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24年エリザベス女王杯を振り返る~話題を呼んだ裁決と薔薇一族のコンマ一秒~

今年のエリザベス女王杯、レース前のトピックスとして話題になったことがある。レース史上初、秋華賞組がゼロだったのだ。

秋華賞組が1頭しかいなかった例は過去に3度。12年、18年、そして昨年。近年このケースが増えているのだが、秋華賞組がゼロになるエリザベス女王杯が現実にやってくる時代が来るとはね。

秋華賞を勝ったチェルヴィニアがジャパンCに向かうレベルの強い馬だったのはまず理由の一つ。

そして今年の秋華賞は関東馬のワンツースリーで、秋華賞間隔が中3週になるエリザベス女王杯に再輸送して使うのは難しいことなど理由は様々あるが、これもまた今の日本競馬をよく表していると思う。

ただ『秋華賞組がゼロ』だっただけで、『3歳馬がゼロ』だったわけではない。そしてその唯一の3歳馬であるレガレイラが単勝1倍台に推され、2番手以下は混戦、それが今年のエリザベス女王杯の構図だった。


ルメールの日本語教室

ルメールは独特な日本語を操る。フランス出身でここまでしゃべれていることにもちろん尊敬の念を抱くのだが、「最後は、つかれました」「彼女はよく、頑張りました」などの、いわゆるルメール構文は普段の取材で耳に残る。

あまりに耳に残るから以前、総裁から風呂掃除を命じられた際にシャレで「テレビを、観たら、やります」とルメール風に言って、大変怒られてしまったこともある。

そんなルメールがこの中間言っていたコメントがこれだ。

もしかしたらミドルポジションくらいで乗りたい

聞いていて、ルー大柴かと思った。いや、ルーさんなら「もしかしたらミドルポジションでライドしたい」になるか。

ただルメー大柴さんの気持ちも分かる。

レガレイラの過去6走
1着 函館新馬 5-6-6-5 34.3①
3着 アイビーS 3-3-3 32.7①
1着 ホープフルS 14-14-11-10 35.0①
6着 皐月賞 14-15-14-13 33.9①
5着 ダービー 10-11-14-13 33.2①
5着 ローズS 15-15-15-15 33.1①

過去6走の成績を見るまでもなく分かるが、レガレイラは普段後ろから行く馬だ。右の数字は上がり3Fタイムで、丸囲みの数字はメンバー中上がり3Fタイムが何番目だったのかを表している。

つまり、レガレイラは過去6走全て上がり3Fメンバー中最速の脚を使っているのだ。ただここ3走は、そんな競馬をしながら差し届いていない。

簡単な話だ。いつも後ろからになって、上がり3Fメンバー中最速の脚を使って届かない競馬が続いているからもう少し前で運びたいよって話。

この前天皇賞でドウデュースが後ろからゴボウ抜きして勝っていたが、GI級レースにおいて前をまとめて差し切るのはなかなか難しい

だからこそルメールは今回、ある程度出していってミドルポジション、つまり中団前後で競馬したいと言っていたわけだ。

だったらもっと早くやれよと思われるかもしれないが、これが毎回できたら苦労しない。そもそもレガレイラのゲートが怪しい。ゲートの中で我慢しきれず駐立も簡単ではない。

加えて、返し馬などの映像を見てもらいたいのだが、レガレイラはゼロからスピードを上げる際に両脚が揃い気味になってしまうことが多い。簡単に言うとスピードの乗りが悪い。相当な技術がないとスタートから出せないタイプの馬だ。

ルメールの希望と1頭分の誤差

ではルメールが今回希望通りのポジションが取れたかというと、結論から書いてしまえばポジションは取れなかった

スタート自体は出たんだ。これは横からのVTRで見てほしいのだが、前扉が開く前にレガレイラがゲートの中で上下に体を揺さぶっている。まるでスクワットをしているようだ。

この行為を見てマスクは出遅れを覚悟したのだが、ルメールは人間ではないからしっかり五分に出してきた。

これが凄い。全然出遅れても文句言えないくらいの動きだったから、レース映像を見てほしい。

問題はその後で、まともにゲートを出たはいいものの、赤モリアーナや橙シンリョクカの動きの影響もあって、真ん中にいた青レガレイラが挟まれてしまったんだ

まー、これはもう仕方ない。ゲートを出た直後の動きは制裁対象にならないように、馬をまっすぐ出すというのは難しい行為だ。

真ん中枠は内と外両方を見れる利点はあるものの、より挟まれる確率が高まってしまう。これはもういかんともし難い話だ。

挟まれて一旦は後方に下がりかけた青レガレイラだったが、ルメールは諦めず、橙シンリョクカを追いかけて出していった。よほどミドルポジションでライドしたかったんだろう

が、最初に挟まれた影響で1頭分後ろに下がってしまったことで、レガレイラの前に青丸のスペースが空いてしまった。これが今年のエリザベス女王杯の大きなポイントだと言っていい。

字数にしてまだ2000字ほどだが、この青丸が最後までレースの結果を左右したと言って過言ではないのだ。

というのも、この青丸はルメールの予約席ではない。レストランのように『ご予約席』なんて書いてあるのならまだしも、他馬の迷惑にならないなど各種ルールを守れば、基本的にどこのポジションに入ろうが各自の自由

ここで上手かったのが黄キミノナハマリアの鮫島克駿くんだ。青レガレイラと緑スタニングローズの間に空いたスペースに、スルっと入ってしまったんだよ。

さながら縦列駐車だ。免許センターの教官のようなドライビングテクニックと言っていい。小さな動きだが、無駄がなく上手い。

こうして黄キミノナハマリアが青レガレイラの間に入ったことで、ルメールはプラン変更を余儀なくされる。

5着レガレイラ C.ルメール騎手「クリスチャンの後ろにいたらいい競馬ができたと思います

これはルメールがレース後話していたことだ。ルメールはクリスチャン、つまり緑スタニングローズの真後ろが欲しかった。

タコに耳ができるほど書いてきたが、基本的にいいポジションとは『強い馬の後ろ』『上手い人の後ろ』のいずれかだ。

あくまで客観的に見て、スタニングローズとキミノナハマリアのどちらが強いかというと前者の後ろだろう。仮にもGI馬さ。

当然ルメールは出していった時点でそのポジションが欲しいのだが、挟まれ1列落としてしまったことで、欲しかったポジションをキミノナハマリアの克駿に取られてしまったわけ

映画・君の名は。よろしく、ルメールも克駿と入れ代わりたかっただろうなあ。ルメールもこれでもやれるだけ飛ばしてきたんだけどな。

もう一人、1コーナーの入り方が上手かったジョッキーがいる。緑シンティレーションのマーカンドだ。

スタートした後に徐々に誘導し、青レガレイラの後ろに誘導して、その後ろで我慢するかと思いきや、マーカンドは更に攻めた

緑シンティレーションのマーカンドが取りに行ったのは、白ホールネス瑠星の後ろ、赤ライラックの前の赤丸のポジションだった。

正面から見ると赤丸は大して大きく見えないが、ここには1頭分入れるスペースがある。

ヨーロッパは基本的に馬群がタイトだから、イギリスやフランスのジョッキーは細かいスペースをしっかり埋めてくることが多い。マーカンドはラチ沿いのスペースを埋めに行く。

すると隊列はこうなる。白ホールネスの後ろに緑シンティレーション、その後ろに赤ライラックと縦に並ぶことになった。

ライラックがテンに行けないから成立した話ではあるのだが、こちらも鮮やかな縦列駐車だよ。淀自動車学校と化している。優秀な教官が多いね、この自車校は。

まるで平成のエリザベス女王杯

さすがにラップの話もしておこう。このままだと自動車学校の話だけで終わってしまう。

24年エリザベス女王杯
12.5-10.6-12.1-12.2-12.2-12.5-12.6-12.0-11.7-11.1-11.6
1000m通過59.6

これが今年、逃げたコンクシェルが作ったペースだ。1000m59.6。日曜の7R、同条件の1勝クラスの1000m通過タイムが60.7。それより1.1秒速い

ここ10年の京都開催エリザベス女王杯としては、14年ラキシスの年の60.3を0.7秒上回って最速だった

これだけ見ると速いのだが、恐ろしく速いペースではない。1000m通過59.6以内のエリザベス女王杯は過去に9回あって、平成のエリザベス女王杯と比較すると、別に驚くほどのペースではない。今年は久しぶりの、平成のエリザベス女王杯だった。

ただよくラップを見ると、道中一番遅い区間で1200m→1400mの部分の12.6。極端に緩みがない。言うなれば『ずっとある程度流れているレース』だったんだよ。

24年エリザベス女王杯
12.5-10.6-12.1-12.2-12.2-12.5-12.6-12.0-11.7-11.1-11.6
1000m通過59.6

しかも太字のこの部分、道中他の区間より少し遅くなっている部分は、向正面から3コーナーまで設置されている上り坂区間だ

上り坂でもほんの少ししか落ちておらず、逃げたコンクシェルはほぼ一定のペースを刻んでいたと言っていいだろう。見た目以上にタフなレースだった、と考えてくれていい。

隊列を見てみよう。黒コンクシェルが逃げ、外の2番手には橙ハーパーの武さんが収まった。

武さんは一種のメトロノームのようなもので、ペースを正確に把握してくる。極端に緩んでいないことは武さんの体内時計で把握済だったろうし、番手から無理して逃げ馬を潰しに行かない。

そして後述するが、ハーパー自身に問題があったし自分から動くことはないだろう。

コンクシェルがペースを緩めず逃げていて、番手を武さんがガッチリキープしたから、動きのない隊列のままレースが進行してしまった

ルメールの満員電車脱出大作戦

満員電車ほどたるいものはないよな。マスクは平日はお車通勤だからそうそうラッシュを体験することはないが、GI後の競馬場からの電車はしんどい。人酔いする。

途中で降りようにも自力で人混みを割っていけない。エリザベス女王杯のレガレイラが陥っていたのはさながら、この満員電車のような状況だった

動きがなかった』ことで困るのが青レガレイラのルメールだ。

これは3コーナーだが、緑スタニングローズが動かず、その後ろの黄キミノナハマリアが動かず、結果青レガレイラがまるで動けていない。1コーナー前と隊列がほとんど変わっていないだろう。

5着レガレイラ C.ルメール騎手「クリスチャンの後ろにいたらいい競馬ができたと思います

ルメールが言っているのはこの部分だ。あくまで仮にだが、キミノナハマリアのところにレガレイラがいたとするとどうだろう。

前にいるのはスタニングローズ。自力で外に出そうと思えば出せる。しかしこの隊列だと『キミノナハマリアを交わさないと』スタニングローズの外には出せない。

1頭分余計に挟んでしまったことでルメールは身動きが取れなくなってしまっているんだよ。

外に出せればまた話は変わったのだろうが、青レガレイラの外には桃ラヴェルがいた。ラヴェルのジョッキーは鬼神川田。

今回騎乗したラヴェルは単勝12番人気と評価は低かったが、川田がファンの評価が低いからってポジションを妥協することはない。人気はファンが決めることだしね。

当然川田は青レガレイラを外から締めてフタをする。これでルメールは前にキミノナハマリアがいて動けず、外前にラヴェルがいて動けず、まるで満員電車に乗車しているかのような状態で勝負どころを迎えてしまったのだ。

スタート後に挟まれて1列ポジションを下げてなければねえ。満員電車のドアの近くに入れたのに。

3コーナー過ぎ。青レガレイラのルメールがさてどうしようかと考えた頃、ようやく前に動きが出てきた。

白ホールネスの瑠星がラチ沿い、白丸の部分を捨てて外に向かい始めたんだ。これはたぶん前を走る橙シンリョクカの影響と見ている。

4着シンリョクカ 木幡初騎手「ポケットの位置でいいリズムで運べていました。3コーナーから4コーナーでモタつくところがありましたが、距離もギリギリだったので反応が鈍くなったのかもしれません

改めてレースを観ると、3コーナー付近からシンリョクカの手応えが悪い。初也が促していっているのが分かる。

手応えが悪く、いつ下がってきてもおかしくない馬の後ろにつけるのは危険性しかないわけで、瑠星も真後ろから手応えは見ていたろう。タイミングを考えると内を外したのはたぶんこれが原因。

ここからちょっとゴチャゴチャしていくからしっかり見ていってほしいのだが、外に出された白ホールネスは、これまたいつ垂れてくるか分からない紫ハーパーの後ろではなく、GI馬スタニングローズの後ろを狙いに行く。

紫ハーパーとしては橙シンリョクカを簡単に出したくないし、この2頭が外に振れることはない。そうなると青レガレイラはインは突きにくい。

かといって外はラヴェルの川田に締められてしまっている。ルメールが満員電車から外に出るには、4コーナーで下車しようと自力で動いていった白ホールネスの後ろについていくしかない

ルメールは本当に悪いのか

踊る大捜査線を見ながらこの章を書いていたから、一瞬タイトルを容疑者ルメール慎次にしようかとも考えたが、さすがに言葉が強過ぎるからやめた。

今回、ネットでは『ルメールが強引だ』『騎乗停止ものだろう』という言葉が並んでいた。

中には『ルメールだからJRAが忖度する』なんていう、アホらしくて頭痛がするようなコメントも並んでいたのは見た人間も多いかもしれない。

しかもレース後に、ルメールが「直線ではちょっとぶつけられてスムーズな競馬ができず、アンラッキーでした」というコメントまで残してしまったものだから、『加害者なのに被害者ヅラかよ』といった論調も見られたほどだ。

ではルメールは本当に騎乗停止になるのかどうか、ここから説明していく。

まず最初に書いておくが、これは騎乗停止にならない。そしてJRAのルメールに対する過怠金5万という処分は極めて妥当だと考えている。

ルメールはウソはついていない。ある意味被害者でもあるのだ。この章の名前、被害者ルメール慎次でも良かったかもしれないな。

直線入口。青レガレイラの前には白ホールネスの内、白丸のスペースが空いている。

大きなスペースではないが、紫ハーパーの内は満員電車でゴチャついているから通せないし、普通に考えて白丸の部分に入るのがセオリーだろう。

青レガレイラの前を走る紫ハーパーの武さんは、よく見ると右ムチを叩いているのが分かる。馬はムチを叩いた側とは逆の方向に動くから、この場合外に寄っていくはずだ。

すると白ホールネスとの間にある白丸のスペースは消える。なんていうのは、真後ろのルメールからすると武さんのムチの持ち手から分かる。

ハーパーが外に寄ると仮定し、青丸のスペースに切り返しに行ったのはこのためだ。いずれ消えるスペースよりこれからできるスペースへ。ルメールの判断は非常に早いし、正確だった。

今回のエリザベス女王杯、問題はここ。通常紫ハーパーの武さんが右ムチを叩けば外に行く

青レガレイラのルメールはハーパーと緑シンティレーションマーカンドの間のスペースを突きに行く。ここまではいいな。

しかし紫ハーパーが、武さんが右からムチを叩いているのに、一向に外に行かないのだ

17着ハーパー 武豊騎手「スタートしてずっと内にササって、普通に走らせるのに苦労しました

原因はこれ。ハーパーは武さんの言う通りずっと内にササっていた。そのため武さんは右側、つまり内からムチを叩いて外に行かせようとしているのだが、ハーパーはムチを叩こうがひたすら内にササっていった

緑シンティレーションのマーカンドはほぼ真っすぐ走っている。この時点でルメールはだいぶまずい。

セオリー通り内に切り返したのに、前のハーパーがセオリーに反して内に寄ってきたんだから。このままだと進路が開かなくなってしまう。

しかしここで引くわけにはいかない。仮に引いたとして、普通にハーパーが外に行ってしまえば『進路が開いたのに引いているヤバい人』になるし、前を走るハーパーに騎乗しているのは武さんだ。なんとか開けてくれると信じて入るしかない。

青レガレイラルメールの願い?もむなしく、紫ハーパーはひたすら内に寄ってくる。そのため青レガレイラはどんどん内に押し込められる形になった。

これで緑シンティレーションのマーカンドが引かざるを得なくなる。マーカンドは立ち上がってしまった。間のレガレイラは正直どうしようもない

更に運の悪いことに、黒コンクシェルの岩田望来くんが外にヨレてきてしまったのだ。これで青レガレイラは3頭の真ん中で思い切り挟まれる形になってしまった。

まるで1台のプリクラ機に集うギャルだ。狭いスペースに何人も集まってプリクラ撮ってるギャルたち、いるだろ。傍から見たらそんな状況になっている。

まー、そんなことが言えないくらい危ないシーンだったのだがね。これは事故が起きなくて良かったし、起きなかったから言えることでもある。

ここまで見て思った読者の方も多いのではないか。

あれ?ルメール悪くなくない?と。

見方を変えるとシチュエーションはまったく異なるものだ。同じシーンをレース映像、つまり左前からの映像で見てみよう。

青レガレイラが、青丸の空いているスペースがあるにも関わらず、緑シンティレーションのほうに入っていく。

そして青レガレイラは内にいる緑シンティレーションを、更に内に弾き飛ばしているように見えるだろう。

これだけ見ると、ルメールが『とても危ない騎乗をしているように見える』。

しかしパトロールで細かな進路取りを見ると、実はこうなった原因は紫ハーパーにあるように見えてくる。

エリザベス女王杯の裁決
・7番レガレイラの騎手C.ルメールは、最後の直線コースで十分な間隔がないのに先行馬を追い抜いたことについて、過怠金50,000円
加害馬レガレイラ
被害馬シンティレーション、ハーパー

・4番コンクシェルの騎手岩田望来は、最後の直線コースで外側に斜行したことについて、過怠金30,000円
加害馬 コンクシェル
被害馬 シンティレーション

注目すべきはJRAが『悪いのはレガレイラのルメール』としたことだ。

基本的にJRAはどのレースでも、狭いスペースに入った馬が不利を受けている場合、不利を受けようが狭いスペースに入った側が悪い、というスタンスを取っている

だからハーパーに寄られて不利を受けた側のルメールが過怠金を取られているわけ。しかしJRAの発表に『斜行』という文言はない。

つまり今回の場合、JRAは『レガレイラは斜行していないけれど、内に進路はまだできていないのに内に入ったから危ないよ、5万取るよ』と言っている。

より深刻だったら満額10万取られるが、10万取られていない=レガレイラのルメールもかわいそうな部分がある、という裁決の判断だ。まー、5万は妥当。

この『直線で十分な間隔がないのに先行馬を追い抜く』事例に明確な過怠金基準はあまりなくて、裁決側の裁量に任せられているところはある。

例えば今年の春、ヴィクトリアマイルで桃ドゥアイズの克駿が右ムチ叩きながら内を締め、青マスクトディーヴァのモレイラが思い切り不利を受けたケースがあった。

一見悪いのは締めて斜行しているように見える克駿のほうなのだが、JRAの裁決は『マスクトディーヴァのJ.モレイラは、最後の直線コースで十分な間隔がないのに先行馬を追い抜こうとしたことについて戒告』。

今回とはまた違うケースではあるものの、基本的にJRAは『入った側が悪い』スタンス。

そのため今回のエリザベス女王杯も従来通りの基準で考えられた過怠金であって、特段驚きもない。斜行しているわけでもなく、降着にはならない。

そしてコンクシェルは『シンティレーションに影響を与えた』として3万になった。そもそもレガレイラはハーパーがササったアオリで不利を受けているわけで、コンクシェルの斜行の被害対象には入らなかった。

改めて斜め前からと、正面から見た画像を見比べてみると、全然状況は違うよな。だからこそ騎乗停止とまで言うのであれば、パトロールを見てからにしなければいけない

何人かのインフルエンサーが斜め前からの映像だけを切り取って、『どう考えてもルメールは騎乗停止だろう』と投稿していた。

視聴者側はこれを見て、映像のインパクトから『ルメールが悪い』『荒過ぎるから騎乗停止』と騒ぐようになる。

しかし正面から見るとハーパーが内にササったことに端を発した事象であって、騎乗停止に至る斜行ではないことが分かる。

が、映像のインパクトにやられた側の頭には『ルメールが荒過ぎる』というイメージだけがこびりついてしまって、JRAの忖度、ルメールには甘いという空気が醸成される

はっきり言って斜め前の映像だけ切り取って流しているインフルエンサーの責任は重い。それでインプレッションを稼ぐのは非常にどうかと思うね。

Xにも書いたが、マスクはJRAの裁決が100%正しいとは思っていない。そこまで取る?と思う時も普通にある。が、今回の件に関しては妥当だと思うね。

今年のNHKマイルでもルメールに対する裁決がおかしいと騒がれた。しかしあれも『複合的な要因』による不利だった。

当時回顧にも書いたように、こちらも裁決の判断は納得できるもの。映像が与えるインパクトは大きいが、所詮は『斜め前からの画』でしかない。

JRA側が出してくる裁決に対して適切かどうか考えるなら分かるが、裁決も出ていない段階から、斜め前の映像だけを見て条件反射的に騎乗停止だ!と騒ぐのは思考の放棄でしかない。

このレースは何に繋がるのか

ここまでレガレイラの話ばかりしてきた。他馬にはほとんど触れていないと言っていい。

ただ負けた馬たちも次ここで狙える!というほどメンバーレベルが高くなかったとも思う。

24年エリザベス女王杯
12.5-10.6-12.1-12.2-12.2-12.5-12.6-12.0-11.7-11.1-11.6
1000m通過59.6

断続的に流れたことを考えれば、前で粘った組はある程度評価が必要だと思う。少し距離が長い中でイン前から粘り込んだ4着シンリョクカの内容は悪くない

ただ3コーナーあたりの反応が鈍かったあたり、コーナーが少ないコースの1800~2000のほうが買いやすいのかもな。

以前からXに『とても運動神経のいい馬』と書いているように、ある種天才型。ヴィクトリアマイルは若干短い気がするが、成長しつつある今ならどうなるか気になるね。一周でも中山牝馬Sでは買いたい。

3着ホールネスはだいぶ上手くいった影響もある。いい馬だが、この条件が一番良かった。この先は上がりの掛かる2000mで拾っていく形か。愛知杯あたりが候補。

2着だったラヴェルは緩みのないラップを外から、人気馬を締めながら上がっての好走。こちらも内容は悪くなかった。何よりラヴェルはこれで収得賞金積めたのが良かったね。まさかこんな形で積むとは思わなかったが。

パドックが良かったんだよ。これはXにも書いたが。なかなか思い通り使えない中で、ここまで上げてくる矢作厩舎はさすがと言うほかない


レガレイラは結局5着。敗因についてはもう書いたから細かくは書かないが、結局スタートで挟まれて1列後ろになったのが大きいんだよな。

挟まれずキミノナハマリアのポジションにいたら、あとはもうスタニングローズをパスすればいいだけだった。1頭挟んだだけでだいぶ過酷なレースになってしまった面がある

まー、それも競馬だ。スムーズに行かないことのほうが圧倒的に多い競技だ。まして1番人気で1倍台。周りからプレッシャーを掛けられる立場でもある。

状態だけならだいぶ上がってきていた。ローズSのパドックとは雲泥の差で、改めて右回りのほうがいいことも証明している。右回りの2200~2500、となると有馬…はさすがにハードルが高そうだな。アメリカJCCを使ってみてほしい

オールカマーは内枠有利の年が結構あるから、単純に外伸びになるアメリカJCCのほうが見てみたいよ。内回り2000の重賞は相手と馬場による。

6着ライラックはレガレイラについていこうとしたら、レガレイラが満員電車で動けず、自分も位置取りを上げられなかった。まー、もったいないが、後ろから行く馬は展開に左右されるからこればかりはね。

7着サリエラは仕上げ切れなかった。これはもう仕方ない。その中でよく頑張ったほう。引退が近いだけに特に次どこでという感じはないかな。

注目は10着シンティレーション。今日は見ての通り、不利があって走れきれていない。マーカンドのインに入る作戦は素晴らしかった。

前走府中牝馬Sの数字は力がないと出せないもの。以前急速に強くなったサラキアほどではないと思うが、かなり力をつけている。今後もマーク。引退が近いのが惜しい。

薔薇一族のちょっといい話

ここまで勝ち馬にほぼ触れることなく、1万字を超えてしまった。

正直パトロール的にここが良かった!と書くところがほぼなかったのだ。

もちろん道中少し触れたように、橙ハーパー、つまり武さんの真後ろにいられたという利はあった。武さんの後ろは居心地の良さだけなら新幹線のグリーン車を超える

24年エリザベス女王杯
12.5-10.6-12.1-12.2-12.2-12.5-12.6-12.0-11.7-11.1-11.6
1000m通過59.6 勝ち時計2:11.1

このように断続的に流れたのも良かった。極端に速い流れではなく前でも戦えるペースで、流れた分極端に上がりが速くない。切れ負けしなくて済むペースだったのは良かった

この馬は道悪になるとパフォーマンスが落ちるだけに、週末の天気が持ったのも良かった。勝つ時はこんな感じで色々噛み合うものだなと改めて思う。

ただペース、天気だけが勝因ではないね。これだけ道中極端に緩んでいない流れで、クリスチャンが早めに踏んで勝負を決めに行った。一瞬の決め手には欠けるが、長く脚を使えるこの馬のいいところを出し切った形さ。

そして一度脚をやっているのに、そこから丁寧にケアしてここまで戻したスタッフさんたちも凄い。調教師が強気過ぎて引く時はあるが、相変わらずの厩舎力の高さだと思う。

さて、今年のエリザベス女王杯で、2001年のエリザベス女王杯を思い出したという人間は多いと思う。

トゥザヴィクトリーが武さんの天才的閃きで差し切ったレースで、猛追したローズバドがハナ差2着、5頭による大接戦だった歴史的な年だ。

今見ても面白い。武豊が武豊たるレースだと思うが、画面が切り変わった瞬間、馬群を切り裂くように伸びてくるローズバドの姿がまた熱いんだよ。

それでいてハナ差2着。『薔薇一族』と呼ばれ始めた頃で、一族はGIまであと一歩と言われていた頃だった。このローズバドの孫がスタニングローズだ。

後の名繁殖牝馬が何頭も出たことでも知られているレースでもあった。

01年エリザベス女王杯
1着 トゥザヴィクトリー→トゥザグローリー、トゥザワールド
2着 ローズバド→ローズキングダム
7着 タフネススター→カゼノコ
9着 マルカキャンディ→ベルシャザール
10着 ポイントフラッグ→ゴールドシップ
12着 スリーローマン→スリーロールス
13着 スプリングチケット→カレンチャン

凄い年だな、改めて。今年のメンバーがいずれ繁殖として、これだけのレベルに到達することを願うね。

この01年のエリザベス女王杯の勝ち時計が2:11.2。これはエリザベス女王杯レースレコードだった。

前述したが、エリザベス女王杯は近年、ペースが緩むことが多かった。おかげで全体時計がなかなか伸びなくて、勝ち時計が2分11秒台に入ることは何度かあっても、このトゥザヴィクトリーのレースレコードがなかなか破れなかったんだよ。

今年、スタニングローズの勝ち時計は2:11.1。そう、あの大接戦から23年ぶりにレースレコードが破られたんだ

当時ハナ差の2着だった牝馬の孫が、23年後に祖母の時計を0.1秒だけ上回って優勝するなんて、また競馬の神様も随分粋なことをする。

ばーちゃん、いい孫持ったな。


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