映画紹介#004「ブランカとギター弾き」(2015)前編
友人に(ほぼ)週一でおすすめ映画を紹介しています。
前回の作品はこちら。
今回の作品はこちら。
プライム会員は無料で観れます。(2022/08/20まで!)
『ブランカとギター弾き』(2015・イタリア)
監督・脚本:長谷井宏紀
製作:フラミニオ・ザドラ、アヴァ・ヤップ
出演:サイデル・ガブテロ、ピーター・ミラリ、ジョマル・ピスヨ、レイモンド・カマチョ他
この作品は日本人の監督が、フィリピンで撮影した、イタリア製作の、タガログ語映画というちょっと珍しい作品。
日本人監督としては初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得て製作された。
第72回ヴェネツィア国際映画祭にて、マジックランタン賞とソッリーゾ・ディベルソ賞を受賞。
上映時間77分で比較的、観やすいサイズ感。
監督は写真家としても活動する長谷井宏紀さん。
2007年、セルゲイ・ボドロフ監督『モンゴル』で映画スチール写真を担当。
2009年、フィリピンのストリートチルドレンとの出会いから生まれた短編映画『GODOG』を監督。
エミール・クストリッツァ監督が主催するセルビアKustendorf International Film and Music Festival にてグランプリ(金の卵賞)を受賞。
その後活動の拠点を旧ユーゴスラビア、セルビアに移し、ヨーロッパとフィリピンを中心に活動。
2012年、短編映画『LUHA SA DESYERTO(砂漠の涙)』(伊・独合作)をオールフィリピンロケで監督する。
今作『ブランカとギター弾き』が長編監督デビュー作となる。
【見どころ① フィリピン、マニラの風景】
物語からはどこの国の人にも通用する普遍性と、童話にも似た優しく温かい雰囲気が漂う感じがするのだけど、画面に映し出されるのは見たことのない景色。知っているはずなのに、これまであまり積極的には見ようとしてこなかった景色。
長年フィリピンのストリートチルドレンとの交流を重ねてきた長谷井監督だからこそ描ける、そこに生きる子供たちの視点から見たリアルがある。
政治、麻薬、貧困などのニュースから知るフィリピンの漠然としたイメージや、観光客の視点からでは、やっぱり一面的な部分しか見えてないのだなと改めて思わせてくれる。
【見どころ② 現地でキャスティングされた出演者たち】
この作品には実際にマニラで生活する人々が出演者として多く登場する。
主人公ブランカを演じたサイデル・ガブテロは、自身の歌う動画をYouTubeに公開していたところ、プロデューサーの目に留まり今作への出演が決まった。
盲目のギタリスト役ピーター・ミラリは、マニラのキアポ教会の地下道でギターを弾いているとき長谷井監督と出会った。彼は実際に街角での演奏活動を行う流しのミュージシャン。
ストリートチルドレンとして登場する少年たちも、スラムで出会った子供たちが起用されている。
【見どころ③ ボーダーを越える普遍的なテーマ】
ブランカたちが生きる世界は、日本で暮らしていると普段なかなか想像できない過酷な環境。それでも子供たちには明るさがあって、時折見せる笑顔はキラキラとしていて純粋な喜びを強く感じさせる。
もちろん貧困問題は解決すべき大きな課題ではあるけど、貧困について真っ向から問題提起して立ち向かうといった感じの作品ではなく、たまたまそういう環境で暮らしている、ごく普通の子供たちを先入観なく捉えているところにこの作品の普遍性がある。
ブランカが周囲の人々と交流することで見出していく彼女自身の意識の変化を通じて、単純に血縁だけの話ではない「家族の本質」について、一つの解答を見せてくれている作品なのかなと思う。
その答えは是非、映画本編で見つけてみてください。
後編に続く。