23年NHKマイルCを振り返る~苦労人たちの執念が乗り移ったアタマ差~
人より少しタイピングが早いと自負するマスクだが、さすがに回顧1本をその日のうちに出すのは難しい。
1本1万3000字前後になることが多いのだが、仕事が終わって家に帰ってきてから3、4時間で1万3000字を上げるのは至難の業。
だからこそマスクはそれまでに序文、つまりこのあたりの文章を先に作っておいて、書き足す形で作成しているんだ。これで少しほど時短になる。
ただ今回のNHKマイルCはこの序文の作り方に難儀した。NHKマイルCというレースはその年によりラップも変わるし、馬場も違う。
土曜の馬場を下敷きに書こうとしても、日曜の東京競馬場の天気予報が雨である以上、土曜の馬場は少しの参考にしかならない。序文を書けず時短できない状況に陥ってしまった。
しかもこんな年に限ってまた混戦なんだよな。
☆23年NHKマイルC 前日単勝オッズ
6.0倍 カルロヴェローチェ
6.1倍 オオバンブルマイ
6.2倍 ドルチェモア
6.7倍 エエヤン
8.6倍 ダノンタッチダウン
9.8倍 モリアーナ
前日1番人気のカルロヴェローチェで単勝6.0倍。86年以降のGIで、1番人気の単勝オッズが最も高かったのは12年安田記念、サダムパテックの6.6倍。単勝6.0倍はそれに次ぐ2位タイだったんだよね。
2歳王者がトライアルであっさり敗れ、前哨戦の勝ち馬は毎回変わる状況。まさに大混戦と言っていいレースになった。
元々NHKマイルというレースは紛れやすい。予想にも書いたから理由は割愛するが、昨年にしても最低人気のカワキタレブリーが差して3着だったレース。
2007年には17番人気ピンクカメオが勝って、2着は1番人気ローレルゲレイロだったものの、3着が18番人気ムラマサノヨートーと大荒れ。3連単970万馬券が飛び出したのを覚えている人間も多いだろう。
このメンバーでNHKマイルCをやれば、ほんの一つの枠順の差、ほんの少しの馬場の差で結果が大きく変わることは目に見えていた。
☆NHKマイルC 出走馬
白 ②モリアーナ 横山典
黒 ③ウンブライル 横山武
紫 ④ショーモン 鮫島駿
赤 ⑥エエヤン 戸崎
黄 ⑩オオバンブルマイ 武豊
緑 ⑪シャンパンカラー 内田
橙 ⑮カルロヴェローチェ レーン
桃 ⑱ダノンタッチダウン 川田
NHKマイルCを見ていく前に、まず見ていきたいのは馬場の推移だ。
予報では日曜は1日中雨だったのだが、昼前までの東京競馬場は大して雨が降らなかった。もっと降るとお天気お姉さんは言っていた気がするが…
・東京4R 未勝利 芝1800m
1着白 ②ウインアチーヴ 三浦
2着赤 ⑤ジュドー レーン
3着緑 ⑫グランツグリーン 鮫島駿
これは昼前、東京4R。勝ったのは内枠から内ラチ沿いを通っていた白ウインアチーヴだった。2着は道中、ウインアチーヴの後ろを追走していた赤ジュドー。
この時点ではまだ内有利だった。このまま天気が持っていれば、NHKマイルCももう少し内寄りになっていたんだろうね。
ここから雨が次第に強まっていったことで、東京競馬場の芝状態が変わってくる。
・東京7R 古馬1勝クラス 芝1400m
1着白 ①ヴェールアンレーヴ 戸崎
2着橙 ⑬スクルトゥーラ 岩田望
3着黄 ⑨マンドローネ 団野
5R、6Rのダート戦を挟んで迎えた芝のレースが7Rだった。この時点ではまだ内目がギリギリ使える状態。白ヴェールアンレーヴが道中内ラチ沿いとは言わないまでも、内ラチに近いところを追走しているのが分かる。
そして、直線では内ラチ沿いから4頭分開けたところを回っていたヴェールアンレーヴ、そして黄マンドローネが好走。この時点で、4Rより少し外に馬場の伸びどころが移っていた。
・東京9R 湘南S 古馬3勝クラス 芝1600m
1着桃 ⑬カワキタレブリー 松山
2着緑 ⑨アサヒ 吉田隼
3着橙 ⑩ベジャール 戸崎
8Rのダートを挟み、9Rになってより外伸びの気配が増した。勝ったのは道中外を通った桃カワキタレブリー。2着緑アサヒも、3着橙ベジャールも外を回っている。
この湘南Sを見て、同じマイルを舞台とするNHKマイルCも外伸びになるだろうなと確信した。次第に外に移ってたし、メンバー的にもペースが流れそうだったからね。
この湘南Sまでが良馬場。終わったところで馬場が稍重に変わった。
・東京10R メトロポリタンS オープン 芝2400m
1着白 ②グランオフィシエ 戸崎
2着黒 ④カントル 横山和
3着橙 ⑭ゼッフィーロ 岩田望
メトロポリタンは9Rの1600m湘南Sより内の馬達が上位に食い込んだんだが、これはペースもあるだろうね。1000m通過タイムは63.5。スローペースだったこともあって、単純に内、前の馬が有利になった影響が強い。
メトロポリタンはある程度内枠先行勢が足りたとはいえ、本番のNHKマイルCはワンターン。ペースが簡単に緩むことはないから、基本外伸びと考えていた。
次にペースを見てみよう。今日はいつもと構成を変えてみる。決して書くことが少なかったとか、面倒だから手を抜いているわけではない。
☆湘南SとNHKマイルの違い
・湘南S 1:33.6 35.4-34.8
12.7-11.2-11.5-11.6-11.8-11.3-11.6-11.9
・NHKマイルC 1:33.8 34.3-35.4
12.4-10.6-11.3-12.0-12.1-12.0-11.5-11.9
湘南Sが1:33.6だった時点で、NHKマイルの勝ち時計は1:34.0を少し切るあたりと読んでいたんだが、勝ち時計は1:33.8に落ち着いた。
ただ前半600mを比べると、湘南SよりNHKマイルが1秒以上速い。全体時計が出やすい状況でもあった。
前半600m34.3というのは、ここ10年のNHKマイルCと比較すると5番目タイに速い。つまり標準的なペースなのだが、ここ10年のNHKマイルCは全部良馬場なのだ。
つまり、稍重馬場で例年より時計が掛かる今年、前半600m34.3というペースは普通に速い。それに加えて前述したように馬場は外伸び。この時点でNHKマイルCは外差し決着の可能性がだいぶ高かった。
☆NHKマイルC 好走馬
1着緑 ⑪シャンパンカラー 内田
2着黒 ③ウンブライル 横山武
3着黄 ⑩オオバンブルマイ 武豊
4着桃 ⑱ダノンタッチダウン 川田
5着橙 ⑮カルロヴェローチェ レーン
6着白 ②モリアーナ 横山典 5番人気
9着赤 ⑥エエヤン 戸崎 2番人気
こういうスタイルは初めてかもしれないな。先に好走馬から出していくスタイルだ。
これはNHKマイルCの3コーナーだが、1~5着までみんな外を通っているのが分かる。そして1~3着はみんな後方。
9Rのマイルの湘南Sも外外決着だったが、湘南Sより1.1秒も速いペースだったことで、外目の後ろがより有利になる。馬場通りの結果と言っていい。
対して内枠に入った人気馬2頭、白モリアーナと赤エエヤンは内目を通っていた。
午前中であれば4Rが内内決着だったようにこのコースを通っても良かったが、雨によってインが使えなくなり外有利になったことで、一気に苦しいポジションになってしまった。
序盤にほんの一つの枠順の差、ほんの少しの馬場の差で結果が大きく変わると書いたが、枠運も響いてしまったね、この2頭は。
緑シャンパンカラーにとって不幸中の幸い?となったのはスタート。これはスタート直後だが、少し出負けしたんだよね。
まー、コメントから察するにゲートを五分に出たとして先行したかは疑問だが、スタートで出負けしたことで中団より後ろからになったことも好走要因の一つ。
馬場をよく見ているジョッキーは意識を外に向けていた。
内枠4番を引いたショーモンの鮫島克駿は、スタートを出てから控えて、外をチラチラ見ながら、馬を外に誘導している。映像を見ると何度も外を見ているのが分かる。
ショーモンはこれまで先行して好走してきた馬だが、レース後「1、3着馬は真横にいたので、展開的には良かった」と克駿が言っていたように、最初から控えて外目に持ち出し追走するプランだったんだろう。
確かに、今日の馬場で先行馬多数のこのメンバーなら非常に理に適った作戦だったと思う。結果ショーモンが道悪でノメり、差せずに15着だったが、作戦案としては面白いものだった。
いい馬なんだよな、この馬。アーリントンCでもハイペースを2番手で追走して最後まで粘ったように力がある。次、2勝クラスに出てきたら古馬相手でも楽しみな馬だ。
紫ショーモンとは逆の動きをしていたのが、赤エエヤンの戸崎だった。
ショーモンが外に外に動く中、進路が被ってエエヤン戸崎がバランスを崩しかけているのが分かる。
その後すぐに赤エエヤンが内に切り返しに行って、枠は紫ショーモンのほうが内だったのに、向正面ではエエヤンのほうが内という状況が生まれてしまった。
いやいや、外伸び馬場なのに、あなた何をされている方なの?と思った人間もいるだろう。
これは少々難しい判断だった気もするんだよね。
これはニュージーランドトロフィーの向正面と3コーナー。VTRで見てもらったほうがよく分かるんだけど、赤エエヤンは最初、馬群の中で囲まれた時にヒートアップしているんだ。
そこで当時乗っていたデムーロが、ジョウショーホープを外に押し出して、やや強引に外に出しにいったんだよね。
新馬戦がそうだったんだけど、エエヤンは以前から操縦性に課題がある。馬群の真ん中で周りを囲まれるとヒートアップするのはニュージーランドから分かる。
しかし今回引いたのは内枠。ニュージーランドのように外に出したくても、当時より先行馬も多く、より馬群が密集するGIではなかなか難しい。
そうしているうちにショーモンが内から寄ってきて、逆に内がポッカリと空いた。
馬場は外のほうがいいと多くのジョッキーが知っていた分、赤線で囲んだように密集している。これ、外目に入っていたらニュージーランドのようにヒートアップしていたんじゃないかな。
加えて、戸崎の頭には『まだ内目は使える』という意識があったと思う。
これは先ほど上げた東京7R、東京10RメトロポリタンSの3、4コーナーだ。戸崎が騎乗したのは白ヴェールアンレーヴ、白グランオフィシエは、共に内ラチ沿いを通って勝っていた。
『コーナーまでは内を使える』『直線内を4頭分開ければいい』という思いもあって、エエヤンを内に誘導した可能性は結構高い。
まー、こちらも先ほど上げたように、結果的に外を通った馬が上位を占める展開だったことを考えると悪手ではあるんだけどね。
10RのメトロポリタンSで内目を使えたのは一周スローだったからで、ワンターンの9R湘南Sですでに外伸びになっていたことを考えるとなあ…
まー、エエヤンが外に行っていても馬群の中でコントロールしきれなかった可能性があることを考えれば、どっちにしても厳しかった感じはあるね。内枠を最後まで懸念していたが、悪いほうに動いてしまった。
いい馬だし、心肺機能の高い馬なんだが、現状操縦性に課題がある。今後うまく折り合いがつかないと、マイルでも長い馬になってしまう可能性は少しありそう。今後は成長次第。
白モリアーナもコーナーまでは内で溜めていた。ノリさんも3、4コーナーまではまだ内が使えて、直線は外伸びという感触を抱いていたようだ。
実際コーナーは内目を通りながら、直線は流れるように外目に誘導している。
まー、ペースが流れていたことで、先行馬が垂れてくるのを読んで外に出した可能性もあるが、道悪の分馬群がバラけて進路を探しやすいと読んでいたのかもしれないね。
ただノリさんの想定ほど馬群がバラけなかったかな。
白モリアーナとしてはこのあたりのスペースを通れればもっと良かったんだろうが、桃ダノンタッチダウンの川田が右ムチを持っていた。
このまま右ムチを叩くとダノンは内に寄っていく。白モリアーナの進路がなくなってしまう。
実際桃ダノンタッチダウンが少しずつ内に寄ったことで、当初空いていたところはなくなってしまった。
白モリアーナのノリさんはその進路がふさがる前にもう外に移動している。読みは当たっていたんだけど、より外に、外に行くロスはあった。
結果論だが、最初から外枠ならこんな動きをしなくていいわけで、内枠2番がマイナスだったのではないかな。
阪神ジュベナイルFはテンションが高くなってしまって勝負にならず、クイーンCは後手に回り、ニュージーランドTは外枠からロスのある競馬。そして今回は外伸び馬場の内枠。ひたすらツキがないね、この馬は…。能力は高くても、昨年末以降やりたいレースがやれていない。状況が整っていない。
ただ、母ガルデルスリールは現役時代、3歳春はまだ未勝利を勝ったばかりの馬だった。古馬になってからより良くなった馬。母が出ているなら夏を挟んで良くなりそうな雰囲気はある。こちらも成長待ち。
一桁馬番ながら唯一好走したのが、3番の黒ウンブライルだった。
武史はスタート後から内にこだわらず、残り1200m地点では外枠の馬達と同じラインに入っている。
・東京9R 湘南S 古馬3勝クラス 芝1600m
1着桃 ⑬カワキタレブリー 松山
2着緑 ⑨アサヒ 吉田隼
3着橙 ⑩ベジャール 戸崎
5着黄 ⑦エターナルタイム 横山武
これは9Rの湘南Sの直線。黄エターナルタイムはノメり気味の走りではあったんだが、武史より外を走った馬がワンツースリーを決めていた。
武史は馬場の伸びどころをかなり意識するタイプ。この時点でエターナルの通ったところより外を通らないと勝負にならないという思いは生まれたのではないかな。
ただ本番、NHKマイルCで武史が引いたのは内枠3番。どう外に出すか、これは武史の考えるところだったろう。
そこで黒ウンブライルの武史が実行した作戦が後方待機さ。後ろにはナヴォーナしかいない状態。道中17番手からレースを進めたんだ。過去一番後ろから運んだと言ってもいいだろう。
阪神JFも後方15番手からレースを進めているが、この時は外枠で出遅れている。元々スタートがそんなに速くないところもあるし、テンに出て行かなかった場合、後方待機策も選択肢には入れていたはず。
ここでポイントになってくるのは、2走前のクイーンC6着時のルメールのコメントだ。
「今日は口笛を吹きながら、散歩してきたような感じで、集中して走ってくれませんでした。促すとしっかりと走るのですが、すぐに集中を欠いてしまいます」
裏話にも書いたが、ウンブライルという馬は競馬に対して前向きではないところがある。気を抜いてしまうんだよな。
それがはっきり出てしまったのがクイーンC。だから前走から陣営は集中力を高めるため、ブリンカーを着けてきた。結果2着だったものの、この時も道中気を抜くところがあり、最後詰め切れていない。
こういう時はブリンカーをより深くすればいい。その分集中することが多い。ただ若いうちにブリンカーを深くしてしまうと、馬は慣れてしまっていずれ集中しなくなる。
ブリンカーを深くしていっても、いずれ限界が出てしまう。だからこそ若いうちにブリンカーを深く深くしたくはない。
ブリンカーを極端に深くできない状況で、武史は今回、最後方に近い位置で脚を溜め、直線だけ集中させる形をとった。残り500mだけ集中してくれよっていう形だ。
結果これが大当たり。レース後「終いは素晴らしい脚でした。最後まで集中して走れた事も良かったです」と武史が話していたように、これまでとは集中力が違ったね。段違いの伸び。
以前から運動神経の良さ、能力の高さを褒めてきた馬なんだけど、気持ちが入った時の動きは予想以上だった。それだけにこれが毎回できないのがもどかしい。
「もっと前なら届いた…」なんてご意見も見られるが、集中力の足りない馬で最後だけ脚を使わせたからこうなっているわけで、序盤出していったら最後止まっている。正直、これしかない。
武史も9Rでのフォームがおかしかったように、7Rの落馬によりまだ足が痛そうだった。それを考えるとよく追ったと思う。ダブルスナッチの激突は傍から見ていても危ない光景。大事故につながらなくて良かったよ。
ウンブライルの気性面の成長で秋には変わるのかは今のところ分からないが、このまま変わらないなら1400中心の馬になりそうだし、成長すればマイルで戦えそう。個人的には京成杯オータムハンデで届かず、次のスワンSで短縮したところを狙いたいんだけど。
黒ウンブライルの1つ前にいたのが、3着だった黄オオバンブルマイ。予定通りの後方待機策。先に緑シャンパンカラーを行かせて溜めを作る形だ。
☆NHKマイルC 1:33.8 34.3-35.4
12.4-10.6-11.3-12.0-12.1-12.0-11.5-11.9
人間時計の武さんだから、ペースが流れていたのは分かっていただろう。緩い馬場で34.3は随分流れていることを肌で感じていたと思う。
4コーナーで緑シャンパンカラーの外に、流れるように出していって直線を向けた。ここまで主だった不利もなし。ハイペースの外伸びであることを考えると、ここまでは理想的な形だった。
ただ、レース後武さんが「直線に向いてスムーズに外へ出して『勝ったかな』と思ったが、スムーズに行きすぎた」と話しているように、『レースがうまく行きすぎた』ね。
前になんかの回顧で書いたかもしれないが、レースが上手く行き過ぎると負けることがある。何を言っているんだと思われるかもしれないが、要は最後まで溜めたいところで溜められていない。
ワンテンポ、いや、ツーテンポ、追い出しを我慢していれば、最後まで伸びていたかもしれない。ただそれは結果論。流れに乗って、自然と馬場のいいところに出せた以上どうしても動かしていくもの。馬がその日、どれだけ脚を使うかは、追い出してある程度経たないと分からないからね。
展開も馬場も向いて、一番レースが上手くいった馬だった。抜けた馬だったら勝っていたんだろうが…。小柄でも道悪をまったく苦にしない馬。新馬から半年で20kg近く増えてるし、見た感じ体はもう少し成長しそうな余地がある。
馬場を苦にしないというのはいいよね。今後も道悪ハイペース要員として買うことになりそう。祖母の弟にダコールがいる血統。この馬はマイルを走っているダコールだろう。GIを勝てるまではいかないだろうが、ローカルの外伸び馬場で楽しみがある。
4着の桃ダノンタッチダウンは、レース後の川田の「素晴らしい走りをしてくれました。だからこそ、乾いた馬場で走らせたかったです」というコメント通り。
完璧なポジションで、スムーズに運べて、何も言うことない内容だった。それだけに道悪になったのが痛い。まだまだ見た目から緩い馬で、道悪より良馬場のほうが向いている馬。
皐月賞といいNHKマイルといい、春シーズンはよく雨に当たるね。まー、こればかるは運もあるから仕方ない。ひと夏越えてどこまで緩さが解消してくるかだろう。ひと夏だけで解消するレベルではないように見えるけどね。
古馬になってもっといい馬だと思う。こんなに見た目に緩い中でここまで走れているから、無事に育てばGIで楽しめる馬になるのではないか。来年の富士Sで買ってそう。
問題は道中似たようなポジションを走っていた、橙カルロヴェローチェ。画像で分かるか?レーンが持っていかれているのが。
…分かりにくいな。橙カルロヴェローチェのレーンが少し肘を引いているだろう。これ文字で伝えるのめんど…いや、大変だから、VTRを見てほしい。
思い切り掛かっているわけでもないし、むしろレーンがこの程度で済ませているのが凄いと思う。2走前に短縮して臨んだ白梅賞で少し掛かりながら逃げてしまったことで、暴走とまではいかないが、道中の折り合いが難しくなってしまった馬。
まともに走れば2走前のようにマイルで1:33.3なんて数字を楽に叩き出せる。GI級の能力がある馬だ。それだけに折り合い面が難しいのが難点。
次、1400m以下を使えばたぶん来るだろうけど、そうなるとその後マイルに延長した時が大変。相当乗り難しくなる。いずれスプリンター寄りになるのではないかな。
何より今回はデキが良くなかった。GIの人気馬でこれだけパドックが良く見えなかった馬は久しぶり。何が悪いかって言われると難しいな。全部って答えちゃうと思う。
白梅賞あたりのパドックと比べるとよく分かると思うぞ。何もかも違う。テンションが高いのはいつも通りとして、トモの踏み込みが違う。今回は本当に浅くて、転ぶんじゃないかと思うほど。
アーリントンを回避したり、予定外なことが続いて満足に仕上げられなかったとはいえ、本当にこのデキでGIに出てくるとは…。MAXを100とすると、今日は40とか50だった。
そんなデキで、しかも折り合いが難しい馬の延長なのに、道中馬をだましながら折り合いをつけて、よく5着まで持ってきたと思う。結果だけ見れば1番人気を飛ばして5着に見えるが、これは逆。1番人気にしたほうがかわいそうだし、よく5着まで来ている。
まともなデキで折り合えばGIで勝ち負けする馬。まずは無事立て直されて、折り合いがもう少しまともになることを願うよ。
先行した馬たちはオーバーペース。今日は参考外だろう。具体的に言えば4番手追走で13着だったセッション。スタートが上手く行き過ぎたのもあるだろうが、このメンバーで先行されてもな。
もちろんまだ緩いし、もう少し硬い馬場のほうがいいのだろうが、早々に手応えがなくなってしまった。今日はただ回ってきただけ。デキが素晴らしかっただけにもったいない。唸るくらいの仕上がりだった。
あの気性、栗東坂路を爆走する脚力を考えると、いずれ1400向きになると思う。まだマイルでも持つから、今のうちに溜めを利かせた競馬を覚えたい。
4番手14着のユリーシャも馬はいいんだが、怖がりな馬だからどうしても作戦面の選択肢が限られてしまうのが難点。今次ここで、っていう話はできないかな。
11着シングザットソングも外伸び馬場で内から先行していた形。展開、馬場が厳しかった。現状は1400のほうが使いやすい。デビュー当初を考えればまっすぐ走るようになってきたし、成長を感じる。
ただこの馬の場合、フィリーズレビューを勝ってしまった点が今後色々影響してきそう。斤量をより加算されてしまう立場だけに、恩恵を受けられないレースもありそう。そこがネック。ハイペース1400m待ち。
ナヴォーナは展開を考えると8着は物足りなく見えるが、まだ成長途上で道悪に対応できていない。本当にいい馬。新馬の数字もいい馬で、成長してくれば重賞でも勝ち負けする馬。
まだ兄のシュネルマイスターとは比べられないトモだし、能力は兄よりは下回ると思うが、この馬も走る。来年以降のマイル重賞で期待している馬。今、前から見ると線が細いから、500kgくらいで走れるようになれば理想。
12着ドルチェモアは少し追いかけ過ぎた分もあるし、まだデキが完調ではない。パドックから緩さを残していた。ダノンタッチダウンみたいな元からある緩さではなく、仕上がりきっていないほうの緩さ。
ニュージーランドTはもっと残念な馬体だったから、それよりはだいぶいいんだけど、なかなかいい時に戻ってこない。無理してもいけない時期。秋、立て直せればってところか。
いつもと違うスタイルで書いてきたが、早くもラストのシャンパンカラーだ。
正直、これ以上書くことがない(笑)もう中盤に勝負どころも書いてしまったし、パトロールを見て改めてここがこう、と重点的に書いていくところもそうなかった。
直接的な勝因は左回りのほうがよりスムーズである点に加えて、内田さんの「手応えはすごく良くて、早めに抜け出さないように周りを見ながら追い出しを待った」というコメントのように、追い出しを待ったことにあると思う。
実際追い出しがペースを考えると、少し動き出しが早かったオオバンブルマイが最後に止まっている。馬を遊ばせないように追い出しを待てたのは大きかった。
そういう意味では、緑シャンパンカラーの最大の勝因は桃ダノンタッチダウンなんだよな。
草食動物の馬は先頭に立つとレースから気持ちが逸れやすい。ダノンタッチダウンが早めに垂れてしまっていれば、押し出されるようにシャンパンが先頭に立ってしまって、最後目標になるし、フワフワして最後止まる。
ダノンがギリギリまで頑張ってくれたおかげで、直線終盤まで目標が存在した。追いかける形になったのが最高に良かった。
加えて外から迫っていた黄オオバンブルマイが、うまく行き過ぎて最後甘くなってしまった。仮にシャンパンが早め先頭に立ってしまうと、オオバンブルマイのいい目標になってしまう。ところがオオバンが止まった。これも大きかった。
ウンブライルが最後の最後まで溜めて、直線だけ集中させる形の騎乗を取った点も追い風になったね。もちろんGIは力の足りない馬には勝てないレースだが、内田さんの乗り方と、周囲の馬の動きが全部噛み合った結果の1着だったとも言えそう。
湘南Sとのラップ比較などから、正直、レベルがかなり高かったとは言えないレース。
序盤、『このメンバーでNHKマイルCをやれば、ほんの一つの枠順の差、ほんの少しの馬場の差で結果が大きく変わる』と書いたんだけど、まさにこの言葉が当てはまるレースだったのではないかな。斤量差がある今年はまだしも、来年以降はもう2段階くらい成長しないとGIの勝ち負けは難しいかもしれない。
ただ念のため書いておくが、実力がないとGIは勝てないからね。左回りを中心に今後も考えていきたいところ。
内田さんのGI勝ちは5年ぶりか。周りを明るくする人でいい人なんだよ。10年ちょっと前に大井で落馬して、頸椎歯突起骨折の大ケガを負ってから、うまくいかないレースが増えてしまった。このケガで現役続行している時点で凄い話なんだけどね。
ズブい馬に火をつけたり、細かいところでの貢献度は相変わらず高かったんだけど、勝利数が少なくなるのと比例するように馬質も下がっていた。
今回、レース後のインタビューで07年ピンクカメオで勝ったことについて問われて、「改めてこのレースを勝てて、本当に幸せです」と答えていただろう。
07年といえば内田さんがケガする前さ。まだ体が思うように動いて、乗り馬の質も高かった頃。あれから16年、置かれた立場はだいぶ変わってしまった。
馬質も下がり、依頼も少なくなり、何より本人がもどかしく、悔しさが募る毎日だったと思う。その中で明るくふるまっていた姿を見ている一人として今回の勝利は嬉しい。
追い出しのタイミングなんかはもう百戦錬磨のベテランの経験値も大きいもの。確かに展開面や並びも完璧に向いたが、仕掛けるタイミングを間違えていたらアタマ差の勝ちはなくて、ウンブライルが勝っていたろう。
シャンパンカラーを管理する田中剛厩舎は今年初勝利。開業している調教師で今年、唯一未勝利だったのが田中剛師だったんだよ。
なかなか勝てなかった高柳瑞樹厩舎が先々週ようやく勝って、あとは田中師がいつ勝つかという状況だった。惜しいレースはあったんだけどな。本人も相当悔しい思いをしていたはず。
ジョッキーとして現役時代、何度も大ケガに見舞われた人だ。内田さんだってそう。もっと言えば、馬主の青山会長も若い頃苦労されてきたことで知られている。
苦労してきたホースマンたちの気持ちがこもったアタマ差だったね。思わずグっとくるレースだった。
と、最後まで書いてみて思ったよ。いつもと違う形式で書いたが、このスタイルは大変。帰宅してから4時間近くかかってしまった。来週以降またいつもの形に戻します。
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