23年安田記念を振り返る~今年屈指の好ラップによる純粋な能力の殴り合い~
これはマスクが安田記念の予想の冒頭に書いた一文だ。
安田記念というレースは近年、日本で一番レースレベルが高くなると言っても過言ではない。
同じように短距離馬から中距離馬まで交わるレースとしてフェブラリーSの名前も挙げられる。実際フェブラリーのレベルも高いのだが、海外遠征の都合などから、決して有力馬全部が揃うことはない。
対して安田記念は中長距離タイプをのぞけば、芝の一線級がほとんど出てくる。強いメンバー相手に、厳しいラップを追走して、なおかつ長い直線が待っていることから、非常にタフなレースになりやすいレースさ。
だからある意味、マスクは安田記念こそチャンピオン決定戦だと思っているんだよ。毎年予想が難しくなるレースではあるが、それ以上に、今年の豪華メンバーを見てどんなレースを見せてもらえるのか、俺は楽しみにしていたんだ。
☆安田記念 過去3年のレースラップ
・20年 1:31.6 稍重
12.1-10.9-11.2-11.5-11.6-11.4-11.0-11.9
・21年 1:31.7 良
12.3-11.0-11.6-11.5-11.4-11.2-11.0-11.7
・22年 1:32.3 良
12.2-11.0-11.5-12.0-12.0-11.2-11.0-11.4
これはここ3年の安田記念のラップだ。太字にしているのは1F11.5以内のラップが刻まれた区間。
道中11.5以内の区間が何度も繰り返されることがお分かりだろうか。昨年は回顧でも触れたが、このレースにしてはやけにペースが緩く中盤12.0-12.0なんていうラップが入ったんだけど、基本的に11.5以内が断続的に続くレースなんだ。
冒頭にも書いたように、厳しいラップを追走して、なおかつ長い直線を最後まで伸びきる力が求められる。
では今年、例年のように厳しいラップとなるのかどうか、そこが最初にマスクが考えたポイントさ。
逃げそうなのは内枠を引いたジャックドール。これまでのキャリア14戦全てが2000mという馬で、今回が初めての1600m戦になる。
☆23年大阪杯
12.4-10.9-12.2-12.0-11.4-11.7-11.5-11.4-11.4-12.5
これは今年の大阪杯、ジャックドールが逃げ切ったラップ。コース形態も距離も違うから一概に比較はできないんだけど、1F11.5以内だったところを太字にさせてもらった。
これを見て分かるように、ジャックドールという馬は序盤少し息を入れて、中盤からペースを締め、早めに勝負を決めに行く逃げ方をする。
何度か回顧でジャックドール逃げとして紹介されてもらったが、これまでのジャックドールは前半に息を入れるからこそ、この手を成立させていた。
ジャックドールが逃げれば淀みない流れ、逃げれなければハイペース。どっちにしても厳しいレースが待っているというのがマスクの読みだった。
☆安田記念 出走馬
白 ②メイケイエール 池添
黒 ③ジャックドール 武豊
紫 ④セリフォス レーン
赤 ⑤ソダシ 川田
水 ⑥ダノンスコーピオン デムーロ
青 ⑦ガイアフォース 西村淳
黄 ⑨シャンパンカラー 内田
緑 ⑪イルーシヴパンサー 岩田望
緑 ⑫ナミュール 横山武
茶 ⑬レッドモンレーヴ 横山和
橙 ⑭シュネルマイスター ルメール
灰 ⑰ウインカーネリアン 三浦
桃 ⑱ソングライン 戸崎
まずはスタート。ここで1つポイントになったのは、ゲートが開くほんの1、2秒ほど前の出来事だった。
お分かりいただけるだろうか。1枚目の画像と2枚目の画像、黒ジャックドールのポジションが少し違う。
2枚目は武さんが前のほうに動いて、その奥にいるセリフォスのレーンの姿がはっきり見えるよね。
これ、ゲートの前扉が開く直前にジャックドールが一度前方に動いちゃってるんだよ。俺もレース直前のこの動きを見て、思わず声が出てしまった。
だって開く直前に前に出ちゃうと、そこから後ろに戻る間にゲートが開いちゃうだろ。こういう動きを前扉が開く直前にやられると、馬は出遅れる可能性が跳ね上がる。
別に差し追い込み馬ならいいが、ペースを作る側が出遅れてしまったらレースのプランが崩れてしまう。一瞬スタートする前から外れを覚悟してしまったんだ。
白メイケイエールのように出遅れはしなかったんだけど、前扉が開く1、2秒前に一度出ようとしてしまった分、黒ジャックドールは他の馬と五分のスタートになってしまったんだ。
この時点で隣の白毛のほうが速い。内枠で包まれたくない武さんとしてはもうワンテンポ速いスタートが欲しかったのは間違いない。
レース後、武さんが「本当に具合はすごく良かったです。ただ、ゲート内で気合が入ってしまって、スタートは良くなかったですね」と話しているのがここ。やる気があるのはいいことでもあり、悪いことでもあるのがこの一瞬に凝縮されていた。
武さんもゲートの中で何度もジャックドールに声を掛けているのがジョッキーカメラでも分かる。本当に面白いな、このシステム。
スタート後100mでもこれ。武さんとしてはここでハナがベストだっただけに、約半馬身から1馬身ほど足りていない。
主導権を握れば勝てたとは言わないが、もう1つ上の着順もありえそうな状況だけに、痛いロスになってしまったのは間違いないだろう。
逆にこの『ジャックドールの半馬身』により恵まれた馬もいる。紫のセリフォスだ。
黒ジャックドールは逃げられなかったことで、セリフォスのすぐ前にいたんだよ。ラッキーと言わんばかりに、セリフォスのレーンは内ラチ沿いをチラリと見て、誰も内ラチ沿いにいないことを確認し、ジャックドールの真後ろに入っていった。
今日の東京芝はCコース開催2週目(4日目)で、内ラチ沿いはそこまで良くなかった。それは黒ジャックドールが内を開けていることからも分かる。
その分内ラチ沿いから上がってくる馬がいなかったのも良かったね。楽にジャックドール武さんの真後ろに入れたんだ。
するとこんな感じになる。よく『強い馬の真後ろ』『武豊の後ろ』がベストポジションになると書いているが、レーンは労せずこのポジションを獲得できたんだ。
労せずってのは語弊のある言い方だな。そもそもセリフォスで好発を決めているからこそ獲れるポジションなのだが、セリフォスにとってラッキーだったのは『左隣がジャックドール、右隣がソダシだったこと』だろうね。
どちらも先行してくれる。しかもスタートの出も遅くない。セリフォスとしては序盤のポジションを選び放題になる。
当然黒ジャックドールはインの3番手だと持ち味が生きないから、武さんは外の2番手に切り返す。
紫レーンは武さんの後ろという貴重なポジションを守るために、ジャックドールの真後ろについていくんだよな。ソツがない。この時点でレーンは100点満点の騎乗をしている。
正直道中に関してパトロールであまり書くことがないから、ペースの話でもしようか。
☆23年安田記念 1:31.4
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
34.2-33.8
安田記念らしいペースと言っていいと思う。序盤から10.8-11.4というラップが入り、一度11.8と一瞬息が入った後に、4コーナー前から11.1-11.2と高速ラップが連続している。
☆安田記念 過去3年のレースラップ
・20年 1:31.6 稍重
12.1-10.9-11.2-11.5-11.6-11.4-11.0-11.9
34.2-34.3
・21年 1:31.7 良
12.3-11.0-11.6-11.5-11.4-11.2-11.0-11.7
34.9-33.9
・22年 1:32.3 良
12.2-11.0-11.5-12.0-12.0-11.2-11.0-11.4
34.7-33.6
・23年 1:31.4 良
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
34.2-33.8
序盤にも載せた過去3年の安田記念のラップと比較してみよう。太字にした部分は先ほどと同様、1F11.5以内のラップだ。
こうして見ると分かるが、太字の部分は昨年と変わらないんだよね。太字にしてあるところ、同じだろう?。
☆安田記念 この2回の好走馬
・22年
1着ソングライン
2着シュネルマイスター
3着サリオス
4着セリフォス
・23年
1着ソングライン
2着セリフォス
3着シュネルマイスター
構成が似ていることも影響して、来ている馬自体はほぼ同じになるのは分かる。安田記念はずっと速いペースを追いかけて、最後脚を伸ばす力が求められる独特なレースになりやすいから、こうした『リピーター』が来やすい。
ただ昨年と今年で違うのは中盤、1000m→600mだ。ちょうど3、4コーナーにあたる。
昨年はこの区間が12.0-12.0と明確に緩んでいるのに、今年は同区間が11.8-11.6だったんだ。
・22年 1:32.3 良
12.2-11.0-11.5-12.0-12.0-11.2-11.0-11.4
34.7-33.6
・23年 1:31.4 良
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
34.2-33.8
しかもよく見ると、前半600mも昨年より今年のほうが0.5秒も速い。前半も、中盤も昨年より速いのに、レース上がり3Fがほぼ一緒なんだよ。昨年より数字がいい根拠はここにある。
☆23年東京新聞杯 1:31.8
12.3-10.8-11.3-11.4-11.3-11.0-11.6-12.1
600m通過 34.4
1000m通過 57.1
☆23年安田記念 1:31.4
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
600m通過 34.2
1000m通過 57.6
これは今年の東京新聞杯のラップとの比較だ。今年の東京新聞は今回同様ウインカーネリアンが逃げた。同レースはDコース、今年はCコース、馬場差は気持ち東京新聞杯の日のほうが速い。
その中で、ウインカーネリアンは今回より速いペースで逃げている。グリーンチャンネルで尾形元調教師が57.6を暴走と言っていたようだが、全然そんなことはない。安田だったら57.6は普通のラップ。
むしろポイントはここから。
☆23年東京新聞杯 レース上がり3F
11.0-11.6-12.1 34.7
☆23年安田記念 レース上がり3F
11.1-11.2-11.5 33.8
なんと安田のほうが1秒近く速い。もちろんGIなんだから東京新聞杯より数字が出て当然なんだけど、要約するとこのラップは『ウインカーネリアンに東京新聞杯と似たようなラップを踏んで、なおかつ1秒近く速く上がれ』と言っているんだ。
全体時計の速い安田記念は往々にしてこれがある。東京新聞杯など同条件のマイルGIIIと違って、全体時計が速いことで、1Fごとのラップがより速くなって、より厳しいレースになりやすい。
☆1:31.4以内で決まった安田記念
12年 1:31.3 1000m56.3
18年 1:31.3 1000m56.8
20年 1:30.9 1000m57.0
23年 1:31.4 1000m57.6
しかも過去の速い時計だった安田記念と違って、今年はむしろ1000m通過が少しだけ遅かったんだよ。こうして並べると分かるよね。
つまり、ウインカーネリアンが東京新聞杯ほど速く逃げなかったことで、『ある程度厳しい流れを追走し、なおかつ速い脚を使う』という力が求められるようになった。
・18年 1:31.3 1000m56.8
1着モズアスコット 11-12 33.3
2着アエロリット 3-3 34.0
3着スワーヴリチャード 5-5 33.9
・23年 1:31.4 1000m57.6
1着ソングライン 11-9 33.1
2着セリフォス 4-5 33.6
3着シュネルマイスター 15-15 32.8
4着ガイアフォース 9-9 33.3
5着ジャックドール 2-2 34.0
7着ソダシ 2-3 34.2
8着ウインカーネリアン 1-1 34.5
1000m通過が1秒近く速かった18年と比べてみると、上位馬の上がり600mにも差があるのが分かる。
18年は勝ったモズアスコットこそ33.3を使っていたが、今年は上位5頭中3頭が上がり600m32.8~33.3の脚を使っているんだ。
先ほど書いたように、『ある程度厳しい流れを追走し、なおかつ速い脚を使う力』を求められているのが分かるよな。
こんな流れで、ジャックドールが上がり3F33秒前半を使うのは無理に等しい。
以前浜名湖特別で上がり600m33.2という脚を使い逃げ切ったが、あれは2000mで、しかも1000m通過64.3。今回はマイルで57.6通過。条件設定が違い過ぎる。
ならジャックドールがもっと速いペース、それこそウインカーネリアンのハナを叩いて逃げたほうが良かったかというと、これも難しい。
たぶんウインからハナを奪うと1000m通過57秒前後くらいだったと思う。序盤に書いたように、ジャックドールは2000mで最初に少し息を入れて、そこから淀みないラップに持ち込むスタイルさ。
初めてのマイルでいきなり1000m57.0で逃げられるような速さはない。しかもあのスタートの誤算。ハナを叩くのはかなり厳しい情勢だ。
初マイルで57.6の流れを2番手で追走し、なおかつ上がりが問われる中で5着に踏ん張ったのだから、むしろジャックドールは健闘しているんだよね。
レース後武さんが「無謀なチャレンジではなかったし、またマイルで乗りたい」と話しているように、内容自体は全然悪くない。これだけ走れたらマイルでまた乗りたくなるのも分かる。
ただ次のマイルが、秋のマイルCSにはならないと思うね。この馬は大阪杯を勝っているとはいえ、それまで左回り中心に使われているように、左回りのほうが乗りやすい。
そして一戦ごとに燃焼して走るタイプだから、詰めて使うと数字が一気に落ち込む。秋の目標はたぶん左回りの天皇賞秋だろう。マイルCSはそこから中2週。使わないだろうな。
来年の安田記念まで左回りのマイルを使う機会がないのではないか。秋にアメリカ遠征するなら話は違うが…。
このペースで歯が立たなかった人気馬がもう1頭いる。7着だったソダシだ。
☆22年ヴィクトリアマイル 1:32.2
12.5-10.8-11.4-11.6-11.7-11.1-11.3-11.8
34.7-34.2
1000m→600m 23.3
☆23年ヴィクトリアマイル 1:32.2
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4
34.2-33.7
1000m→600m 24.3
1着ソングライン
2着ソダシ
☆23年安田記念 1:31.4
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
34.2-33.8
1000m→600m 23.4
1着ソングライン
7着ソダシ
前後半3F自体は今年のヴィクトリアマイル、安田記念はほぼ変わらない。違うのは先ほど話をした、1000m→600m、つまり3、4コーナーのペースの違いだ。安田記念のほうがなんと0.9秒も速い。
それでいてレース上がり3Fはほぼ一緒なのだ。今回のほうが全体的に厳しいレースになって、なおかつ上がりも問われる仕様になっている。
ヴィクトリアマイルの回顧でも触れたと思うが、ソダシという馬はGI3勝馬にも関わらず、これまで上がり600m最速の脚を使ったのが過去15戦で新馬だけ、しかも函館1800で35.3という馬。
逃げ馬でもないのに上がり最速を使った勝ちがここまでない馬も珍しい。要はソダシという馬は、前目で立ち回り、なおかつそれなりの上がりを使って後ろを封じるという馬。
言ってしまえば競馬が上手い。 逆に言えば末脚の爆発力、キレで劣る。まー、クロフネ産駒でダートも使うような馬に上がりの爆発力とキレを求められないんだけど。
今年のヴィクトリアマイルのように中盤緩んで楽をできるなら、まだ先行しても最後まで脚が残る。しかし今年の安田はヴィクトリアより1秒中盤が速い。
昨年のヴィクトリアのように中盤締まっても、前半が楽で、なおかつラスト200m11.8と時計が掛かればいいが、今年の安田は前半から厳しく、ラスト200mも11.5と速い。
こういう、ずっと速くてなおかつ上がりも問われる、つまり総合力を問われてしまうとソダシは脆い。
いや、脆いという表現は適切じゃないな。『ソダシより総合力がある馬が他に何頭もいる』と言い換えたい。
前走は34.2-33.7という流れで1:32.2の2着。今回は34.2-33.8という流れで1:32.0の7着。むしろソダシは前走より走っているんだよな。
単純な話だ。ヴィクトリアマイルではソダシ以上に総合力がある馬が1頭だけで、今回は6頭いたという話。はっきりと書くと、力負け。
この回顧を読んでくれているソダシファンの皆さんにとっては辛いワードだと思う。ただ念のため書いておくと、マスクは別にソダシのことが嫌いなわけではなく、むしろこれまで回顧で褒めることが多かった。
今回の安田記念は近10年の数字と比べても1、2を争うハイレベルなもの。能力の殴り合いみたいなレースだったから、ソダシの立ち回りの上手さが力で覆されていると考えてほしい。
回顧はありのままを書くことを心掛けている。正直ここがソダシの天井だと思う。
逆に言えば、ソダシが牡馬相手のGIを勝つには立ち回りの上手さが生きて、なおかつ上がりがほどよく掛かる必要がある。仮にマイルCSを勝つとすればこの2条件が揃う形だろう。
京都のマイルCSは向正面の上り坂の影響で、安田のように最初から最後まで速いレースになりにくい。そういう意味ではソダシ向き。馬場、展開の助けがどこまであるかによるんじゃないかな。
はっきり書いておきたいのは、ここ2戦のレーン、川田はほぼ完璧に乗っている。
前走の騎乗についてはヴィクトリアマイル回顧で書いているから省略するとして、隼人じゃないから負けたというのは完全なる間違いと断言したい。正直、このラップではどう乗っても厳しい。何がミスだったのかむしろ俺が聞きたい。
俺は正直ソダシはもっと厳しい状態で出てくることも覚悟していた。一度使うとテンションが上がることから、間隔を開け厩舎に長く置いて調整している馬が、今回は中2週で東京まで再輸送。
正直パドックでテンションがやばいんじゃないかと思っていたんだよ。そうしたら、ギリギリのところでちゃんと我慢できていた。返し馬でも想像以上にスムーズ。
今浪さんがもうあと1か月で退職するが、さすが50年この道にいたベテランだよな。中2週の再輸送、苦しいローテの中、これだけのコンディションをキープしてパドックに出してきたことに敬意を表したい。
道中のパトロールにあまり触れるところがなかったから今回はラップの話を中心にやっているが、ソダシに関連して、直線見ておきたいところがある。
これは直線。赤ソダシの川田が右ムチを叩いて、紫セリフォスを締めようとしているのがお分かりいただけるだろうか。
1枚目、残り400m付近ではソダシもまだまだ脚があるから、川田も頑張って締めにいこうとしている。
出したら自分の着順が落ちるのだから、ここは当然締めて、セリフォスを黒ジャックドールに詰まらせるのがセオリー。
正面から見るとこんな感じ。赤ソダシが踏ん張って、紫セリフォスを締めようとしている。
しかし横から見ても前から見ても、ソダシが速い上がりに対応しきれないこともあって、少し締めが甘いのが分かる。
紫丸で囲んだ部分、赤ソダシと黒ジャックドールの間にほんの少しだけ、隙間があるのだ。
赤ソダシの川田だって、ここで引いたら着順を落とすことはよく分かってる。
だからこそ矢印から分かるように右ムチを叩いてソダシを内に寄せ、紫セリフォスをなんとか締めようと頑張っていた。
しかし前述したように赤ソダシが最後切れ味、地力で劣る分、紫セリフォスを完全に締めきれなかったんだよね。
締めきれなかったスペースから紫セリフォスが出てきたシーンは、今年の安田記念で一番熱いポイントだったかもしれないな。
その前の画像、紫丸で囲んだ部分を見てくれよ。1頭分もないだろ、スペース。
そんな小さなスペースに、レーンはうまく右から体を入れて、ソダシをほんの少しだけ外にプッシュし進路をこじ開けている。
斜め前から見るとこんな感じ。紫セリフォスがうまく体を入れて進路を作っているのが分かる。
上手過ぎる。
普通ならジャックドールに詰まっていてもおかしくない局面だ。いくら赤ソダシが締めきれなかったにしても、このあまりにも自然な割り方には、思わずパトロールを見ながら声が出たよ。
これで29歳は絶対ウソだろ。どういう騎手人生を歩めば29でこういう自然な割り方ができるんだろうな。29がウソだろって毎週言ってる気がする。
まー、これだけ上手くても、レーンの場合来年免許が取得できるか際どい。問題はここ。制裁点が今24点だから、ムチであと1回やらかすと来年アウト。本人も今相当気を使っているはず。
日本の場合、ムチの連続使用のルールが今年から変わった。昨年までは連続使用10回までと決まっていたのだが、今年から5回に変更された。ルールが変わったことを知らない層も結構いるかもしれない。
これを超えたら制裁が入るんだが、誰とは言わないけど、川須、北村宏、江田照さんの常連組はよく超過している。まー、ルールが変わった年はムチの制裁増えるよな、それはそうだ。
オーストラリアの場合、日本とルールが異なる。
この記事にあるように、オーストラリアは『残り100mまでは断続的に5回まで、その先は無制限』なのだ。
当然その競馬に慣れているレーンは残り100mから連続でムチを入れてしまって制裁に引っかかるというのが現状。先々週のコスタレイへのムチ連打も残り100m付近から。これはもう癖なんだろうな。
まー、その国のルールに従うのは当然で、ルールを破っているから制裁点が課されることに異議などないが、なんだか制裁点が多い=斜行によるものと捉えている層もいそうだから一応書いておくことにした。※もちろん斜行の制裁点もある
ちなみに、記事にあるようにドイツは1Rあたり3回までしか打てないなんていう厳しいルールがあったり、一部の国ではそもそもムチが使用禁止だったり、上には上がある。
あくまで俺個人としては、ムチの過剰使用はよろしくないと思うが、ムチがないと競馬で力を出し切れない馬がいるのに使用制限を掛けるのは公正競馬なのか?という思いがあるから、過剰な使用制限には反対の立場だ。
話を戻そう。俺はレーンのムチの使用うんぬんを書くために回顧を書いているんじゃないんだ。
早く回顧を書き終えてトニカクカワイイのアニメをもう一度最初から見直すんだ。
セリフォスはペースを考えればよく頑張っているし、3歳ながら昨年安田で4着になっているように、安田独特の最初から速い流れについていって脚を使うレースに対応できることもあっての2着。
もちろん道中武さんの後ろというベストポジションで立ち回れたのも大きかった。
上がり勝負もこなせるだけにマイルCSでもありだと思うんだけど、現状の完成度が高い馬で、ここから更に成長していくかというと微妙なところ。
今日は毛ヅヤにまだ良化の余地があったから、更に状態が上がればマイルCSや香港も楽しみ。ただし、来年の安田で同レベルのパフォーマンスができるかというとやや懐疑的。想像を超えてほしい気持ちはあるが…
内の話ばかりしてるから、さすがに外の話でもしておこう。俺まだシュネルマイスターとソングラインの話してないもんな。
ここまで9000字以上書いてるのに、勝ち馬と3着馬にほとんど触れていないとか、むしろ回顧として終わってる気がする。
3着橙シュネルマイスターは、できれば茶レッドモンレーヴのポジションにいたかったかもしれないね。ここだと桃ソングラインの真後ろといういいポジションに収まる。
まー、茶レッドモンレーヴは東京1400から延長での参戦で、橙シュネルマイスターは京都1600からの参戦。
仕方ないところはあるんだけど、序盤レッドモンレーヴに前に入られたことで、ソングラインの後ろから一緒についていけなかったのはちょっと痛かった。
それ以前に気になるのがルメールのレース後のコメント。
「スムーズなレースができました。最後もよく伸びてくれました。もっと速いペースならもっと前でフィニッシュしていたかもしれません」
・21年安田記念 3着
前半600m 34.9
前半1000m 57.8
・22年安田記念 2着
前半600m 34.7
前半1000m 58.7
・23年安田記念 3着
前半600m 34.2
前半1000m 57.6
いや、確かに2年前はまだ3歳、昨年はデキがそんなに良くなかった影響はある。が、ここ2年より全然速いペースだったのに、「もっと速いペースならもっと前でフィニッシュしていたかも」と言うことに違和感が残る。
レースを見ていても、単純に反応スピードが遅い。確かに上がり600m32.8はメンバー中最速。それでも直線入り口で少しモタモタして、エンジンが掛かってから伸びてきた。
前走マイラーズCは34.4-34.1、3コーナーに下り坂という加速装置があるからそこまで気にならなかったのかもしれないが、この馬、もうマイルだと反応が鈍くなり間に合わなくなっているのかもしれない。
加速装置がある京都マイルCSならマーク対象になるのだが、それ以上に、今のシュネルマイスターの反応なら天皇賞秋が面白いかもしれないね。
でもなあ…天皇賞使うとマイルCSを使えないんだよな。この馬は慢性的に脚に難しいところがある。それがあるから海外でも結果が出なかった馬。中2週じゃ使わないだろう。本当に調整の難しい馬。能力は非常に高いんだがね。
4着だった青ガイアフォースにも触れておこう。西村が上手かったのは直線の進路だったのではないかな。
道中水ダノンスコーピオンやドルチェモアの後ろと、前の馬の力量、デキを考えるとあまりいいポジションではなかった気もするが、直線、水ダノンスコーピオンのデムーロが右ムチを叩いているんだよね。
これでダノンが内に寄っていくことになる。ガイアフォースの西村はそれを見ていたんだろうな。
早い段階で青ガイアフォースは水ダノンスコーピオンの外に進路をいれかえている。ここがスムーズだったのは地味に大きい。
ガイアフォースという馬は以前、小倉1勝クラスの国東特別2000mで1:56.8のレコードタイムを樹立したことがある。
☆22年国東特別 1:56.8
12.1-10.8-11.3-12.1-11.7-11.5-11.7-11.8-11.9-11.9
前半600m34.2と2000mにしては速いペースで入り、一度12.1が入ったものの、そこから全部11秒台、ラストも11.9-11.9と落ちていないラップだ。
最初速く、中盤も速く、最後も速い、これどこかで聞いたことあるラップの形ではないだろうか。そうだ、安田記念なんだよ。
もちろん国東特別は2000mだし、平坦小倉。東京のマイルとはまるで条件が違うが、ガイアフォースはこういう『ずっと速い』レースに強い。
そんなレースにならない菊花賞で8着、アメリカJCCで5着。そして、前走マイラーズCで距離短縮して2着。
☆23年マイラーズC
12.3-10.7-11.4-11.7-11.3-11.1-11.5-11.5
1F11.5以内の区間を太字にしたが、開幕週とはいえ、8区間中6区間が11.5以内という『ずっと速いレース』で2着になったように、『隠れ安田記念適性馬』なんだよな、この馬。
それを見越して今回押さえたら4着。セリフォスがいなければ高目だっただけに個人的には残念ではある。
ネットではガイアフォースが強いと話題になっていた。実力があるのは国東特別のラップから分かるんだけど、こういう『ずっと速いレース』で最も力を発揮する馬だから、今後、緩んだペースになると取りこぼしがありそうなんだよな。
もちろんマイラーズでこのラップに対応している以上、同コースのマイルCSで似たようなラップになればチャンスがあると思う。
ただし、『どちらのレースでもシュネルマイスターには負けている点』は頭に入れておきたい。今回も反応が鈍かったシュネルに最後差されてしまった。
トップとの能力差はまだある。逆転してGIを勝つとなると、あともう1、2段上にいかないと難しい。夏の成長に期待。
5着ジャックドールの話はしたから6着レッドモンレーヴ。今の充実度ならこれくらい走れる馬。見た目も京王杯から更に良くなっていた。
ダービー卿はゲートでやらかしただけで、今が充実期。若い頃無理させなかった効果が出て、今一戦ごとに良くなっている。GIを勝てるレベルに到達するかというと厳しいと見ているが、富士Sは楽しみ。
関屋記念でもいいんだけど、ゲートの中が怪しい馬。関屋で出遅れたら終わりだから、そこは頭に入れたい。
7着ソダシの話はしたから8着ウインカーネリアン。このラップではどうにもならない。これがGIの壁。あと1秒詰めるのは難しい。
☆23年安田記念 1:31.4
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
レース後皇成が「自分のリズムで運べたが、早めに来られてしまって…」と言っているのだけど、それがここ、太字にした部分。4コーナーから直線入り口のところで、外からジャックドールに早めにこられているんだよね。
ジャックドールとしては上がりが足りないからどうしても先に捕まえにいくことになるし、ウインとしてはこの区間をもう少し遅いラップで通過したかった。まー、そう簡単に楽にさせてくれないのが安田記念ということなんだろう。
ただマイルGII、GIIIであればもっとやれる。東京新聞杯を勝ったことで関屋記念は斤量が59kgになるから、出てくるかは知らん。
9着ソウルラッシュもGIの壁。このあたりは純然たる能力差で負けている。もちろんこの2頭が弱いわけではない。上位が強過ぎる。普通に富士Sあたりなら違うと思う。
10着緑イルーシヴパンサーは、直線で内側にいた黄シャンパンカラーが外に斜行して、同じく緑ナミュールを巻き込んで外に弾かれた時点で終わり。
これがなくても勝ってはいないし、上位3頭に食い込むのも難しかったと思うが、少なくともスムーズならもっといい着順だった。デキも良かっただけにもったいないな。
収得賞金6600万というのがミソだと思う。関屋記念に出走すると、収得賞金5000万~6999万が57kg、7000万以上で58kg。399万円分57kgで出られる。
前残りになる年も多いレースだからメンバー次第だが、昨年は色々重なっての11着。もう一度チャレンジお待ちしています。
一緒に仲良く不利を受けた16着ナミュールは、中2週でもうなんとかキープに専念したというデキ。いつもより硬く、東京新聞杯のデキになかった。
その東京新聞がエリザベス女王杯以来だったように、適度に間隔が空いてよりいい馬。府中牝馬は馬場次第、富士Sは買いたい。
もし仮に札幌記念を使うという話になったら、メンバー次第で考えたい。今2000ができるかはともかく、札幌で一度見たいんだよなあ。
3歳馬2頭は能力が足りていない。もちろんGIを勝っている馬だが、最初から最後までずっと速いレースも経験していない。単純に経験も不足している。2頭ともこれから経験を積んで、なおかつあと2段階は成長しないと、安田など古馬のトップレベルのGIでは難しい。
何度も書くが、弱いわけではない。レースのレベルが高過ぎる。このレースは全てが問われる。
一応15着メイケイエールも触れておくと、着順を悲観しているファンの方も多いと思うが、マスク的にはだいぶポジティブ。
前に馬がいるとヒートアップするあのメイケイエールが、だいぶ乗りづらそうだったとはいえ道中ある程度我慢できていた。実際レース後池添も「道中である程度は我慢できた」と言っている。
これまでの経緯を考えたら内枠でここまで我慢できたのは進歩以外のなにものでもない。最終追い切りを抜いた効果も確かにあるのだと思う。
問題は池添が「直線気持ちが入らなかった」と言っている点。これが追い切りを抜いたからなのか、原因がはっきりしない。最終追い切りを抜く作戦を今後やっていっていいのか、そこが分からないままなのはネック。
昨年はセントウルを使って間隔を詰めたスプリンターズで何もなかった。今年はスプリンターズに直行する気がするんだよな。
短縮はいいし、間隔が空くのもいいが、近年のスプリンターズは内有利馬場になりやすい。気性から外を回りたいメイケイエールにとって、今回内で我慢したことが一つのきっかけになればいいと思う。
最後に勝ち馬ソングライン。
一言で言えば強い。俺は基本的にあまり馬に強いと言わないほうだが、ここまで書いてきたように数字が素晴らしい。
馬場差を考慮しても、ここ10年の安田記念で最もレベルが高かったインディチャンプの年に匹敵するか、もしくはそれ以上の数字と考えていい。
この数字を楽に抜け出せるのは、安田のようなずっと速いラップへの対応力が高いだけでなく、単純に能力の元値が高いから。戸崎の好リードももちろんのこと、ジョッキーの判断に対応する操縦性も特筆すべきものがある。
Cコース2週目の安田は元々内がそこまで有利にならない年もあること、内で包まれずに走れたにしても、外を回りこれだけの数字が出せる馬は、大袈裟ではなく、近年だとグランアレグリア、アーモンドアイくらいだろう。
レーンがレース後「外からスーパースターに差されてしまった」と言っていたが、まー、そうだよな、あれだけ完璧に立ち回って数字十分出したのに外から差されたりそう言うしかない。称賛の言葉としてはこれ以上ない気がするよ。
☆23年安田記念 1:31.4
12.0-10.8-11.4-11.8-11.6-11.1-11.2-11.5
34.2-33.8
何度も使いまわしているこのラップだが、ラスト200m11.5は、ジャックドールが出した数字も含まれている。ソングラインは実質ラスト200mを11.0~11.2付近で走っていることになる。最後緩めながら。
確かに1000m通過57.6は極端に速くはないが、それなりには流れている。なのに外を回りラストを11.2以内でまとめるのは相当なもの。
ヴィクトリアマイルはなんとか間に合わせたデキで(それでも勝ってしまうのは凄いが)、叩いたことでこの中間の動きは更に進化していた。最終追いも素晴らしい動き。
それ以上に驚いたのは、その2日後、つまり安田2日前にウッドで普通に時計を出したことだ。
もちろんヴィクトリア→安田の関西勢は再輸送があるから攻め込めない。美浦の地の利があったとはいえ、牝馬のGI中2週なのに、当週の金曜にも普通に時計が出せるのが凄い。反動があったらこのスケジュールでやれないからね。
ノーザンファーム天栄もヴィクトリアマイル→安田というパターンを何度か経験してノウハウも溜まってきている感じがある。ヴィクトリアマイルの使い方が上手くなった気がするよ。
パドックでもデキの良さが目立っていて、Tweetしたように納得のデキ。『規格外』という言葉を贈りたいほどさ。
トラブルがあって昨年秋から今年の頭までうまくいかなかったが、前走の回顧にも書いたように、普通牝馬は大敗などを挟むと気持ちが折れてしまう子もいる。
なのにソングラインは折れるどころかむしろ上がってきて、中2週でも中間攻められてしまうのだから、これ、実はソングラインが牡馬でしたという展開をマスクはまだ捨てていない。
この数字を出している以上、俺はやはり秋、アメリカに行ってほしい。トラブル続きだった昨年秋の借りを返してほしい。
今年のブリーダーズカップは幸運にもサンタアニタ。アメリカの中でも日本から遠征しやすいこと、時計が出やすいことを考えれば楽しみが持てると思う。
まー、一周競馬になる分、過去やったことがない条件をどうクリアするかという難問が残るが、状況的にもBCマイルに挑戦してほしい。
それこそ母のいとこにあたるディアドラがナッソーS優勝の快挙を成し遂げたが、またソニンクの一族から世界のビッグレースを制する馬が出現することを楽しみにしている。