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DMと君と。♯4

16時に相方と待ち合わせの場所で集まり
自分達の中で数少ないウケるネタを合わせた
相方からは「新ネタしなくていいの?」との
提案があったが。断固として拒否した。
賭けに出る気はない安定を求める。

そう俺はお笑い公務員だと。
「スベってない」を目指すのだ。

劇場入りして香盤表を見る
トップバッターであることを確認。
芸歴が浅い自分達は基本的にトップが多い
トップバッターとしての心得は一つ
元気だ。テンションで乗り切れる。
センス系のネタはトップではキツイ
我々はどっちでもない。いつもややスベリだ。

出囃子が鳴る。
この時、いつも相方は少し震えている
何かとずっと戦っているのだ
それはきっと自分という途方も無い勝負
彼は一人でずっと戦っているのだ。

出番ですどうぞ
スタッフさんの合図と同時に登場する
まばらな拍手が耳に入り
ツカミのボケを一つ、ウケてる。
今日一番のウケだ!

ネタの設定はこうだ
自分はウ○コ以下の存在だ
何故ならウ○コは道端に落ちてると
人は振り向く、しかし自分が道端にいたところで
誰も振り向かない、誰も興味なんてない。
だけども道端にタモリさんいたら振り向くだろ
タモリさんはウ○コだよ。というネタだ。

結果はツカミ以外スベった。
自分たちには'運'がなかったのだ。
ネタ終わり後に相方との会話はなく
そのネタがその後されることは無かった。
量産されてはお蔵入りされるネタばかりに
自分たちの力の無さを感じる。

じゃお疲れ。
彼女が見に来ている相方は
帰り道に彼女と合流して帰っていった
呑気な奴だ、いくらスベっても
慰めてくれる彼女がいるのだから
「○○は一番面白いんだよ」って
俺は上京して約4年お笑いと結婚してるんだ
売れたら女優と結婚するんだを目標に努力してる
呑気な相方を見ると幸せな奴だと思う。

そんな妬みを吐き捨てながら
コンビニに寄りストロング系のチューハイを買う
ただ酔って神経を麻痺させたいだけなんだ

そんなとき後ろから声がかかる
「面白かったですよーー」

え、誰ですか?という心の中のツッコミ
小柄な女性がこっちを見ている
「私があのアヤメンタルだよ」と言う

どのアヤメンタルかは分からないが
君があの食事のたびに連絡をしてくる人かと
自分の中で納得さた。
まずはライブに来てくれてたことに
感謝の言葉を伝えた。

アヤメンタルは自己紹介もそこそこに
今日のネタのダメ出しをしてきた
お客さんからのダメだしほど
屈辱的なものはない。
だが的確に言ってくる彼女は
苦手な作家にすら見えてくる。

一息に言い切ったあとに
彼女は少し躊躇しながら口を開く
「今日のディナーの写真は撮ってないです」
直接、報告された。
「良かったら一緒にディナーの撮影いきますか」

変わった食事の誘われ方をして
戸惑う、相方とのルールでファンとは
食事に行かないというものがある

しかし次の言葉でそのルールは簡単に破られる

「ドイツの美味しいビールが飲めるお店行きません
    私が全部ご馳走させてもらいますので。」

普段、缶ビールの自分からして
生ビールはまるで黄金に輝く水だ
それにドイツときたらメルセデス・ベンツだ
そうだ、俺はファンと食事に行くんじゃない
ドイツのビールを飲みにいくんだ
その店にファンが居たんだ。

今日の俺はいつもより喋る。
駅に向かう道にウ○コが一つころがっている。
(つづく)

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