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藤田菜七子騎手がかなり乗れる件について
新人のオンナノコ。
模擬レースではイマイチ、勝てておらず。
最後の1レースだけ勝ったものの、ということで、前評判は決して高くなかった。
「16年前のオンナノコたちだって、全く活躍出来ず」
技術的な意味での期待度は、かなり低かった。
そして、地方競馬でのデビュー。
地方とJRAとでは免許制度が異なるため、JRAの騎手が地方に行った時、3キロ減量の特典はない。
しかも、慣れが必要な小回りコース。
顔見世、可愛い女の子の、アイドルのデビュー。
それ以上のものを期待していた人がいただろうか。
確かに、多くの人達が川崎競馬場に集まった。
光るものを見せてくれたら良いなあ、というのは、かなり「淡い期待」のつもりじゃなかったか。
そして、1R。
たしかに、ななこちゃんはかわいかった。
そして、めちゃくちゃ緊張して。
でも、周りの人たちが、そんなオンナノコの緊張に対して、優しそうだった。
1Rは、何も出来なかったかな、という惨敗。
「やっぱりな」
という空気だったような気もする。
それでも、オンナノコが、自分で決めたこと。
とはいえ、大変な世界に飛び込んできてしまったよな。
頑張れ。がんばれななこちゃん。
その目線は、娘か孫でも見るような感じで。
しかし、そんなぼくらの思い込みを一変させるレースを、その次の騎乗機会である4Rで見せてくれた。
11ヶ月、掲示板のなかった、2ケタ着順続きの9歳牝馬で追い込んで、4着に飛び込んできたのだ。
人気順だけで言えば、ななこちゃんのデビュー記念馬券が売れていたから、人気どおりに来たようにも見えるけれども。
この馬をそこまで持ってくるなんて!
川崎競馬場は、驚きに包まれた。
そして、空気が変わった。
「デビューしたてのか弱いオンナノコ」ではなく。
夢を叶えるため、腕を磨いてここまでたどり着いた、「新人騎手」として、認められた瞬間だった。
その次のレースでも2着。
これは力通りとも言える結果でもあるが。
しかし、連続好走。
そして、地方競馬とJRAでは免許制度が異なるため、ななこちゃんが地方で乗る場合、JRAなら受けられる新人騎手の減量特典が効かない。
つまり、デビュー当日の、はじめて競馬に乗るオンナノコが、百戦錬磨のオッサンに混じって、2頭連続で、馬の実力を完璧に引き出してみせたのである。
もちろん、観客、関係者、騎手、そろって、「ななこちゃんがんばれ」という空気に包まれてもいた。
だが、それに応える以上の結果を見せてくれたななこちゃんに、川崎競馬場は魅了されていった。
そもそも、女性が騎手になる、というのは非常に厳しい道である。
16年もの長きに渡って、JRAでは女性騎手のデビューがなかった。
20年前に、3人の女性騎手が初めてデビューして以降、16年前までの5年間にわずか6人の女性騎手が、全く活躍出来ずに終わったのみ、である。
男女平等、といわれるご時世、女性騎手を受け入れる決断をしたJRAであるが、その支援体制はまったく機能せず、競馬界は「男社会」から全く変化を見せなかったのである。
牧原由貴子らのデビューした競馬学校騎手課程12期の1つ前、11期生には3人の女性が入学しているが、デビュー前年までに全員退学。退学を強要されたとする訴訟を提起される事態にもなっている。
また、2000年にデビューした西原玲奈騎手の後にも、競馬学校騎手課程に入学した女性はいたが、デビューに至っていない。
この状況に、JRA騎手に志願する女性すらほとんどいない状況が続いていた。
そもそも、なにかあればすぐに命にかかわる世界。
実際、2004年にデビューした竹本貴志騎手は、デビューを果たした3週間後、騎乗機会を得るためにと挑戦した障害レースで落馬。そのまま亡くなっている。
男子ですら、躊躇せざるを得ない厳しい世界。
まして、女子で志望する騎手候補生がいなくなってしまうのも無理からぬ話であった。
状況に多少変化が見られたのが、ななこちゃんが騎手学校入りする4年前。
小沢桃子さん(故人)が、女性としては8年ぶりに騎手学校に入学した。
ななこちゃんの4つ上のセンパイ。
ななこちゃんが騎手を目指したのが6年生のとき、という話だから、この小沢桃子さんの存在が、ななこちゃんに、騎手という存在を意識させる上で大きな役割を果たしていたことは容易に想像される。
だが、受難は小沢桃子さんにもやってきた。
騎手を目指して、競馬学校騎手課程で修行を重ねていた小沢桃子さんを病魔が襲う。
そして、20歳で、脳腫瘍のため亡くなってしまったのだ。
JRAの村社会、男社会、そして病魔、様々な理由はあれ、女性にとって「別世界」であった騎手の世界。
そこにたった一人で挑む勇気。
ドン・キホーテ並の蛮勇といっていい。
競馬界がそういう世界であることを長年見てきたオールドファンの心を、一日で掴んでみせたななこちゃん。
ななこちゃんはかわいい。
そして、ここまで腕を磨いてきた、追えるところを見せつけた。
※外の青い服の馬がななこちゃん騎乗
そんななかで変わらずにきた馬社会に、たったひとりの女性騎手として挑もうとするななこちゃんが、どれだけ大変だったか、容易に想像がつく。
これから、どんな試練が待っているかは、想像もつかない。
先月の東京新聞杯で、トップ騎手のひとり、浜中俊が内ラチに突っ込んで全治4ヶ月の複雑骨折に見舞われたように、怪我は日常茶飯事。
それでなくても、男社会を女だてらに渡り切る、という気苦労も背負わされるだろう。。
でも、そんな厳しい世界にわざわざ……なんていう反対意見なんて、それこそ耳にタコが出来るほど聞かされてきただろう。
それでも、騎手という存在に憧れ、目指してきて……
朝イチは表情が硬かったななこちゃんが、最終レースのパドック……
日が暮れるころには、随分頼もしい表情をみせていた。
この子は、きっとやり遂げてくれる。
女性騎手として、これまでの女性騎手たちが成し遂げられなかった活躍をみせてくれるはずだ。
スター騎手をつくりたい、というJRAの思惑に踊らされるかもしれない。
いや、まだまだ、女性騎手なんて、と、恵まれない騎手生活になる、のかもしれない。
どういう騎手生活のはじまりになっていくかはわからないけれども、腕一本で、そういう思惑を吹き飛ばす活躍を期待している。
なにがあっても、これからななこちゃんを応援していこう。
ななこちゃんがんばれ。
ななこちゃんかわいい。
ななこちゃんがんばれ。
どんな選択をしても、後悔なく騎手生活を終えることが出来るその日まで、応援していきたいと思う。
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