22年フェブラリーSを振り返る~100点満点の回答を導き出した事前準備~
予想にも書いたのだが、フェブラリーSというレースは湿ったダートで行われることが意外と珍しい。
もちろん良馬場発表でも含水率は高めだったことはある。ただ稍重~不良馬場だったのは、00年以降の東京開催に限れば05年、07年、09年、16年、そして22年だけ。
冬場は雨が降らないとはいえ、この時期は雪の開催順延もあるからね。そう考えれば少ない部類だと思う。
先週の東京ダートの傾向から、雨が降れば間違いなく超高速ダートが出現するのは読める。問題は『超高速ダートに何頭対応できるか』、そこに尽きた。
そして金曜。出てきた枠順はなかなか難解。外枠のほうがいいアルクトスやカフェファラオが内枠に入ったんだよね。
しかも3枠に入ったレッドルゼル、カフェファラオの鞍上は川田、そして福永という、今のJRAでも特にレースを分析して、考えたポジショニングをやってくるジョッキーの2人。
人気を背負うこの2人がどんな思考で乗ってくるのか、マスクの最大の注目ポイントだったんだよ。
やはりというかなんというか、期待に沿ってくれたね。福永、川田の思考がビンビンに伝わってくるレースになってくれたんだ。
2022年一発目のGIでこれだけのレースが見れるのなら、今年の中央競馬も期待できそうだよ。冬の砂王決定戦の細かい心理戦を振り返っていく。
フェブラリーS 出走馬
黒 ④アルクトス 田辺
赤 ⑤レッドルゼル 川田
茶 ⑥カフェファラオ 福永
青 ⑦タイムフライヤー 横山武
緑 ⑪ソダシ 吉田隼
橙 ⑬ソリストサンダー 戸崎
桃 ⑮テイエムサウスダン 岩田康
スタート。ゲートの中で緑ソダシが暴れかけている。首を上下させて、身体をバタつかせている。
以前からゲートの中で暴れる面があって、秋華賞では顔をぶつけて歯から出血してしまっている。相変わらずこの面が治らない。
母ブチコはゲートの中で大暴れして除外を食らっていたからこれはもう血統。母親ほどではないにしても、いずれ事故が起きる気がしてならない。
結局ソダシは若干出負けしてしまった。ただこれ、パトロールビデオで見ると結構体を上下動させているんだ。
あれだけ動いていたのにこの程度の出負けで済んだんだから、これは乗っている隼人の技術を褒めるしかないだろう。競馬センスはあって行き脚がつく馬だけど、こういうところに乗り難しさが垣間見える。
さて、注目したいのは茶カフェファラオの進路取りだ。
今回カフェファラオはルメールから福永に乗り変わった。乗り変わりの経緯については裏話に書いたし、ここでは割愛する。
カフェファラオは揉まれるほど脆い。今回勝ったことで[6.0.0.5]となったが、2、3着が一度もないようにピンパータイプ。揉まれなければ強く、自分の形にならないと何もないという、アメリカ産馬によくいるタイプだね。
これは昨年のフェブラリーS。3番を引いてしまった黒カフェファラオを、ルメールがなんとかポジションキープして、外からくる馬をブロックしているのが分かる。
外をブロックしたこと、内に進路が開いたことで極端に揉まれなかったカフェファラオは圧勝した。
今年引いたのは6番。16頭立てということを考えれば、一般的には内目の枠にカウントされる枠順だろう。福永の騎乗テーマは『いかに揉まれずに、いかにスムーズに外に出せるか』だったのは間違いない。
これはダートコースに入るところ。さっき上げた、昨年のフェブラリーSと比べてみてくれ。茶カフェファラオが昨年より囲まれていないことが分かるだろうか。
黒で囲んだ内の4頭が、内ラチのほうに寄っていく中、茶カフェファラオが揉まれず直進している。
これがまず第一のポイントになる。もちろん今年の枠順が昨年より3つ外だったことも大きかったのだが、なにより昨年より先行馬の数が少なかったことが大きい。
カフェファラオより外の馬で、前走4コーナー3番手以内だった馬はサンライズホープ、ソダシ、ミューチャリー。芝スタートのマイルでミューチャリーが先行できるとはとても思えない。
もちろん突発的に先行する馬がいるのが競馬だが、サンライズノヴァだのスワーヴアラミスだのがマイルで突然先行することもないから、昨年に比べればカフェファラオは圧倒的に外に出しやすい状況ではあった。
たぶん福永も、外から先行してくるのは黄サンライズホープと緑ソダシ、あとはテイエムサウスダンくらいだろうとアタリをつけていたと思う。サンライズとソダシだけやってきたのを見て、福永は想定通りと思っていたのではないかな。
茶カフェファラオが外からの馬をブロックしたことで、恵まれた馬がもう1頭。赤レッドルゼルだ。外の馬をカフェがせき止めているおかげで、両サイドが空いている。揉まれず運べているんだよね。
たぶん川田もここまでは想定通りだったと思う。福永、川田の普段のレースへのアプローチを見る限り、こうなる展開は読んでいただろう。
スタートして200m過ぎで茶カフェファラオは緑ソダシの外に持ち出すことに成功している。ここまでは完全に福永の想定通りにコトが運んでいたとみていい。
逆にソダシはカフェに外から付かれる形になる。これがもし、カフェが内で揉まれる展開だったらソダシにとっては楽な展開だろう。ただ外からビタリとつけられてしまうとプレッシャーが厳しい。
よく見てるなと思ったのは赤レッドルゼルの川田だ。残り1200m地点。レッドルゼルが、緑ソダシの後ろから茶カフェファラオの真後ろに移動している。
まー、当然の選択と言っていいだろう。よく回顧に書いているように、強い馬の真後ろはベストポジションになりやすい。
俺はソダシも十分に強いと思うが、ことダートにおいて、ソダシの真後ろと、外に出されたカフェファラオの真後ろ、どちらがいいポジションかと2択になれば、どう考えても後者だろう。
それこそソダシは初ダートのチャンピオンズカップでズルズルと下がっている。ワンターンの東京のほうが圧倒的にいいのは間違いないとして、なら今回東京だから伸びるか?というと疑問が残る。
だったら1頭分外でも、完全に外に出されたカフェファラオの後ろのほうが確実性がある。この時点でペストポジションはレッドルゼルだったのではないかな。
茶カフェファラオは更に外からやってきた桃テイエムサウスダンを行かせて、完全に砂を被らず揉まれないポジションを確保してみせた。
スタートから400mで外の好位。たぶん福永は自分の思っている以上に早く外に出せたと思ったのではないか。
ここまでカフェが外を止めて回ってきたことで、橙ソリストサンダーはカフェより更に外を回されることになってしまった。
本来だったら強い馬の後ろ、つまりカフェファラオの真後ろに入りたいところだが、そこはもうレッドルゼルに確保されてしまっている。おかげで1頭分外目を回ることになってしまったわけ。
ヒヤシンスSで1:35.3という超高速時計が出たように、日曜の東京競馬場ダートはとにかく速かった。高速決着はなるべくロスを少なくしたいだけに、ソリストサンダーのこの1頭分のロスもボディーブローのように効いてくる。
もう1頭、青タイムフライヤーもラインは悪くなかった。茶カフェファラオの後ろにいる赤レッドルゼルの後ろという構図だ。
橙ソリストサンダーよりは1頭分内。たかが1頭分だが、0.1秒を争う競技でその1頭分が大きい。やや偶然このポジションをゲットできた感じはあるが、タイムフライヤー上位進出の決定的理由はカフェのラインに入れたことと言っていいだろう。
ベストポジションを確保した赤レッドルゼルに対して、流れで微妙なポジションになってしまったのが黒アルクトスだ。
当初緑ソダシの後ろは赤レッドルゼルだったのだが、ルゼルが茶カフェファラオの真後ろに入ったことで、ソダシの後ろがアルクトスに変わったんだよ。
アルクトスという馬は大型で跳びも大きい。インから抜け出してくる競馬より、少しでも早く踏んでエンジンをかけていきたいタイプだ。
引いたのは4番枠。この枠だと内で包まれてしまう可能性がある。田辺としては4コーナーでいかに進路を確保できるかを第一に考えていただろうし、ソダシの後ろに入らず内にいたままでは、3コーナー前に包まれていた可能性がある。
ところが、田辺の思いに反して、馬群が厳しいんだよな。黒アルクトスが、外の馬に進路をブロックされているのが分かるだろうか。これが今回の第二のポイントと言っていいかもしれないね。
なにせ、福永と川田、そして戸崎が上手い。びたりと横づけして、一切隙間を開けずにコーナーを回っている。
橙ソリストサンダーとしてはなんとか茶カフェファラオの後ろに入りたいのだろうが、赤レッドルゼルの川田がカフェとの距離をギリギリまで詰めていることで、カフェの後ろに入れなくなっている。当然アルクトスも入れない。
外前から見るとこんな感じ。赤レッドルゼルが茶カフェファラオとの間をギリギリまで詰めているのが分かる。
本来であれば黒アルクトスはカフェと、緑ソダシの間に入っていきたい。ところが福永がコーナーをきっちり回ることで進路が開いていない。スペースが1頭弱空いているようにも見えるが、レースで1頭分ないスペースは突いてはいけないというのが暗黙のルール。これではアルクトス田辺は外に出せない。
これが4コーナーの馬群。16頭立てとは思えない、馬群の凝縮っぷりだ。文字通り『ひと塊』と言っていい。
ちなみにこれは同日東京9R、ヒヤシンスSの直線入口だ。な、フェブラリーSがいかに凝縮した馬群かが分かるよね。
まー、2、3歳戦はまだ馬がレースに慣れていないから少し余分にスペースを取る影響はあるけどね。あとそもそもGIは他のレースに比べて両サイドが締まるし。
これだけタイトな馬群が見れるのはGIだからこそ。タイトな馬群はジョッキーの技術が問われる。このタイトな馬群を捌かないといけないわけだから、GIを勝つ難易度の高さが伝わってくる。
直線。茶カフェファラオが4コーナーもしっかり締めて回ったことで、緑ソダシとの間のスペースはまだ1頭分もない。これで黒アルクトスは直線に入っても進路を確保できない状況だった。
4コーナー前から少しずつ吹かしてエンジンを点火させたい跳びの大きなアルクトスにとって、これはもう考えうる中では最悪に近い状況さ。致命的に枠の並びが悪かったよね。
まー、枠の並びはもう運だから仕方ない。希望している枠に入れたら苦労しない。
逆に恵まれたのは青タイムフライヤー。アルクトスの進路がない状況で、タイムフライヤーは外にスペースがある。しかも外隣りがケイティブレイブ。
ケイティブレイブが全盛期ならまだしも、今は脚の影響もあってしっかり攻められず、以前ほどの力はない。下がっていく可能性が圧倒的に高いから、タイムフライヤーは自然と進路が開く。これが枠の差だよね。アルクトスはせめて7番なら話は違った。
そしてここで注目してほしいのは、茶カフェファラオの直線の進路。VTRを見ると分かるが、一切ヨレずに真っすぐ走っているのだ。これはあとでパトロールを見てほしい。
本当に真一文字に走っている。単独走でここまで真っすぐ走らせられるかと思うほどで、こういうところにもジョッキーの技術力の高さが垣間見える。
あまりに茶カフェファラオがまっすぐ走るものだから、黒アルクトスなどの進路は全然開かなかった。
田辺はレース後「勝った馬の後ろで待機できましたし、直線も十分に進路がありました。ただ、上がり勝負になった時に対応しきれず、置かれ気味になりました。現状の力は出し切れたと思います」と話している。
直線は確かに進路があった。ただそれ以前に上がり勝負が苦手なアルクトスとしては、早めに前に並びかけるくらいのレースがしたかったはず。だからこそ、前にとりつきやすいダートの二桁馬番だと5.0.0.2と戦績がいい。
上がり勝負に対応するには外枠が欲しかった。せめてカフェファラオ、レッドルゼルを締める側にはいたかったよね。この2頭も内枠だったが、更に内の4番という枠は完全にアダになっている。
アルクトスはこれがフェブラリーS3度目の挑戦。枠は2番→6番→4番。フェブラリーになるといつも内枠を引いてきちゃう運のなさ。そもそも内枠に対応できるくらいでないと中央のGIは勝てない、とも考えられるが。
逆に完璧に乗っていたのが6着レッドルゼルだった。川田はレース後「勝ち馬の真後ろから競馬を進めることができました。ポジション的には良い所を取れていました」と話している。その通りだと思う。パトロールを見ても明らかだ。
ただ「道中も直線も動くことができず、今日はこの馬らしい走りができぬままゴールという感じでした」と続けている。
川田は週中、明確に「距離が長い」と話していた。昨年のフェブラリーSで内有利馬場を大外枠から4着になっていること、超高速馬場でスピードが求められることから、マスクはちょうどいい馬場だと思っていた。
ただこれだけ完璧に乗られているのにあの止まり方は距離だろう。スピードを生かす馬場は合っていたが、超高速のフェブラリーSは『スピードを最後まで持続するスタミナ』も必要になる。そこがレッドルゼルに欠けていたのかもしれないね。
使った次はたぶん1200だろう。今日のレースを見ても操縦性がいいのがこの馬の長所。適正距離に戻れば話は変わってくる。はず。
完璧に乗ったという点では2着のテイエムサウスダンも同様だろう。素晴らしい騎乗だったと思う。
かなりいいスタートだったんだけど、一度ヤスナリは下げているんだよね。そして20秒くらいから一気に先頭を奪いに行った。
●22年フェブラリーS
1:33.8 34.5-34.6
12.2-11.0-11.3-12.3-12.4-11.6-11.2-11.8
前半3Fは34.5。これはここ10年で5番目の速さ。速いには速いが、超高速馬場だったことを考えればむしろ緩いくらい。昨年は良馬場で34.7、こちらのほうがよほど速い。
スタートから若干口を割っている素振りがあったから、序盤多少行きたがったのだろう。ケンカするより馬のリズムを守る作戦に切り換えて、2F目で果敢に先頭に立ちにいった。これは大正解。
そして中盤12.3-12.4と一旦息を入れて、早めにスパート。1400がベストのテイエムサウスダンにとっては残り600m11.6は速い気もするが、超高速馬場で簡単に止まらないという意図を持った好騎乗だろう。
注目したいのはテイエムサウスダンが『序盤抑えて、一度先頭に立つまで脚を使って、また脚を溜めて、もう一度脚を使った』こと。馬は生き物だから、こうやって強弱つけた騎乗に対応できない場合が多い。
ましてテイエムサウスダンは短距離馬。短距離に緩急はそうないから、本来だったらこういう競馬の形は難しくなってもおかしくない。それをここまでコンビを組んだレース、そして調教で矯正して、マイルでも走れるようにしたヤスナリの腕で掴んだ2着と言っていいだろう。
調教を付きっ切りでつけて馬を変えていくこのやり方は賛否があると思う。本来だったら助手さんの仕事でもあるわけだからね。助手さんにもプライドがある。実際ディープブリランテで同じことをやって、最初は厩舎サイドとモメたわけだし。最後はダービー勝ったけれど。
厩舎サイドとしても『ヤスナリに賭ける』ことになる。厩舎が何もしなかったなんてことはまるでなくて、スタッフさんが馬のベースをしっかり整えているからこそ、ヤスナリがGI仕様に仕上げられたと考えるべきだろうね。
パドックのデキは抜群。今回マスクが選ぶベストターンドアウト賞は間違いなくテイエムサウスダンだった。1400なら。
3着ソダシの判断は難しい。ゲートは相変わらず暴れていたし、正直テンションも高め。陣営のトーンも低かったが、それも分かるデキだった。
そんなデキで3着に入ったのだから強いだろという話なのだけれど、この馬が強いのは知っている。弱い馬は桜花賞で1:31.1なんて出して勝てない。
問題はそれだけの数字を今回も出しているかというところ。1:34.3は字面は速いのだが、ヒヤシンスで1:35.3が出る馬場ということを考えると、むしろ標準くらいの数字の可能性がある。つまり、他馬が1分34秒を切るレベルのレースに対応できなかったから、残れた、とも考えられるのだ。
もちろん34秒前半に対応できている時点で強いんだけどね。こうやって補足で書いていかないと勘違いしてリプしてくる人間もいるから、あえて書いた。
正直、手応えに比べて伸びが甘い。理由として考えられるのは、①本質的に芝馬だから、②状態が微妙だから、③本気を出していないからの3つか。
どの可能性もあると思うんだけど、ムチの叩かれ方を見ても本気を出していない可能性も残る。ゲートで暴れる面を見ても、馬がこれからレースだということを分かっている感じがあるのだよね。レースは辛いものだから、ゲートで嫌がるし、直線も本気にならない。
とにかくこのソダシという馬は賢い。以前なんかの回顧でも触れたが、賢さが若干短所になっているのが現状だ。ここで一休みするだろうが、心身共に一旦リセットしないとこの先上昇はないと思う。せめて休み明けでヴィクトリアに出てきてほしい。買う。
チャンピオンズカップ回顧で書いたように、『芝スタートのワンターンからダートを試してほしかった』という見立て自体は当たっていた。よりマイル色が濃くなっているし、1400でもいいと思う。もう2000以上は長い。1800も条件による。
4着ソリストサンダーは数字負けだろう。この馬に1:33.8という勝ち時計は速過ぎた。ソリストでも1:34.3。持ち時計を0.7秒詰めたが、ここらへんに時計の壁があるね。
あとは道中のポジション。もう1頭、2頭内目に入りたかった。去年も内有利馬場で外枠が当たっている馬。アルクトス同様枠運がないね。まだ少し太い。冬場は体調が良過ぎて絞れないようだから、もう少し暖かくなるかしわ記念が楽しみ。
5着タイムフライヤーは書いた通り。ライン、4コーナー出口の隊列、どちらも良かった。1:34.5は時計の限界だろう。「この馬の現状持つ力の中では良いパフォーマンスを発揮することができました」という武史のコメントはその通りだと思う。
もったいなかったのは内枠のインティとテオレーマ。前者インティはゲートで出られず、道中は掛かりに掛かっていた。内で前に馬がいると乗り難しいね。
後者テオレーマはルメールが「ペースが遅かった」と言うように、実際この馬場を考えると中盤緩み過ぎている。さすがに緩んだ流れで上がり勝負になると辛い。こちらは馬がどんどん良くなっているから、この先の牝馬限定重賞で楽しみ。
さて、本日のラストはここまで触れてこなかったカフェファラオだ。
ワンターンの東京のほうが良かった、なんていうのは今更ここで取り上げる話でもない。ここ最近は適条件を走っていないと予想にも書いているし、東京のワンターンダートの高速馬場がベストということに改めて細かく触れる必要はないだろう。
福永のレースメイクも完璧だった。明確な騎乗テーマを持って、実行に移して、テン乗りで100点満点の回答を出した。
今回ここで記しておきたいのは『100点満点を叩き出すための準備』。カフェファラオという馬はここまで6.0.0.5という戦績で、負ける時はとことん負けることから分かるように、乗りやすい馬ではない。
ここまで乗っているルメールを回答保留だからとはいえすぐに切るのは、陣営としても勇気のいる決断だったと思う。代わりに乗る側もそう。だってここでミスしたら「やっぱりルメールが良かった」ってなるんだから。
福永の素晴らしかった点はレースまでのプロセスの歩み方だ。今週の追い切りに福永が騎乗し、美浦ウッドで全体85.1、ラスト11.8という時計を出しているのだが、これはあくまで紙面やデータとして残る数字。
福永は追い切り前の運動であえて他馬の後ろに入れて、キックバックを受けた時の反応を試すなど、調教で色々と試してきていたんだよね。VTRを見てカフェが揉まれたレースを見ているだろうが、実際どうなのか、馬がどんな素振りを見せるのか確認する作業からやっていた。
美浦のジョッキーではないから、カフェファラオとコンタクトを取れる時間は少ない。限られた時間でカフェファラオという馬を理解するために、1分も無駄にしないという好調教だった。
そして当週追いで、福永にここまで試させる時間を与えたスタッフさんの仕上げも凄い。だってそうだろう?仕上がり途上だったら、追い切りは調子を上げることに重点を置いたスタイルになる。福永が色々と確認する時間を与えられない。
カフェファラオはすでに仕上がっていた。冬場は調整が難しい馬を仕上げきり、納得できるジョッキーにバトンパス。そしてジョッキーが完璧な騎乗で応えた。これはもう陣営とジョッキーの力が噛み合った勝利と言っていいだろうね。
福永はレース後言う。「気を付けたのはスタート。あのポジションを取れるかどうかでこの馬の気分が変わるのではないかと感じていたので、スタートがそこまで速かったわけではないですけど、リカバリーが上手くいきました」と。
確かにスタートはそう速くなかった。正直揉まれ弱い馬が内目の枠で出負けしたら、詰みの2文字がアタマをよぎる。
しかしそこからが日本屈指のスタート巧者福永の真骨頂。リカバリーが上手くいったと本人が話しているが、スピードに乗せてポジションを取ってくるんだもんね。
外に出せたのが最大の勝因だが、大して出なかったスタートの後にスピードに乗せる、福永の技術が光る部分だった。さすがスタートの天才だよ。
前走ブリンカーを着けて失敗したことから、その反省を生かして何種類もチークピーシーズを用意し、返し馬の福永の感触に合わせて直前にチークを選ぶという高度な作戦も当たった。陣営が福永の感触を信頼していないと成立しないし、福永は自分の感触を一歩間違えたら失敗するという、非常に高難度の仕事を確実にこなしてきたことに唸る。
もちろん、仕上げに応え、騎乗に応えたのはカフェファラオ自身さ。相変わらず長所と短所がはっきりして、戦績もアンバランス。アメリカンらしいといえばそれまでだが、超高速ダートを外を回って1:33.8はさすがの一言。
ヒヤシンスSが内前だったように、最近の東京の超高速決着はインの優位性が強いが、それを無視した勝ち方。得意条件を走った時のカフェファラオは底が見えない。
まー、その得意条件を満たすレースが日本、そして世界に少ないのが難点だ。現状日本のGIで得意条件を満たすのは南部杯くらいしかない。ブリーダーズカップへの挑戦プランも口にされていたが、今年のBCはキーンランド。狭いからスプリント以外は一周競馬になる。得意のワンターンではない。
今後は得意条件の拡大が鍵になってくるだろう。5歳春まで大して得意分野が変わらない馬が、急に得意分野が広がるとは思いにくいが、陣営もこの馬の仕上げ方を分かってきている気配がある。
この秋、新しい一面を見せてくれることに期待したいね。
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