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東京新聞杯を振り返る~若武者の大きな経験~
東京新聞杯の振り返りだ。
今年の東京新聞杯、マスクの◎がトラインだったことは、予想を読んでくれた人間なら分かると思う。このメンバーならまず大荒れとは言わないまでも中荒れはすると思っていた。だからこそトラインから穴目のワイドを狙っていったんだ。
ところがレースを見ると分かるが、トラインは思い切り掛かった。向正面で画面に突如掛かったトラインが現れて悲しい気持ちになったのは言うまでもない。
振り返りを書く上で、当然何度もレースを見直すことになる。トラインの掛かった姿を何度も見ることになった。まさに苦行。しかも最後はあと一歩の5着なものだから、余計に悲しくなる。
まー、振り返りを待ってくれているという人間も多いようだからね。涙をこらえながら東京新聞杯の振り返りを作成させてもらった。
●東京新聞杯過去3年 ラップ
・18年 リスグラシュー 1:34.1
12.4-11.4-11.6-12.2-12.4-11.1-11.0-12.0
前半3F35.4 後半3F34.1
・19年 インディチャンプ 1:31.9
12.3-10.9-11.3-11.2-11.5-11.3-11.5-11.9
前半3F34.5 後半3F34.7
・20年 プリモシーン 1:33.0
12.4-10.9-11.4-11.6-11.8-11.5-11.6-11.8
前半3F34.7 後半3F34.9
・今年 カラテ 1:32.4
12.3-11.2-11.4-11.7-11.5-11.2-11.6-11.5
前半3F34.9 後半3F34.3
今年の馬場差は昨年のプリモシーンが勝った東京新聞杯デーと大して変わらない。超高速とは言わないが高速馬場ではある。
前半4Fは昨年とそう変わらない。ただ昨年は残り800m→400mまでの部分、つまり3コーナーから4コーナー過ぎまでの部分が緩んでしまっていた分時計が出なかった。後半4Fは19年のインディチャンプが勝った年に近い。
ならインディチャンプとカラテが同列かというとそれもまた違う。インディは出遅れているし、前半はインディの年のほうが速い。上がりの数字も換算すると、いいほうに見て昨年のプリモシーンに近いくらいだと思う。
プリモシーンはヴィクトリアマイル2着があるが、この東京新聞杯の前年の話。その後の戦績などを考えると、果たして安田記念でも足りるレベルかといえば、疑わざるを得ない。他の重賞には繋がるレベルでも、GIで足りる数字ではないという数字ではないか。
このレースで鍵になったのは、『誰の後ろに付くか』というものだったんじゃないかな。
●東京新聞杯の上位人気
1番人気 ヴァンドギャルド 福永
2番人気 トリプルエース ルメール
3番人気 シャドウディーヴァ ヤスナリ
人気馬に福永とルメールが乗る時点で、この2人のどちらかの後ろにつけたいと思っていたジョッキーは多いと思うよ。今年は混戦。絶対逃げたいという馬もいないから、ややスローペースになる公算のほうが大きかった。
スローの東京は前が詰まりやすいからね。詰まらないためには力のある馬の後ろに入るのがセオリーだ。今回の東京新聞杯はポジショニングが最後まで影響したレースと言っていい。
それについて、いつものようにパトロールビデオを見ながら考察していこう。
●東京新聞杯の出走馬
白 ダイワキャグニー
黒 カテドラル
赤 トライン
青 ショウナンライズ
茶 ニシノデイジー
黄 カラテ
桃 シャドウディーヴァ
緑 トリプルエース
橙 ヴァンドギャルド
紫 エメラルファイト
黄緑 サトノインプレッサ
まず最初のポイントはスタート後のポジション争いだ。
12.3-11.2-11.4-11.7-11.5-11.2-11.6-11.5 この太字の部分。
黄カラテと青ショウナンライズがポジションの取り合いをしている。どの馬もやはりロスは減らしたい。緑トリプルエースが外から好位を狙っている状況だから、そのルメールの後ろのポジションはいい。
どのポジションがベストかというのはレースの流れによるんだが、やはり前の馬が強いか弱いかは大事だ。1番人気と10番人気、どちらが伸びる可能性があるかというとやはり前者。人気馬の後ろのほうが進路ができる可能性は高い。
だから外から緑トリプルエースが上がってくる時に、その後ろに橙ヴァンドギャルドがついてきている。福永もソツがないよね。スローペースになると読んで後ろからではなく、ある程度前目のポジションを自分から取りに行っている。展開を研究してきたのが伝わってくるよ。
結局半ば強引に黄カラテが青ショウナンライズの前に入った。ここでカラテ菅原明良が緑トリプルエースのルメールの後ろに入ったのが、最後いい方向に転ぶことになる。この判断が良かったんだ。
ヴァンドギャルドは結局黄カラテの隣というポジションに落ち着いた。あれ以上出していくと末脚を失うことになる。この馬なりにいいポジションだったと思うし、そのヴァンドギャルドの後ろをすでに取り切っている桃シャドウディーヴァのヤスナリはさすがだ。
ここからが哀しみの時間だった。
内ラチ沿いにいた赤トラインは横から見ると分かるが思い切り掛かっている。昔から気難しい馬で、道中引っかかるんだよな。前に壁を作っても掛かってしまうんだから深刻。
前走掛かったことから中間の調整もだいぶセーブしていたし、かなり慎重に調整してこれ。◎トラインだったマスクはここで頭を抱えていた。白ダイワキャグニーの後ろで必死に抑えてくれていたし、もうこれ以上ないことをノリさんがやってくれているんだがね。
3コーナーから4コーナー。12.3-11.2-11.4-11.7-11.5-11.2-11.6-11.5 この太字の部分だ。
ここで悩むことになったのは黒カテドラルの田辺と、桃シャドウディーヴァのヤスナリだった。
馬場は内もいい。内を突いても良く伸びる可能性がある。ただこの2頭の前にいるのは茶ニシノデイジーと青ショウナンライズだ。どちらも大敗続き。あえて内を突く賭けに出てもいいが、ニシノとショウナンが伸びず、その後ろに詰まる可能性も十分ある。外を回すとその分ロスがある。
黒カテドラルは結局茶ニシノデイジー、青ショウナンライズの後ろではなく、進路を外に取るんだよな。半ば強引に外に出そうとしている。
思い返してみてくれ。先週の根岸Sを。
●根岸Sを振り返る~意識の高さが生み出した一つの幸運~
https://note.com/keiba_maskman/n/nbb0bcbb80967
先週、田辺はアルクトスに乗って、3、4コーナーで進路を迷って内を突いている。そして前の馬に詰まってしまった。俺は決してこの選択が間違いだったとは思っていない(結果論詰まったが)。
ただ田辺はほぼ間違いなく先週のアルクトスの一件が頭にあったんだと思う。それもあって内枠ながらポジションを捨て、外に出しに行ったのではないかな。
結果的にこの判断は正解だった。後々内がゴチャついているだけにね。アルクトスの一件があったからこそカテドラルが好走したとも考えられる。
ただ内から一気に外に出せるほど重賞は甘くない。改めてこの画像を見ると、桃シャドウディーヴァの前は開いているが、黒カテドラルは黄緑サトノインプレッサが壁になって進路がない。
普通だったらここで追い出しを待たされるのは不利だ。しかしカテドラルの場合、レース後田辺が「いい脚が少ししか使えなくて、最後は甘くなって差された」とコメントしているように、以前から使える脚が短いところがある。直線入口で追い出しを待たされた結果、むしろ脚がギリギリまで溜まったとも考えられるから、決してこの不利が=マイナスだったとも考えにくい。直線出口でスムーズではなかった分良かった可能性はある。
改めて内に目を向けよう。2枚前の直線入口の画像を再掲した。ずっと緑トリプルエースの後ろにいた黄カラテが、ここで若干外に出ている。
トリプルエースは準オープン勝ちこそマイルだったものの、それまでの主戦場は1200m~1400m。距離が長いか、2番人気に推されている割に手応えはそこまで良くなかった。その分カラテが少し外に出されたのだと推測される。
外を見ると黒カテドラルが黄緑サトノインプレッサの外に切り返している。ようやく進路が開いた頃、内はまだゴチャついていた。
本来黄カラテは、緑トリプルエースと紫エメラルファイトの真ん中を突きたかったんだよな。ところが紫エメラルファイトは内目に、締めるような形で進路を取っている。
ムチの持ち手を見てほしい。紫エメラルファイト石川の右手にムチが握られ、連打されているのだ。右から叩かれることにより、エメラルファイトは自身から見て左側、つまり内ラチ方面に寄っていく。
これによって黄カラテの進路は完全にふさがれたし、石川がどんどん内に寄っていくもんだから、緑トリプルエースが内に押されるような形になった。その分更に内にいた赤トラインの進路も狭くなりつつある。◎トラインのマスクにとっては非常に迷惑な話である。
ただ石川のこの動きによって、紫エメラルファイトと橙ヴァンドギャルドの間のスペースが思い切り開いた。
あくまで仮定の話だが、黒カテドラル、桃シャドウディーヴァがもし、3コーナーから詰まること覚悟で進路を内に取っていたらどうなっていただろうか。
もちろんこの内の思い切り開いたスペースを突いていたかどうかなど誰にも分からないし、開いたのは結果論であることを置いておいて、結果的に2、3着になるこの2頭が内を突いていたら、前が開いたことで突き抜けていた可能性はある。そしてカラテがずっと詰まっていて大敗した可能性もある。
カテドラル、シャドウディーヴァが直線出口で外に移動したことにより、黄カラテが1頭分外に出されて、これでもかと開いたスペースを突くことができたのだ。
ラッキーだったと言える。重賞は馬群が普通のレースより厳しくなるし、ここまできれいにスペースが開くことは珍しい。
このスペースが開いたのだって、エメラルファイトの石川が右からムチを叩き続けたこと、橙ヴァンドギャルドが内を締めなかったことが原因。普通だったらヴァンドギャルドの福永が締めるパターンなんだがね。
あくまでこれは俺の推測の一つだが、福永はこの2つ前のレース、9Rのゆりかもめ賞でエアサージュに騎乗した際、直線で右ムチを叩いたら乗っていたエアサージュが内にモタれ始め、更に内にいたエイスオーシャンの進路を妨害してしまう事案があった。
取りようによっては騎乗停止までありえる進路取りで、なんとか騎乗停止にはならなかったものの、過怠金としては満額、10万円の支払いが発生している。騎乗停止直前レベルの制裁だ。
裁決は多少強い斜行でも、その数日前から直前まで斜行していると『累積警告』のような形でレッドカードを与えることがある。フェブラリーSが控えているこの状況で更なる『累積警告』は回避したい。
予想にも書いたのだが、ヴァンドギャルドはこの中間随分テンションが上がって、完全に仕上がりきっていない状況だった。強引に攻めた騎乗をすれば勝ちまで持ちこめた可能性はあるが、強気に勝ちに行くほどの状態ではなかったと思われる。
つまり福永が慎重に運んだ結果、エメラルファイトとの間のスペースがここまで空いた説はあると思うのだ。
結局その間のスペースを抜けてきた黄カラテは完全に抜け出すことができた。締めなかった橙ヴァンドギャルドは外のカテドラルとシャドウディーヴァにも交わされて4番手まで下がっている。
かわいそうに赤トラインは、エメラルファイトのプッシュの影響を受けた緑トリプルエースに進路を削られる形になってしまって、最後までジリジリ伸びたものの5着まで。まー、だいぶ掛かっていたことが直接的敗因だから、仮にここがスムーズでも勝てたとは言わない。
ただマスクはトラインからワイドを買っていただけに、エメラルファイト石川、ちょっと右ムチ叩き過ぎという感情を捨てられない。
黄カラテは前述したようにエメラルファイトの右ムチ、そしてヴァンドギャルドが締めなかったおかげでスペースが開いたから単純にラッキー。
ただし、思い出してみてくれ。そもそもスタート後、ショウナンライズとのポジション争いを半ば強引に勝ち切ったからこそ、緑トリプルエースの後ろのポジションを占有できた。このポジションを取れなければ、直線で偶然が重なって開いたこのスペースを突けていない。明良の序盤の意識が高かったからこそ、この好運を引き寄せたとも言える。
もちろんトップジョッキーたちは、そもそも前にいるエメラルファイトが右ムチ叩いている時点でその内を突こうとはしない。すぐに切り返してこれから開くスペースに馬を誘導する。そういう面では明良が重賞で焦っている感じが伝わってくるし、少なくとも綺麗な勝ち方とは言えない。最後ムチ叩き過ぎて制裁食らってるしね。
でも大体の若手ジョッキーはこんなものだ。みんな初めての重賞タイトルは欲しい。チャンスがない馬だったら話は違うが、チャンスのある馬に乗っている以上色気は出る。明良の若さがパトロールビデオからは伝わってくるし、最後成功体験で終わったことは彼のこれからのジョッキー人生に大きな好影響を与えるのではないかな。
昔、現在技術調教師の四位さんが「勝ち方を知っていることに意味がある」とおっしゃっていた。明良は100点満点の騎乗とは到底言えないものの、ここで重賞の勝ち方を知った。この先関東のホープとして更に勝ち星を積み重ねていく可能性はある。真面目だし、いいヤツなのはマスクもよく知っているからね。
2着カテドラルに関しては前述したように、先週のアルクトスの影響があったから来た可能性はある。仮に内を突いていたら勝っていたかもしれないし、スムーズに行き過ぎていたら最後一瞬の脚を使い切って、止まってしまって後ろから交わされていたかもしれない。この先更に上のクラスで通用するには、やはりもう少しトップスピードが持続しないと厳しいと思う。
3着シャドウディーヴァは最初から内枠だと話は違っていたかもしれないね。結果的に外を回って外から伸びているが、そもそもこの馬はイン突きが上手い。昨年の東京新聞杯2着もそう。内枠スタートでロスなく回ってくれば、ヴァンドギャルドの内を突いて勝ち切っていた可能性はある。
まー、それは結果論。現状外を回ってよく頑張ったと思うし、逆に言えばこの形ならここまでが精いっぱいだろう。やはりベストはインを突ける枠から、インを突く形だと思う。
ヴァンドギャルドは中間の過程を考えると、よくこの仕上がり具合で4着に粘ったと思う。実際この馬が一番強い競馬をしている。さすがにマイルチャンピオンシップであと1つで掲示板というところまで差してくる馬だよ。
この状況のヴァンドギャルドに先着できなかった馬は、なかなかこの先GIでは苦しい。トラインはもっと精神的に成長してくれないと重賞すら勝てない。サトノインプレッサは大外のロスがあったことを考えれば悪くないとはいえ、まだゲートは怪しい。
ただし、7着トリプルエースは今回距離が長かった可能性のほうが高い。2走前の内容などから重賞を勝てるレベルには来ていると思われ、1400mの重賞であればチャンスがあるのではないか。
昨夜租界の雑談板にも書いたように、阪急杯に出てきてほしい馬だよ。