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桜井政博さんの「ゲーム作るには 最終回スペシャル」の順算思考ポイントを解説する

こんにちは、Keiです。

皆さんは『星のカービィシリーズ』、『大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ』を手がけた有限会社ソラの桜井政博さんが公開している「桜井政博のゲーム作るには」をご存知でしょうか?

未来のゲームを少しでも良くするためという考えから、桜井政博さんの豊富な過去の経験を踏まえながら、ゲームを作る上でのポイントや重要な考え方、過去の裏話にいたるまでを公開しているYouTubeチャンネルです。

ゲームを題材に話を展開していますが、制作に関わる考え方やマインドについては、何からのクリエイティブ性を伴う仕事に就いている方にはとても役に立ちそうだと思えるハイクオリティな動画シリーズです。


その「ゲーム作るには」が先日最終回を迎えたのですが、衝撃の事実が判明しました。

「ゲーム作るには」の制作にあたって、事前に全256話の内容すべてを決めてから動画を撮影し、しかも動画の撮影は最終回の2年半前に終えていたというのです。(しかもしかも動画制作費は約9,000万円かかっているにもかかわらず収益化ゼロ)

衝撃の事実が明かされた瞬間

当然のようにX (旧Twitter) ではトレンド入りしましたし、とても多くの方が衝撃を受けていました。

私も衝撃を受けた一人なのですが、動画を見ていて思うことがありました。

「この作り方は超逆算思考に見えて、かなり順算思考が根底にあるな」

そう思ったのです。


「順算思考」というのは、「逆算思考」と対になる、タスクシュートやタスク管理を実践するうえでの大切な要素です。

桜井さんの方法論は、事前に徹底的に計画を立ててそれに従って進めるという、完全なる「逆算思考」的なアプローチをしているように見えたのですが、実際には行動実績に基づいて次のアクションを取っていく「順算思考」的アプローチが根底に隠されているように思ったのです。


その思いをXで呟いたところ、解説を依頼されたのが本記事を執筆した理由です。

当時のXでのやり取り

そんなわけで、タスクシュート的というよりは順算試行的ですが、
今回は桜井政博さんの「ゲーム作るには 最終回スペシャル」の順算思考ポイントを解説してみます。

意外と判別が難しい逆算思考と順算思考のイメージを掴む助けになってもらえたら嬉しいです。


畏怖すら感じる仕事量

「ゲーム作るには」の動画シリーズの作成を始めたきっかけは、次に開発するゲームの制作チームが組織されるまでに時間がかかることになり、手を動かせる状態になるまで5ヶ月程度の待ち時間が発生したというのが始まりだと、動画内で語られています。

これまでほとんど休むことなく働き続けてきた中で、奇跡的に発生した余暇であったそうです。

そこで「これは最初で最後かもしれないチャンスが生まれたことを予感した」ため、その時間を使ってチャンネルを立ち上げることを計画したそうです。

…そしてやったことが、5ヶ月程度の待ち時間を活用して事前に動画の内容をすべて決めたうえで30万文字の原稿を書き、その後は256回の動画(しかも超ハイクオリティ)をひとりで収録し、それを動画制作会社と1話につき6-8回やり取りして動画シリーズを作成したとのことでした。

…圧倒的すぎる仕事量に畏怖すら感じますね。

どんなところが順算思考なのか?

動画を見ていると、やっていることは一見すると超逆算思考のようです。
しかし実際には、その根底や要所要所に順算思考が隠れているように感じられました。

というわけで話を戻して、私が順算思考を感じたポイントを紹介していきます。

「やれるべきときにやるべきことをやろう」

・3:44~「この後の人生 何が起こるかわかりません」
・3:55~「だから やれるべき時にやるべきことをやろう!…と考えました」

いきなりきましたね。私の大好きな順算的思考です。

やれる時にやろう!

奇跡的にできた余暇を前にして、「やれるときにやろう!」と動画チャンネルを立ち上げることを計画したそうです。

私はよく「人生は一寸先は闇」と表現しますが、実際に人生は何が起こるかわからないわけです。
後でやろうと思ってもその時にはできないということも多々あるので、少なくとも一人で完結できることであれば、やりたいことはやれる時にやってしまった方が、結局はうまくいくことが多いです。


これは新しいことを始めるときだけに限りません。1日の中でやりたいタスクがあるのなら、他のやらなきゃいけないタスクを終わらせてから着手しようと逆算的に計画するより、先に着手してしまってから考える順算的アプローチを取った方が、結果的にやりたいことができて他のタスクも終わるものです。

「やれる時にやる」という考えは、やりたいことを先送りせずやるためにも、非常に重要な概念です。

「すべての動画の原稿は最初から最後まで決まっていた」

・8:54~「数百本の原稿を(事前に)すべて書き上げた」
・9:04~「動画数やその内容はすべて決まっていたということですね!」

内容は最初から最後まで決まっていた!

ゲームのディレクターとして非常に多忙な生活をしながら動画を作成していくためには、事前に内容をすべて決めてしまうことは必須条件であったとのことです。言っていることはわかりますが、これを実行できるのが恐ろしいですね…。

しかし完全な逆算思考に思えるこのアプローチも、順算思考的に実行することが可能です。


原稿を書いていくうえで櫻井さんは、動画タイトルからなるアウトラインを立てて、それを見出しとして原稿を書いていくという方法を取っています。

しかし私には、アウトラインを穴埋めするように、つまりアウトラインから逆算して原稿を書いているようには見えませんでした。
むしろ、アウトラインの項目や文章を柔軟に追加・削除したり、位置を入れ替えたりしていました。

文章を書いていく中で、それまでに書いた文章に基づいて、アウトラインを柔軟に変更しているのです。そして、実際に動画を撮影する段階になっても、喋りながら原稿を調整しています(17:53~)。

これはまさしく順算思考寄りの原稿執筆法です。


私も論文を書く際には同じ様な方法を取ります。
論文は執筆の体裁がある程度決まっているため、言い換えればアウトラインが決まっているとも言えます。しかし、すべてのアウトラインが変えられないわけではなく、むしろ変えられるアウトラインが大半です。
そのため、アウトラインを埋めるように本文を書くとうまくいかないのですが、書いた文章からアウトラインを変えてしまうようになってからは、非常に書きやすくなりました。

論文の書き方がわからなかった頃は、自分の文章が論文のルールに従えているか(≒アウトラインに従っているか)が気になり、全く文章が書けませんでした。しかし、自分なりに柔軟にアウトラインを変えられるようになってからは、執筆が止まらなくなりました。


論文については余談ですが、桜井さんの原稿執筆法は、原稿をすべて事前に書くという結果だけ見ると逆算思考的ですが、そのアプローチが順算思考的に思えるのです。

順算思考は事前に計画を立てないなどの極端な側面だけが強調され、実現不可能なように思われることもあるのですが、実際には逆算思考と順算思考は地続きというか、グラデーションなのです。

この櫻井さんの方法論には、見た目は逆算思考的な仕事を順算思考的に進めるためのヒントが隠されているように思います。

「あとは割り切る」

・10:44~「あとから思い直せば、言葉が足りなかったり、誤解を招くこともあるのですが、防衛線を張ることに力を入れすぎると、短く要点をまとめることもできません」
・10:55~「スパッと短く!スピード重視!あとは割り切る」

あとは割り切る

これも非常に重要な順算思考ですね。「予防線を張ることに力を入れすぎない」。そして「あとは割り切る」

これは私も苦手なのですが、予防線を張る、つまり未来を心配しすぎると、いつまでも着手ができなくなります。


やってしまった後のことを心配し、あれこれ予防線を張ったり、事前に準備したりしていると、それが永遠に終わらなかったり、頭の中が不安でいっぱいになったりして、いつまでも先送りしてしまいます。

未来の心配(つまり未来からの逆算思考)は強烈に先送りを誘発します。いつまでもやりたいことができない方は、やりたいことをやってしまった後に他人からどう見られるかを気にしたり、やりたいことをやっていたら他のやらないといけないことが疎かになる、といったことを不安に感じ、先送りしているパターンが多いです。

こういった方に有用なのが、「割り切る」ことです。
やった後のことはやってから考えれば良いと順算思考的に割り切るのです。


これだけの仕事を進めていくのは、逆算思考では不可能です。
多少の不安は振り切って、順算思考的にガシガシ進めていくことが必要です。

ただし、未来を心配し、あれこれ手を打つことが必ずしも悪いということではありません。予想できる不安には対処しておき、予想できない不安は順算思考で振り切るのです。
こういった進め方が、最も現実的な順算思考的アプローチのように思います。

…ちなみに、桜井さんは動画撮影後を一人で行っており、プレビューやエラーの確認などもする余裕がなかったそうなのですが、割り切って次に進んだそうです (12:54~)。ここまで徹底できる人なんて殆どいないと思うのですが、少なくとも人類には可能なようですね。

「配信後の反応」への対応

・33:25~「どのような受け取られかたをしたのかはあいまいにしかわかりません」
・33:35~「視聴者がどのように思ったのかはコメント欄などから推し量るしかありません。が、その上でコメントが解説の本筋とは全く関係ないもの、茶化すようなものだと、おもったよりも落胆しますね。その人にとって主題の軸が伝わらなかったということですから」
・33:55~「でもこれは、広くものを届けられた証なのでしょう」
・34:12~「自分をだましていると言えば、まあそうです。が、もちろん、しっかりと意味を受け取ってくれた方々も多くおられました」

様々な反応があるのは、広くものを届けられた証

これは個人的にとても大切だと思っている順算的な考え方です。


50冊を超える商業本を執筆されている作家の佐々木正悟さんもおっしゃっていましたが、やはりレビューで否定的なコメントが付くと大変落ち込むそうです。

このようにコメントを見て落ち込むときにやっていることは、実は逆算です。
コメントを見て、その裏にいるコメントをした人物から、自分が否定的に見られているのではないか、影でひどく言われているのではないかと逆算しているのです。

しかし、コメントはあくまでコメントです。真摯に対応するのも大切ですが、「そういう意見もあるよね」「本筋とちょっと違うね」と終わらせてしまっても良いものです。

コメントをした人物に自分が否定的に見られているとか、影でひどく言われているのではないかという考えは、すべて不安からくる幻想です。不安から現実ではない幻想を逆算しているだけなのです。

しかし、この逆算を伴う不安は非常に大きな影響力を持ちます。この不安を抱えていては何もできなくなります。すべての作業の手が止まってしまいますし、ときには不安に押しつぶされてしまうことすらあります。

桜井さんは「自分をだましていると言えば、まあそうです。」とおっしゃっていますが、このように考えながら、肯定的なコメントに意識を向けても良いのです。

不安に押しつぶされないためにとても大切な、意識の切り替えです。

コメントの裏に空想の人物を想定しないというのは、逆算思考の反対という意味で、とても大切な順算思考なのです。

同じことはできないが、参考にできるポイントはたくさん

本記事では、桜井政博さんの「ゲーム作るには 最終回スペシャル」動画の順算思考ポイントを解説してみました。

桜井さんの仕事量は畏怖すら覚えるレベルです。
これを真似しようとすると潰れてしまう方も出てくるかと思います。

しかし、参考にできそうな良い要素もたくさんありました。
特に今回取り上げた順算思考ポイントは、考え方が中心なので、今からでも実践できます。

人の思考はすぐには変わりません。しかし、それでも繰り返していれば段々と染み込んでいくのも思考です。

桜井さんの仕事の仕方を思考の面から真似しようと思ったら、ぜひ本記事の順算思考ポイントを参考にしてみてください。

それにしても、このような偉業をやり遂げる桜井政博さんはまさしく生きる伝説ですね。本当に尊敬です。(原稿30万文字=この記事60個分!!)
何より、この記事を書きながら動画を見ていた私も勇気をもらいました。できないことなんてない!


本記事は以上です。ありがとうございました。

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この記事はタスクシュート協会公式マガジン「ユタカジン」への寄稿記事です。
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