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DMと君と。♯1

君とメッセージをとりだして
どのくらいの時間が経つだろう。
このSNSが普及する時代で
連絡先交換という赤壁のように高い壁を
越えなくても意思疎通ができるようになったのは
つい最近のことである。

僕は東京在住の一応お笑い芸人。
一応事務所に所属して、一応生きてる。
まだ、胸を張って自分がお笑い芸人と言えるほど
自信がないから「一応」をつけている。

そんな僕は週に一度劇場に出て
人前に立っている。
週に一度の出番など
自分を芸人と認めるには
まだ何かもが足りないのである。

そんな僕にも少なからずファンという存在がいる
指3本で足りるくらいだ。
出番終わりにファンとの交流がある
そう出待ちだ。

人気な芸人になればなるほど
その出待ちは列を作る。
男の憧れであり見るたび惨めになる
今日の出番終わりには…一人だけいた。

「今日も面白かったです!最高でした!」
だったら何故笑い声が聞こえない。
「私は見てるだけで幸せなんです!」
俺はいつから偶像崇拝の対象になった。

人を笑顔にするつもりで
週に一度臨むライブで僕はいつも
悲しい顔で家に帰る。
このビールもウケてたらもっと美味しいのか
そんなくだらないことさえ考えてしまう。

ふと携帯をながめていると
ピピ、通知音が鳴る。DMが来た。
「アヤメンタル」といユーザーからだ

「始めまして、今日ライブで拝見しました」

                                            「ありがとうございます」

「これから応援していきたいのでライブ行きます!」

                                      「ありがとうございます!ぜひ!」

嬉しいかった。わざわざメッセージをくれる
これは本心からの言葉だと。
僕のファンが指4本になった瞬間。
これが彼女との初めての会話であった。


今日のビールはいつもより美味い。(つづく)

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