
【AJCC2024】中山芝2200mの特徴と馬場傾向(トラックバイアス)
AJCCの好走傾向=差し有利

直線平均進路:7.7頭目÷大外平均:11.6頭目=馬群内直線位置:67%
4角平均位置:5.7番手÷出走平均数:13.0頭=馬群内道中位置:44%
好走馬上がり3F平均タイム=35.48秒
中山冬開催最終週最終日に行われるAJCCは、馬場状態に大きな注目が集まる。生育状態の悪い冬場の実質2ヶ月連続開催最終週で馬場が全体的に重たく、さらに馬が良く走る内側が強く傷んでいるために外を走る馬の方が有利という声が一般的だ。
馬場が全体的に重たいという印象は私も同意で、これは時計面などから証明ができるため、このあと深く掘り下げてみよう。しかしながら内外の有利不利はAJCCを見る限り感じない。確かに、キングオブコージが勝利した2022年、アリストテレスが勝利した2021年は馬場の真ん中より外から追い込んできた馬が好走していたためインパクトが強く見えたが、数値的には好走馬直線平均進路が7.7頭目。これは馬群との対比だと67%に値し、大体真ん中よりやや外程度と極端なバイアスではない。昨年は最内先行馬が好走していたり、決して最内の進路を選ん馬が強烈な不利を受けるようなレースではないのだ。
では、深掘りをしてみよう。
中盤は平坦or下りが続く

中山芝2200mは外回りを使用する。スタートは4角奥のポケットからで、直線を432m、途中から上り坂を登りながら1角を通過してコース勾配の頂点に到達する。あとはL1Fまで平坦or下りが続くようなレイアウトのため、ペースが一定かペースアップする。
中距離で中盤に脚を溜めて終盤でそれを爆発させたいところだが、なかなか脚が溜められないだけでなく早めからペースアップして持続的に速いラップを刻む必要が出てくるのこのコースの特徴である。
1段階持続的スパート

【中山芝2,000m(内)】
12.5-11.4-12.6-12.3-12.4-12.1-12.0-12.0-11.7-12.3
【中山芝2,200m(外)】
12.6-11.7-12.7-12.6-12.7-12.4-12.1-11.9-11.7-11.5-11.9
【中山芝2,500m(内)】
7.2-11.5-12.1-12.2-12.4-13.3-12.8-12.9-12.3-12.1-12.1-11.8-12.3
中山中距離は2000m/2200m/2500mと3つの条件があるが、これは2つのグループに分けられる。2000mと2500mは内回りコース、2200mは外回りコースをそれぞれ使用するため明確にグループが分かれてレース質も変わるのだ。
ラップをグラフや数字でも見ていただきたいが、内回りの2つはラップが0.3秒以上速くなる箇所が2つの「2段階スパート」なのに対し、外回りの2200mは2Fに渡って加速したら速いラップを刻み続けるような「1段階持続的スパート」になっている。2200mの両隣になる2000mと2500mがそれぞれ加速点の形状が似ているためこの二つが同じグループとなり、ちょうど中間の距離なのに22000mだけが別グループと分類することができるのだ。
外有利ではない?

AJCC過去10年の枠順別成績を見ると、複勝率が最も良いのが4枠、次点で1枠、6枠と続き7枠でも20%あるため一見外枠でも好走できているのではないかと感じてしまう。これに合わせて毎年直線で外を走った馬が好走している姿を見るとその印象は色濃くなるだろう。
しかしながら、これには大きな落とし穴がある。
2023年 14頭
2022年 14頭
2021年 17頭
2020年 12頭
2019年 11頭
2018年 11頭
2017年 17頭
2016年 16頭
2015年 17頭
2014年 16頭
10年平均 14.5頭
近10年のAJCCは出走頭数が非常に少なく、フルゲートになったのは21年/17年/15年の3回のみ。そのほか16頭,14頭立てだったのが2回で、それ以外は10頭台前半であった。8頭立てを下回らない限り8枠が存在するわけで、いくら外枠の馬が好走していたとしても他のレースのような意味合いの外枠馬と同等の評価はできない。

枠順ではなく馬番で成績を見ると一目瞭然で、複勝率は11番より外が20%を一気に下回っている。外枠発走や外を走るメリットはほとんどなく、直線だけが外を走った馬が好走しているだけで実際は外の馬が有利なレースではないのだ。
外有利に見えるのは外差しだから

外枠有利ではないものの、直線では外を走る馬が好走しているように見える…この実態は何なのだろうか。それは向正面でのポジショニングに答えが隠れている。
過去5年の好走馬進路/位置を向正面に変えて見てみよう。ほとんどの馬が馬群の真ん中より内側であり、ポジションは後方に位置している馬が多い。いわゆるインの後方に構えてレース後半で捲るような競馬を仕掛けた馬が3角からポジションを押し上げると他馬を追い越すために馬群の外を回り、4角地点では馬群の外側を走った上に直線は真ん中よりも外側を走った「外差し馬」だったために外有利の印象が強くなっている。終始外を走ってその進路を通ったから他馬よりも有利な競馬ができたわけではないのだ。
例としては2022年は最内のキングオブコージが直線では明らかな外、僅差4着だった黒帽子のアサマノイタズラも馬群の大外を走っていたために枠順と直線進路のリンクはしていない。
冬で芝が弱い→開催最終週で経過による馬場の傷み→芝が解れている&内が壊滅→外差し有利!!
一般的なイメージはこのような流れになるだろうが、馬場の専門的な観点から考えると安易にこのような法則のものに外の枠を重視したり、内枠の軽視することは危険であるだろう。
時計はかかる

古馬(混合含む)中山芝2200mの重賞は年に2度行われるが、走破時計が明らかに違う。冬のAJCCは秋のオールカマーよりも平均で1.3秒も遅い。しかもオールカマーの平均タイムは2020年が稍重状態で2:15.5をマークしてのもので、オールカマーの基本は2分11秒台後半~2分13秒以内ととても速い。これがなければAJCCとオールカマーはさらにタイム差があるだろう。
それほどAJCCは時計が掛かって、馬場が重たいということがわかる。持ち時計勝負にはなりにくく、時計を持っていない馬にもチャンスがある馬場状態で行われているレースと言えるだろう
当週の馬場傾向
<トラックバイアス>
2018年 土曜:6.6/日曜:5.4
2019年 土曜:8.0/日曜:9.7
2020年 土曜:8.6/日曜:12.3
2021年 土曜:6.4/日曜:6.4
2022年 土曜:6.1/日曜:4.8
※数値はその日の3着内馬がL1Fで内ラチから何頭分離れた場所を走ったかの平均値
2020年までは開催後半らしい外を走る馬も好走するような傾向が見られたものの、近年は馬場の状態が安定していて数値が抑え気味、良好な馬場状態が継続するようになっている。今シーズンも夏の高温多湿な気候から暖かさが続いて暖冬と言われるほどの気温の高さが続いているため、寒さに弱い野芝は例年よりも状態を維持しているように感じる。
実際に先週はクッション値が2日連続10.0を超えて、まるで開幕週のような馬場の硬さがあったし、直線進路は恐ろしいほどに内有利が続いていた。
しかしながら、今週の天気予報は土曜曇り~雨、日曜終日雨と馬場状態の悪化が想定される。もし雨が多く降るのならば馬場が急激に重たくなって時計がかかる、高速馬場へ対応できない馬にもチャンスがあるだろう。
注目馬
◎チャックネイト
芝が重たかった22年1月の中山芝2200mを③着に好走したが、相手はブレークアップ(22年AR共和国杯①着/23年阪神大賞典③着/天皇賞・春④着)と強豪だった。その他、圧倒的差有利な中京芝2200mでは先行しながら差してきたレッドバリエンテ(24年日経新春杯⑥着/23年AR共和国杯⑦着※0.4差)相手に勝利するなどスタミナのポテンシャルも証明している。
前走のAR共和国杯は初めての重賞ながら③着に好走し、しかも内容は持続的なラップを刻みながら①着ゼッフィーロ(23年香港ヴァーズ②着)、②着マイネルウィルトス(23年ステイヤーズS③着)と相手も威張れる競合な馬たち。
もちろん重たい馬場での経験もあり、安定した成績を残しているため週末の雨予報も心配がいらないだろう。