいんじゃない?」とご提案いただきました。
そのうえ「せっかく取り上げてくれるなら」と、難波騎手と森一馬騎手がJRA総務課に話を通して下さり(障害角馬場にメディアは普段入らないため許可が必要)、一人心の中で感動していました。
競馬を本格的に好きになって3年ほど経ちますが、障害レースに関しては楽しむよりも「とにかく人馬無事にゴールできますように、、、!」と祈る気持ちで見ることしか出来ませんでした。しかし、今回難波騎手にお話を伺って障害レースの見方が変わり、「障害ってすごい面白くない?」と思えるようになりました。(もちろん人馬無事の完走を祈る気持ちは変わりませんが。)
今回の記事をきっかけに、障害レースを楽しく観られる人が増えたらいいなと思いますし、もちろん障害ファンにも楽しんでいただけると嬉しいです。
最後に、
お忙しいにも関わらず、たくさんの興味深いお話をしてくださった難波騎手には感謝しかありません。本当にありがとうございました!!