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DMと君と。♯13

駅内が一瞬凍りつく。
叫び終わった時、自分の突発的な行動が
迷惑行為だと気付かされる。

「私のこと呼びましたか?」
腰の曲がったお婆さんが話しかけてくる
いえ、違います。

そう、お婆さんの先にいる君。
目を開いてこっちを覗いている友美。
完全に社会不適合者と思われてしまった自分は
友美には近づかない。

少し時間が経ってから友美のほうから
近寄ってきた。
「どうしたの急に大きな声出して…」

向井彩奈にそっくりである。
僕と友美の間からあんな子が生まれるのか
今にも崩れそうな涙腺のダムを抑え込む。

「え、どうしたの?変だよ?」

僕は迷った、知ってることを伝えるべきなのか
それとも僕の中で墓場まで持って行くのか
伝えたところで何もできない今の自分
いつか幸せにするからと言えるほどの自信もない

「少し場所を変えて話を聞いてくれないかな」

ただ事じゃないと察した友美は
小さく頷いて一緒に京王線に乗り込む。
少し不安そうな友美の顔が彩奈に重なる。

友美の家の最寄り駅に降りて
近くの公園に行く。
広めの公園の恥には二人組の男が
壁に向かって会話をしている。

「で、話すことってなに?」

話すことは…話すことは…

「あ、僕はさ今売れてもないし人気もないじゃん」

「うん」

「で、でもさでもさ夢を見たんよリアルな夢を
    それは俺がめっちゃ売れててテレビ出てて
    若手芸人の憧れ的な存在でさいい生活してる」

「良かったね」

「で、でもさ家族はいなくて、いやいるけど
    家族であることを知らなくて何ていうか
    辛いんだよね、自分がその人の人生に加担してる
   だけどもその人に関係のない存在になってて」

「ごめん良く分からない」

「でも知った以上はその人達に幸せになって欲しく 
    て、でも俺にそんな権利ないけど…でも大切で
    だから俺と一緒にいた時間があったことを
    後悔はさせたくなくて、だからだから。」

「今日ずっとおかしいよ」

「なぁ友美、今は幸せ?」

「え?笑どういうこと」

「ごめんな…本当に…苦労かけて」

「どうしたの急に泣き出して」

「俺、俺、頑張るからさ。」

言葉を使って笑いをとる芸人という
仕事をしていながらも何もまともに
伝えきれない自分の情けなさを感じた。

友美からしたら意味の分からない時間が
過ぎ続けていたのだろう。
結局、色々な事実を知った上で僕は
何も変えようとしなかった。
これから生まれてくる命について
それを一緒に育てていきたい家族になりたい
僕は何も行動出来ず、変化を恐れた。
そして今に自信を持てていない。

「あ、ごめん家で彼氏が待ってるからゴメン」

友美はハンカチを僕に渡して家路に帰る

公園で立ち尽くす僕。
何も考えれない。
タバコを吸う。
スマホを開く。

「DM来てる…。」

「パパへ
    あの後どうなったのか知らないけど
    私は実際にパパに会えて良かった
    自分のパパが有名人だって自慢できるし
    自分の存在を認知されないってのは
    想像以上に辛いし悲しかった
    でも私がどこかにいるってことを
    パパが知ってくれて嬉しい。
    これからも画面越しに楽しませてね。
    さよなラーメンメンマ増し。」

「了解。」

相方に電話をかける。

「何?こんな時間に?」

「いや、いきなりだけど売れような」

「きっしょ、子供産まれたくらいいいこと
    あったんかお前」

「あったよ。」

「いや、あったんかい」

もうえぇぇーーーわーーーー!
公園の中心で叫ぶ。
公園のすみにいる二人組が驚く。(つづく)

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