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1kmの高さからブロックを落として大量発電!超高層ビルを充電池に

1kmの高さからブロックを落として大量発電!超高層ビルを充電池に

元記事紹介

記事タイトル:超高層ビルを丸ごと「電池」に、高さ世界一の建築設計者が挑戦
著者: Sho Shimazu
読了時間: 5分
公開日: 2024年7月12日

この記事の3つのポイント

  • 超高層ビルを「電池」に変えるプロジェクト

  • 建物のオーナーにとって新たな収益源になる可能性

  • 中国では世界初の大規模施設が完成

元記事の概要

米大手建築設計事務所スキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(SOM)は、スイスのエナジー・ボールト・ホールディングスと提携し、超高層ビルを重力蓄電システム(GESS)に変えるプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは、ブルジュ・ハリファの設計者であるSOMが手掛けるもので、エナジー・ボールトの次世代GESSを導入し、建物全体をエネルギー貯蔵装置として活用することを目指しています。

考察の経緯と前提

この記事を読んで、私はこの革新的なプロジェクトがどの程度現実的であり、どのような設計とコストが必要かを詳しく考察してみました。以下の考察は、元記事の内容を基に、具体的な設計案やコスト比較を行ったものです。

1. GESSの基本概念とその利点

GESSとは?

GESSは、重りを高所に持ち上げ、その位置エネルギーを蓄え、必要なときに重りを降下させて発電するシステムです。この技術は、再生可能エネルギーの変動を吸収し、電力網の安定化に寄与します。

再生可能エネルギーの変動とその問題点

再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電など)は、天候や時間帯により発電量が大きく変動します。例えば、太陽光発電は日中にしか発電できず、風力発電は風が吹いている時にしか発電できません。この変動が電力供給の不安定さを引き起こし、電力網のバランスを保つための調整が必要となります。

GESSの役割

GESSは発電機能ではなく、充電・貯蔵機能の代替として機能します。余剰電力を利用して重りを持ち上げ、必要なときにその重りを降下させて発電することで、エネルギーの供給を安定させます。

利点

  • 長寿命: バッテリーと異なり、劣化が少ない。

  • 低コスト: 大規模な蓄電システムとして、リチウムイオン電池よりも安価。

  • 土地の有効利用: 高さを活用することで、都市部の限られた土地を効率的に利用可能。

2. 高さ1kmのビルを利用したGESSの設計

ビルの基本情報

  • 高さ: 1,000m(最大値を採用)

  • 注:元記事では300m以上の超高層ビルが想定されていますが、本考察ではGESSの可能性を最大限に探るため、より高い1,000mを採用しています。これは現存する世界最高のビル「ブルジュ・ハリファ」(829.8m)よりも高く、技術的には挑戦的ですが、将来的な可能性を検討する上で有用な設定です。

  • 総階数: 250階 - フロア面積: 900m²(30m × 30m)

重りの配置と耐荷重の評価

  • 重りの基本情報: 1個の重りの面積は6m × 6m = 36m²、重量は500トン

  • 多段配置: 重りを3段に配置し、1フロアあたり75個の重りを設置

  • 必要なフロア数: 2,200個 ÷ 75個/フロア ≈ 30フロア

構造材料

  • 高強度コンクリート: 圧縮強度200 N/mm²以上

  • 高強度鋼材: 降伏強度600 N/mm²以上

  • 複合構造: 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)構造

耐震・制震技術

  • 免震構造: 建物基礎部に免震装置を設置

  • 制震装置: 各階にオイルダンパーや粘性ダンパーを配置

安全対策

  • 重りの落下防止システム

  • 緊急停止装置 - AI制御による重り移動の最適化

3. コスト比較:蓄電バッテリー vs. GESS

蓄電バッテリーのコスト

  • 1kWhあたりのコスト: 約18.7万円(税別)

  • 3GWh(3,000,000 kWh)の蓄電容量に必要なコスト

    1. 3,000,000 kWh × 187,000円/kWh = 561,000,000,000円(約5610億円)

GESSのコスト

  • 高層ビルの建設費用(高強度コンクリートと高強度鋼材を使用): 約75万円/m²(出典: 建設業界の一般的な費用範囲)

  • 必要なフロア面積: 約410,000 m²

  • 総建設コスト:

    1. 410,000 m² × 750,000円/m² = 307,500,000,000円(約3075億円)

コスト効率の評価

GESSの方が蓄電バッテリーよりもコスト効率的であることがわかります。具体的には、GESSのコストは蓄電バッテリーのコストの約55%です。

4. GESSの実現可能性と課題

実現可能性

  • 構造的強度: 高強度材料と最新の耐震・制震技術を駆使することで、1kmの高さのビルに500トンの重りを2,200個設置することが可能です。

  • コスト効率: GESSは蓄電バッテリーと比較してコスト効率が優れています。

課題

  • 安全性: 重りの落下防止や緊急停止装置など、安全対策が最重要課題です。特に、ビル利用者の安全確保が不可欠であり、GESSと建築物の構造をいかに両立させるかが鍵となります。

  • 法規制: 都市部での実現には既存の建築基準法や電力関連法規との調整が必要です。新技術の導入に伴う法的枠組みの整備も課題となるでしょう。

  • 送電網との接続: 大規模なエネルギー貯蔵システムを既存の送電網にどのように接続し、効率的に運用するかも検討が必要です。

  • 都市計画との整合性: 1,000mという高さのビルは、都市の景観や周辺環境に大きな影響を与えます。都市計画との整合性を図ることも重要な課題です。

これらの課題は、エナジー・ボールトCEOのピコニ氏も認識しており、「特に安全面は考慮しなければならない」と述べています。しかし同時に、「課題は全て解決可能」とも語っており、今後の技術開発と実証実験の進展が期待されます。

中国のプロジェクト

元記事では、中国江蘇省で世界初の商用GESS施設が建設中であることが言及されています。施設の高さは約150mであり、既に地域の送電網と接続し、充放電が可能な状態になっています。2024年5月4日には試運転に成功し、中国の現地企業と共同で、中国国内で計8カ所の施設を建設することも発表されました。これは技術の実現可能性を示す重要な事例です。

500トンのブロックを2,200個使用する仮定

500トンのブロックを2,200個使用する仮定は、以下の計算に基づいています

計算の概要

  • 3GWh = 10,800,000,000,000 J

  • 位置エネルギーの公式: $$U = m \cdot g \cdot h$$

  • 高さ $$h = 1,000m$$、重力加速度 $$g = 9.8 m/s²$$

  • 要な質量 $$m = \frac{10,800,000,000,000 J}{9.8 m/s² \cdot 1,000m} ≈ 1,102,041トン$$

  • 1個の重りの質量を500トンとすると、必要な重りの数 = $$\frac{1,102,041トン}{500トン} ≈ 2,204個$$

この計算に基づき、500トンのブロックを2,200個使用することが合理的であると判断しました。

考察の信頼性について

ここで述べた考察は、元記事の情報と一般的な建築・エネルギー技術に基づいていますが、実際のプロジェクトには多くの変数が影響します。以下の点を考慮する必要があります

  • 技術的な進展: 新しい材料や技術が開発されることで、設計やコストが変動する可能性があります。

  • 法規制: 都市部での実現には法規制との調整が必要であり、これがプロジェクトの進行に影響を与える可能性があります。

  • 経済状況: 建設コストやエネルギー市場の変動により、プロジェクトの経済性が変わる可能性があります。

結論

1kmの高さのビルに500トンの重りを2,200個設置するGESSは、蓄電バッテリーと比較してコスト効率が優れていますが、実現には多くの課題が存在します。GESSの総建設コストは約3075億円で、蓄電バッテリーの約5610億円と比較して約55%のコストで同等の蓄電能力を実現できます。

この計画により、重力エネルギー貯蔵システムを効率的に運用し、大規模なエネルギー蓄電を実現できますが、技術的、法規制的、経済的な課題を克服する必要があります。技術の進展とともに、さらなる効率化とコスト削減が期待されるこのシステムは、未来のエネルギー問題解決の一助となる可能性を秘めています。


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