【この作品いいよね!】 マンガ「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」のすすめ
相手の素の姿を見る ネットストーキングよりも強烈な「のぞき合い」
Twitter、InstagramなどのSNSに情報が溢れ、他人の生活をのぞきみることは、容易になってきている。けれども、SNS上に掲載された他人の情報を詮索する行為(ネットストーキング)は、多くの人々にとって悪い印象をもたらす。
さらに、ネット上だけではなく、実生活をのぞきみれば、より素の姿の相手を目にすることができるだろう。もちろん、相手にのぞきみていることがばれてしまえば、ネットストーキングよりも格段に相手に不信感や嫌悪感を与えてしまう。
マンガ「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」では、主人公タツヒコと隣人えみるが、お互いの部屋をのぞきみる関係を結ぶ(えみるがタツヒコに対して、のぞき合いの関係を結ぶことを一方的につきつける)。ルールのもと、壁にあいている穴から相手の生活をのぞきみるのである。のぞかれる対象は主人公たち二人だけではなく、二人の部屋を訪れた彼らと関わる人々も含まれる。二人はまさにお互いの人間関係をのぞき合うのである。
二人は、互いが他者と関わる姿を隣人に見られつつ、他人にはのぞき穴の存在を知られないよう試みて過ごしていた。しかし、のぞき穴の存在が、周囲に徐々に知られていってしまう。そのことは、二人の友人や恋人を大きく傷つけていく…。彼ら・彼女ら、そしてえみるに対して、タツヒコはどう向き合っていくのか…。
ストーリーの概要
●主な登場人物/城戸龍彦(デザインの専門学校へ通うために上京してきた18歳。アパートで一人暮らし)、生野えみる(城戸の隣室に住む同級生。城戸の部屋との間にある穴の“覗き合い”を提案する)
●あらすじ/春から専門学校へ通うために、地方から上京してきた城戸龍彦。何の問題もなく新生活が始まったかと思いきや、部屋の壁に小さな穴を見つけ、しかもその穴から時々視線を感じるような気がして落ち着かない。同級生の米山と飲み明かした夜、その穴から光が漏れていることに気付き覗いてみると、向こう側からも女性が覗き返してきて…?(第1話)
●本巻の特徴/アパートの隣室との間に穴が開いてて、その向こうにはカワイイ女の子が!しかも、その子が「自分見せあいっこ」しませんかと言ってきて…?「相手を覗く権利は一日交替」「それ以外ではなるべく関わりをもたない」…めくるめく奇妙な新生活を送ることになった城戸龍彦・18歳の運命は?
出所:小学館ホームページ
※以下、ネタバレを含みます。この記事をここまで読んで、ネタバレをされたくないと思った方は、いったん「ノ・ゾ・キ・ア・ナ」を読んで頂いて、その後にこの記事の残りを読んで頂けたら嬉しいです。
のぞき穴から何が見えるか
ストーリーの序盤では、主にえみるがタツヒコの生活をのぞきみている。のぞきみられたタツヒコは、えみるから見たタツヒコ自身の姿や、のぞき穴の存在を知った人々と向き合うことで、自分の弱さを見つめていく。
出所:ノ・ゾ・キ・ア・ナ 本名ワコウ(小学館)
一年生のときに、タツヒコは、当時の恋人ユリにのぞき穴の存在を明かさずに別れてしまった。別れるにあたり、ユリにも非があったものの、彼も隠し事(のぞき穴がある自室で起きた出来事)を告げる勇気を出すことができなかった。別れに至るまでの責任がすべてユリにあると思わせてしまった。彼はのぞき穴を通じて臆病な自分の姿を直視したのだ。
出所:ノ・ゾ・キ・ア・ナ 本名ワコウ(小学館)
のぞき穴から見える自分の姿は、自身にとって「見たくないもの」も多いが、自分の弱さを認めるためには「見なきゃいけないもの」であったのだろう。
タツヒコは、恋人や友人など関わった人々に対して「のぞき穴」という隠し事を抱え、後ろめたさを覚えた。そして、のぞき穴の存在がばれてしまったことで、たくさんの人を傷つけてしまった。
出所:ノ・ゾ・キ・ア・ナ 本名ワコウ(小学館)
人間関係の流れの中 のぞき合いを通じた成長
ストーリーが佳境に差し掛かるころ、えみるは、タツヒコの「優しさ」に惹かれるからこそ、のぞき合いを提案したことを告げる。当初タツヒコは、のぞき合いの関係を一方的につきつけた、えみるに憎しみを感じていた。しかし、えみるの手助けで失恋を乗り越えるなどして、二人は関係を深めていった。そして、タツヒコはえみるの「強さ」に惹きつけられ、えみるはタツヒコのなかで大きな存在となっていった。
出所:ノ・ゾ・キ・ア・ナ 本名ワコウ(小学館)
「優しさ」のみを備えていたタツヒコは、恋人や友人、そしてえみると向き合い、多くの人と関わることで徐々に「強さ」を身につけていった。
それは、タツヒコが2年間たくさんの人を傷つけ、たくさんの人を好きになった結果なのだろう。2年間でタツヒコが関わる人々の多くは入れ替わっていった。ユリと別れ、マキコにのぞき穴の存在がばれてしまったことで、1年生のころ仲が良かったグループは、2年生の春には解体してしまった。タツヒコの部屋を訪れた人(主に女性)のなかには、一期一会の人物も多い。人と知り合ってその関係が深くなり、ときに疎遠になり、そして新たな人間関係が生まれるという、人との関わりの絶え間ない流れが、作中には表されていた。その人間関係の流れの中心には、「のぞき合い」という秘密を共有したえみるとの絆があったのだろう。
出所:ノ・ゾ・キ・ア・ナ 本名ワコウ(小学館)
※本名ワコウさんの他の作品は以下でレビューしています!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?